続・コドモの時間 1999
 ヨシキ君の忍者部隊が小気味のいい音を立てて、コンクリートの土間に叩きつけられた。いい角度で入っている。が、私のゼロ戦はピクリとも動かない。思ったとおりだ。地面に吸いついてでもいるかのようだ。忍者部隊は私のゼロ戦に寄り添うように並んでいる。忍者部隊を狙うとしたら、私は隣のゼロ戦にダメージを与えず忍者部隊だけを返さなければならない。二枚札は、最初を除いて常に場には3枚の札があることになる。もとから場にあったアトムを狙っても良いし、今、ヨシキ君が張った忍者部隊の方を返すことも出来る。そのうちの1枚を取れば勝ちとなる。だから、張る時は細心の注意が必要だ。相手の場札の上にでも乗ってしまえば、当然不利になる。私は最初から場にあったアトムを狙うことも出来た。しかし、コンクリートの土間には明らかな凹凸があって、忍者部隊の方がやや返しやすかった。私は迷わず、忍者部隊を狙った。戦車の札を掌にぴたりと添わせて、大きく振りかぶる。忍者部隊の、私の札がある反対側の地面に、それは吸い込まれた。忍者部隊は私のゼロ戦側に滑り、その角を支点にして僅かに浮き上がり、しかしすぐに戻った。
 ほうっというため息。惜しい!
「危ない危ない」
 そう言いながら、ヨシキ君は忍者部隊を取り上げた。そして、大胆にも丁度一枚分の隙間が空いた、二枚の間を狙って打ち込んだ。外れれば、勿論圧倒的に不利になる手で、しかし、彼の札はぴたりともとの位置に納まった。
「やるじゃない」
 そして歓声。しかし、私の札はまだ動かない。
「参ったな、これは」
 ヨシキ君は呟いてから私を見て、それでもニヤリと不敵な笑みをこぼした。「ソラオさんの自滅を待つしかなさそうだな」
 私のメンコは、想像以上のものだった。私はすでに十分な手応えを感じている。打つ手さえ間違わなければ、まず勝てるだろう。
 私は、今度はゼロ戦を取り上げて、アトムを狙ってみることにした。十分に間合いを計って、その脇に打ち込んでみる。思ったとおり、こちらはびくともしない。しばらく、そのようにして小手調べが続いた。忍者部隊はその都度、僅かに身じろぎはするものの、決定的なダメージは与えられない。私の方は二枚とも、少々不利な位置でも全くといって良いほど動かなかった。そして、実は最初のミスを私の方が犯すことになる。
 相手を揺さぶってみるつもりで、わざと相手の札の上を叩いてみたのだ。角でも傷めることが出来ればと思ったが、私の札はやはりその重さのせいか、吸いつくように相手の札の上に半ばを乗せたまま、そこに留まってしまった。
 しばらくおとなしかったギャラリーがにわかに色めき立った。
「ヨシキ、チャンスだぞ」
「こりゃ、イケル」
 ヨシキ君も勿論そのつもりだったろうが、そんな気配はおくびにも出さず、冷静に、私の札を観察している。そして、にわかに手札を振り上げ、叩きつけた。ビシッっと気持ちの良い音がした。彼のアトムは宙に浮いていた私の戦車札の一方の角、それも僅か数ミリに見事にヒットした。戦車札はさすがに反対側の角を大きく持ち上げ、しかし、すぐに元に戻った。私は詰めていた息を、思い出したように吐き出した。危なかった。他の札だったら、そう、それがゼロ戦だったとしても、私の負けだったに違いない。戦車札は、私の持ち札のうち、一番重かったのだ。私はかつての私の伝説―ソランの札を思い出した。あの札も、こんな場面でも決して負けなかったものだ。
 ヨシキ君の一手を惜しむ声に、私の札に対する感嘆の声が交ざりだしていた。ギャラリーも盛り上がっている。
