アドラー
Alfred Adler (1870-1937)
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    アドラーは、フロイト、ユングに次ぐ大心理学者の一人とされているが、これまで、全く関心がなかった。葛飾区図書館読書クラブで榊原安英さんがアドラーを取り上げられるので、何となく気になって手を出した。

 当面、岸見一郎さんの本で読むことになるが、岸見さんの本は、何処までが、アドラーの説か、どこからが岸見さん説なのか分からない所がある。

 私は、高校時代に、プラトンの対話篇を少し読んでいて、どこからがソクラテスの考えか、何処からがプラトンの考えか分らなかった。
 或る時、社会科のあだ名がギールケという先生、(本名失念)に、この区別をどう見分けるのか質問したことがあったが、先生は当惑され、その答えは覚えていない。
 岸見先生は、自分はアドラーについて、ソクラテスに対するプラトンのようになると、言っておられるので、同じような曖昧さが残る。

 人の説は、その人の人生経験を大きくしているので、岸見さんの本は、二人の人生を反映しており、アドラー・岸見心理学を読むことになる。

  生き方のノウハウを豊富に示したものと見受けられるが、私の関心は、「共同体感覚」というテーマである。

  2023・11・02

     ***************

 
  『嫌われる勇気』『幸福になる勇気』(岸見一郎・古賀史健共著)は青年と哲人の共に対話体で、副題に自己啓発の源流「アドラー」の教えとあるように、前者は自然にアドラー心理学に親しめ、後者は、アドラー説で教育して上手くいかなかった青年が、殴り込みの形で哲人の所にやって來て、緊張感ある対話が続く。教育論に止まらないが「人生の意味とは?」という領域まで、あなたを連れて行きます。
 良いことは褒め、悪いことは叱りながら、人を育てるのが、普通であるが、アドラー説では、教育の目的は自立であるから、ほめない、叱らない、そして、承認欲求も否定する。
 このような刺激的な見解は、子を持つ親、教師、管理者が自分の立ち位置を確かめるにも有効だと思う。

この2書は、 0国の言語などに翻訳され、総数1000万部を超えたという。

  2023・11・11

  
 「わたし」は世界の中心に君臨しているのではない。「わたし」は人生の主人公でありながら、あくまでも共同体の一員であり、全体の一部なのです。」 『嫌われる勇気』(下記、p185)



「人生の意味は、あなたが自分自身で与えるものだ。」(同書p278)

  
   岸見一郎『アドラー心理学入門』KKベストセラー 初版は1999年(著者46歳の作)2014年18刷

  文章は易しいのだが、肝心のアドラーの心理学の核心、つまり人間をどう理解しているのかが、浮き彫りにされていないので、2度読み返すことになった。

はじめに
 「どのようにすれは幸福に生きることができるのかという古くからの問いにアドラーがどのように答えようとしているかを明らかにし、どのように生きていけばいいのかという指針を示してみたいと思います。」 

第1章 アドラーはどんな人だったか
  ユダヤ人両親のもと6人の兄弟の次男として生まれる(1870)
  フロイトとの出会い(1902)プロテスタントへ改宗(1904)
  フロイトと決別(1911)
  自由精神分析学会設立(1912)後に個人心理学会
  1926年からアメリカ訪問、1935年家族合流、1937年死、67歳
  
野田俊作 日本アドラー心理学会設立(1984)
  著作にはあまり関心がなかった。

第2章 アドラー心理学の育児と教育
  アドラー心理学の中心的課題
 育児の行動面での目標
   1.自立すること
   2.社会と調和して暮らせる
 心理面での目標
   1.私は能力がある
   2.人々は私の仲間である
  ライフスタイルは自分が決定する
  対人関係の中で考える
  「原因論」ではなく「目的論」がら見る。ーこれはフロイドやユングとの差かもしれない。
  罰しない、叱らない、ほめない   勇気づけ
  劣等感、優越感
  課題の分離、共同の課題。
 

第3章 横関係と健康なパーソナリティー
   自己受容、他者信頼、他人貢献
   共同体感覚

第4章 アドラー心理学の基礎理論
   アリストテレスー素材因、作用因、形相因、目的因
   行動の目的としての善。
   人は自分が意味付けした世界に生きている
   個人の主体性

第5章 人生の意味を求めて
   人生の意味は自分で決める

不満を述べると、フロイト、ユングに対して、どんな特徴があるのか?アドラーへアプローチするための文献案内と言った入門書として大切なことが欠落している。共同体感覚についてもう少し知りたかった。

  2023・11・4

 





