記憶の本棚 - イギリスの風光  Topへ
    The Hermit in the Garden
 Rain: Four Walks in English Weather
 Ring of Bright Water
 カワウソと暮す
 

  
   

The Hermit in the Garden by Gordon Campell

Oki先生がメチャクチャ面白い!書いておられたので、衝動的に注文してしまい、変な本に手を出したものだとちょっと後悔したのですが、読み始めると面白く、途中、他に面白い本が沢山は入ったので、読了までに少々時間が掛ったが、読み通すことができた。
18世紀から19世紀初頭にかけてイングランドの庭園に、点景として隠者小屋をしつらえ、そこへ隠者を住まわせることが流行ったという現象を追った本で、それを論じるのに、HermitやHermitageの古今の事例などを渉猟しながら進むので、興味が尽きない。住む隠者の募集広告には「7年間、髪の毛も髭も爪も切らない、人とは話さない」などの条件と多額の報酬が記されています。求人難のようで、人形に置き換えられるケースもあり、時には所有者本人が隠者になることもあったという。大半はイングランド貴族の広大な庭で起きている話ですが、この流行は、スコットランドやアイルランド、大陸にも及んでいたことが確かめられています。この隠者はケルトの司祭(druid)の面影があるとか、さらにはThe garden gnome (庭に住む小人)との関連を追い、そこではジョージ・ハリソンの名前も出てきて驚きます。最後にはトム・ストッパードのArcadiaという劇も取り上げられています。
読者は、いかにも学術論文めいた論述の末、著者がどんな落し所を見出すのか?心配になり、それがこの本を読む醍醐味かもしれません。文化の古層への誘惑、自然回帰への願望、メランコリー(あるいは孤独)の憧れそのようなものが底流にあることはわかるのですが、著者の結論は、結局、私はよくわかりませんでした。それでも、心の中を一陣の涼風が通り過ぎたような気持ちの良い読後感が残りました。

こんなテーマを40年も追っかける著者も、それを出版するOxford University Press も凄い。(写真は同書から、隠者小屋の例)

 

  
   2018年1月27日

Rain: Four Walks in English Weather  by Melissa Harrison

安藤聰先生ご紹介の本。
雨の中、田舎を歩きながら、雨がどれだけ大きな恵みを(時には害も)与えているかを考えてゆきます。想い出や古い文献にも触れながらの叙述には奥行きがあり、味わい深い随筆でした。
私はイングランドの土地は殆ど知らないので、Googleの地図を頼りに読んだ。例えば、湖水地方のthe River Gretaがどんな川なのか、Wicken Fenはどんな所か?地図のほか、目を見張るような美しい景色写真がそこにはあった。。
イギリスの野生の草花、生きもの、風物についての語彙も(勿論、その実物も)殆ど知らないので、これもネット上の画像を参照した。例えば、cow parsleyとはどんな植物か、bovineとはどんな動物なのか、といった具合。百聞は一見に如かずで、イギリスの豊かな世界がそこにあった。

絶えず、辞書を引くことを強いられ、グーグルにもお世話になりながらの読書であったが、それもまた楽しく、何よりも、我々(生きもの)が自然の中で生きていることを思い出させてくれた。
安藤先生、有り難うございました。

写真下は裏表紙。「狐の嫁入り」FOX'S WEDDINGなど

雨の方言が載っている。
なお、本文には、雨に関する方言100が巻末にまてめて掲載されている。

〔Goegleの地図や画像を見ながら読書することはとても楽しいことですが、苦労がないだけに直ぐに忘れてしまいます。〕



安藤 聡 お楽しみいただけて幸いです。本当にイングランド人らしい秀逸なエッセイですよね。

宮垣弘 ガーデニング、景観を保存するナショナル・トラストなどを見ると、日本人よりイギリス人の方がより自然を愛しているように思います。このエッセイもそんな気質をよく反映しているように思いました。

 

  
 

Ring of Bright Water by Gavin Maxwell

スコットランドの北西部、最寄りの鉄道駅は、160キロも離れている僻地、お隣さんは8キロ離れているという。海辺に近く、電気、水道、ガスも通っていない一軒家。そんな中での、カワウソとの付き合いの話である。犬、猫といった馴染みの愛玩動物と異なり、新鮮な驚きがある。
写真の左は、原文をやさしく再話したもので、本文は39頁。長い間放置してあったのを先日読んだら、余りにも訴えるものがあったので、読後には、もう、amazonにオリジナルの本を注文していた。10日後、一昨日、イギリスから届いた。それ(右)は、1991年刊のLarge Print版(初版は1960年)で、活字が大きいので私には丁度良い。
He has married me with a ring, a ring of bright water/Whose ripples travel from the heart of the sea,/ ・・・・
素晴らしい巻頭詩に始まり、本文も私には散文詩のような心地よい文体である。これから反芻しながら、ゆっくりと読み進めることになる。私の自然との交流、自然への回帰への願望が、読書によって満たされるのは妙なのだが、枕頭において、安らかな眠りに付けそうな本を得たことを喜んでいる。

 
   
 
 

Ring of Bright Water   by Gavin Maxwell (2)
カワウソと暮す -スコットランドの入江にてー
松永ふみ子訳(冨山房百科文庫 1982)

巻頭の詩の美しさに惹かれ本書を読み始めたのだが、これをどんな日本語に移したのか興味があって、本書の翻訳を探した。1963年、戸川幸夫・大原武夫訳があるが、これは抄訳で、1982年、松永ふみ子訳が出ていることが分かった。図書館で借りることが出来ないか調べたが、行きつけの図書館の範囲では無く、結局ネットで札幌の古本屋から取り寄せた。そして、驚いたことに、その本には、その詩の翻訳は無く、代わりに、動物学者の増井光子という人の序文があった。
訳者がどんな底本を使ったか不明だが、書名のもとになった、このa ring of bright waterの詩が、原書に載っていないはずはないのだが、不思議という外ない。

巻頭詩は、著者マックスウエルとも親しい関係のあった詩人、Kathleen Raine の "The Marriage of Psyche"から取られたもので、最初の数行を示すと

He has married me with a ring, a ring of bright water
Whose ripples travel from the heart of the sea,
He has married me with a ring of light, the glitter
Broadcast on the swift river.
He has married me with the sun's circle
Too dazzling to see, traced in summer sky.

ご興味のある方は
https://swanscot.wordpress.com/…/11/09/a-ring-of-bright-wa…/
http://solitary-walker.blogspot.jp/…/ring-of-bright-water.h…
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付記:序文を書かれた増井光子さんは、上野動物園の園長もされた方であることをネットで知った。読んでみると、カワウソの生態、習性など見事に述べられていて、この本を「動物誌」とすれば、それに相応しい内容で、動物を愛する方でない書けない文章であった。
文学的にとらえる癖のある私は、それだけ、自然と離れているのかもしれない。