 勝敗には、確かに時の運が大きく左右する。しかし、それはすべての原因にはならない。堅実で確かな一手一手の積み重ねが、運を呼び込むのだし、計算ずくの大きな手―一見、無謀に見えても実はそうでない策が、運の流れをこちらに向けることもある。勿論、相手の手がこちらを勝っていれば、負けることになる。相手の見えない現実世界の勝負では、だから相手の手の読み違えが命取りになるのだ。時間に追われ、十分に自分の策を練れなかった私は、そして誤った。相手を見失っていたのだ。いや、見えない相手に必要以上、振り回され過ぎたのがいけなかったのだろう。この戦車札のような、確実な持ち札が今は欲しい。
 私はその戦車札を手にした。ヨシキ君のアトムが、僅かな地面の突起の上でやや不安定だった。渾身の力を込めて戦車札を地面に叩きつけた。アトムはそして、いともたやすく、裏返った。
 歓声、ため息、拍手―。ヨシキ君が右手を差し出してきた。
「いやあ、ソラオさんのメンコは横綱級ですね。参りました」
 私は彼の手を握り返した。
「いやどうして、なかなか、さっきの手はヒヤリとしたよ」
 審判の親父が私の勝利を告げ、こう付け加えた。
「バトルロワイヤルの二回戦目は、三十分の休憩を挟んで再開する。ヨシキに代わって、ソラオに入ってもらおう。じゃ、三十分後だ」

 妙な間が空くことになって、途方に暮れた。思い思いに散っていく選手やギャラリーを見送りながら、さて、どうしたものかと悩んでいると、ヨシキ君が先程の優勝者であるジャイアンツ帽の初老の紳士を連れて、私の側に近づいてくる。
「ソラオさん、紹介しておきます。こちらはシゲさん。知っての通りメンコの腕はここらで一番なんですよ」
 ジャイアンツ帽は、にこやかに笑いながら右手を差し出した。
「いや、強敵出現で、一番の座も危なくなったね。シゲオです。よろしく」
「いやあ、これはどうも。ボクなんて足元にも及びませんよ。お手柔らかにお願いします」
 私はシゲさんの手を握り返した。大きく、しっとりと柔らかな掌だった。皮も厚い。私は自分のカサカサに乾いた手入れの足りない手を、僅かに恥じた。「どうです? 時間がありますから、みんなで飯でも。美味いお好み焼き屋があるんです」
 私は好意に甘えることにした。
 広場から商店街に抜ける狭い路地を抜けながら、私はヨシキ君に尋ねた。
「ヨシキ君は、もうここ、長いのかな」
「いいえ。まだ半年もたってないかな、初めてここに来てから。それから月に二三度くらいです。だから、まだまだメンコの腕は上達しなくて」
「いやいや、ヨシキ君なんてここで初めてメンコに触ったって言ってたんだから、大したもんだよ。今じゃすっかりバトルロワイヤルの常連じゃないか」
 シゲさんが、後ろからそう付け加えた。同感だ。先程のコントロールなんて私などとてもかなわない。
「でも、今、あれだね。月に二三度って言ったけど、予約取るの大変じゃないの? ボクなんて何ヵ月も待たされたもの」
 ヨシキ君はシゲさんを振り返りながら、
「いいんですかね、言っても」
 ちょっと困ったようにそう尋ねる。
「いいんじゃないか。ソラオ君とは長い付き合いになりそうだし、いずれは分かることだもの」
「はい。実はね―、あっと、その店です」
 奥にテーブルは4組ばかりあるけれど、半ば屋台のようにした昔ながらの持ち帰り専門のお好み焼き屋だった。何人かがすでに行列を作っていた。割烹着に腕まくりをした小太りな小母さんが、その子供やオトナ子供たちに、焼き上がったばかりのお好み焼きを新聞紙にくるんで、手渡していた。掌サイズの小さなお好み焼きに、手にした客たちはカウンターの青海苔や鰹節、マヨネーズなどを思い思いにトッピングして、その先は歩きながら頬張る者、テーブルにつく者、3つ4つ両手に乗せて走りだす者と、様々だ。
「ヤエちゃん、3枚ね」
「あいよ」
