いん・わんだーらんど! 出口 |
最後の曲がり角を通って、ようやく二人は共に出口に辿りついた。 「ふわぁ、やっと出口だぁ。結構長かったなぁ」 夕日は思わず声をあげ、大きく伸びをしてみせた。横では篤志も、控えめながら、ヤレヤレといった顔をしていた。通ってきた道は違ったが、やはり似たような感想を抱いていたのだろう。 二人は顔を見合わせ、どちらからでもなく、ハハハと乾いた声で笑いあった。 二人とも、たった今通ってきたはずの迷路での記憶が、なんだかはっきりしていなかった。いろいろな何かに出会った気がするのだが、どれもがおぼろげに霞んでいて、まるで夢だったような気がする。……いや、というよりは、すでになにもなかったかのような感じまでしていたのだ。 それはただのアトラクションのひとつで、ほんのちょっと入り組んだ鏡の道が続いていただけの、つまらない家。ワンダーランドなんて大袈裟な名前がついているけれど、ちゃちな子供だましにすぎない代物。それだけだったような気がする。 ……それでも、なにか心に引っ掛かるものがあった。通ってきてはいけない世界を通ってきたかのような、妙な後ろめたさがあった。そしてそれは、互いの顔を見た時に、いっそう強く感じるのだ。 なんだか、思い出してはまずいことをしてしまったぞ、と……。 夕日と篤志はしばし無言のままその場に立ち尽くしていたが、やがて再び顔を見合わせて笑いあった。 何か引っ掛かりはするものの、結局は二人でこうして一緒にいる。それだけでいいではないか。それこそが確かな現実なのだ。夢でも幻でもない、本当のことなのだ。 篤志はちょっと肩をすくめ、ぶっきらぼうに言った。 「俺、なんか腹減った。なにか食おうぜ」 夕日は呆れたように笑った。 「篤志ったら、さっきお昼食べたばかりじゃないか? しかもハンバーガー四つも。すごい食欲だなぁ」 「そんなこと言ったって、減るものは減るんだ。ほら、行こうぜ」 篤志はそう言って夕日の肩に手を回すと、外へと歩きだした。夕日はその手に促されるまま、素直にその場を後にした。 ただ、迷路を出て歩き出した二人は、ふ……と思った。 夕日は、なんだか体がぐったりと疲れているのを感じた。まるで、ずいぶん運動でもしてきたかのような気だるい脱力感がある。しかもそれは、いつもどこかで味わっているような感覚だ……。 そして篤志は、相変わらずの無表情をちょっとだけ歪めて、密かに怪訝に感じていた。どうしてあそこがチクンと痛むのかを……。 「篤志、どうかしたの?」 ふと足を止めた篤志に、夕日が心配そうに尋ねた。篤志はごまかすように笑ってみせた。 「別に。――さて、何を食おうかな? カレー……いや、ソバでもいいな」 夕日が可笑しそうに微笑む。それこそ、極上の笑顔で。 二人は楽しそうに話しながら、迷路のお家から離れて、歩いていった。 |
ご苦労さまでした。 |
辻より最後にちょっと一言……。 |