牧 歌   1978−1980 那須
     
      滑 走 路 
     
     
     空への港の僅かの静寂を
     成長する積乱雲が吸収する
     そして陽はお前を縛りあげ
     暑さが滑走路を転げ廻っている
     
     お前は硬い土に鍬を叩きつけている
     火花を散らして跳ね返す
     アスファルトの厚板を一枚
     一枚ずつ剥がしながら
     お前はお前の土地を探している
     
     生命が滑走を始める
     焼けつく大気に悲鳴をあげて
     生命が僅かに大地を離れる
     
     日々の感触は汗ばんだ両の拳に在る
     長らく離れた木の柄の中に
     少しずつ少しずつ
     叫びを戻していく
     偽りの残像はゆるやかに
     けれど確実に崩れていく
     
     お前はすでに
     昨日の勝利を忘れてしまっている
     節くれだったその掌は
     昨日までの冷たい
     鉄パイプの重量感すら
     残していない
     けれどなお大地を叩く
     偽りの扉を叩き続ける
     
     そして今
     闘いの砦を内に移したお前は
     日焼けた太い腕で
     首筋を拭いながら
     音もなく南へ向かう
     巨大な翼を見送るだろう
     
                             1978.


     
     
      賑 や か な 黄 昏 
     
     
     陣地取りに負けた少年は
     長く延びた自分の影にしがみついて
     なお 叫び止まない
     通行人の視線は
     彼に対するあざけりと
     暴力にこそ向くべきだ
     
     止むことのない音は
     耳の奥の汚れた約束となり
     偽りの静寂として
     オレンヂ色の安らぎすら
     からめとってしまう
     
     ─けれど彼らは笑い続ける
      この賑やかな黄昏に
     
     淀みに浮いた銀のうろこが
     空の朱色を照り返す
     ふたつの落日が入り交じり
     世界の終末を予言する
     
     時を隔てた二つの夕暮を
     疲れた瞳が今も映す
     権力という名の格子ごしに
     残されたきらめきも
     やがて さめゆくだろうか
     
     ─そして彼らはまどろみ続ける
      この賑やかな黄昏に
     
     この騒々しい黄昏空に
     忘れられた唄を口づさむのは誰だ
     お前の傍らに始まった朝が
     やがて お前を虫食んでいくのを
     残された唇だけが
     今も唄い続けている
     ─この賑やかな黄昏に
     
                            1978.9


     
      間  奏  曲 
     
     
     海の中に唄が在って
     その子守唄がぼくを眠らせない
     確かなリズムは
     実はぼくの鼓動で
     穏やかなメロディーも
     ぼくの流れる想いであるから
     
     さわさわと寄せる心のひだが
     運び去るのは
     もう形を無くした
     遠い昔の思い出だろうか
     
     高く低く 重く深く
     その頃 唄はいつも
     ぼくの中をうねり続けていた
     嵐の海は しかし凪いで
     今では 崩れ行く砂の音すら
     ぼくの心に届いてくる
     
     ほのかなものがこの海に始まり
     やがて世界を統べるまで
     時の楽譜に
     まだわずかの余白があるから
     そのひと時に
     ぼくは腕をぐいと張り
     さわやかな
     出来るだけさわやかな
     間奏曲となって
     この浜辺を
     どこまで駆けて行けるだろう
     
                            1978.12.


     
     
      傷 み の 問 題 
     
     
     ついこの間までの話だが
     僕の片手が
     君のどこかとつながっていて
     君の心が 僕のどこかと重なっていた
     そんなひと頃の在ったことを
     覚えているだろうか
     君が傷付く度に 僕の胸が傷みを感じ
     僕が怪我を負うとまるで君は
     自分の傷口をかばうように
     手当てをしてくれた
     そんなひと頃だ
     
     僕が自分自身の傷みで精一杯になり
     君が君自身を守るのに
     夢中になり出してから
     過ぎた時間は短いようで
     後もどりするには
     ずい分遠い道程だ
     
