サンスクリット事始め
  若い人のために
 
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  読書と登山はよく似ていて、良き仲間を得ると、長続きするし、難しい本や山にも取り組める。そして楽しみも大きくなります。
若い人のためにその一例を書いておきます。

【補足】若くない人へ
私がサンスクリットを始めたのは、66歳の時です。
年をとってからの新しい言語の習得は物になりませんが、それでも、続けていると、辞書、文法書、翻訳を使いながら、サンスクリット文献を辿れるようになります。それなりの悦びがあります。

Web上には沢山の情報がありますが、下記は大変充実した内容を持っています。

 まんどぅーかのサンスクリット・ページ
https://www.manduuka.net/sanskrit/index.htm

  
  1.初めにー若い人へ

まず、第一に、申し上げたいのは、年を取ってからの語学の習得はものにならないということです。もしあなたが若い方なら直ちに始めるべきだと申し上げます。
昔の話ですが、神戸の中華料理店「北京楼」のオーナーの周さんという方と話していました。最初は日本語で話しておられるのですが、本人の気付かうちに、何時の間にか中国語になっているのです。16歳で日本へ来て何十年も経っているのに、日本語は身につかず、そんな調子です。言葉は若いうちに身を付けるものなのです。日本では、小さいうちに漢籍の素読、西洋では、幼少のころから、ギリシャ、ラテンの古典をやるのは誠に理にかなっていると思います。年取るほど、習得が難しい。
  

第二」に、未知の言語は、良き先生について習うのが一番ですが、独学で学ぼうとする場合、同好の友と一緒にやると挫折する確率は減ります。私は幸い、野口慊三さんという同好の士を得て、以来20年言葉の勉強をすることが出来ました。
    野口慊三さんとの会読

第三に、原語で読むことの喜びはとても大きいものです。日本は翻訳大国で、大抵の本は翻訳で読めるのですが、外国語の本を辞書を引きながら、読むことの楽しみは、格別で、その習慣を身に着けると人生に退屈することはありません。



  
  2. 『サンスクリット入門 
  般若心経を梵語原典で読んでみる

         涌井和 明日香出版社 2002

  どちらが一緒にサンスクリットをやろうと言いだしたのか、また。なぜテキストにこの本を選んだのかよく覚えていないが、2003年10月、二子多摩川のドトールでこの本を読み始めた。野口慊三さんが中央林間、私が南青山なので、その中間地が選ばれた。(右欄参照

  この本は、般若心経を原典のサンスクリットで読みたい人にために書かれていて、前半100頁余りに、サンスクリットの文字、発音から始まって、名詞、形容詞の格変化、音便の変化(サンディ)関係代名詞、疑問代名詞、動詞の変化と、心経を読むための最小限知識が述べられている。

  初めてデーワ・ナーガリー文字に触れる。よく似た文字もあってなかなか難しいが、新しい言語を学ぶ喜びを与えてくれた。アルファベットの配列が違っていて、これを覚えないと辞書は引けないが、日本語の50音表と似ていて助かった。(日本の50音表はサンスクリットに倣ったと言われる)英語では格は例えばI, my, meの3だが、サンスクリットは8つ(日本語で書くと、主格、対格、具格、為格、従格、属格、所格、呼格)それに、単数、両数、複数があり、さらに、名詞には性が男性、中性、女性の区別が、言葉の形が違ってくる。男性名詞がすべて同じ形をしているではなく、いくつものパターに分かれる。動詞は人称、数(単数、両数、複数)、態(能動、中動、能動)、時制、直接法、仮定法など、幸いにも般若心経では、3人称単数現在が3回出てくるだけある。
心経を読むための最小限の文法を丁寧に解説して後半の本文へ入る。

  「般若心経」を原典で読みたいという欲望は多く日本人の抱くところだと思う。
漢訳仏典しか知らなかった我々は、明治以降、サンスクリットで直接仏典を読み始めた。そのためには先人には大きな苦労があった。
  その嚆矢が明治9年(1876)イギリスに留学した南条文雄と笠原研寿なのである。時に彼らは27才と25才、英語も殆ど話せない状態での渡航であった。
  下記参照。
ブージャムはサンスクリットか?
         ― キャロルが出会った2人の東洋学者 
-」

サンスクリットを学ぶために、イギリスへと派遣された南遊たちの努力を基礎に、日本でのサンスクリット研究は進み、中村元らの仏典のサンスクリットから直接の翻訳が始まり、岩波文庫を通じて、一種の春風のように我々ももとに届いた。舎利子はシャーリプトラよとなり、黴の生えた漢籍を乗り越える力があった。しかし、それらはあくまで和訳であって、原典はどうなっているのであろうか?
  我々がこの本に取り組んだのはそんな思いがあった。

   私たちはこの本を5か月かけて読んだ。これがきっかけで、4年後、再びサンスクリットに取り組み。13年に及んだ。。読んだ本は;
   サンスクリット・トレーニング
   バガバッド・ギータ
   ヨハネ福音書サンスクリット訳
   ヨーガ・スートラ
   シャクンタラ

