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映画メモ 2004年11・12月

(劇場・レンタル鑑賞の記録、お気に入り作品の紹介など。はてなダイアリーからの抜書です)

ディッキー・ロバーツ / 戦争のはじめかた / ミオ / フリーキー・フライデー / 夢見る頃を過ぎても / Mr.インクレディブル / ヘビー・ペッティング / フリスコ・キッド / 甘い抱擁 / ビッグ・バウンス / 80デイズ


ディッキー・ロバーツ (2003/アメリカ/監督サム・ワイズマン)

かつての人気子役スター、ディッキー・ロバーツ(デヴィッド・スペード)もいまや35歳。ロクな仕事もなく、ホテルの駐車係をしながら復活のチャンスを狙っていた。
ロブ・ライナー(本人出演)に「普通の子供として育ってこなかった君には、役に必要な人間としての何かが欠けている」と言われた彼は考える。それなら、普通の家族を雇って「子供時代」を擬似体験すればいい…

そんなわけで、「子供」になるため札束持って、とある家庭にやってきたディッキー。
とにかく、デヴィッド・スペードが可愛い!
「ちょっと小便…あっ違った、I go pee pee(ぼくオシッコ)」
怖い夢を見て眠れないなら、子守唄を…というシーンは、そういうの、してみたいと思ってしまった。
お話は結構ほのぼのしています。ディッキーは常識こそないけど根は気がいいし、役者仲間も、親身になってくれるエージェントもいる。飛び込んだウチの兄妹もいい子たちで、「へんなおじさん」をちゃんと迎え入れてくれる。恵まれた境遇だ。

木の上のボロ小屋をあてがわれたディッキーが中をハデに飾りつけると、子供たちがたまらず「そっち行っていい?」と言うのが可笑しい。世間的には「しがない男」だけど、邪険にされてもめげないし、楽しい雰囲気づくりが上手いんだ。
(ちなみに、このシーンで私は「3人のエンジェル」で田舎町のモーテルの部屋を飾りつけたドラッグクイーン達を思い出したんだけど、彼等があくまでも自分のためにやってるのに対し、ディッキーは、パーティ好きってのもあるけど、人恋しくて、皆に愛されたくて、一生懸命やっている。ピュアで愛らしい)
彼の特技はいかにもそっちの世界の人らしいものばかりで、弁がたつのでいじめっ子をやりこめてくれるし、チアリーディングの選考会(あんな小さいころから競争があるなんて大変!)のために振り付けを考えてくれたりもする。これがいかにも子役の出らしい健全なもの、見てる大人の頬を思わずゆるめちゃうもので、それがいい方に転んで上手くいく。

話はちょっとそれるけど、子供のころ、まだ世界のほとんどが学校だったころ、家と学校のどちらでもないところに知り合いがいて自分を助けてくれるって、なんとなく誇らしかったものだ。それがディッキーのようなちょっとイイ男なら余計に…とまでは、子供たちは思ってないだろうけど(笑)まあ、だって、兄弟には思えないもん、やっぱり。
(DVDのジャケはネタバレだよね、お父さんいないんだもん)

「ロブ・ライナーと会う算段を取り付けてくれる」スターがブレンダン・フレイザーで、奥さんと一緒にゲスト出演しています。夫婦揃ってデカイ。
このくだりで可笑しいのが、ディッキーがコネを求めて出向く「必ずスターに遭遇できるところ」がアルコール中毒者の断酒会だということ(オチがあるけど)。アル中施設って映画じゃよく出てくる。
その他、「元〜」ワクで出演してるのは、アリッサ・ミラノ(前情報がなけりゃ誰だかわからなかった)、レイフ・ギャレット(かっこよかった)など。冒頭の「ディッキーのお父さん」にも笑ってしまった。「Don't Give Up on Us」も聴けたし。
エンディングはリアル元子役たちが勢ぞろいし、僕らをもっといたわってくれ!と歌います。この映画に出たおかげで余計に今の面が割れてしまうんではと心配…


戦争のはじめかた (2001/アメリカ/監督グレゴール・ジョーダン)

同時多発テロ事件により、全米公開が5度も延期された作品。

1989年、西ドイツの米陸軍基地。補給部隊のエルウッド(ホアキン・フェニックス)はヒマをもてあまし、物資の横流しやヘロイン密売に手をそめていた。上官のバーマン大佐(エド・ハリス)は、彼と妻(エリザベス・マクガヴァン)の肉体関係にも全く気付かないおめでたい男。
ある日、ひょんなことから大量の武器を手に入れたエルウッドは、大きな取引に出る。しかし、新たにやってきたリー曹長(スコット・グレン)が彼に目をつけていた。