共同体感覚はドイツ語Gemeinschaftsgefühl (ゲマインシャフト・ゲヒュール)を訳したもの。英訳はSocial interestであるが、これでは誤解を受けそう。
  ゲマインシャフトは、テンニェスの『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』で有名なように、家族、親族関係、部族、民族など血の繋がりを中心として結びついている共同体で、ゲゼルシャフトが一定の利害で結びついた、会社のような共同体とは異なる。gefühl は感触、感情、情緒といったものを表し、英語のinterestとは異なる。
 アドラーの基本概念の一つなので、しっかりした説明が欲しい所。

  2023・11・9

共同体感覚の英訳にsocial interestを当てたのは、アドラー自身とのこと、『幸せになる勇気』p49には、やや詳しく説明がある。
原語のより近いcommunity feelingをなぜ使わなかったか?行動指針として、「他者への関心」を強調したかった。
アドラーの英語力にも問題がないだろうか?彼のドイツ語のスピーチは、英語のスピーチに較べて優れていたというから。

  2023・11・11(12・6改)

  
   岸見一郎・古賀史健 『嫌われる勇気
   ー自己啓発の源流「アドラー」の教え ー
                    ダイヤモンド社初版2013年

  青年と哲人の対話によって、自然にアドラー心理学に親しむようになって行く優れた本である。
 青年は、哲人のところへ、引きこもり問題、劣等感、赤面症など、次々の持ち込み、それに対して、哲人が答えて行くのであるが、青年が、容易に妥協せず、突っ込んで行くので、読み物としての緊張感もあり、このような対話の中で人の考えを理解するが、プラトン以来、(孔子以来)の正道でもある。

  過去に原因を求めるのではなく、その事象が何の目的なのかと追求する目的論が展開され、孤独というものはなく、人は他人との関係で生きているという話になる。
 対人関係と競争、権力争いと復讐
  
 アドラー心理学の目標
   行動面での目標
   1.自立すること
   2.社会と調和して暮らせる
   心理面での目標
   1.私は能力がある、という意識
   2.人々は私の仲間である、という意識
 これらは「人生のタスク」に向き合うことによって達成できる。
  人生のタスクとは?仕事、交友、愛の三つの面から、「人生の嘘」を見つけ、ライフスタイルを変える勇気を持つこと。
  
アドラー心理学は他者を変えるための心理学ではなく、自分が変わるための心理学。 
  それはだれの課題か?「課題の分離」
  「承認欲求の否定」 他者の期待を満たすために生きているのではない」
  「自由とは他者から嫌われることである」と言うあたりが、本書の主題かも知れない。自由とためにはコストを払うこと、即ち「嫌われる勇気」が必要。  自立した人間像ー対人関係のカードは常に「わたし」が握っている。

一見、個人主義的に見えるアドラー心理学にたいして、後半は、他者、共同体感覚という話題に移る。
 「他者を仲間と見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられることを、共同体感覚という」  家庭や学校、職場・・・・・人類、動植物、無生物、過去も未来も、すべて。
  「課題の分離」ができておらず、承認欲求にとらわれている人もまた、きわめて自己中心的

 「わたし」は世界の中心に君臨しているのではない。
   困ったら、「より大きな共同体の声を聴け」

  ほめても𠮟ってもいけない    「横の関係」「勇気づけ」
  他者を評価しない。
   
  自己受容ー他者信頼ー他者貢献 このサイクルの中で「共同体感覚」が分る。「承認欲求」は消える。

  自己実現的な幸福、 「特別な存在」でありたい。 問題行動は「安直な優越性の追求」

  「普通であることの勇気」 青年は猛反発する。

 生きるということは何か?線(途上)と捉えるか、点(刹那の連続)と捉えるか、

 「人生とは、いまこの瞬間をくるくるとダンスするように生きる、連続する刹那なのです。」  ダンス、旅を考えればよくわかる。

 「いまここ」を真剣に生きること

 人生の指針 「導きの星」とは?
  
   
  2023・11・8
 





  
  岸見一郎・古賀史健 『幸せになる勇気
   ー自己啓発の源流「アドラー」の教え Ⅱー
                 ダイヤモンド社初版2016年

 前の対談で、一応、アドラーの教えを習った青年が、後に教師となって、教育の目標は自立であり、「叱らない、ほめない」ことをモット―として、「課題の分離」などその説に沿って、実践したが、効果はなく混乱したと、アドラー説に猛反発すべく、喧嘩腰で哲人の所にやって來る。 アドラー説を少し齧った者には、二人の対話は面白い。

 (折から、TVで、ある小学校で、テスト、宿題、通知簿を廃止するという、ニュースがあった。恐らくアドラー説によるものと思われれうが、その結果はどうであろうか?2023・11・10))