 シゲさんの注文に、小母さんは威勢良く応えた。我々は奥のテーブルに腰を下ろした。ヨシキ君が奥の冷蔵庫からラムネを3本取り出し、小気味の良い音をたててビー玉の栓を抜きながら、
「あと、ラムネ3本」
「あいよ」
 私はヨシキ君からそのうちの1本を受け取った。
「でね、さっきの続きです」
 ヨシキ君はおいしそうにまず、ラムネを半ば近くまで喉に運んでから、
「新しい会員は、いろいろ審査なんかがあって、時間がかかるんですよ。で、2回目からは割りとすんなり予約が取れるんです。勿論、問題児は別ですけどね」
「審査が、あるんだ」
 私は少し驚いた。
「ありますよ。ここ、結構いい感じでしょ。難しい規則は無いけど、みんながすんなりこの世界に溶け込んで、調和を乱さない為の、不文律ってんですか、そういうのがいつの間にか出来てるわけですよ」
「昔はみんな、そうでしたよね」
 シゲさんがぼそりと口を挟んだ。
「今みたいに、あれこれうるさい規則や規制は無かったけれど、やっていけないことと、やらなければいけないことを、みんなわきまえてた。上の世代が改めて教えるのでもなく、身をもって示して受け継がれてきたんですね。別に喧嘩をしてもいい。でも、喧嘩のやり方や限度をみんな知っていた。今はただ、喧嘩をしてはいけない―これだけですからね。限度を知らない今の子供たちはだから、時として平気で人を殺してしまう。まあ、そういうことです」
「ええ。だから、そうしたこの世界の調和を乱さない為に、入会者は選ぶし、来てもここに溶け込めないような人は、次からご遠慮願う、とね。どの程度の審査があるのかは分かりません。でも、これだけは確かです。新規の入会者はせいぜい4、5人。今日あたりもソラオさんの他にあと3人くらいだと思いますよ。勿論、二回目からの入場料はいきなり安くなります」
 私は、いろんなことが余計分からなくなってしまった。すると―、 
「あの子供たちは? それに店をやっている人や、町の人たちは?」
「スタッフもいますが僅かです。みんな、広い意味で、ここの会員さんたちなんですよ。僕たちみたいに時々遊びに来るのも会員ですが、ほとんどの人は定住会員やその家族です」
 定住?
「ここに住んでるっていうの?」
「いますよ。まさにこの町に住んでる住人も居るし、この建物の近辺に分譲された住宅地があるんですけど、そこの住民もそうです。ボランティアでスタッフを手伝う人もいれば、商売をやってそれで生活をしている人もいる。ただ、遊びに来るだけの人もいる。子供たちなんて、学校が終わってわざわざここまで遊びに来るんです。今日みたいな休日は、もう朝から、ね。そういう人たちでひとつの町を作ったんです。驚いたでしょ」
「うん、驚いた。そりゃあ、すごいな。でも―、それで施設が維持できるんだろうか?」
「いろんな形で会費がありますからね。協力の度合いで違いますし、払わない人もいますけど。まあ、生きている町ですからね。作るのにはそりゃあ金も掛かったでしょうけど、あとはひとりでに育っていく―んだそうです。これはシゲさんの受け売りですけど」
「はい、お待ちどう。3枚ね」
 お好み焼きが届けられた。私は半ズボンのポケットを探った。
「お幾らですか?」
「いや、ここは奢らせてもらいますよ。ソラオさんには、また、このあと御馳走にならなきゃいけませんから」
 意味深な口調に笑みをたたえながら、シゲさんが財布を取り出した。
「はい、3人で240円」
 ヨシキ君も私の小銭を押し戻しながら、
「御馳走になりましょう。ラムネが30円でお好み焼きが50円なんですよ」「ええ、じゃ、すいません。いただきます」
 私は要領を得ないまま、小銭を戻し、お好み焼きにマヨネーズを乗せた。
