内田洋子   Topへ
  イタリヤ在住のジャーナリスト。 
取材しながら書いているようで、活力は感じられるが、文芸作品として読むと物足りない。

同じイタリアものでも、須賀敦子とは異質。
 

  
   内田洋子 『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』 方丈社2017年

  本は重い。それを行商の対象とした人とはどんな人だろう。誰に、どんな本を売ったのだろう。そんな思いで本書を手に取った。

 ヴェネチアの古本屋との交流から、イタリヤ北部の寒村モンテレッジォに本の行商を生業とした村があること知り、著者はそのことを調べるため、その村を訪れる。読者はその過程を共に楽しむことになる。
  その村は石と栗以外に何もなく、何時しか本を売る歩く人が増えていった。本の中ほどに「村勢調査によれば、1858年時のモンテレッジォの人口850人のうち71人が〈職業は本売り〉と記載されている。」とあって、読者も行商の規模を知ることになる。暦など簡単の物を籠に入れて、徒歩の旅であったものが、手押し車、やがて、馬に引かせる貨車と進化していく。
  その末裔が各地で本屋を営んでいることもわかり、人の繋がりができ、それらの店を訪ねて行くのが、このエッセイの多くに部分を占める。ノヴァラという町にモンテレッジォ直系の書店あると聞いて、そこを訊ねるのだが、その先代が、〈露店商賞〉の創設者の一人である。この賞は日本の本屋大賞のようなものであるが、1953年代一回はヘミングウエイの『老人と海』、以降、2017年までの受賞作品が載っている。

  探索の旅に、著者も読者も知らない村や町を訪ね、そこでの人々との交流を記録したエッセイは、挿入された沢山の写真と共に、イタリヤを親しいものに感じさせてくれる。   

  本が好き、本屋が好きと言っても、本を商う人のことを思うことは少ないのだが、この本は何代にもわたって本を商ってきた人が登場して、本の世界への想いが一段と深まった感じがした。

    2021・10・2 

 


  
   ①内田洋子『もうひとつのモンテレッジォの物語
 ②モンテレッジオの子供たち著・内田洋子訳
     『かごの中の本 モンテレッジォの本屋の村の物語   方丈社2019
       
  この本は前から読むと①、後から読むと②と二冊の本が合体している。
 『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』を読んで,
もう少しモンテレッジオの事や著者の事をもう少し知りたいと思って図書館から借りだした。この本も、前著と同様、取材しながら、その過程をエッセイにする作風であった。舞台裏も表もない書き方で、無手勝流ともいえる行動力で、何が出てくるか分からないので読み続ける。
   ①はモンテレッジォについての取材記録である。そこで出会った人々が写真付きで出てくるが、記事としてはさして纏まったものではない。やがて、モンテレッジォを含む教区の学校を巻き込むこと思いつき、校長に接触する。学校の、村や、本屋のことを調べるプロジェクトとして発展し、日本との交流とも行われる。後半は、子供たちの可愛い写真と共に伝えられている。その成果の一つが②である。

  ②は23人の子供たちが調べて描いた絵や文章を一冊の本としてまとめたのである。絵は小学生らしく、稚気に満ちているが、丁寧に描かれていて楽しい。文章はおそらく先生の指導が入っていてまとまりがよく、村の歴史やそこから出た本屋、主な人物の紹介も短文ながら分かりやすい。終わりに子供たち各人のメッセージが
ある。

ただ、前著を読まずに、この本を手にする人には、ちょっと散漫な感じがするかもしれない。



   2021・10・7