とても面白かったです。うまく説明できないけど、充実してた。
一応主人公はホアキンなのですが、基地には色んな人がいるんだなあ、でもって、戦争がなかったらそりゃあ色々するよなあという話。
新しい曹長がエルウッドのアレをぶっ壊したり、隊対抗の演習が行われたりってことで、クリント・イーストウッドの「ハートブレイク・リッジ」を思い出してしまった。イーストウッドはどこに行っても強い!というハナシ(笑)内容は全く違うけど。スコット・グレンの風貌はイーストウッドにちょっと似てるけど、部下にばかり走らせて、見てるだけだもん(笑・そうはいっても「Million Dollar Baby」ではまさか自分でモリモリ走ったりしまいね、あの歳だし…)

エド・ハリスとスコット・グレンの二人がやはり面白くって、前者は、一見穏健そうなのに部下が進言すると突然無礼だなんだと怒り出したり、出世したくてしょうがないけど空気が読めずおべっかも裏目に出てしまったり、ほんとはそんな日々に疲れててワイン畑を夢みてたり、とにかく悲哀まみれ。鏡の前で将軍へ話しかける練習をするシーン、後頭部のハゲが延々と映るんで、なんかしみじみしてしまった。
(「エロイカより愛をこめて」のファンが見たらちょっとびっくりしそうなくだりがあった。アメリカ人にとっては、イノシシってポピュラーな動物じゃないのだろうか?)
(あと、些細なことだけど、妻のエリザベス・マクガヴァンが寝る前にメイク落としのコールドクリームを顔の半分しか塗らないのが気になってしまった。イラついてる演技なのか)
リー曹長のほうは、娘のデートの跡を着けてクラブに入ろうとすると、「靴がダサすぎるからダメです」と断られる場面、その後挿入される白いくたびれたスニーカー履いた足、ああいうの、せつなくなっちゃう。

ガブリエル・マンのメガネ姿も良かったです。普段かけてない人だと新鮮だ。モデルは「フルメタル・ジャケット」のマシュー・モディンかな?

(04/12/19・劇)


ミオ (1987/スウェーデン-ノルウェー-ソ連/監督ウラジミール・グラマチェコフ)

原作は「長くつ下のピッピ」のアストリッド・リンドグレーンによる「ミオよ、わたしのミオ」。クリスチャン・ベールの劇場デビュー作です。
私はクリスチャンとおない年なんで、彼の出演映画を観ると、これ撮ってたとき私もこのくらいの大きさ(物理的な大きさは随分違うけど)だったんだなあ、と思ってしまう。このときは12〜3歳。紅顔の美少年といっていい。

ストックホルムで義理の両親と暮らす少年ボッセ(ニコラス・ピッガード)は、精霊に導かれて「はるかな国」へ。そこは彼の父親(ティモシー・ボトムズ)が治める美しい島。ボッセは実はミオという名の王子であった。
しかし国の平和は悪の支配者カトー(クリストファー・リー)によって脅かされていた。ミオは親友のユムユム(クリスチャン・ベール)とともに征伐の旅に出る。

原作読んだのは昔なので、記憶がおぼろげ。でもやはり、100分足らずの映画に色々盛り込むのは難しいのかなあと思ってしまう。
文章では色々想像できるけど、映像となると、ヘタしたら、クリストファー・リー様が剣持ったガキ相手にがんばってらっしゃるよ〜と思われてしまうもん。
原作ではたしか、元の世界と「はるかな国」には色々共通点があり、そこが怖くて面白いんだけど(つまり、少年が現実逃避の末に生み出した幻想なのでは…という)、映画では、明らかに共通しているのはユムユムが親友であるということだけ。
その他面白そうな事もちょろちょろ起こるのですが、なんだか消化不良に終わってしまう。
(たとえば冒険の序盤、ミオとユムユムは鍛冶屋のおじさんに「決して他人を信用してはならんぞ」とアドバイスを受けるんだけど、別段このセリフが活かされるシーンはない)
それでも、冒頭の寒々としたストックホルムの町の情景や、ごく普通の少年たちがじゃれあいながら旅をする様は楽しかったです。