 3人はしばらく黙って、黙々とお好み焼きを味わった。具はキャベツの細切りが僅かに入っただけの、妙に平べったい味がした。ところが、それがとても美味しい。知らず腹を空かせていたせいもあるが、懐かしい味だった。食べるものがなんでも美味しかった頃の味だ。
「子供がね」
 時間が来て、席を立ちながらシゲさんが口を開いた。
「純粋だ、無垢だっていうのは大人たちの幻想です。彼らは残酷だし、身勝手だし、容易に人を傷つける。それが人間の本来の姿で、その人間の本来の姿を全身で体現しているのが、子供なんです。しかし、人間同士、傷つけ合うのは仕方がないにしても、致命傷を与えてはいけません。子供にはもともと、他人に致命傷を与えるだけの力は無いんです。その力を徐々に得ながら、人は大人になります。と同時に、人を殴れば自分の拳がまた痛むという、殴り殴られる痛みも覚えます。ところが、人の痛みを理解できない大人と、人に致命傷を与える力を手に入れてしまった子供と、今はそうした人間たちばかりです。みんなが必要以上に傷つき、傷つけ合っているのが今の世の中ではないでしょうか。この世界が―」
 と、シゲさんは私を振り返った。
「そうした現実からの一時的な逃避でしかない、という批判はあります。ある意味で、それは正しいかもしれません。でも、だからこそ、この町は仮想現実ではなく、本物の町として自立しなけりゃならないんです。現実の一部になる為に、ね」
 私たちはシゲさんの話が終わる頃、広場に戻った。
「さあ、試合再開です。言いたいことは分かってもらえましたね? 我々は子供に戻って、変な遠慮や手加減をすることなく、全力で相手を倒し、倒され、傷つけ合っても致命傷は与えず、です」

 選手はすでに集合していた。ゲンさんがその中心に仁王立ちして、腕時計を睨み付けている。そして、我々の到着を待って、低く太い声を出した。
「よし。定刻だ。始めるぞ。―ソラオが新しく入ったから、くどいようだけど、ルールを確認しておく。8人のバトルロワイヤルだ。ソラオから始めて、さっき抜けた順に回す。共謀、集中攻撃、裏切り、何でも有り。返された者はメンコを取られて順に抜けていく。残った者が優勝だ。何か質問は?」
 その問いは私に向けられたものだった。私は答えた。
「無し」
「じゃ、始める。各自、札を出せ」
 私は迷わず、先程の勝負でヨシキ君から取ったアトムを、場に投げた。
 ギャラリーから落胆の声が上がって、ヨシキ君も、
「ソラオさん。そりゃ、ないでしょ」
 心配そうによく透る声を出した。
「何、このアトムもいい札だよ。あのメンコの力で勝てたのか、自分の力で勝てたのか、ボクにはまだ良く分からないんだ。試させてくれ」
「始め!」
 私は素早くアトムを拾い上げると、3枚ばかり固まった集団に向かって全力で張った。一枚が横に飛び、別の札の上に僅かに掛かった。別の一枚がやや身じろぎ、もう一枚はびくともしない。動かないのはシゲさんの退屈男だ。私はシゲさんにちらりと見やって、少しニンマリした。
 次は少年(本物の)だった。このグループの中で一番野球帽が似合っている。中学生くらいだろうか。彼は迷わず、私が別の札に乗り上げさせた1枚に狙いをつけた。風圧だけで返す力があるのかと、思わず心配になるほどの細い腕だったが、勿論、彼も伊達にこのグループに残っている訳ではない。見事に、その札を返してのけた。
「やっほーっ」
 彼の黄色い声に、周囲から拍手と歓声が応えた。そして彼は私を見て、
「ソラオさんのおかげだね。ラッキーだった」
「運を味方につければ、怖いもの無しだ。でも、ボクは次から君を狙うかもしれないよ」
「あっ、ボク、ケンジって言うんだ。―分かってるさ。ソラオさんとタッグを組めたら、絶対最後まで残れるんだけどな」
