三強の意地
イナリワン


イナリワン 天皇賞・春

宝塚記念

有馬記念

東京大賞典

東京王冠賞

地方・14戦9勝
中央・11戦3勝

競走成績

地方出身の年度代表馬

 地方との交流競走が活発化に伴い、中央で走る地方馬が増えている。現在は地方在籍のままでも大レースに出走できるが昔は地方から中央に転厩する必要があった。その多くは地元でチャンピオンとなり中央での活躍を期待されてくるのだが、実力の差に跳ね返されるものがほとんどである。かつて国民のアイドルとなったハイセイコーも初期は皐月賞を制するなど実力を示すことができたが、チャンピオンとなるまでには至らなかった。その後オグリキャップが地方笠松からやって来て一世を風靡しているその時期に同じく地方大井からやって来た馬がいた。その馬は「天皇賞を勝ち、チャンピオンになるため」と公言して中央に転厩し、見事天皇賞を獲得、年度代表馬の座まで獲得してしまったイナリワンである。

大井のチャンピオンから天皇賞制覇へ

 イナリワンがデビューしたのは南関東の大井競馬場。3歳の冬にデビュー戦を快勝したものの厩舎で脚を怪我するアクシデントに見舞われて4歳の春の大レースには出られなかった。しかし5月終わりに復帰すると連戦連勝し、4歳までの通算を8戦8勝のすばらしい成績で終了した。この勝利に中には中央の菊花賞に当たる東京王冠賞も含まれており、「大井にイナリワンあり」と大井のみならず中央のファンにもその存在を知られるようになっていた。
 しかし5歳になるとイナリワンは思わぬ低迷をしてしまう。雨と重馬場を大の苦手としていたイナリワンはレースの度に降る雨に泣かされ、なかなか勝つことができなかった。しかし5歳最後の大一番、勝てば中央入りの話がもちあがっていた東京大賞典は良馬場となり、イナリワンはここを見事に快勝した。そしてこのレースを最後に中央に転厩したのである。
 美浦の鈴木清厩舎に入厩したイナリワンは目標の天皇賞まで2戦・すばるSと阪神大賞典を戦った。このときの騎手は小島太だったが環境の変化にとまどったイナリワンの体調は思わしくなく、また折り合いに極度の難があったこともあって4着・5着と低迷した。大井のチャンピオンもやはりこの程度か、多くの人はそう思っただろう。
 しかし目標の天皇賞前にイナリワンの体調は急上昇していく。また天皇賞ではこれまでの小島太に変わって若手の天才ジョッキー武豊が騎乗することになった。そして前年有馬記念に勝った怪物オグリキャップと菊花賞馬スーパークリークが揃って故障休養してしまい、相手関係にも恵まれた天皇賞となった。
 しかし前2戦凡走したイナリワンの評価は4番人気。1番人気はスルーオダイナ、2番人気はランニングフリーだからイナリワンにとってはいかにも低い評価である。。鞍上の武豊は事前にイナリワンの気性が難しいということを聞いており、レースではイナリワンを気持ちよく走らせることに専念した。じっと馬群の中で待機して力をためたイナリワンには十分に力が残されていた。第4コーナーを回ってさあ追い出そうとしたとき、武豊はイナリワンのあまりの手応えの良さに驚いたという。結果イナリワンは後続を5馬身も突き放す大楽勝を収めた。地方出身馬にとってはヒカルタカイ以来21年ぶりの天皇賞制覇という偉業であった。
 天皇賞に勝ったにもかかわらずイナリワンの評価は低かった。相手に恵まれた、武豊マジックだ等といわれ続く宝塚記念も2番人気。しかし今思えばたいした敵がいなかった宝塚記念をイナリワンは快勝した。G12連勝であったが、イナリワンにとっての本当の戦いは秋からのオグリキャップ・スーパークリークらとの激突であった。