クリスチャンは身体もすらっと大きく、役柄上お兄ちゃんキャラで落ち着いたかんじ。
吹き替え版ビデオしかなかったのが残念。声が聴きたいのに〜。


フリーキー・フライデー (1977/アメリカ/監督ゲイリー・ネルソン)

今年公開された「フォーチュン・クッキー」のオリジナル版。
ギターかきならすジェイミー・リー・カーティスも最高だけど、こっちのバーバラ・ハリスもチャーミングで良いです。

アナベル(ジョディ・フォスター)は反抗期まっさかりの13歳。部屋はぐちゃぐちゃ、ロックやお菓子に夢中な娘にママ(バーバラ・ハリス)は手を焼いている。
しかしある朝、二人の心が入れ替わってしまった!アナベルは家事に、ママは学校の課題やホッケーに四苦八苦、しかも今日はパパの仕事の大切なパーティが…
(「生きてる洗濯機」に手こずらされるのは「潮風のいたずら」のゴールディ・ホーンを思い出した・笑)

歯の矯正器つけて頭ぼさぼさの寝起きジョディは、すごいブタ顔。「タクシー・ドライバー」「白い家の少女」「ダウンタウン物語」も全部このころの作品なんだけど、この変わり身はすごい。
でもって、アナベルの弟のベンがめちゃめちゃ可愛い!
「ぼく、お姉ちゃんが好きになってくれるなら悪い子になるよ。やってみたこともあるんだ、ブロックを部屋にばらまいて。でも掃除のオバサンが片付けちゃうんだ」
たまんない!こんな子供いねーよってカンジだけど、まあディズニー映画だし…
そもそも「悪い子」のアナベルだって、「世界一すてきなのはお向かいの彼、その次はパパ」と思ってるような女の子なのだ。
(でも娘から妻の立場になった途端、「女をこきつかって!」と評価が変わるのが可笑しい)

母親のバーバラ・ハリスはかなりの美人。キャラクターも手伝って、ちょうどこのころ一条ゆかりが描いてた漫画に出てきそう。彼女のラブコメってまさにこういう雰囲気だ。「ママン・レーヌに首ったけ」「星降る夜に聞かせてよ」とか。
ママになったアナベルが「セクシーな服」で憧れの彼(これがまた、全然冴えないヤツ)を誘惑しようとするのが微笑ましい。
クライマックスのドタバタも楽しくて良かったです。


夢見る頃を過ぎても (2002/アメリカ/監督P.J.ホーガン)

監督は「ミュリエルの結婚」のP.J.ホーガン。日本未公開ですが先日DVDが発売されました。
(そういや先月この監督の「ピーターパン」観たけど、感想書かずじまいだった。フック船長役のジェイソン・アイザックスがめちゃカッコよかった)

シカゴに住む専業主婦のグレース(キャシー・ベイツ)は、マダムキラーの英国人歌手・ヴィクター(ジョナサン・プライス)に夢中。ある朝、弁護士の夫(ダン・エイクロイド)から離婚を言い渡されてショックを受けるが、なんと同じ日に、ヴィクターが何者かに殺されてしまう。
打ちのめされたグレースはヴィクターの故郷を訪れ、彼の使用人ダーク(ルパート・エヴェレット)と知り合った。実は彼はヴィクターの恋人だったが、同性愛の公表がかなわず長年日陰の身。二人は、事件にけじめをつけて生まれ変わるため、行動開始する。

ジュリー・アンドリュース(ほんとに綺麗だ、この人は!)が特別出演してることからもわかるように、とても上品なお話。グレースはきれいなマンションをきれいに保ち、髪もこざっぱり、眠るときはネグリジェを着る。ジェリー・スプリンガー・ショーをみてブルブル震えちゃったあとに、チャンネル替えてヴィクターの歌に心救われ、眠りにつくのです。だけど、王子様がやってきて歌ってくれる夢は、「ロックンロール・ハイスクール」(のラモーンズ大好きっ子リフちゃん)と同じ。永遠の女心だ。
もう一方の主役、ルパート・エヴェレットは…アジア風のベッドルームで亡くした恋人を思うルパ様、顔を見れば「うらなり」という言葉を思い出すけど脱ぐと意外と鍛えてるルパ様、「Close to You」を流しながら愛する人の敵を討たんとするルパ様、ズボンの内側に落とした銃を取り出そうと焦ってへんなことになっちゃうルパ様、ヤられて女みたいな悲鳴をあげるルパ様。どれも楽しい。
そんな二人が共に立ち上がるのですが、グリースにはモーディという強い味方(小人だけどアンジェリカ・ヒューストンばりのカッコして、そのうえ自分で「ドワーフ」の赤いコートまで着ちゃう)がいるし、なんだかんだいって世の皆もいい人で、首尾よくめでたしめでたしと。

