五人はメイドさんである。彼女たちのご主人様はナスカ。
とある街の大きな屋敷で、メイド戦隊は雇用とお屋敷とご町内の平和を守るために戦うのだ。
それが彼女達「メイド戦隊ナスカ」だ!
詳しくは「メイド戦隊」でググッてくれ。
2010年競作小説企画第四回「夏祭り」に続いていくぜ。
年に一度の悪乗りご容赦!
ナスカ屋敷に生い茂る木々から、蝉が元気いっぱいに鳴いていた。
空には真っ白な入道雲が、もりもりと立ち上がっていた。暑くなりそうな良い朝だ。
今日はお盆。ブルーはひさしぶりの有給休暇を取った。
「よし」
ブルーは鏡にむかって、入念に化粧を決めた。
青みを帯びた複雑な形のボブヘアを、ワックスでキューティーハニーのように固めた。
切れ長な目をアイシャドウで、ちょっと強調しつつ、眉は少し柔らかい印象を与えるラインを選んでみた。
背の高い彼女は、いつもはあまりヒールの高い靴を履かないのだが、今日は8センチのベージュのパンプスを選んだ。
白いワンピースでちょっとかわいい系のおしゃれをして、アクセサリーも清楚な感じにまとめてみた。
彼女にとって、特別な一日の始まりだ。
部屋を出て一階のホールに降りた彼女に、メイド服を着たレッドが声をかけた。
「おはよう。ブルー。おでかけ?」
ナスカ屋敷の朝は早い。彼女たちメイド戦隊は、広い屋敷の掃除を始めていた。
「ええ。お休み悪いわね」
「たまにはお休みとらなきゃ。楽しんできてね」
「ありがとう」
ブルーはサングラスをかけると、愛車のシートに滑り込んだ。
今はレクセスに出世してしまったトヨタのアリスト。中古で買って色々と手を入れて可愛がっていた。
派手なメタリックブルーの車体は、朝日を浴びてキラキラと輝いた。
エンジンをかけて、きっちり3分アイドリング。
2回軽くアクセルを吹かして、ガレージから走り出した。
「なんか今日のブルーは気合い入ってるわね」と、レッド。
アリストは、ロータリーになっている庭の噴水の周りをドリフトで右折すると、西門の鉄柵をかすめて国道に飛び出していった。
「秘密の匂いがするわ」
エントランスに打ち水をしていたイエローが、キラリンと瞳を輝かせて言った。
「帰ってくるのが楽しみよ」
「イエロー。その下品な笑いやめなさい」
「金の匂いがするじゃない。レッド」
「ビアガーデンおごらせるのも悪くないわね。イエロー」
二人は顔を見合わせた。
「げっへっへっへっ」
鋭すぎる邪悪な仲間の推測通り、今日のブルーは秘密のデートだった。
とあるサイトで知り合った男性が、出張でこの街にやってくるのだ。
趣味のことで掲示板やメールを交わしているうちに、お互いに好意を持ち始めていた。
いつしかサイトを離れて、二人だけでチャットや携帯メールをするようになり、奇跡の一枚的な写真を交換するようになっていた。
ブルーは、自分がこんなことにハマるとは、想像もしていなかった。
「ちっ」
ブルーは舌打ちをして、車をスピンターンさせた。
駅の駐車場が満車だったのだ。焦げたゴムの臭いが周囲に漂いちょっと迷惑だ。
彼は10:30の電車で到着する予定だ。
近くの駐車場に車を止めたブルーは、駅に入りまっすぐに洗面室に向かった。
「いけない」
トムフォードのでっかいサングラスをしたままだった。はずしてハンドバッグにしまい、鏡で全身をチェックした。
すらりと姿勢の良いブルーは、モデルのように均整のとれたスタイルをしていた。
少しだけ垂れ目気味な目が、全身から醸し出している、彼女のきつい印象を和らげていた。
ルージュはラメもグロスも控えめで、肌色ベースな赤で上品に仕上げてみた。
携帯のメール着信が鳴った。
彼からだ。予定通りに電車で着くよ、という内容。
いよいよだ。
ブルーは頬が紅潮するのを感じた。
