The Wind in the Willows  Topへ
     

  
   
2019年10月20日

Kenneth Grahame "The Wind in the Willows" (1)
(日本では『たのしい川べ』)

FBに安藤聰先生がグレアムゆかりの写真を出しておられれたので、懐かしく、手元の本を探して見たら、幸いにも、処分を免れた本が、3冊出てきた。
左:Bene Clokeの挿絵とあらすじを紹介する程度の文章。5,6歳用?
中:Val Biroの挿絵でシェパード的。文章の面白さは少し味わえるが、絵本の域を出ない。
右:"My Dearest Mouse The Wind in the Willows' letters "(1988)これは、物語のもととなった息子アラステアへの手書きの手紙の写真版と、この手紙を書いたホテル、Green Bank Hotel, Fowey Hotelなどの写真や挿絵を収録。安藤先生の写真で、それらが昔のままであることがわかり、イギリスのゆかしさを感じさせる。
Googleで画像検索すると、これには「アリス」に負けないぐらい多くの挿絵本が出ているようである。

この本は、挿絵はH.シェーパード、アーサー・ラッカムのものが有名であるが、初版は挿絵は口絵一点だけであるから、文章を読ませる本なのである。タイトルも詩的で絵本らしくない。私は文章全体の読める本を求めて、イギリスから取り寄せることにした。

 
 
 
   
2019年10月25日

Kenneth Grahame "The Wind in the Willows" (2)

From the original storiesとあったので注文したのだが、届いた本はAbridged版だった。しかし、アーネスト・H・シェパードの素晴らしい挿絵がついていて満足した。それは「プーさん」の挿絵に勝るとも劣らず、川辺の風さえ感じさせる、生き生きしたものだった。文章全体は、Kindle本で辿ることにした。
多くの児童物語はキャラクターが挿絵と共に動き出し、元の文章は忘れ勝ちだが、原文が素晴らしいことが多い。この作品も、言葉遊びを含みながら、心地よいリズムで語る口調が素晴らしい。ピーター・ミルワードは、この本はお父さんとって、イギリス児童文学の古典中の古典で、その愛好ぶりを語っている。(『童話の国イギリス』中公新書)

物語の冒頭、モグラが春の大掃除に飽きて、トンネルを掘って地上に出るシーン:
So he scraped and scratched and scrabbled and scrooged and then he scrooged again and scrabbled and scratched and scraped, working busily with his little paws and muttering to himself, ‘Up we go! Up we go!’ till at last, pop! his snout came out into the sunlight, and he found himself rolling in the warm grass of a great meadow.
地上に出てその素晴らしさに、Jumping off all his four legs at once, in the joy of living and the delight of spring without its cleaning,
モグラはウサギたちのいるところ通り過ぎ、やがて、ネズミ(Water Rat)に出合い、彼のボートに乗ることになる。何もかも初めての経験。ネズミが持ってきたバスケットの中身聞くと、コールド・チキンと
‘coldtonguecoldhamcoldbeefpickledgherkinssaladfrenchrollscresssandwichespottedmeatgingerbeerlemonadesodawater——’
こんな形で、文章の楽しさを味あせてくれる。
翻訳はどうなっているだろうかと、二冊ばかり図書館から借りてきた。

 

  
   

Kenneth Grahame "The Wind in the Willows" (3)
石井桃子訳『たのしい川べ』(岩波書店)
岡本浜江訳『川べにそよ風』(講談社)

図書館から借りてきた翻訳は、原作の全訳。その丁寧な翻訳には頭が下がる。岡本訳は、先行の石井訳から、さらに、磨きがかけられて、より正確に原作の意味とリズムをとらえている。しかし、翻訳は原作に及ばない。

モグラ、ネズミ、アナグマ、ヒギガエルが主人公の話となれば、誰も、年少の子供の読み物と思う。事実、多くの本が、絵本で、文章はおそらく原作の10の1くらいしかない。英人のPさんに、原作を読むのは、何歳ぐらいからと聞いて見たら、中学生という答えが返ってきた。物語は英国人なら誰も知っているが、実は、Pさんも原文を読んでいないという。

原作は詩情に満ちたもので、大人が読んでも楽しい。しかし、その楽しさは翻訳で読むと半減するのではないかと思う。

最初の章から簡単な例を2つ:

何もかも初体験のモグラが、 ・・・・So—this—is—a—River!’と言うと、
‘THE River,’ corrected the Rat.
‘And you really live by the river? What a jolly life!’
‘By it and with it and on it and in it,’ said the Rat. ‘It’s brother and sister to me, and aunts, and company, and food and drink, and (naturally) washing. It’s my world, and I don’t want any other. What it hasn’t got is not worth having, and what it doesn’t know is not worth knowing. Lord! the times we’ve had together!