歌手にまつわるおハナシということで、皆が歌をうたいます。ジュリーの他にはバリー・マニロウも出演してノドを披露してくれます。
テーマとして使われるのは、「ミュリエルの結婚」では「ダンシング・クイーン」だったけど、今回はバリー・マニロウの「涙色の微笑み」。「ダンシング・クイーン」ほどカタルシスには貢献しないけど、「ハートフル・コメディ」にはぴったり。

舞台がどこに移ってもやたらと白黒の格子模様が目に付いたんだけど、関わった人の趣味なんだろうか?


Mr.インクレディブル (2004/アメリカ/監督ブラッド・バード)

幾多の危機を救ってきたスーパーヒーロー達も、今では活動を禁じられ、正体を隠し普通の生活を送っていた。インクレディブル氏も家庭を持ち、大きな身体を縮こませ、サラリーマンとして働いていたが、心はいつもあの時代にあった。そんなとき、かつてのヒーロー達に陰謀が迫り…
最初に自慢!悪者がどうやって最期を遂げるか、半ばでわかったよー。

昨年劇場で何度も見た予告編(Mr.インクレディブルが昔のコスチュームを着ようと七転八倒するやつ)、あのベルトのくだり、本編にはないんだなあ。べつのとこで腹はジャマしてたけど。しかし、彼の結婚指輪、太って指からとれなくなってるのでは…と勘繰ってしまった(笑)
話は面白いし、とにかくアニメがスムーズでリアルで、皆のコスチュームの汚れ具合や、髪の質感、パパの首の後ろにある肉のシワなど、すごいなあと思いました。
建築物のデザインもとてもすてきで、悪の基地や、参謀デザイナー・エドナ(声・ブラッド・バード監督)の邸宅はワクワクするし、インクレディブル一家が暮らす「普通の」住宅もこざっぱり落ち着いてて良い。もうちょいシャレっ気のあるフロズン(声・サミュエル・L・ジャクソン)はそれっぽいところに住んでいる。
でも、出てくる食べ物はどれも不味そうで、唯一食指が動いたのは、帰宅したパパがつまむ、残り物のシフォンケーキらしきものかな。夕食に出てたブロッコリなんて、いかにも冷凍ヤケしてそうだった。

しかし、何といってもこれは「家族」の映画。お姉ちゃんと弟はいつも我先にと喋り捲るし(くたびれた二人が重なり合うように眠り込み、目覚めた弟がわっ女と寝ちゃったよ!というかんじで飛び退くのが笑えた)、パパとママは運転中にどの道通るかでケンカする。それにクライマックスの「リモコン」のシーンは、たとえば新しい電化製品買ったときなど、あれっコレどうするの?ちょっと貸して、こうだって!と皆でやり合う、まさにあの感覚(笑)そういうの、みてて楽しかったです。

(04/12/05・劇)


ヘビー・ペッティング (1988/アメリカ/監督オビー・ベンツ)

「50年代のアメリカの若者における性意識」がテーマのドキュメンタリー。当時のニュースや教育フィルム、流行映画などの映像の合間に、幾人かの証言が挟み込まれます。音楽はハル・ウィルナー。
そんなマジメに観るもんじゃないですが、結構面白い。

「キスにも色々ある…口をとじてるの、あけてるの。胸をブラジャーの上から触る、はずして触る…(中略)肝心な部分を触りあいたかったら、本塁に向かってまっしぐらだ」
と語るデヴィッド・バーンで幕を開け、その他、ウィリアム・バロウズ、ローリン・アンダーソン、ジョン・オーツなどが様々な思い出話を披露してくれます。
「化粧が濃い」というパパの怒声を背中に聞きながら出かけるパーティ、町のカフェでのデートの誘い、女同士の悩み相談…今から見たら呑気きわまりない映像エピソードの数々が楽しい。

