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  日本が舞台の小説 は自己の醜さを写す鏡のような働きがあります。
外国の作家だけができる仕事です。
韓国の社会を知ることは、やはり日本を見るのに役立ちます。

82年生まれキム・ジヨン
Pachinko
A Tale for the Time Being 
 

  
  チョ・ナムジュ 『82年生まれ、キム・ジヨン』斎藤真理子訳 
                               筑摩書房2018   

  ある読書クラブで何人かの女性の方が取り上げておられ、その末尾に、何よりも男性にも読んで欲しいと書いておられたので読んでみました。

   一女性の、生い立ちから学校、就職、結婚、出産に至る半生が淡々と描かれた作品で、女性であるが故の、社会的差別、肉体的苦痛がテーマでした。  
 日本も韓国に近い状況にあったし,私の経験からも、本書に描かれていることは共感を持って読むことが出来ました。

  女性の持つハンディーについて、男性はもっと深く理解して欲しいうことが、本書の狙いの一つなら、十分目的を達していると思いますので、何も申し上げることはありません。

  以下蛇足ですが、精神に変調をきたした女性の病例を精神医が記録する形の叙述になっていて、文芸ではなく、ドキュメンタリーとして読むべきものなのでしょう。
    精神医としての病例の掘り下げは殆どなされていませんが、主人公の病例を女性の差別的環境、肉体的負担などに帰しているなら、著者の態度には少々無理があると思います。もしそうなら、同じような症例が何十何万と発生しているはずです。
  主人公の母親オ・ミスクはポジティヴな女性を演じています。わたしはこの女性(母性)を支持します。

  中国や台湾でもベストセラーとなり、アメリカ・イギリスなど30ヵ国以上で翻訳されているとのことです。

   2022・12・15

 

 

  
   2019年7月31日 ·

Pachinko by Min Kim Lee 2017

  Rieko Oki先生のFBで、本書を授業で使って盛り上がっているとあったので、一体何が、D大の学生の心を捉えたのだろう?と、Kindleでサンプルを読んだら、面白く、結局、紙の本を取り寄せて、最後まで夢中になって読んでしまった。
  この本は、一口に言えば、ある「在日」韓国・朝鮮人の家族が、4世代にわたり、差別、偏見というハンディを負いながら、生きた物語で、日韓併合の1910年の釜山近くの村から始まり、1989年の東京で終わるが、舞台はほとんど日本である。
  530頁を越える大著であるが、とにかく面白い。アメリカではベストセラーになり、全米図書賞最終候補作になるなど、高い評価を受けている本である。
  著者は「在日」ではなく、韓国系アメリカ人で、30年近くかかって書いたフィクションで、そのため、状況も登場人物も、やや単純化、類型化されていているが、生き生きとエピソード重ね叙述されているので、読み易い。その中で、国家、国籍、差別、親子・男女の愛、アイデンティティー,信仰の問題など含みながら展開するのだが、登場人物(特に女性)がみな生一本の所があって清々しい。人間の心からの叫びが聞こえてくる。
ただ、これを歴史と読むと誤解が生じる恐れがある。その意味で、本書が翻訳されるかどうかわからない。
  我々日本人は、周囲を海に囲まれ、単一民族、単一言語、単一政府という環境に育っているので、祖国を失い、または分断され、様々理由で異国に住む人の気持ちはわからない。そんな人を「外人」として排除しようとする性向が強い。そのような日本人にぜひ読んで欲しい。偏見の鱗が一枚剥がれるはず。
  この本を選ばれたOki先生の慧眼と勇気、授業で扱われる力量に敬意を表します。D大生の皆さんには、このコースを全員最後まで完走できることを祈っています。

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Rieko Oki :ひとりの脱落者もなく完走しました!
      実は宮垣パパの感想は、わざわざ見ないでおいたんです!
      これから玉手箱open!

宮垣弘 :Rieko Oki先生、全員完走おめでとうございます。
      先生の感想もお聞かせください。

Rieko Oki :お会いした時に!ぜひ!いっぱい言いたい事があって!
      学生さんたちの心にのこったことがあればいいなと思います。
      切に思います。最後の墓地の場面とか。涙涙

宮垣弘 :生涯の思い出になると思います。

Rieko Oki :たぶん、二度と出来ない授業になりました!

 

  
 
2013年10月13日 ·

A Tale for the Time Being  by Ruth Ozeki

  アーサー王からしばらく離れ、Ruth OzekiのA Tale for the Time Beingを読んでいます。津波でカナダの海岸に流れ着いた、少女Naoの日記を作家Ruthが読んで行くのが主な流れのようですが、その筆法に嵌められて、どんどんと深みはいります。日本語が沢山出てきます。例えば、おたく、帰国子女、いじめ、過労死、フリーター、自殺・・・現代日本の風俗を巧みに織り込んであるので、身をつまされる思いをしながら読んでいます。ミステリー(だと思う)的迫力があります。
  付録には、道元や量子力学の解説もついているので、最後まで読ないとなんともいえませんが、とにかく面白い。
  この本は今年のブッカー賞の最終候補となっています。
 
 
2013年10月18日 ·

  Ruth Ozekiの術中に嵌まり、A Tale for the Time Beingを最後まで読まされてしまいました。舞台の大半は日本で、いじめ、ひきこもり、自殺、おたく、コスプレ、福島、汚染・・・といった暗い素材を扱っており、もしブッカー賞を受賞したら、英語圏読者へ日本の暗いイメージを広げることになるだろうと危惧しながらと読みました。エンターテイメント向きではありません。
読ませる力量は凄く、生死の問題、つまり時間の問題に堂々と取り組み、ネット社会の問題も浮き彫りしていて文学作品として優れていると思いました。村上春樹への共感を表明するつもりか、春樹という名の人物も二人登場します。プルーストの名も時々出てきます。104歳の尼僧の曾祖母を含め、人物はみな良く描かれていと思いました。

(11日、今年のブッカー賞はニュージーランドのEleanor CattonのThe Luminariesに決まった。彼女は28歳、歴代最年少受賞者、本は832頁あるという。)

   この小説で身がつまされる感じを受けた箇所に、軍隊でのしごき、中国での残虐行為、特攻に話が及ぶ箇所があります。忘れてしまいたい過去に触れられる思いです。最近、木下順二『”劇的”とは』(岩波新書1995年)を読んでいましたら、彼は、全体の文の構成からは、いわば、突出した形で、戦争責任を含む「未清算の過去」について、2度も触れています。絶叫ともいえます。韓国や中国に「歴史認識問題」とときつけられると、余分なお節介とも受け止められかちですが、「未清算の過去」があることに間違いありません。ルース・オオゼキの本には、「未解決の現代」日本もあぶりだされていて、一読をお勧めしたい本です。