3強の激突

 秋になってオグリキャップとスーパークリークが復帰してきた。共通の目標である天皇賞・秋に向けてスーパークリークは京都大賞典にまわったが、毎日王冠で一足早くオグリキャップとイナリワンが激突した。前走オールカマーをレコードで圧勝、鮮やかに復活ののろしを上げたオグリキャップが1番人気。イナリワンはG12連勝後初戦にもかかわらず3番人気と低評価。しかしながらレースはこの2頭の壮絶なマッチレースとなった。第4コーナーを回って馬群のほぼ最後方大外からイナリワンとオグリキャップが馬体をあわせての壮絶な叩き合い。2頭でぴったり馬体をあわせたまま次々と多馬をかわしていき、最後まで2頭馬体をあわせたままゴールイン。一瞬の静寂のすぐ後にすごいレースを見たという感動が場内を包んだ。結局オグリキャップがハナ差だけ先に出ていたが、このレースはイナリワンの力を再認識させると共に平成元年のベストレースに数えられる名勝負となった。
 しかしこの毎日王冠で休み明けでめいっぱいのレースをした反動がイナリワンに現れてしまい、天皇賞・秋6着、ジャパンカップ11着と惨敗してしまう。一方でスーパークリークが天皇賞秋でオグリキャップを抑え、ジャパンカップでオグリキャップがホーリックスと世界レコードの死闘を演じる中、イナリワンは自然に3強の中から外されてしまうような格好になっていた。そして年末最後の大一番、有馬記念にはオグリ・クリークらに離された4番人気で出走した。
 有馬記念の最後の直線、激戦の疲れが出たのかオグリキャップにはいつものキレが見られない。もがくオグリをスーパークリークが交わして先頭に立つ。しかし「勝った」と思った鞍上の武豊の視界に一頭の馬が飛び込んできた。武豊はオグリが差し返してきたのかと思ったが、それはオグリキャップではなく、前2走を凡走していた柴田政人イナリワンであった。猛然と追い込んできたイナリワンはスーパークリークをゴール僅か手前で捕らえ、先頭でゴールインした。この勝利はイナリワンを再び3強のうちの1頭に戻すと共に、年間G13勝となったイナリワンに年度代表馬のタイトルをもたらした。イナリワンと柴田政人の意地のような激走であった。

 年度代表馬となったイナリワンはこの後スーパークリークと天皇賞・春で激突し、スーパークリークの2着と3強に名に恥じない戦いをした。そして宝塚記念を最後に現役を引退した。中央での通算成績11戦3勝でG1しか勝っておらず、一度も1番人気がない変わった年度代表馬であった。種牡馬となったイナリワンは東京王冠賞父子制覇を成し遂げたツキフクオーや関東重賞の常連シグナスヒーローなどそこそこの活躍馬を送り出している。オグリキャップやスーパークリークがさっぱりダメだった事を思えば、イナリワンは種牡馬として3強のトップを走っている。競走でも名よりも実を取ってきたイナリワンらしい。
イナリワン 牡 鹿毛 昭和59年〜 
生産地・生産者 北海道門別 山本実儀 総収得賞金 404,826,400円
馬主 保手浜忠弘 繋養地 日高軽種馬農協 門別種馬場
調教師 福永二三雄、鈴木 清 主な産駒 ツキフクオー(東京王冠賞、アフター5スター賞、ゴールドジュニアー)、
オースミジョージ、
シグナスヒーロー
騎手 武 豊、柴田政人、小島 太


ミルジョージ
(鹿 1975)
Mill Reef Never Bend Nasrullah
Lalun
Milan Mill Princequillo
Virginia Water
Miss Charisma Ragusa Ribot
Fantan
マタティナ Grey Sovereign
Zanzara

テイトヤシマ
(鹿 1970)
ラークスパー Never Say Die Nasrullah
Singing Grass
Skylarking Precipitation
Woodlark
ヤシマジェット ソロナウェー Solferino
Anyway
ヤシマニシキ セフト
神正