駅のロビーに入ったブルーは、改札を抜けてくる彼をすぐに見つけた。 仕事用の荷物を満載したキャリアを引いていた。
写真で見た通り、黒っぽいスーツで決めた普通のサラリーマンだ。
身長は8センチヒールの彼女と同じかちょっと高いくらい。
中肉中背のこれと言った特徴のない容姿だ。スーツも靴も毎日仕事で身につけている程度に身体に馴染んだ雰囲気。
年齢は彼女よりも少しだけ上のはずだった。
「…………!」
ブルーはなんとなく後ずさって、柱の影に隠れてしまった。
彼は携帯を手にきょろきょろと周りを見渡していた。たった今までメールをしていたブルーの姿が見えないことに戸惑っている様子だった。
ブルーは油断なく彼の進む方向と反対側の柱の影を回りこんだ。
「なにやってるの私」
今はメイド戦隊やってるんじゃないんだから、隠密行動とることない。
彼女の携帯が鳴った。彼からのメールだ。
−−ブルー。どこ? −−
「トゥインクルトゥインクルリトルスター」
ブルーは、十字を切って合掌してベンダントトップにキスして、きらきら星を歌って足を踏み出した。
「あっ。君がブルー?」
彼はすぐにブルーに気づいた。とても自然な営業スマイル。
昨日も会ったかのような落ち着いた雰囲気が、ちょっと癪なほどだった。
「ど、どうも。はじめまして」
「はじめまして」
彼はとてもうれしそうに笑った。
ブルーは自分がちょっと信じられなかった。
メールでしか知らない男性と会っている。声も電話で二回聞いただけだ。
こんな行動力があるとは、意外なんてもんじゃなかった。
もちろん恋愛経験がないわけじゃなかった。しかしネット上のコミュニケーションで会ってもいいな、会いたいな、なんて思うことになるとは。
そして今、本当に会ってしまった。
「駅の駐車場がいっぱいだったから、となりの平停めに停めてありますから」
ブルーはそう言うと、彼に背中を向けて駅の出口に向かって歩き出した。
彼はビジネスキャリアを曳いて後を追った。
「会えてうれしいよ。ブルー」
「暑くありません?」
「かなり暑い……」
「ですよね」
しばし無言で二人は歩いた。
「思っていたよりも、ずっときれいだな。ブルー」
「……」
ブルーは、どんな顔をしていいかわからずに、唇は笑って眉間には縦じわが寄った。
ここは失礼ねって怒るべき?
「スタイルもいいんだね。ほら、顔写真しか知らなかったからさ」
かなりに失礼極まりない値踏みをされているのではないか?
……でも、うれしい……
これがナスカだったら、蹴りのイッパツも入れているところだが、今は素直にうれしいと思えた。
お世辞でもなんでもうれしい。
「雨……!」
二人が駅を出て、数歩歩いたとたんに、パラパラとぬるい雨が落ち始めた。
信号を待っている間に、雨の勢いは見るみると増して、あっと言う間に土砂降りになった。
「そこ、そこのパーキングです」
ブルーは、メイドの癖で彼の荷物にさらうように持ち上げた。
彼の手を取ると、てきぱきと誘導しながら走り、後部座席のドアを開けて彼を放り込んでから、自分は運転席に座った。
「……キャリアは?」
あれ、っと言う顔で彼が聞いた。
「トランクに入れさせていただきました」
ブルーがタオルをさしだしながら言った。彼は本当に驚いた顔でブルーを見た聞いた。
「いつのまに。すごいな。ブルー」
「仕事ですから」
「今日はプライベートだよ」
彼は、クスッと笑いながら言った。
「私はお客さんじゃないからさ。助手席に行っていい?」
ブルーは、ちょっと考えてから言った。
「ええ。もちろん。どうぞ」
彼はドアをバタンバタンと開け閉めして助手席に座った。
「やあ」
やあ、って、なんて応えればいいのか、ブルーはとまどった。
「本当に会えたね」
「はい」
「待ち遠しかったよ」
「そうですか」
「実はすごくドキドキしてるよ」