その始まりとなった、記念すべき本なのである。今読んでも、内容の濃い名著だと思う。
 


本書を読むことになった経緯:野口慊三さんの補足

ある時、宮垣さんが、「サンスクリットで般若心経を読もうと思っている」という話をされた。そこで、私が「そんなことをされるなら、一緒にやりませんか」と声をかけたのが真相です。

その時、宮垣さんは、もう一人別の人を仲間に入れようとされたようですが、その人が断ったそうで、二人だけでやることになりました。

宮垣さんと私は、関心のあるところが微妙に違っていると、私は感じています。宮垣さんは、原典を読むというところに重点を置いておられますが、私は未知の言語に触れるところに興味があります。宮垣さんの関心は内容にあり、私の関心は入れ物にあるのです。

けれども、その関心の微妙な違いがまた面白いところであり、この会読が長く続いた要因であったと思っています。





『般若心経』については別項

野口慊三さんからの寄稿  をご覧ください。

  

  
   サンスクリットの文字


サンスクリットは
デーワ・ナーガリーという文字が使われます。

観自在菩薩は、サンスクリットでは

①आर्यवलोकितेश्वरबोधिसत्त्वो
アーリャーワロキテシュワラ ボーディサットボと読みます。

これをローマ字式(ISAT)に表記すると
②āryāvalokiteśvara-bodhisattvo
これだと発音記号としても使えるので、我々には使いやすいし、通常、これで表記されることが多いです。

しかしこれにはアルファベットの上や下にーや’など付き普通のキーボードでは扱えません。
そこで考えられたのがKH(京大・ハーバード大)方式です。
③aaryaavalokiteZvara-bodhisattvo

これでネット上の辞書も引くことが出来ます。

3つの表記方法を覚えるのは大変ですが、通常は②で学習して行きます。


①はヒンディー語にも使われるので、覚えて置くと、インドに行ったときに役立つことでしょう。

 


デーワナーガリの般若心経を写経している。
やってみると面白くて止まらない。
写経しながら、涌井本で文法事項も解釈の議論も知ることが出来る。

一日に半分づつ書いていくと長続きするようです。もうすぐ、200回、つまり400日続けたことになります。
2023・1・2
  
  3. 辞書、文法書、サンスクリット・トレーニング  

  私たちはそれから3年後、再び、サンスクリットを基礎から学びたいと思い、『サンスクリット・とレーニング』をやることにし、約2年かけた。その時の参考事項。

文字:デーワナーガリとローマ字転写、さらに、ローマ字転写にはパソコン入力しやすい、KH方式があるが、いずれも、ならる必要がある。発音を覚えやすいのはローマ字転写で殆どこれで用が足りるが、3者と共に出来る方が良い。

辞書:アプティの辞書が標準的であるが、私は、
、平岡昇修『初心者のためのサンスクリット辞典』(世界聖典刊行協会(右)とMacDonell(左)を手元に置きました。
前者ははサンディ表や和梵辞典も付いていてよく使いました。
しかし、大方はネット上の辞書を使った。
Sanskrit - Dictionary (learnsanskrit.cc)
The Sanskrit Heritage Site (inria.fr)

サンスクリットは変化の多い語なので、簡単には辞書が引けない。語の変化だけではなく、発音上の都合により変化するsandhi(サンディー)があって、苦労する。

文法書:定評のあるWhitneyの本を買いましたが。余り遣うことはありませんでした。やはり最初は日本語の文法書を手元に置く方が良い。
岩波の辻直四郎『サンスクリット文法』は上級者用です。

必須なのはBucknellのSanscrit Manualです。
動詞や名詞の変化の表が主体で、これなくしては、サンスクリットの本は読めないのではないかと思うほどです。

複合名詞など繋がり、言葉と言葉の繋がりによる、音の変化、(辞書的な意味は変わらない)が、とても難しくて、しかも重要ですが、これは上記涌井本に詳しく出ているので、私はこれで学びました。

サンスクリット・トレーニング

いろいろな文形のトレーニングで、3冊あります。
一応やりましたが、この年では頭に残りません。
若い人には有効なのでしょう。
引っ越しの際、処分して手元にありません。



2023・1・2
 





  
   菅沼晃『サンスクリットの基礎と実践』平河出版社1980

この本は後に『新・サンスクリットの基礎(上・下』と会版されたようであるが、下記二宮本の例文語句解説はこの本を引用しているので、敢えて、古いこちらを買った。


二宮陸雄『サンスクリット語の構文と語法』平河出版社1989

 図書館で借りて、欲しくなって買った。


このような本はサンスクリット学習初期に手元に置いて、韓魅すべきなのだが・・・・

  果たしてこの二書を読む時間があるだろうか?


   2023・5・26



以下未完
 


  4.  バガバッド・ギータ  
  5.  ヨハネ福音書サンスクリット訳  
  6.  ヨーガ・スートラ  
  7  『シャクンタラー』

5世紀インドの大詩人の戯曲『シャクンタラー』を7年かけて読み終えた。
野口慊三さんと毎月一回、喫茶店や公園、2時間ばかり、読み継いでいった。
一回5,60行ぐらいだが、シェイクスピアを400行読むより、時間がかかる。
辻直四郎訳など翻訳があっても、なお難しいのである。この年に成ると、既出の言葉も
すぐ忘れ、何度も辞書を引いいた。年取ってからの言語習得は