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フカプカ  (「別冊ヤングユー」2002年1号掲載)



8ページのショートストーリー。
今号からリニューアルされた「別冊ヤングユー」の巻末に掲載されました。投稿コーナーや懸賞コーナーのさらにあとに収録されており、裏表紙をめくるとすぐ目にとびこんできます。
朱色とこげ茶色を取り入れた2色カラーで、一見して豪華な小品という印象。

仏頂面の女主人が経営するカフェでいつも顔を合わせる初老の男3人。そのうちの一人、イトウさんは定年を機にほかの仲間のようにタバコを吸うことに決めていた。しかし…
という話なのですが、例によって解読するのがけっこう難しい。
しかし筋が一本通ってみると、色の使い分けやコマ割りのひとつひとつに意味があることがわり、新鮮な驚きが味わえます。



数ページのショートストーリーというとすでに「冷蔵庫にパイナップル・パイ」という代表作があるわけですが、そのころよりも線がすんなり真っ直ぐに伸びていて、全体的に落ち着いた印象を受けます。なんか似顔絵教室みたいな顔だし。冒頭に一人ずつ登場するキャラクターだけみたら、一瞬岩館真理子の絵だとわからないでしょう。
(でも、ページめくった次に出てくるオバサンのしょぼしょぼした顔つき、ちんまりした足もと、これはまさしく岩館真理子だ)
あと、吹き出しのカタチがやけにキレイなのが目に付きました。ぞんざいな吹き出しは専売特許なのに(笑)

「わたしたちができるまで」に収録されている自作解説中、岩館真理子は「冷蔵庫にパイナップル・パイ」について
「もっと簡潔な絵にするつもりだったんですけど、難しくて描けないんです。緻密な絵も描けないし、結局中途半端な感じになってしまいました」
とコメントしています。
長年のファンである私が個人的に思うには、その不安定でどっちつかずなところこそ岩館真理子の最大の魅力のひとつだと思うのですが、ご本人はそうは思っていないよう。
たしかに「冷蔵庫にパイナップル・パイ」の絵はひどく中途半端な印象を受けます。
ほぼ全員が少女マンガ的瞳(というか、いつもの岩館真理子の瞳)をしているし…動物にさえ眉毛がある…髪の毛もいつものように一本ずつ描いてある。それなのに身体は三頭身なのだから、見ようによってはグロテスクでないこともない。子供はまだしも、ややちゃんの「おとさん」はじめ大人たちは異様な姿といっていいでしょう。

これ以降数年間、おそらく岩館真理子はショートストーリーの際の絵柄についてあれこれ試行錯誤してきたのではないでしょうか。その結果が、今回のこの作品に現れているんじゃないかと思うのです。
この絵からは、以前のグロテスクさはまったく感じられません。ムダがなく、洗練されているといっていい。
はじめに登場するちょい芸術家風の男性の髪が一本一本描かれておらず、「髪の形」として表されてるのを見たとき、おおげさな言い方ですが「次のステージに進んだんだな…」と感動してしまいました。
前述したように、「そのままの絵」でどんな話でも描いてしまうところが好きだったのもたしかですが、こうして変わってゆくのを見るのもやはりファンの喜びですから。



私としては正直なところ、超不定期連載中の「アマリリス」や近年の読み切りより、こういう作品が読めて嬉しかったです。
やはり若者主役の現実的なストーリーだと、微妙に描き手との温度差を感じてしまうので。
これはキャリアの長い作家にはつきものの問題ですが、いちがいに年齢のためともいえません。そもそも同じような体裁の物語を長年描きつづけるというのがムリな話なのではないでしょうか。
いまでも活躍しつづける作家は皆、それなりの道を切り開いています。
たとえば、そういう問題に真正面から取り組んで(おそろしいことに)ちゃんと成功してるのがくらもちふさこ。心象風景を極限まで削り、ストーリーそのものの美しさにこだわるようになったのが小椋冬美。そして岩館真理子の行く末は…と考えると、私としてはやはりこの方向(少女マンガ的じゃない絵で描かれたショートストーリー)がいちばん向いているような気がするのです。
さらに言うならば、ショートならまた「冷蔵庫〜」みたいなもの描けばいいや、というふうにはやはり考えて欲しくないのです。(考えてないだろうけど)
なので、いちおう守備範囲のひとつである「ショートストーリー」に挑戦しながら、以前とはまったく違うものをみせてくれたという意味でも、今回の作品は私にとって先行きを期待させる楽しいものでありました。必殺技である「子供」も出てこなかったし。



ところで、タイトルがカタカナというのが2作つづいてますが、これは最近の流行を取り入れてるのでしょうか。
(前作が「コトリノダンス」、ちなみにその前は「サヨナラの約束」)
岩館真理子のタイトルセンスの適当さ加減が好きだと前に書いたことがあるのですが、こういうとこで多少流行に左右されてるのだとしたら、そのこだわりのなさも私としては好ましいものだったりします。ファンの欲目か(笑)

あ、描き忘れひとつ発見。815ページの最後から二つ目のコマ、イトウさんの前にあるはずのテーブルが消えてます。



(02/01/24)



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