生まれる前の

 昨年小学校に上がったひとり娘は、自分が生まれてくる前の記憶について、このように語っている。
 どこかの広い部屋に子供たちだけが集められた。30人とか40人とかの数である。そしてくじ引きをする。その中からただ一人選ばれたのが、どうも、わが娘だったらしい。何のくじだったかと言うと─、
 要はこの山村家に生まれてくる子供を選ぶくじだったというのだ。
「それも、すごいよな」
「うん、すごいでしょ」
「で、何かい? そのくじは当たりだったのか、外れだったのか」
「わからないよ。でも、当たりじゃなかったことは確かだよね」
「……」
「あっ、でも外れでもないと思う」
「ありがとう」
 親は親で、とりあえずこの娘は「当たり」だったなと思う程度の、バカ者である。

2004.3.29.