逍 遙 篇              
─かつてのS.K.に─           1977
     
   海 風 記 
     
     
     夕べの風は 想ひの他に
     
     心無し
     
     過ぎし日々の 浪のごと
     
     寄せては返す 浪のごと
     
     残る浜辺の泡沫は
     
     途惑ひ果つる 想い事
     
     
     
     心任せの海草に
     
     歩みを取られ 海鳥の
     
     声に追われて この水際
     
     想ひも凪ぎ行き
     
     君の香 覚ゆ



      
   盲 の ご と き 
     
     
     風のごとき 恋なれば
     
     木の葉となりて 彷徨わん
     
     
     
     夕日のごとき 君なれば
     
     かけすとなりて 追い想わん
     
     
     
     惑ひのごとき 朝なれば
     
     光りとなりて 揺らめかん



     
     
   銀  河 
     
          
     物憂げに 返り見すれば
     
     恋渡る 舟人影を携えて
     
     遠き床しき 日々の間に
     
     星の宿りし 君を見ゆ



     
   海  畔 
     
     
     夕ざれば 流るる水に
     
     行き着かぬ 想ひを覚ゆ
     
     海に出で 風と舞ひ
     
     海鳥の 唄に酔ふ
     
     海の藍 心を染めて
     
     又一人 夜に流る



     
   風  告 
     
     
     澱みたる 水面に浮きつ
     
     風知らぬ ほと 木のひと葉
     
     人知れず 淵に眠りぬ
     
     我想ふ 風にし ならんと
     
     そよぎ来て 愛を告げんと



     
     
   懐  郷 
     
     
     暮れなずむ陽の 迷ひ路
     
     夕べに残るは 身の重き
     
     一日揺られて 惑ひつつ
     
     朝の想ひは 何処にか
     
     
     
     荒み果つる心をば
     
     遠き誓ひの 恋ゆへに
     
     半ば鎮めて 今 想ふ
     
     
     
     この暮れつ方 心ごと
     
     彼の山裾に 陽の入りて
     
     いざ帰りなん
     
     今なお遠き 朴の花



     
   想  春 
     
     
     風そよぎ 帰らぬ野辺に 心置く
     
     春野焼く 野火にぞ 想ひ限りたる
     
     我が心 代はりて香る 沈丁花
     
     
     
                      
                   1977.1.13.- 2.19.