米原万理 | Topへ | |
少女時代、チェコのプラハでロシヤ語で教育受けたという、特異な体験と後にロシヤ語の通訳・翻訳を職業にした米原万理と言う人は、外国と言えば英米独仏からの文化に影響を受けた私には、新鮮な視点、情報を齎してくれた。 何よりも語り口が巧みで面白い。 『オリガ・モリソヴナの反語法』2002 『不実な美女か貞淑な醜女か』1994 『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』2001 『旅行者の朝食』 初版2004 |
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米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』集英社文庫 1960年代、プラハにあったソビエト大使館付属の学校を舞台に、その頃出会った人を30年後に探すという構造は、先の『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』と同じで、著者の体験に基ずくが、この作品はフィクションである。しかし、注や参考文献が付いているので、ノンフィクションとも言える。 語り口が巧みで、明るい調子で話が進むのだが、スターリン時代の粛清やラーゲリの非情な状況を再現しており、なかなか重たい内容を持つ。プラハのロシヤ語学校での同級生や先生のことを追及していく過程を謎解きながら、楽しむことになる。少々長いので、どのように終息させるのか気になりながら読むのだが、感動が残る。 様々な人の生き様の真実を描いているからであろう。 巻末にはこの作品を「ドゥ マゴ文学賞」に選んだ池澤夏樹と著者との対談、亀山郁夫の解説が付いていて、いずれも絶賛している。 2021・12・6 |
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米原万里『不実な美女か貞淑な醜女か』新潮文庫 初出徳間書店1994 この人の初期の作品を読もうと手にした。これは通訳、翻訳諭である。 豊富な実務経験によって、面白いエピソード、たまには下ネタを散りばめてあって、終始楽しく読める。自分の言語能力を他人のために使っている通訳者が、自分の言いたいことのためにその能力を使うと、このようになるのか感心した。 第一章は通訳・翻訳の共通の性質:詳細に図解しながらの説明は、具体例を引きながらなので飽きない。ロシヤ語通訳協会の会員が160名ほどおられるとは驚き。 第2章は通訳と翻訳の比較から、通訳の本質を浮き彫りにする。 豊な経験を惜しみなく披歴していて感動する。同時通訳者のご苦労も良くわかる。記憶についての分析も面白い。 第3章 訳しにくい言葉のオンパレード。通訳の現場から生き生きとした実例が飛び出す。罵り言葉考も面白い。 第4章 文脈、言葉の背景や文化の差を理解することが重要。 日本人の非論理性など 第5章、通訳の仕事の本質は文化の異なる者のコミュニケージョンを仲介することである。その仕事の価値と面白さを謳い、感動の一章で終わる。 多くの真実を含む良書です。読売文学賞が与えられたのが分る。 2021・11・15 |
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米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』角川文庫、 初出2001単行本 面白いだけでなく、愛国心、共産主義、中欧諸国、など、日頃関心のない分野に目を向けさせてくれた。 話は3篇とも同じ構造を持っていて、プラハで、9歳から14歳まで過ごした学校の3人の友人の話と35年後の姿を追う話なのであるが、語り口が上手で読み出したら止まらなかった。 時代は1960年代、、学校はソビエト連邦直轄の、海外共産党幹部の子女のための特別な学校でロシヤ語で教育がなされている。様々な国から来ており、物語の主人公ともなるリッツァはギリシャ人、アーニャはルーマニヤ人、ヤースナのボスニアの人。前半はこの親友3人の学校時代のことが、その祖国を含めてユーモラスに描かれる。後半は30年後、彼女を探し再会を果たす物語である。前半のエピソードが後半に活かされるという巧みな語り口であった。 私のように生涯日本一国で生きた人間には、著者のフットワークはまばゆい。 世界わが心の旅 プラハ 4つの国の同級生 米原万里 (1) - YouTube
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米原万里『旅行者の朝食』文春文庫 初版2004 同時通訳者として、各地を旅行されたはずで、その時の朝食のエピソードが綴られていると思って手にしたが、ちょっと違っていた。 表題の「旅行者の朝食」がその代表であるが、〔小咄 + 蘊蓄 + ロシヤ情報〕がセットになっているものが多かった。 話術も上手いが、よく調べて書いてあって感心した。 食に関するエッセイ集であるが、ロシヤに纏わる事が多く、読者の期待を充たしてくれる。何しろ200回近くロシアに行っておられ、その内、マイナス50度の世界で1か月過ごされた時の食談もある。 ただし、エッセイの質は玉石混合。 目次とキーワードを残しておきます。 「卵が先か、鶏が先か」 成句AB OVO、卵、アトピー、ひよこ 「ウォトカをめぐる二つの謎」 メンデレーフ、40度、特許 「旅行者の朝食」 熊の小咄、缶詰め、鱈肝の缶詰 「キャビアをめぐる虚実」 ロシヤ式サービスとフランス式サービス、チョウザメ事情、ジッパー式 「コロンブスの土産」 トマト、ジャガイモ、トウモロコシ 「ジャガイモが根付くまで」 長い歴史、ロシヤへの導入 「トルコ蜜飴の版図」 ハルヴァ、ヌガー、Turkish delight, 『ナルニア国物語』には触れず。 「夕食は敵にやれ」プラハの食料事情、習慣 「三つの教訓と予想」 東海林さだお「丸かじりシリーズ」 「ドラキュラの好物」 サラミソーセージ 「サンボは虎の・・・」 ホットケーキ 「ヘンゼルトグレーテルのお菓子の家」 ドイツ菓子 「狐から逃れた丸パンの口上」 チルノブイリ 「大きな蕪の食べ方」 蕪 「パンを踏んで地獄に堕ちた娘」 白いパン 「キャベツの中から赤ちゃんが」 キャベツ 「桃太郎の黍団子」 黍団子 「『かちかち山』の狸汁」 「『おもすびコロリン』の災難」おむすび 「神戸、胃袋の赴くままに」 「人物二分法」クサンチッペ 「未知の食べ物」未知のものへの許容度 「シベリアの鮨」 「黒川の弁当」 「冷凍白身魚の鉋屑」 「キチンの法則」 「家庭の平和と世界の平和」 「日の丸より日の丸弁当なのだ」梅干し入りおむすび、パン、 「鋭い観察眼」食べるスピード 「食い気と色気は共存するか」 「氏か育ちか」饅頭、シチュー 「無芸大食も芸の内」妹 「量と速度の関係」 「叔父の遺言」八角弁当 解説は東海林さだお 2022・7・25 |