「そんなふうには見えませんけど」
「気のせいさ」
「お仕事は何時からですか?」
「14:00に入ればいいよ」
「時間はいっぱいありますね。お話しできますね」
「うん」
「お昼には、ちょっと早いですか」
ブルーは自分が饒舌になっているのがわかった。
「だね」
「こういうことって、よくあるんですか」
「まさか」
彼は、にこにこと無防備な笑顔で短い言葉を返した。
「お仕事の場所は近いんですか?」
「うん。5条2丁目。ほうえんちょう?」
「ほうえん? ああ。峰延町ですね」
「そっか」
「大丈夫ですか?」
「……ちょっと緊張してるかなあ」
プッとブルーは吹き出した。
彼はブルーの手を取ると、自分の胸に当てた。
「なんですか」
「わかる?」
「…………」
すごい速さの鼓動だ。
「ドキドキしてるでしょ」
「うん。はい」
ワイシャツの下に、男性の筋肉を感じて、ブルーは手を引いていしまった。
「ブルー」
彼はブルーの手を逃がさずに取った。
「まさか本当に会えるとは思わなかったよ。そして君がこんなに美人だなんて」
「…………」
ブルーは、どんな反応をしていいかわからずに、だんだん口数が減っていった。
「ブルー。会えてうれしい」
そんな彼女におかまいなしに、彼はブルーの両手を掴むと、ブンブンと上下に振り回した。
「ブルー。会って失敗したと思ってる?」
「……いえ、まさか。私もうれしいですよ」
「よかった。うれしいよ」
ぎゅっ、と抱きしめられてしまった。
「あっ」
彼の唇が、耳のあたりの髪に触れた。
緊張してしまったブルーは、肩をすくめるのが精一杯だった。
「ブルー。会えて本当にうれしいよ」
彼の指がブールの髪をかきあげて、耳をあらわにした。
まるで髪の毛の一本いっぽんにまで神経が通っているように、彼の指の動きを感じた。
「……や……」
「ブルー」
唇が耳たぶに触れた。名前を呼ぶ声が、熱い息といっしょに耳を撫でた。
硬直したブルーは、ひたすら肩をすくめた。
これ以上なにかされたら、突き飛ばすしかない。
と、思った瞬間。彼は身体を離して助手席に戻った。
「ごめんね。調子に乗りすぎたよ」
彼は笑いながら言った。
「いえ……」
この人、なんだか慣れてる?
でも、まあ、恋人ってわけじゃないんだし。
じゃあ、私はなにやってるんだろう?
「雨。すごいね。なかなかやまないな」
彼は最初から天気の話しをしていますって顔で、フロントガラスから空を見上げた。
ブルーは、エンジンがかかってしまった自分の気持ちが、彼に置いていかれたり、追い越したりするのにとまどった。
「ねっ」
彼は微笑んで、ブルーの右手を取った。
暖かい彼の手が心地よい。
彼の手に包まれた自分の指を見て思った。
ーー私の手って、こんなに白かったんだ。よかったーー
指輪もしていない手が、すっと持ち上げられて彼の唇に持っていかれた。
ーー今朝、クリーム塗ってたわよねーー
そんなことばっかり考えてしまう。
ブルーは、映画でも観ているような気持ちで、されるがままになっていた。
右手を持つ彼の手に力が入った。次の瞬間、腕ごと身体を引かれて顔が前に出た。
彼は指から顔を上げて、ブルーにキスをした。
「うそ」
「ほんとうさ」
フレンチなキスをしたまま、そんなささやきが行き交った。
そして、今のが偶然の事故だったかのように、彼の顔は離れて行った。
「…………」
「へっへーーーっ」
彼はいたずらっ子のように、スーツ姿からはちょっと意外な笑い声をあげた。
大人にイタズラの成功を自慢する男の子のような表情だ。
「もう」
ブルーまでつられて微笑んでしまった。
「だめですよ」
その瞬間。唇にキスをされた。
「ん……!」
ついばむようなキスだが、彼の唇が二回も触れた。
煙草臭くない。
そんなことを考えたが、ちょっと待て。キスされたのよね私!?