     けれど 君の許に帰る前に
     振り向くことをしたいと思う
     自分一人で抱え切れぬ不幸を
     余りに多く負い込んだ仲間たちが
     そこに居る
     彼らの不幸の原因は
     もしかすると僕かも知れない
     そう 僕に違いない
     
     ああ君よ
     僕に 自分のこの些細な傷みを
     投げ捨てる力を与えて欲しい
     さらに大きな苦渋を背負う
     勇気を与えて欲しい
     
     解放された仲間たちは
     僕から君に向かい
     ゆっくり歩いて行くだろう
     君は彼らの手を握る
     僕たちは
     そうやって つながっていく
     苦しみと 嘆きを結び
     喜びと 笑顔を合わせ
     互いの痛みを確かめ合っていく
     互いの痛みを分け合っていく
     
                            1979.5.


     
     
      生 
     
     
     振り挙げるこのひと鍬が
     僕の誇りだ
     吹き出し額にたまるこの汗の
     ひと粒ひと粒が僕の証だ
     こうやって確かめつつ
     刻む記憶のなんと重いことだろう
     
     それでいて先達たちの
     ひと鍬への思いの激しさに比べれば
     僕の軽さは
     空に浮くちぎれ雲のようだ
     地に向かうのではなく
     地と化していく
     彼らの日々のひそやかさ
     ひそやかでありながら
     大地に根を張る
     たくましさ したたかさ
     ひと鍬に今日を注ぎ
     次のひと鍬に明日を賭ける
     黙々と ただ黙々と
     
     思いを馳せながら振り挙げる
     このひと鍬に
     幾度
     陽は射し風が渡って行ったことか
     彼らと同じ陽を浴び風を受け
     ひと鍬ごと ひと鍬ごとに
     僕は彼らに近づいていく
     
                            1979.6.


     
     
      夕  べ 
     
     
     胸底にわだかまる猛りがすうと
     潮となって引いていく夕べ
     おぼろの月の不思議に
     草木は息づくでもなく 眠るでもなく
     凪いだ風が戻り来れば
     ゆらと震える葉の先も
     己が定めにかくも強く
     生命の不思議が野辺を伝って
     行き着く森の影で ひぐらしが
     たださわさわと
     
     こんな夕べに
     一日を引きずるは愚かしく
     空に拡がる薄墨に心を流せば
     繰り返された裏切りも 軽蔑も
     何もかもが色を失い
     ただ ひぐらしがさわさわと
     午後の熱気も冷め渡り
     ただ ひぐらしのさわさわと
     
                            1979.8


     
      黙 し の 海 
        ─沖縄、八重山諸島にて─ 
     
     
     今はまだ問うまい 応えるまい
     ましてや
     責めるまい 嘆くまい
     海よ お前がそこで哀しみを傍観した歴史に比して
     人の生くる時間のなんと短いことよ
     答えを得るに 物事の善悪を決するに
     余りに短い日々ではないか
     お前ですら 沈黙を守るこの時代の波間に
     私たちは何を待てば良いのだろう
     
     ああ 問うたところで
     おまえは重い口を開きはしないだろう
     だが お前は引き裂かれた恋人たちの
     嘆きを耳にした筈だ
     彼らはこの岬に立って
     お前の彼方を臨んだのだから
     そしてまた お前は
     理不尽な殺戮の嵐を目にした筈だ
     お前を越えようとして水底に沈んだ
     多くの舟々の断末魔を聞いた筈だ
     
     憤らずにあるお前を 信じよう
     なおも恵みを施すお前に この心を委ねよう
     打ち寄す荒波が何だろう
     その無窮の深淵が何だろう
     お前の眺めた多くの不幸を想う時
     そんな物すらささやかな
     お前の気紛れに思えてならぬのだ
     落陽の怒りの赤を
     そっとその身に滲ませるお前を見るにつけ
     今日また繰り返した多くの愚行を
     私は恥じずにいられない
     今日また繰り返された悪の数々を
     私は憎まずにいられない
     
                           1979.7-8.