  青年ー教育とは「子供の課題」に不法介入するものではないか?
  哲人ー教育とは「介入」ではなく、自立に向けた「援助」である。

教育の場は、共同体のなかで、人間として幸福に生きるための「人間知」を学ぶ所。

「尊敬」から始める。尊敬とは「勇気づけ」の原点である。
「共同体感覚」 社会を形成する「他者」への関心、 
 「他者の関心事」に関心を寄せる。「共感」

過去は存在しない。現在の自分が決める。 

教室は民主主義国家である。賞罰はいらない。

問題行動の5段階
賞賛の要求」 褒めてもらいたい、共同体のなかで特権的地位を得たい。
注目喚起」褒められなくてもよい、共同体のなかで特権的地位を得たい。「権力争い」 抵抗、不従順
復讐」 憎悪という感情の中で、私を注目してくれ。
無能の証明」  あきらめたほうが楽。共同体のなかで特権的地位を得たい。 

「叱る」という手段は教育上有効ではない。
「ほめる」ことー共同体は、褒賞をめざした競争原理に支配されていく。

根源的欲求は、所属感、幸福の本質は貢献感

あなたがアドラー的な教育に失敗し、さらに未だに幸せを実感できていない理由は、簡単です。仕事、交友、愛の3つからなる「人生のタスク」を回避しているからです。
「すべての悩みは、対人関係の悩みである。」「すべての喜びもまた、対人関係の喜びである。」

仕事 生存のため「分業」 信用
交友 無条件に信じる 信頼
愛  ふたりで成し遂げる課題 それを成し遂げる技術を学んでいない

人生の主語を「わたし」「あなた」から、「わたしたち」に変える。

我々は、命に直結した生存戦略として「愛されるためのライフスタイル」を選択している。承認欲求もその一つ。

自立とは、他人の評価から、独立すること。
愛とは「決断」である。

われわれは他者を愛することによってのみ、自己中心性から解放され、他者を愛することによってのみ、自立を成し、他者を愛することによってのみ。共同体感覚にたどりつく。
幸せとは貢献感である。

弱さによって「世界の中心」になろとすることからの脱却

「最良の別れ」に向けて不断の努力を傾ける。

   2023・11・14
 
同書帯から:人生を再選択せよ!!
   人々はアドラーを誤解している。
   自立とは「わたし」からの脱却である。
   愛とは「技術」であり、「決断」である・
   人生は「なんでもない日々」が試練となる。
       +++++++++
    ↑この帯のキャッチ・コピーは
   本書の内容のほんの一部である。
 
  
     ADLER SPEAKS
    The Lectures of Alfred Adler
  2004
   編集:Mark H. Stone and Karen A.Drescher

  アドラー心理学を、ここまでの所、岸見一郎の著作で学んだのだが、直接アドラーに触れたいという気持ちは強い。
  英語版で、価格的にも手を出しやすい本を選んだ。本当は彼のドイツ語のものを読むべきだと思うのだが、そこまでの意欲はない。

  本書は1926年~1933年にアドラーが行った英語での23の講演を収めたもので、編者により、イタリックスで、各冒頭に講演の行われた時、場所が示され、講演の後にコメントが附せられている。

第1話:個人心理学の科学 9頁

  (論旨は、ちょっと、飛躍があり、難解だが、アドラー心理学のキーワードがかなり出てくる。)

  教育は良い人間、良い市民を作ることにあるのだが、上手くいかないのは何故か?
  「生きることの意味はなにか?」 それは行為によって示されている。自殺者、子供、気違い、酔っぱらいなど。人生の意味は与えられていない。それは個人によって作られる。

すべての判断に、未来、社会全体、共同が、人生にとって重要となる。

 cooperation, social interest が人生にとって最も大切なこと。
 Love your neighbor

個人の心に統合に必要なこと、優越性に向けての努力、その困難さは、交友、愛、仕事におけるsocial な問題であるが、多くの人はその準備が出来ていない。

問題ある子供は、劣等感になやませれ、その代償として、優越性への要求が強くなる、利己的で、共同する能力に欠ける。それをどうするか?