この章の終わり:地中の世界しか知らなかったモグラが川辺でネズミに一日遊んでもらって;
This day was only the first of many similar ones for the emancipated Mole, each of them longer and full of interest as the ripening summer moved onward. He learnt to swim and to row, and entered into the joy of running water; and with his ear to the reed-stems he caught, at intervals, something of what the wind went whispering so constantly among them.

(写真、上左:Kindle本。上右:やはり紙の本が欲しくて入手したOxford Children's Classics版)

 

  
 

Kenneth Grahame "The Wind in the Willows" 1908 (4)

「くまのプーさん」の作者、A.A.Milneもこの作品のファンで、1929年、演劇化している。その息子、クリストファー・ロビンが、この作品について、面白いことを書いているので紹介します。

「私たち皆が熱愛し、賞賛し、何度も、何度も、何度も朗読したり、一人で、読む本:The Wind in the Willows.
この本は、見方によれば、二つの別々の本が一つに合わさったものである。一つには、ヒキガエルの冒険にまつわる章で、も一方は、人間の感情ー 怖れ、ノスタルジー、畏敬、放浪欲ー を追究した章である。母は後者に属する章”夜明けの笛吹き”がお気に入りで、私に繰り返し読んでくれ、いつも終わりに近づくと、声を詰まらせ、ハンカチを取り出すため間を置き、鼻をかむのだった。父はといえば、前者に魅了され、それらの章で子供劇Toad of Toad Hallを作った。この劇で、ただ一つだけ感情が入ることが許された。それはノスタルジー」
(原文は、https://en.wikipedia.org/wiki/The_Wind_in_the_Willows… )
写真:シェパ―ドの挿絵:モグラが地上に出て、4つの足を同時に挙げて喜んでいるところ。

 
 

  
   

Kenneth Grahame "The Wind in the Willows" (5)
『ひきがえるの冒険』菊池重三郎訳 (少年少女世界文学全集10 講談社1961)

ヒキガエルは、金持ちのボンボンで、悪げはないのだが、ちょっと高慢で、何事も熱しやすく冷めやすい。新しいもの好きで、自動車に熱をあげ、人の車を盗み、監獄にぶち込まれ、洗濯女に化けで脱走して、機関車に乗って、逃走と・・・波乱の冒険を繰り返す。物語の最も華やかな部分で、これが絵本にもなり、アニメや映画にもされ、多くの子供たちの愛するところとなっている。この本についてEさんに話すと、自分も子供頃楽しく読んだと、その時の本を探して、貸してくださった。(写真)本の背も取れて、何度も読んだことがうかがえる。翻訳は、丁寧なものだが、クリストファー・ロビンのお母さんが涙なしには読めなかった第7章ともう1章がカットされていた。
大人には、ヒキガエル以外にも、周りの人物?に魅力を感じる。

モグラ ー 新しい世界に興味津々の若者で、その素直な性格が素晴らしい。
ネズミ ー 世の中を一応知っている。自分の世界を楽しみ、常識人。友情に厚く、詩人でもある。
アナグマ ー 人付き合いは悪いが、勇敢で賢者。
彼らが、力を合わせてヒキガエルを支え、平和な日常へと導くのである。

この作品のもう一つの魅力は、イングランドの水辺や森の自然描写だが、これは、子供が味わうには少し無理があるかもしれない。
「柳を渡る風」とは一体何なのだろう? それはイングランドの自然であり、時の流れでもあり、何よりも、人の世の情でもある。
翻訳で読まれるなら全訳本、特に岡本浜江訳をお勧めします。

 

  
   次のような辛口の評論もあります。

The Wind in the Willows Isn’t Really a Children’s Book

Nor, Mysteriously, Does it Contain Any Willows . . .

                                      By Peter Hunt

   https://lithub.com/the-wind-in-the-willows-isnt-really-a-childrens-book/?fbclid=IwAR0LR6z_aINi1x-jP6052yeuoPxTS3Q8_aZRo4x6WyPnYvjEvGS2gXUIwuA