William Trevor (1928-2016)
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アイルランド出身の作家。短編の名手と言われる。読んだか限りでは、省略による余韻の文学と思う。アイルランドの香りがする。

  A Bit on the Side by William Trevor

  ウィリアム・トレヴァー『密会』について、FBの葛飾図書館友の会読書クラブで、市村浩平さんという方が素晴らしい紹介を書いておられ、つられて、原書を注文してしまった。
  原題のA Bit on the Sideは、浮気とか不義という意味。濃密な文体で、未知の単語も結構出てくるので、サクサクと読めるものではなかったが、味わい深い12篇の短編集であった。

  英語のレベルは、例えばカズオ・イシグロよりは難しく、読み終えて、何か伏線を読み落としていなかったかと、初めから読みか返した作品も多かった。辞書を引かされることが多く、それもまた、楽しい時間であった。
  ジャケットの裏の惹句には「散文による完璧なアイルランド・バラード ― 哀しく、宿命的で、(一度読んだら)頭から離れない。 ー サン・フランシスコ・クロニクル」とあるが、一種の散文詩と読むことができる。何事も起こらない、省略、余韻の芸とでもいうものを味わえます。はじめて出会った作家の作品ですが、味わい深い12篇の大人の読み物でした。

  備忘のため、少し内容を書いておきます。
Sitting with the Dead」夫を失った女性の所へ、通夜を共にしてあげるという姉妹がやって来て、一夜を明かす。
Traditions」では、7人の少年がチャペルへ入る前へに、彼らの飼っているjackdaw(小さな烏)7羽が何者かによって殺されているのを発見するとことから物語が始まるのだが、その結末についてはては、最後まで、示されていない。
Justina's Priest」はジャスティーナという少女とその懺悔を聴くクロヘシィ神父を中心に話は展開するのだが、特段の事件も起きないままに終わる。アイルランドの小さな町の雰囲気がよく出ている。
An Evenig Out」結婚相談所の紹介で会うこととなった男女のデイトの様子を描く短編小説らしい作品。男47歳、女51歳、劇場のロビーで会い、場所をレストランに移した一夜の出来事であった。
Graills’s Legacy」は本好きが講じて図書館書司となった男がある女性からの遺産について弁護士の所に相談に行って帰る話。
Solitude」は7歳、17歳の時の回想、両親のこと、孤独がしみじみと感じさせる。
Sacrad Statues」彫刻の上手い男と妻、子3人。生活に困っているようで、金策に行くのだが・・・その中身が分からない。
Rose Wept」ローザの両親が、ローザの先生を食事に招いている、その光景を19歳のローラの目と心で映し出して行く。
Big Bucks」最もアイルランドらしいラブストーリー。哀しみがいつまでも残る。
On the Streets」英語が難しく理解できなかった。
The Dancing-Master's Music」14歳から、洗い場のメイドをしている少女が、お屋敷にやって来きたダンス教師の音楽への思い出を描く。
A Bit on the Side」39歳の女性と40歳半ばの男との情事が終末を迎えようとしている。

  翻訳は未読だが、難しかったのではないかと思う。タイトルだけ、ネットから、引用しておきます。
  「死者とともに」「伝統」「ジャスティーナの神父」「夜の外出」「グレイリスの遺産」「孤独」「聖像」「ローズは泣いた」「大金の夢」「路上で」「ダンス教師の音楽」「密会」

    2021・5・18