| 超速特急 |
| サイレンススズカ |
![]() |
宝塚記念 中山記念 金鯱賞 毎日王冠 小倉大賞典 国内・15戦9勝 海外・1戦0勝 競走成績 |
やんちゃな快足馬
平成9年の牡馬クラシックロードはこれといった中心馬が見あたらない大混戦。朝日杯3歳Sを勝ったマイネルマックスやメジロライアン産駒のメジロブライトらが一応の主役と見られていたが決定的なものにかけていた。毎年クラシックを独占してきたサンデーサイレンス産駒も今年は大不振。
そんな中、京都で衝撃のデビューを飾った期待のサンデーサイレンス産駒がいた。持ったまま7馬身差の楽勝。デビュー直後からその名声は関西だけでなく関東にまで伝わっていた。それがサイレンススズカである。
「どうやら今年のSS産駒の真打ちが現れたらしい」「今年のダービーはこいつで決まり」など、サイレンススズカの速さは噂が噂を呼んだ。その声に答えるかのように、陣営がサイレンススズカの次走に選んだのはいきなり皐月賞トライアル・弥生賞だった。このレースが良くも悪くもサイレンススズカの全国デビューであった。
素質を期待されたスズカに与えられた人気は2番人気。やや過剰人気気味であった。しかしレースでのスズカは散々だった。いきなりゲートでしゃがみ込んだかと思うと騎手を振り落としてゲートをくぐって出てきてしまったのだ。痛そうに脚を押さえる上村騎手。不穏な空気が流れる中ゲートを壊したスズカは外枠発走となり、さらにゲートが開いたとたん2秒近くの大出遅れをかましてしまった。結果まくり気味に上がっていったものの8着。ド派手な全国デビューとなっってしまった。
出走停止をくらい、関西に帰ったサイレンススズカはダービーを目標に自己条件から再スタート、プリンシパルSを経て日本ダービーに出走してきた。サイレンススズカが絶対逃げると宣言しているサニーブライアンにいかに絡んでいくかがレースの焦点とされていたが、サイレンススズカはここで押さえる競馬を試みた。結果道中引っかかりっぱなしで直線ばてて9着。逃げに徹したサニーブライアンが堂々2冠を達成してしまった。しかし押さえて惨敗したこのダービーはサイレンススズカにとって転機となり、このレース以後スズカは逃げに徹するようになった。
4歳時のサイレンススズカははっきり言ってちぐはぐであった。能力はあるのかもしれないがどうも煮え切らないレースっぷり。明らかに無謀な格上挑戦を繰り返し、勝負になるようなならないような可もなく不可もなくの着順を繰り返した。
神戸新聞杯では軽快に逃げ、勝ったと思って鞍上が油断したところでマチカネフクキタルの強襲を受け2着。
天皇賞では大逃げを打ち場内を沸かせたものの直線失速6着。
マイルCSでは鞍ずれを起こしレースにならず15着。
無謀にも海外にも遠征し、大逃げを打って場内を沸かせたものの最後は交わされ5着。
大逃げを打っては直線タレる。普通の逃げ馬の走りであった。しかし武豊に乗り変わった最後の香港のレースで武豊とサイレンススズカは何かを掴んだようであった。「来年は勝ちますよ。」まさか武騎手のこの言葉が本気のものだったとは。アンストッパブル(制止不能)
香港遠征から騎乗した武豊騎手はサイレンススズカに走ることの楽しさを教えた。年始バレンタインSから始動したサイレンススズカはごく普通のオープン馬相手に楽々逃げ切って見せた。武豊はサイレンススズカの気分を害しないように行く気に任せて楽に逃げさせ、サイレンススズカもそれを楽しむかのように軽快に逃げた。「こんなに走るのが好きな馬は初めて」と武豊に言わしめた栗毛の快足馬はこのレースを機に止まることのない超特急に変貌していった。
中山記念。最近不振のSS産駒たちを相手にややムキにになってしまったサイレンススズカは直線やや失速するが何とか勝利。重賞初制覇となった。
小倉大賞典。左回りを得意としていた逃げ馬サイレンススズカに選ばれた中京コース。後続に影すら踏ませぬ楽勝で中京コースの1800mレコードを楽々更新してみせた。
そして金鯱賞。菊花賞馬マチカネフクキタル、重賞連勝馬ミッドナイトベット、藤沢厩舎の素質馬タイキエルドラド。これらの有力馬が揃ったレースでサイレンススズカはその有り余るスピードをいかんなく発揮した。逃げ馬のサイレンススズカがやや優勢なのは想像がついていたが、現実はそれをさらに上回っていた。好スタートから先頭に立ったスズカは楽に逃げているものの後続との差はドンドン広がっていく。場内の大歓声の中、直線に入ったサイレンススズカは遙か後方でしきりにもがく有力馬を相手にさらに差を広げ、一頭だけ別の競馬をしているかのように単走でゴールインした。2着に1秒8もの大差。スズカがゴールインするときには、G2にもかかわらず周囲から拍手・歓声が自然に上がった。「今日は、どんな馬が出てきても勝っていた」と武豊騎手は語った。サイレンススズカの見せた圧倒的なパフォーマンスは、彼を一気に宝塚記念の主役へと押し上げた。