「買いかぶりっていうんだよ、そういうの」
 勝負は続いていた。シゲさんがさすが前回の優勝者だけあって、集中攻撃にさらされていた。弱いものを狙わないのはみんなのプライドだろうか。それともいつでも倒せるという余裕だろうか。少なくとも、誰か一人をみんなで攻めるうちは、自分も生き残れる。しかし、シゲさんはさすがにびくともしない。そして彼の番が来て、シゲさんの退屈男は、いともたやすく、ケンジの札を返してしまった。
「あーあ、また7番だよ。ひどいよな、シゲさんも」
 私の二度目の手はだいぶ楽だった。最初と違ってずいぶんと場が乱れている。勿論、一番不安定な札を狙って、これを返した。
「さあ、みんな、そろそろ集中砲火の相手を考え直した方がいいぞ。私なんかよりソラオ君の方が強そうだからな」
 シゲさんだった。ニコニコしながらきついことを言う。しかし、功は奏したようだ。次から私のアトムが集中的に攻めたてられた。戦車やゼロ戦ほどの安定感を、このアトムには望めない。この札は攻撃向きなのだ。幾度か私のアトムは揺さぶられ、右に左にはねられた。ハゲ社長―このひとはツキジさんと呼ばれていた―の番には、私の札はあっけなく宙を舞った。23度回転し、しかし、着地した時には表に戻っていた。再び歓声と落胆。私はツキジさんにウインクをした。しかも着地した場所が良かった。私を狙ったツキジさんの戦艦の方が逆に小石に乗り上げ、角を持ち上げている。当然ながら幸運なことにシゲさんの獲物は私からツキジさんに切り換えられた。シゲさんの退屈男はツキジさんの下にもぐり込み、そのまま返してしまうかに見えたが、やはりこの戦艦も重い。かろうじて踏みとどまった。
 さて、会場の盛り上がりはピークに達した。私はシゲさんの好意に甘えることにした。ここでやらなければ、自分がやられてしまうのだ。私は自殺覚悟で戦艦の下に潜った退屈男を叩いた。戦艦を返しても、そのままアトムが退屈男の上に残ってしまえば、次は私が取られる。が、アトムは私が思った以上に軽かった。叩いた反動で戦艦を返し、その勢いのまま、退屈男から3枚分は遠く離れた。着地もいい。これがこの札の魅力だろう。
「やった。いいぞソラオさん」
 ヨシキ君の声に、ケンジの喝采、ツキジさんの唸り声がギャラリーの歓声に混じり合った。
 場には4枚。しかし、シゲさんの次の狙いは私だった。私の位置は悪くなかったが、シゲさんの鋭い一振りには叶わない。私は4位に終わった。
「残念でした」
 退場した私の側に、ヨシキ君が寄ってきた。
「うん。あの札を取られたのは悔しいな。もっと、いいところまでいけると思った。次は絶対、あの旗本退屈男を取ってやる」
「取れますか。まだ一度も負けてないんですよ。20連勝はしてると思うな」「取るさ。その為に、ここに来たんだもの」
 結局、そのラウンドもシゲさんが優勝した。

 それから、長い夕焼けの下での勝負は、結局3回行われた。2度目のラウンドで私はツキジさんの戦艦札を使って2位に食い込んだが、やはり、シゲさんに完敗した。3度目はゼロ戦で、これもやはり2位。シゲさんにはどうしても勝てなかった。陽はようやく暮れようとしていた。最終戦の宣告がゲンさんから発せられ、私はついに戦車札を場に投げた。
 私とシゲさんは、次々と強敵を倒し続けた。もうシゲさんも私を最後まで相手にしなくなった。淡々として別の札を次々に取っていく。私もそうだった。
 そして、最終決戦。空の赤みがすっかりと薄らいでいた。カラスが鳴き、遊んでいた別のグループも順に散会しつつあった。ギャラリーはその分、増えた気がする。
 私はすっかり張った肩を撫でさすりながら、私の戦車札を取り上げ、息を詰め、大きく振りかぶり、そして張り下ろした。