「五月さん……」
怒ろうとしたとたん、もう一度唇をふさがれた。
「さ、さつ……き」
押し返そうとした。
しかし彼女は抱きついてしまった。
頭が真っ白になって、熱烈なキスを受け入れた。
いや、彼女から求めた。
「…………」
魂かなにかを吸い出されるようなキスだった。
一瞬、唇が離れて、目を開いてしまった。
彼の顔が目の前にあった。深い瞳がブルーを見つめていた。
ブルーは、恥ずかしさと突き上げる衝動で、彼の顔を見えないようにした。
つまり自分からキスをした。
彼の左手が太ももに置かれるのを感じた。
右手が後頭部の髪を撫でたと思ったら、ぎゅうっと髪を鷲づかみにしてきた。
そのまま後ろに引かれた髪といっしょに、顔は上を向いた。
覆いかぶさるように、彼はキスを続けた。
ブルーは倒れないように、すがりつくように、彼の首に腕を回した。
そのときブルーは、視界の端に動くものを感じて、ルームミラーに目にやった。
「グ、グ、グリーン!」
彼女の車のすぐ後ろにグリーンがいた。
ドカン、と彼を突き飛ばして、シートに身体を沈めて隠れた。
ルームミラーの角度を変えて、外の様子をうかがった。
あのちょっとポケッとした雰囲気。まちがいなくグリーンだ。
「どうしてこんなところにいるのよ」
若いくせに、パタパタと動く日本のお母さんって感じをかもし出していた。
しかしいつ見ても巨乳だ。じゃまじゃないのか?
油断すると激ポチャまっしぐらになりそうなところが怖い。
彼女はママチャリのかごに、買い物をどっさり載せているところだった。
駅前の商店街で買い物をしていたらしい。重そうにペダルを漕いで、よろよろっと走り始めたと思ったら、電柱にぶつかった。
額を押さえて悶絶した後、再び走り出したと思ったら、道の反対の塀にぶつかった。
「誰かいた?」
顔を上げた彼が聞いた。
ブルーにとって見られたくない誰かがいることを察したのだ。
「ううん。なんでもない」
ーーどこに行くのかしら。屋敷とは逆方向だけどーー
ブルーは彼が外を見ないように、頭を抱きしめて胸に押付けた。
「積極的だな。ブルー」
「そ、そんなことないですよ」
ーーでも、じっとしててーー
グリーンが視界から消えた。
ブルーは腕の力を抜いた。彼が頭を上げかけた。
「あらーーーーっ」
グリーンが自転車ごとすごい勢いで戻ってきた。
「わあ!」
ブルーは彼の頭を、叩き落すように押し下げた。
「わーすーれーもーのー」
社内にまで聞こえる声でグリーンは走り去っていった。
「ま、まったく油断ならない子ね」
心臓をバクバク言わせながら、ブルーは戦隊の目つきで額の汗をぬぐった。
「ブ、ブルー。ずいぶん大胆なんだね」
「えっ?」
ブルーは彼の頭を自分の股間に押し込んでいた。
「きゃあああっ!」
ハンマーのような膝蹴りで彼の頭を蹴り上げてしまった。
一瞬、彼の首はありえない角度まで反り返った。
「きゃあああああ。だ、だいじょうぶですか!?」
彼は意識が後頭部から、スッ飛んでいた。
ブルーは、シートを倒して彼を横たえた。
「待っていてくださいね。水を買ってきます」
ブルーは駅に戻り、キオスクでペットボトルを買った。
「ブルー? ブルーじゃないか」
黒い学生服を着た長身の少年に声をかけられた。
色白で整った顔立ち。離れていてもわかるルージュをひいたような赤い唇。
白っぽい長髪をアップに結い上げていた。銀色のかんざしでまとめているようだが、あれは校則違反ではないのだろうか?