こまかいこととしては、当時(のアメリカ)の生理用品は、あのような仕組み(というと大袈裟だけど、コットンパフの箱みたいのに入ってる)になっており、少なくとも女同士の眼前では振り回しても恥ずかしくなかったのだということがわかりました。私は小さいころ(25年以上前)、母親のナプキンをパフ代わりに化粧ごっこをしていたらしい…


フリスコ・キッド (1979/アメリカ/監督ロバート・アルドリッチ)

遺作「カリフォルニア・ドールス」の2年前に撮ったもの。

時は19世紀中頃、ポーランド出身のラビ・アブラム(ジーン・ワイルダー)と、流れ者の強盗フリスコ・キッド(ハリソン・フォード)の、いわゆる珍道中もの。
ジーン・ワイルダーは、ラビといっても祖国では落ちこぼれ。皆に反対されながら代表として出発、海を渡ってアメリカへやってくるのですが、早速だまされてお金をとられてしまう。たまたま知り合った強盗のハリソンに道案内を頼むんだけど、強盗に入った町の人達やらインディアンやらに追われるわ、戒律で「土曜日は馬に乗ってはいけない」からと頑なに歩いたり、聖書を落として探しに戻ったりでモタモタするわ、でもなんだかんだいってトラブルを切り抜けてめでたしめでたし、というお話。かるく観られるコメディです。
身ぐるみはがされたり何だりというシーンが多いので、やたら二人とも下着姿(当時の、ステテコみたいなやつ)になるのですが、そのカッコで海岸でじゃれついて遊ぶシーンにはちょっと、良くはない意味で、目のやり場に困った…(笑)
土曜は馬に乗ってはいけないといっても「陽が沈むまで」、身をかがめて「よし沈んだぞ」とやりすごしたり、結構いいかげんなジーン・ワイルダーが笑わせてくれます。

ちなみに冒頭、ワイルダーがアーミッシュの村人達に助けられるのですが、アーミッシュの出てくる映画としてはこれ、知らなかったから、へえ〜と面白く観ました。


甘い抱擁 (1968/アメリカ/監督ロバート・アルドリッチ)

今年の夏にDVDが再販されたそうで、初めて観ました。原題「The Killing of Sister George」。
ベテラン女優バックリッジ(ベリル・リード)は人気ドラマで長年主役をつとめているが、実生活では役柄の「優しい中年婦人」と正反対の大酒呑み。素行の悪さを理由に降板をほのめかされると若い愛人アリス(スザンナ・ヨーク)に八つ当たり。仕事も私生活も泥沼と化していく。
酒場を出たジョージ(役名だが皆にそう呼ばれている)が路地を歩いて、歩いて、家に帰るオープニングに、まずドキドキさせられます。

ジョージはキャリアもあれば演技もうまい(という設定だけじゃなく、この女優さんがほんとに上手い)が、気分屋で嫉妬ぶかく、口をついて出るのは下品な悪態ばかり。
彼女が面倒を見ているアリスは、山のような人形を手放さない、素直だが子供っぽい娘。愛くるしいモンチッチ顔だけど、よく見ると肌に疲れが…というのは決してキャスティングミスではなくて、ジョージがキレて言うには「孫がいてもおかしくない32の年増」←「15のときに子供を産んでいる」ので。終盤彼女の年齢が明かされると、二人の長い年月を思ってくらくらする。
女が二人で暮らしていれば一緒に食事する場面がありそうなものだけど、そんなの一度も出てこない。ノドを通るのは酒ばかり。来客にお茶を出しても、ゴタゴタでほぼ手付かずに終わってしまう。このへんはアルドリッチだからなのか…(笑)

ともかく、そんなこんなで二人の間は殺伐としてるんだけど、昔を語るときだけは顔があまく輝く。
「悪い人ね」
「言って、もう一度」
「…悪い人ね」
「ああ、その言い方、昔と同じだわ、初めて会った頃と…」
明け方の薄暗い部屋でこんなやりとりをする二人。思い出にすがるしかなくなったら、少なくとも恋は終わりだ。

二人の住まいは暗い。石畳の道に面したドアを開け、狭い階段を昇ると、陽の差さないリビング。壁紙は薄汚れ、家具もごちゃごちゃしている。
最後にアリスが「きっと真っ白な家よ、陽があたって明るくて…」と夢みるのもよくわかる。しかし彼女は自分で窓を開けようとはしない、ただ誰かが連れ出してくれる、その時を待つだけ。