宝塚記念。G1戦線以外のところを走ってきたスズカだったが、エアグルーヴ・メジロブライトらG1馬を押さえ、なんと1番人気。鞍上はエアグルーヴに騎乗することが決まっていた武騎手から南井騎手へと変わっていたが、特に不安となることではなかった。そしてレースでも当然のように逃げ切りを決めて勝利。予定より少し早くG1のタイトルを手に入れた。
秋の最大目標は2000mの天皇賞・秋。宝塚記念よりも200m距離が短縮されるこのレース、もはやスズカの為だけにあるようなものだった。史上最大の決戦
天皇賞・秋の前哨戦となる毎日王冠。いつもなら天皇賞の前哨戦として有力馬たちが出走するレースだが、今年はいささか趣向が違っていた。4歳○外の無敗の2頭・3歳チャンピオンのグラスワンダーとNHKマイルを制したエルコンドルパサーがサイレンススズカに挑んできたのだ。無敗の○外同士の対決もさることながら、その2頭が超特急と化したサイレンススズカにいかに戦いを挑むかが注目され、東京競馬場には10万を越すファンが集まってきていた。
G2にもかかわらずあがる拍手と大歓声。場内の異様な熱気の中、ゲートは開いた。サイレンスズカが当然のように先頭に立って行くが、今回はそれほど大逃げにはならない。一見するといつもよりスローペースなのかと思われたが、違っていた。他の馬がスズカの作る超ハイペースの流れについて行っていたのだ。4コーナーを迎えるところで、的場とグラスワンダーがスズカを負かすにはこれしかないと、かなり早い仕掛けからまくり気味に上がってきた。それに続いてエルコンドルパサーも徐々にスズカに近づいてきた。しかし、そこまでだった。いつも通りのハイペースで逃げていたサイレンスズカには余力十分。対して無理をしてついていったグラスワンダーを始めとする後続にはもう力は残されていなかった。サイレンススズカは後続をぐんぐん突き放し、無人のゴールへと目指す。やや仕掛けを遅らせたエルコンドルパサーが2番手に追い込んできたが、どこまで行ってもサイレンススズカとの差が詰まることはなかった。圧勝にして楽勝。情け容赦ない鬼神を思わせるようなレース。もはや天皇賞でサイレンススズカの負ける姿を想像するのは完全に不可能だった。悪夢
天皇賞では各マスコミらが必死にサイレンススズカの死角を探そうと毎日様々な推測が繰り広げられた。同じ逃げ馬サイレントハンターが競りかけていくのか。追い込みに徹する馬たちの逆転の可能性はあるのか。逃げ馬や1番人気で天皇賞・秋は勝てないと言うジンクスがある。連日様々な憶測が繰り広げられたが、ほとんどの推測は説得力のない苦し紛れのものにしか過ぎなかった。1週間が過ぎ、結論は一つだった。故障さえしなければ間違いなくサイレンススズカが勝つだろう。これがほとんどの人が出した結論だった。故障さえしなければ・・・。
天皇賞のパドックを回るサイレンススズカの馬体は金色に輝き、まさに絶好調そのものだった。今日はどのくらいの大逃げを打つのか、どのくらい大差で勝つのか。レコードの可能性も高いんじゃないか。そんな期待はサイレンススズカの単勝1.3倍という圧倒的な人気に現れていた。本馬場に12頭中最後に入場してきたサイレンススズカ。他馬がそそくさと大観衆の前を逃げるように駆け抜けていったのに対し、スズカは外ラチすれすれ、大観衆の容赦のない大歓声の前をまるで楽しむかのようにゆっくりと歩いて進んでいった。まさに王者の風格。そのままゆっくりと歩きながら、黄金色に輝くサイレンススズカは白く霞んだ第2コーナーの方へと静かに消えていった。それがサイレンススズカが見せた最後の姿だった。
1枠1番から絶好のスタートを切ったサイレンススズカはゆっくりと加速し、後続を予定通りぐんぐん引き離していく。サイレントハンターも逃げようとするが、それすら全くお構いなしにどんどんスピードを上げていく。馬群は見たこともないような縦長となり、テレビの画面にすべてが映りきらないような大差となった。1000m通過は57秒4。毎日王冠の時の57秒7に比べてさらに早いが、今日のサイレンススズカの体調は完璧で、無茶なペースでないのは明らかだった。いったいどこまでちぎるんだ。いったいどのくらいのタイムを叩き出すのか。そんな期待は大けやきを過ぎたところで一瞬にしてうち砕かれてしまった。
故障発症、競争中止。
レース後の診断は左手根骨粉砕骨折。安楽死処分。どの馬も止めることが不可能だった超速特急は、最悪の形で止まってしまった。
天皇賞後は海外遠征もしくはJC参戦の予定、さらにはアメリカから種牡馬として購入のオファーもあったサイレンススズカ。その快足は競馬史をひもといてみてもきわめて希なもので、種牡馬としての成功もほぼ約束されたようなものだった。ひょっとしたら日本産馬の血が全世界に広がっていく最大のチャンスだったのかもしれない。
類い希なスピードによる問答無用の快足で多くの人々を魅了した栗毛の逃亡者。
我々が失ってしまったものはとてつもなく大きいものだったかもしれない。
|