| 音速の末脚 |
| フサイチコンコルド |
| 東京優駿(日本ダービー) 5戦3勝 競走成績 |
非常識の超音速
「コンコルドだ!コンコルドだ!外から、音速の末脚が炸裂する、フサイチコンコルドッ!」
第63回日本ダービー。東京競馬場に詰めかけた18万の大観衆は一瞬我が目を疑った。ダンスインザダークが負けた。わずか2戦しかしていない馬に。熱発でトライアルを回避し、東京に着いてからも熱発が報じられた体調不良の馬に負けたのだ。
フサイチコンコルド。父は日本でもシンコウラブリイ・ビワハイジなどを出しているカーリアン、母はSadler's Wellsの血を引くバレークイーン。母が胎内に仔を宿したまま日本に連れてこられたいわゆる持ち込みの良血馬である。血統的背景とそのすばらしい馬体から確かに大きな期待を背負って競争生活に入ったが、コンコルドには致命的な弱点があった。Northern Dancerの3×3という濃いインブリードの弊害からか、体質が極めて弱かったのである。普通体温は朝になると上がりはじめ、夜になると次第に下がってくるが、コンコルドはその逆。いわゆる逆体温という体質でいつもうとうとしているのに加え、輸送を行うと必ず熱発。順調に使うなんてもってのほか、レースに使うことすらままならない状態だった。しかし素質は超一流だったようで、4歳になってからのデビュー戦、そして2戦目いきなり選んだオープン特別・すみれSを勝利で飾った。皐月賞は出走可能だったものの小林稔調教師はあっさり回避を決め、ダービーに向けて調整を続けられた。関西の秘密兵器という声も出始めた中、ダービーに向けステップとして選んだプリンシパルS。東京に輸送した時点でフサイチコンコルドは熱発してしまい、レースを回避せざるを得なくなってしまった。レースでは同じく熱発によって皐月賞を回避した武豊のダンスインザダークがスケールの大きさを見せつける快勝。一方フサイチコンコルドはダービー出走に向けて黄信号がともってしまった。
日本ダービー当日。皐月賞1,2着のイシノサンデー・ロイヤルタッチにダンスインザダークを加えたSS産駒3強のダービーというのが大方の見方であったが、中でもダンスインザダークの評価が高く、一頭抜けた人気でダンスインザダークが一番人気となっていた。他、サクラスピードオー、ミナモトマリノスら伏兵陣も人気を集めていた。そのような全18頭の出走馬の中に、フサイチコンコルドの姿もあった。しかし直前に再度熱発が伝えられていたことや、わずかキャリア2戦であったこともあり、毎年出てくる期待はずれの関西の秘密兵器として穴党の人気を集める程度であった。
ゲートが開き、全馬一斉にスタートを切った中、13番枠のフサイチコンコルドはわずかに出遅れた。ダンスインザダークは好スタートを切り、きっちり3番手につけ、フサイチコンコルドは出遅れたため、ぽっかり空いた内に切れ込んで気がつけばダンスインザダークの後方にぴったりつくような形となっていた。サクラスピードオーが引っ張るスローペースの中、絶好位につけたダンスインザダークは手応え十分。全てはダンスインザダークの為、武豊のダービー初制覇に向けて順調に流れているようだった。
第4コーナーを回って直線にはいると、ダンスインザダークがまさに満を持したような形で堂々と抜け出してきた。ここまではほぼシナリオ通りの展開だったが、人気のイシノサンデーやロイヤルタッチがどうも後方でもがいている。前にいるのはサクラスピードオーやメイショウジェニエ・フサイチコンコルドといった伏兵陣ばかり。少しばかり波乱の雰囲気が漂っていた。しかしダンスインザダークは大きな完歩で先頭に立ち、ゴールへ向かう。その後方、ダンスインザダークが抜け出すのを確認して、フサイチコンコルド鞍上藤田がコンコルドにゴーサインを出した。引き絞った弓を放ったように、フサイチコンコルドは一気にスパート。一歩づつダンスインザダークとの差を詰めていく。そしてついにゴール直前でダンスを捕らえ、半馬身差を付けてゴールへ飛び込んだ。
「これが他のG1だったら間違いなく回避していた。しかしダービーにはどうしても出したかった」と語った小林稔調教師。慎重に慎重に馬を使う師に、熱発を押してまでもダービーに出してみたいと思わせた高い素質が見事ダービーの舞台で開花した。3戦3勝でのダービー制覇というのは戦後としてはおそらく空前絶後の記録。戦前まで遡ってみてもクリフジまで遡らなければならない快挙だった。「天才」対「天才」最終決戦
ダービーを制し、一躍スターホースとなったフサイチコンコルドだったが、病弱は相変わらずであった。輸送すると熱発するため北海道に放牧に出すことすらできず、夏は栗東の厩舎で過ごすことに。高価な氷の柱に囲まれて過ごすコンコルドの姿が雑誌などで報じられた。調整もすすめられたが、元々大型馬であったコンコルドは予定の京都新聞杯までには馬体が絞りきれず、一週遅れの古馬オープン・カシオペアSでの復帰となった。奇跡のダービー馬の復帰をファンは断然の1番人気で迎えたが、まだ馬体が絞り切れていなかったコンコルドはメジロスズマルに逃げ切りを許してしまい、2着確保がやっとであった。フサイチコンコルドにとって初めての敗戦となったが、本番前の一叩きと陣営はあまり悲観せず、ライバルとなるダンスインザダーク陣営も「あのような大型馬は叩かれたことによって必ず変わってくる」と決して油断する様子を見せなかった。
三冠最後の菊花賞でフサイチコンコルドはダンスインザダークに続く2番人気。ダービー馬でありながら挑戦者の立場となっていた。しかし1戦叩かれたことによって状態は明らかに良化、様相は再びダンスインザダークとフサイチコンコルドの一騎打ちとなっていた。このレースでフサイチコンコルドも持てる力を全て出し切る最高のレースをした。しかしダンスインザダークは上がり33秒8、全ての常識を覆すような鬼脚を繰り出してフサイチコンコルドを交わし、最後の一冠をものにした。フサイチコンコルドはロイヤルタッチにも交わされて3着であった。
同じ社台ファームで生まれた超良血馬・ダンスインザダークとフサイチコンコルド。結局彼らの直接対決はたった2戦、1勝1敗で終わった。ダンスインザダークはレース中屈腱断裂を起こして引退、そしてフサイチコンコルドは翌年大阪杯に向けての調整中に骨膜炎を起こし、良化することなくその年の秋に引退した。現在2頭は同じ社台スタリオンステーションに繋養され、種牡馬としての戦いを続けている。サンデーサイレンスの有力後継馬であるダンスインザダークと今は亡きカーリアンの後継種牡馬であるフサイチコンコルド。ともに産駒の評判は良く、再来年には両馬の産駒による戦いが見られることだろう。
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