     
     
      歴  史  
         − 沖縄、八重山諸島にて− 
     
     
     彼らの優しさの中心に
     時代越しに伝えられた哀しみが在る
     それゆえの
     土地に深く根付いた優しさだ
     そこから始まる笑顔が在る
     そして唄が在る
     忘れてはいけないぞと
     けっして忘れてはいけないぞと
     営みは繰り返される
     総てを受け容れ
     総てを許す形で
     彼らは漁り 語らい 耕作する
     
     過客らよ 自らをも含めた過客らよ
     海の青さに惑わされるな
     眩しい陽射しに心までも委ねるな
     笑みの裏に歴史を知り
     島唄の裏に哀しみを聞き
     彼らに問い
     自らに応え
     確実に人間を証していけよ
     確実に自らを刻んでいけよ
     
                           1979.7-8.


     
     
      耕  作 
     
     
     私たちは常に
     日常という小さな畑を耕作し続ける
     夢という 約束という
     そして 愛という種を
     春となく秋となく蒔き続けながら
     やがて訪れる
     実りの季節への
     希いだけを支えとして
     
     人と人との熱い日々に
     罪の芽をひとつひとつ
     摘んでは捨てる− 
     辛い作業を私たちに耐えさせるのは
     お前たちの実りだ
     日常の耕作者たちは
     受け容れることを多く学だろう
     自らという器を押し拡げ
     さらに膝を折り 黙然として
     熱い季節を
     重い嵐をやり過ごしていく
     
     それだから 季節の果てに
     収穫の儀式はおごそかに行おう
     祝いの祭りは
     声高らかに歌い 踊ろう
     幸福という名の果実を味わい
     信頼という名の根を
     さらに張り延ばし
     みずみずしく
     葉を拡げた心を愛でよう
     
     日常という小さな畑に巡る季節が
     再びこの今に戻るものと信じたい
     例え 次の実りが望めぬとしても
     耕すこの身に陽は宿るだろう
     営みとは
     営みとはそんな確かさの
     連続だろうから
     
                            1979.10


     
     
      眼 
     
     
     ふと心を離れ
     身体だけで生きている
     自分に気付きます
     虚ろで とらえどころの無い時間
     何を為すでなく
     何を与えるでなく
     ただ自分を生かすだけを考える
     そんな時間は ひどくみじめで
     滑稽で 愚かしく
     自分を嫌悪し 嫌悪しつつも無力です
     
     心と身体
     こんなにも不釣り合いなものを重ねて
     今日までよく
     生きてこれたものと思います
     生きることは さながらゆらゆらと
     平均台の上を
     歩くようなものかも知れません
     どちらかを
     どこかで押し殺しては続けてきた
     自分の生
     振り向く勇気もありません
     総てが嘘だったなどということが
     きっとあるに違いないのですから
     
     こんなにも疲れ
     力萎え ふるえやまぬ今が しかし
     確実な笑顔に満ちた 例えば
     明日とか 昨日とか
     そういった時間と
     連続しているという事実
     信じてしまえば それはそれで
     自分を
     許してしまうことになりましょう
     しかし それが事実であるが故の
     生きることの不思議です
     そしてまた頼りなさです
     人と関わり 問い 問われ
     語り 支え 支えられ
     こんなに多くの生命を結んだ
     人生とすれば
     連続の不確かさもまた
     許せようというものです
     けれど
     惑いもせずにこれを見送る
     自分については許しますまい
     
     生が 時にこれほど虚ろで みじめで
     不安定なものであるとするなら
     このひと時に満足するは
     余りにも愚かです
     冷やかに 穏やかに さり気なく
     私は私自身を見つめる鋭い眼に
     ならなくてはなりません
     
                            1979.12.