アリス=スザンナ・ヨークのファッションが私としてはかなり好み。ブロンドのショートヘアにピンクやブルーのベビードール(ベビードール大好き!)、下着やスリッパもお揃いで、とても可愛い。
一方のジョージは、実用的なツイードのジャケットスーツ、上着を脱ぐと地味な丸首シャツ。ジャケットを背中にかつぐ仕草や座ったときの脚の開き方などから、彼女に(少なくとも演じてる女優の意識としては)「男」の部分があることがわかる。
(A「男なら誰だってヒゲがあるわ!」
 G「それは私への当て付けのつもり?!」
 そして後の仮装時に彼女はヒゲをつける)

ジョージが公の場でとんでもない言動をすると、皆が一斉に凍りつくわけでも吹き出すわけでもなく、かたまってる人もいれば、笑いころげる人もいる。そこに流れるのは、予定調和とはほど遠い妙な雰囲気。
アルドリッチの映画には結構そういうところがあって、この作品においても、たとえばジョージが愛人を失うのを怖れて取りすがるくだりは一見哀れを誘うが、同情や共感が暗に強制されるわけでもなく、断罪されるわけでもなく、ただ物語中の現実が通り過ぎてゆくだけ。
そもそも、全く周りに溶け込もうとしない主人公というのがアルドリッチのキャラクターらしい。彼女は芸に関しては、知識も技量も秀でている。しかし、かたくなに、おキレイなことを拒むのである。


ビッグ・バウンス (2004/アメリカ/監督ジョージ・アーミテイジ)

銀座シネパトスといえば、私が「ズーランダー」でオーウェン・ウィルソンに一目惚れした場所(以前から知ってはいたけど、主役級で出てくるまで恋心に気付かなかった)。その後、訪れるのは2年ぶり。前回は満員だったけど、今日は観客10人もいませんでした。

ジャック(オーウェン)は空き巣専門の小悪党。足を洗おうとハワイに流れてきたが、ありついた仕事をクビになってしまう。しかし地元の名士ウォルター(モーガン・フリーマン)が雑用に雇ってくれた。
そんなある日、富豪リッチー(ゲイリー・シニーズ)の愛人、ナンシーが彼に仕事をもちかけてくる。

エルモア・レナード原作の犯罪モノってことで、皆騙しあってるんだな、誰と誰がつるんでるんだろう?と思いつつ観るわけだけど、サスペンスの醍醐味が全く感じられませんでした。
何故こんなにちんまり薄味なんだろう、と考えてみるに、たぶん、まず、オーウェンが主役だから。
私は彼のB級ぽいとこがたまらなく好きなのですが、それも、もうちょっとはじけたストーリーや、はじけた相棒、色とりどりの出演者あってこそ輝くものだ。
場面場面は結構おもしろいし、オーウェンの役柄はいつものまんま、はまってるし、ベッドに縛られたりそういうシーンもあるんだけど、ゲイリー・シニーズやモーガン・フリーマンといった豪華キャストの見せ場が無くて勿体なさすぎる。
一方チャーリー・シーンは結構見せ場がある(笑)しかし「最‘狂’絶叫計画」から一年くらいしか経ってないはずなのに、えらい太ったなあ。
それから、ジャックの親友・フランクを演じてる人、ものすごくしょっちゅう見かけるんだけど、名前がわからない…(調べた)グレゴリー・スポールダーだって。
F「困ってるんだよ!友達だろ?」
J「オレたちの友情は、ピンチのときに助け合わないからこそウマくいってるんじゃないか」
まあ、このセリフを言わせたらオーウェンはたしかに世界一かも。

「big bounce」とは「大ボラ」のこと。最後「大法螺」という漢字がどーんと出てくるのですが、欧米の映画に漢字が出てくることなんてしょっちゅうだけど、可愛らしくて笑っちゃうこともあれば、今回のように、何もこのキメシーンに…と思ってしまうこともあり。
後者の他の例は「ダーティ・ダンシング」とか。二人が初めて身体を重ねあう場面にいきなり…えーと何て書いてあったかな、忘れちゃったけど。

(04/11/13・劇)


80デイズ (2004/アメリカ/監督フランク・コラチ)

スティーブ・クーガンって、なんてカッコいいんだろう!これまで全然気付かなかった。 純朴な発明家のお坊ちゃん、という役柄も大きいけど、登場して数分ですっかりトリコになってしまった。