子供を励ますことについて。

第5話:勇気  6頁

  (岸見一郎の本『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』一ずれも「勇気」がついているので、これを読んだ)

 子供の人生を台無しにするのは簡単。A.子供の勇気を挫く、B.他の子から孤立させる、この二点。
Aについては、罰、質問に正面から答えない。健康や危険に対しての過保護
Bについては、他者と上手くやれなくなる。social feelingが養われない。

 真の勇気courageとは、役に立ち、人生の普通の問題に勇敢であること。
heroismとは異なる。それは、自信の欠如、人生の困難への回避、隠された臆病。
 
勇気の最高の表現の一つは、不完全であること、失敗、誤りへの勇気である。(その実例を色々掲げている)

勇気の程度、協業する能力に程度が、心的(psychic)健康の指標。

教育の理念は、万人に適用され、明確で分かり易く、共同体に有益なこと。

「やるに値するから、勇気が出せる。自分の行動が共同体に役に立つなら、やる価値があると思う」 これが、勇気に目覚める最初の一歩。

勇気を養う方法:①指示しては駄目、子供を平等と見なせ。②最初から独立と見なせ、過度の心配は禁物。③それぞれの歳に見合った共同体(society)を待たせる。勇気は共同体の中でのみ育 つ。勇気ある者から学ぶ。
(文中盛んに、Individual Psychologyでは、という言葉が挟まれている。)

 
第2話  個人心理学とフロイド心理学 8頁
第3話  個人心理学と分析心理学の短い比較 2頁
  フロイドが個人をid,ego,superegoに分けるのに対して、アドラーは個人を不可分の一体として捉える。
  フロイドが行動の主要因を、衝動drivesから見るのの対して、アドラーは目的goalkから考える。未来志向。フロイドは複雑、アドラーは単純。
  フロイドは個人中心、アドラーは社会的、social interestを重視。
  
  2023・12・・9
 

この本は、心理学の一般的話題の外、個別的な障害事例も取り上げている。 例えば:

6.Bashfulness 内気
7. Fincky Eating  偏食
11. Stuttering  吃音
20. Migraine  偏頭痛
21. Crime  犯罪






*************
拾い読みする積りだったが、結局、一応通読した。
印象は、短いものが多く、講演でもあるので、簡単な内容のものが多く、それも、観点としては、social interestで、また、処方箋もsocial interestであった。
social interestに付いて掘り下げた議論はないのですが、
p100のCommentaryに少し言及しています。
social interestによって、我々はcosmsと一体だと認識し、喜んで協力しようとするようになる。と。


2023・1・3

  
   『マンガでやさしくわかるアドラー心理学
岩井俊憲著、 星井博文シナリオ構成、深森あき作画
   日本能率協会マネジメントセンター 2014

  私は「マンガでわかる・・・」といった本を手にするのは初めてである。
  アドラーの基本的コンセプトを総なめにしていているので、これを熟読玩味すれば、アドラー心理学に近づけるかもしれない。当然のことながら、マンガにできているのは、アドラー心理学の一部であるが、マンガでもこれだけのことを作るには大変だったであろう。
  各章の終わりに1頁のコラムが付いていて、これは楽しめた。

ハウツー本のスタイルで、私の好みではないが、労作だと思った。

  2023・11・20
 

  
  AFRED ADLER 4 BOOK COLLECTION
 A Timeless Wisdom Collection Book

  これは、アドラーの英語の著書4冊が一つの本にまとめられています。607ページ、目方は1Kgあります。

オンディマンド・プリンティングなのでしょう。日本で印刷されたもの。

いきなり、本文が収録されています。
書誌的な記事はありません。
背表紙には何の文字もありません。
巻末のアドラーのドイツ語の著作の一覧があります。


次の作品が含まれている。
1.What Life Could Mean To You
2.The Pattern Of Life
3.The Science of Living
4.The Neurotic Constitution


邦訳あり、
1.『人生の意味の心理学』岸見一郎訳
2.『子供のライフスタイル』岸見一郎訳
  『問題ある子供』坂東智子訳
3.『生きる勇気』 坂東智子訳
  『個人心理学講義』 岸見一郎訳

 

   アドラーのSocial interest(岸見一郎訳では共同体感覚)に私が強い関心を持ったのは次の文章からである。

「アドラーは自らの述べる共同体について、家庭や学校、職場、地域社会だけでなく、たとえば国家や人類などを包括したすべてであり、時間軸においては過去から未来をまでも含まれるし、さらには動植物や無生物まで含まれる、しています。」(岸見一郎『嫌われる勇気』p180)

これの典拠については、まだ、出合っていないが、このような意味での共同体と解するのは、折から、唯識を学んでいる私には、アーラヤ識にも通じ、恐らく、スピリチャルな世界、形而上学、宗教の世界にの繋がる世界なのである。

これまで読んできたところでは、Social interestは、そのような深いものではなく、Self interestの対照としての、他への関心と理解した方がよさそうである。

これが、アドラー説の根幹の成す概念であることは申すまでもない。
 幸福論の基盤でもあるし、色々な心身問題、社会問題を解く鍵、対応策となっている。

共同体感覚はドイツ語Gemeinschaftsgefühl (ゲマインシャフト・ゲヒュール)を訳したもの。
これに私が飛びついたのだが・・・・

   未完