     
     
     向 か い 風 に 
     
     
     風に向けて
     子供たちは砂の袋をぶちまける
     追い風に乗って砂は舞うだろう
     子供たちの知らぬ世界を
     彼らの責任の届かぬ所を
     
     大きくなって今も僕たちは
     嘆きとか 怒りとか
     不信とかを袋に詰めて
     風に向かってぶちまける
     向かい風に煽られて
     我が身に砂を浴びるような真似を
     しかし 子供の頃はしなかった
     人が大きくなる事は
     日々に対して愚かしくなっていく
     積み重ねのようなものかも知れない
     問えば問い返される確かさに
     責めれば責め返される厳しさに
     背を向ける事の出来ぬ程に
     この世界を吹く風は
     いつも向かい風だ
     僕たちはその不幸と生きる
     不幸を重ね合う友らと生きる
     降り来る砂から
     自分を庇ってはいけない
     いつも真正面で
     風に向かわねばならない
     
     問い止めず 責め止めず
     生きる事は 負う事であり
     寄り添う事であると
     今 風の中で知る
                            1980.2.


     
     
      生 と い う も の は 
     
     
     生というものは
     いったい
     どれほどの力を以てすれば
     支え切れるものなのだろう
     時として
     今に連続する明日が見えなくなる
     二度とここに
     立つことがないかも知れぬ
     彼が 自分の出会う
     最後の人間になるかも知れぬと
     時々ふと そんなことを思う
     生を終えるということ
     それはひとつの役割を終えること
     だからこそ思う
     今までに自分はいったい
     この自らの人生に対して
     何を為してきたか
     自分を取り巻く周囲の生の
     どれほどの重みとなれたのか
     自分の生にまだ終える意味すら無いと
     知ることほど深い虚無は無い
     愛することをしたか
     支えることをしたか
     苦悩すること
     狂喜すること
     怒ること 笑うこと
     裏切ることをしたか
     己れの罪を知ることをしたか
     この人生を
     長大な歴史に刻みつけることをしたか
     
     生というものは
     突然に始まるものかも知れぬ
     未だに始まっていないものかも知れぬ
     すぐに終わってしまうものかも知れぬ
     だから今を というと
     月並みかも知れないが
     だから今を自らの生の中に
     激しく放り込みたい
     明日が見えぬとも良いから
     今を生きる者たちの強烈な証しを
     この身の内に留めたい
     
                            1980.3.
     

     
     
      再  会 
     
     
     もう幾年も前に一度だけ触れ合った
     二つの人生が
     こんなにも時を隔てて再び重なり合う
     
     同じ時代を生きてきながら
     お互いはお互いに対し余りに無知で
     残酷な絆だけがそこにあった
     僕は犯した罪を償う為に
     君は僕らの罪を許す為に
     出会い 別れ ああ そして
     今度会うのはいつのことか
     
     同じ時間に生きながら
     君が涙で迎えるひと時を
     僕は笑って過ごしたかも知れない
     どれほどこの今
     優しくしてもし尽くせない
     負いを抱えて− 
     人間はこんな時初めて人間を
     思い切り抱き締めたいと
     思うのだろうか
     ああ 人生は他の人生を
     背負って立つことなど
     出来ないのだろうか
     
     数年ぶりの再会を終えて
     二人はそれぞれの人生に帰っていく
     不思議に心地よい虚しさだけを
     しょい込んで
     
     生きてきたこと
     そして人が生きていくこと
     生きていかねばならぬこと
     誰もが気付かぬうちに
     同じ歩みを繰り返している
     だから人は
     ばらばらでは決してないよ− 
     そんな思いを支えにして
     
                            1980.4.


     
     
      人 の 時 間 
     
     
     若葉が山を染め分ける
     深い緑と うぐいす色に
     暮らしが心を染め分ける
     深い嘆きと 喜びに
     つまるところ山はひとつ
     色を交えて在るように
     小鳥が枝を渡るように
     風が木立を抜けるように− 
     
     自分の歴史を辿ってみれば
     自分の言葉や行いが
     まるで問題にならぬほどに
     そこに人が居たという
     そこに人々が存在したという
     事実だけが
     強烈に心に迫ってくる
     自分は では何を為したのかという
     ギリギリの空虚感の中で
     しかし 絶えず笑み続ける人たち
     涙が出てくるほど
     私は独りで生きてこれなかった
     けれど 独りで生きてきてしまった
     素通りしてしまった多くの通り
     多くの人生
     横切ることで
     他の人生を傷付ける事以外に
     ただ通り過ぎてしまうという
     大きな罪業 悲しい歴史
     いつもそうだったよ
     本当にそうだったよと
     もっともっと涙したい
     人々に囲まれて 今
     恥も見栄も捨てて
     