19世紀末のロンドン。故郷中国の村に伝わる仏像を取り返したラウ・シン(ジャッキー・チェン)は、追手から逃れるため、パスパルトゥと名乗り発明家フィリアス(スティーブ・クーガン)の助手となる。
そんなおり、科学省のデブちん大臣との反目から「80日間あれば世界一周できる」と口走ってしまうフィリアス。中国に戻る手立てができたと、パスパルトゥは彼をけしかけ旅に出発することに…

制作費120億円とのことで、各地のセットもきれいだし、画面がカラフルで楽しい。
テレビCMじゃ、ジャキーもゲスト出演のような印象を受けますが、少なくとも「シャンハイ」シリーズより「ジャッキー映画」の色が濃い。アクションたくさん見られます。
クライマックスは、なんだかよくわからないけどドでかい仏像のアタマみたいのをバックにカレン・モク扮する女ボスと闘うのですが、「マッハ!」でも(あれはタイ資本だったけど)でかいアタマが出て来たし、今年この2作を観た欧米人は、カンフー=仏像のアタマ、というイメージを抱くに違いない…

ゲスト出演の人々も、皆キャラを生かして楽しく登場してました。シュワちゃんはちょっとクドかったけど。
私のお目当てだったルーク&オーウェンのウィルソン兄弟は、ライト兄弟としてほんの数分間出演。ルークは顔がむくんでたような。
作中オーウェンが「兄の顔をたてろよ〜」と言うんだけど、エンドクレジット見てたらルークの方が名前が先だったので、ちょっと笑ってしまった。
あと、ロブ・シュナイダーが出てると知らなかったので、驚き嬉しかったです。
ダニエル・ウーもかっこよくて。この人私とおない年なんだけど、これからもがんばってほしいです。

追記:

明治十一年にジュール・ヴェルヌの「八十日間世界一周」が翻訳された。これを読んだある日本人識者は「要するにすべてを金で解決する話だ」と言ったと伝えられている。たしかに、主人公の教授はいろいろな文明の利器を準備したり、危機を脱出するために金を使ったりしている。そもそも彼が冒険に出るのは、八十日間で世界が一周できるかを、友人と賭けたためだった。動機からして金絡みなのである。だが、冒険さえも「金がすべて」であるところに、「八十日間世界一周」や「宝島」の真価があった。そこにあるのは実効性や合理性を重んずる近代精神だ。    (謎解き 少年少女世界の名作/長山靖生)
日本人の「冒険」には経済感覚がない。私的な利益のためでなく「やりたいからやる」のが冒険なのだ、とされている(その感覚を一言で表すのが「バンカラ」)。その非合理的な大義名分が、ときに独善的な侵略や戦争をひき起こすのだ…というのが著者の主張。

「八十日間世界一周」の原作では、主人公のフィリアス(謎の資産家)は賭けに勝ったお金と同じくらいの費用を旅行で使い、金銭的な利益はほとんど得ていない。愛する女性とめぐり会えたことが幸せだと思っている。
とはいえ、読後感としては、たしかに金で何でも解決している印象を受ける。でも「金を使って他の人がやれないことをやる」というのも冒険だ。ヴェルヌの時代には、バッグひとつに金をつめこんで世界を駆け回るなんて、誰も考えなかっただろう。

映画版「80デイズ」で、ジャッキー・チェン扮するパスパルトゥは、主人に冒険を勧める際、お金や見返りのことには触れない。そもそも彼自身が旅に出かけたいのは「故郷に仏像を返すため」(!)なのである。主人のフィリアスも、利益のことなど考えない。そして、その道中は、原作は勿論、オリジナル?のデビッド・ニーブン主演映画「八十日間世界一周」('56)よりも「金にあかせて」度はずっと低い。
パスパルトゥの真意を知ったフィリアスが、(自分はここから一人で行くから)「これで彼女をフランスに送ってやれ」と分厚い札束を渡すシーンは印象的である。彼が「札束を他人に渡す」(のを私達観客が見る)のはこのシーン、つまり「友人」のために金を遣うときだけなのだ。
現代において(この映画の舞台は19世紀だけど)、金をばらまきながらの世界一周なんて目新しく面白いものではない。そのために主人公を「(世間知らずの)発明家」としてヒネったんだろうけど、その発明が旅に活かされる場面が少なかったのが、ちょっと物足りなかった。
なんとなく思うところあったので、冒頭の文章を引用してみました。

(04/11/07・劇)



表紙映画メモ>2004.11・12