     山がこんなに淡い季節に
     私はようやく
     人々に囲まれて在る自分に気が付く
     色を交えて山が在り
     心を交えて人の時間が在る
     濃かろうと薄かろうと木は木
     荷の重かろうと軽かろうと人は人
     囲まれて生きていく
     深く深く 本当に深く
     この世の総てに関わって生きていく
     
                            1980.6.


     
      人 は 夜 ご と に 
     
     
     人は夜ごと 人になる
     頑なな仮面を取り外し
     身にまとった知識や思いを脱ぎ捨てて
     夜ごと 人たる人にと帰っていく
     
     多くの友らと眠る夜がある
     時には怨み 時には妬み
     どれだけの悲しい絆も
     眠る生命と生命を繋ぎはしない
     余りに無防備な
     余りに豊かな寝顔に向けて
     憎しみを向けられよう筈がない
     月の光の豊かさは
     そんな時間に所以する
     
     夜ごと人は慈しむ
     夜ごと人は結ばれる
     絆の深さは夜の深さ
     無垢な生命に所以する
     我を捨て 身を捨て 和を残し
     苦を捨て 楽を捨て 悲を残し
     夜ごとに人は人を生き
     夜ごとに人は人を愛す
     
     豊かな時 豊かな時
     人よ 夜の深さに生きよ
     人よ 常に人であれ
     人よ 常に寝顔の無垢で人に対せ
     人よ人よ
     もう憎しみは要らない
     
                           1980.7.1.


     
      一 日 の お わ り に 
     
     
     一日のおわりに片脚を立てる
     立てた片脚の内側で鍬を磨く
     一日の耕作 一日の営み
     その中で鍬に集めた泥を削り
     土を落とし さらに磨く
     こんな処に傷があると
     撫でた木の柄に痛みを知る
     傷つけたものと傷ついたもの
     両の痛みがこの手の中で疼いている
     
     一日のおわりに
     こんな瞬間が欲しいと思う
     一日の泥を削り 土を落とし
     荒い感触に
     行いを確実に振り返っていく
     苦い思いで 痛い心で
     鍬の汚れを落とすような優しい営みを
     毎日 繰り返していけたら と
     
     一日のおわりに片脚を立てる
     立てた片脚の内側で鍬を磨く
     こんな風にして
     人間は道具に心を込めてきた
     こんな風にして
     人間は生活を慈しんできた
     
     一日のおわりに心を立てる
     立てた心の内側で行いを磨く
     一日のおわりに
     こんな静かな夕暮れに
     
                            1980.7.


     
     
      絆 
      
     
     いつも身構えている
     人と会うたび 人に別れるたび
     求めよう 応じようと
     心だけが高くなって
     いつも得られず 与えられず
     そして
     人と共に在る事すら出来はしなかった
     
     小鳥は森に求めはしない
     野花は山に応じはしない
     小川は海に与えはしない
     − それでいながら
     全てが一体として在る自然の様に
     人は何を学んだろうか
     そのあとどれだけ 生き得たろうか
     
     人が好きだという思い
     共に居たいという思い
     会えればいい 語り合えればいいという
     ささやかなつながりへの希いを抱いて
     心を開いていければいい
     この身を緩めていければいい
     
     世界はいつも巡っている
     一人だけでは 何も産めない
     何億もの人生を結び合わせ
     それで時代を作っている
     
     一人じゃ駄目だよ
     一人どれだけ意気込んだところで
     何ひとつ創れやしない
     すうと自分を沈め込んで
     時代の中に入り込んで
     ゆっくり自分を開いていこう
     ゆったり絆を暖めていこう
     
     それでいい
     それでいいと
     地球に立てば それが判る
     
                            1980.8.