「ピ、ピンク! いったいこんなところでなにをしているの」
「夏期講習の帰りだよ」
それはそうだ。彼は高校生だ。
「今日はお休みだったね。なんだか今日はかわいいね。見違えたよ」
メイドコスチュームは、かなりのミニスカートだ。しかしプライベートはパンツやジーンズがほとんどのブルーだ。
白いフレアのスカートがなんとも可憐だ。
「大人をからかうもんじゃないわ」
「ブルー。車? だったらお屋敷まで送ってくれない」
「…………だめよ」
「なに。その間」
ピンクは花のような笑顔でブルーの腕を組んだ。
「いいじゃん。一人なんでしょ」
と、言ったとたん。ピンクの身体が宙を舞って歩道に叩きつけられた。
「今日はダメよ。坊や」
「ハイ……」
ピンクは自分を投げ飛ばしたブルーを、地面から見上げて誓いのポーズをとった。
今日は逆らわないほうがいいみたいだ。
ブルーが車に戻ると、彼は意識を取り戻して、ボーーッとしていた。
「大丈夫ですか?」
「ごめん。俺どうしたんだろう。急にわけわからなくなったよ」
完璧すぎるブルーの一撃に、なにがおきたかわからないらしい。
「き、急に寝ちゃうんですもの。きっとお疲れなんですね」
「首が、なんだか痛い」
「シートで寝違えましたか? はい。お水をどうぞ」
キュッとキャップを開けてさしだした。
流れるようなブルーの所作は完璧だった。当然だが。
「おそれいります」
彼はしゃちほこばって両手でペットボトルを受け取った。
「コップがないのは、お許しくださいね」
「いえいえ。どうぞおかまいなく」
…………
なんとなく主導権がブルーに移りそうな雰囲気だ。
ブルーは焦って主導権を蹴り返そうとしたが、妙な沈黙が流れてしまった。
「お、お腹すきませんか?」と、彼。
「そうですね」
いつのまにか1時間以上たっていた。12時を回っている。
二人は車を出て、近くのアーケード街に向かった。
食事を終えた二人は、彼女の車にむかって歩いていた。
彼の仕事先の峰延町ので送ることになったのだ。
「また会ってくれるかい?」
「もちろんです。よろこんで」
「ありがとう」
「こちらこそ」
言葉は物足りない。
「ブルー」
「はい?」
彼の手が伸びて、ブルーの髪に触れた。
彼女はさっきよりは落ち着いて、彼の指を感じることができた。
そのまま彼の顔が近づいてきた。
「ちょ、ちょっと。人がいます……!」
「そうかい?」
二人の唇はしゃべりながら重なった。
「……ん……だめです」
しかし肘も膝も飛ぶことはなかった。
買い物のおばちゃんが、目をまん丸にして自転車で横を走っていった。
小学生たちが、指差してきゃーきゃー騒いでいた。
「まいったな。いきなりハマったぞ」と、彼。
「……ちょっとだけいいですか……」
ブルーは、彼に抱きついて身体をあずけた。
「力が抜けました……」
人目なんてどうでもいい気分だった。
「好きだよ。ブルー」
「わたしも……たぶん……だと思います」
二人の短い逢瀬は、健全にタイムアップとなった。
「おかえりなさい」
「やあ、ブルー。お休みはどうだった?」
レッドとピンクが聞いた。
「ありがとう。おかげさまでリフレッシュできたわ」
ブルーは二人のあいだをすり抜けて手を振った。
その二人は、ギョッとした顔でブルーを見送った。
「ブ、ブルー!?」
レッドとピンクは、ダダッとブルーの前に走りこんで、ブルーの顔を覗き込んだ。
驚いたのはブルーだ。
「な、なに。どうしたの」
「どこかで戦った?」と、目を吊り上げてレッドが聞いた。
「えっ?」
「その口どうしたのさ」と、ピンクが悲鳴を上げた。
「なに言ってるの。なにもないわよ。なんかついてる?」
ブルーは、口紅でも広がったかと思って、コンパクトを取り出した。
「……うそ……」と、ブルー。
唇の端に、血豆のような内出血ができていた。
「殴られたんじゃないの!?」と、ピンク。
「…………」
キスをしていてついたに違いない。
キスマークつくほど吸われた?
何回か歯がぶつかったかもしれない。
かじられたのがわからないほど、私舞い上がってた?
ブルーは、嬉しいやら恥ずかしいやら、鈍い仲間にホッとするやら腹立たしいやら。
「な、なんでもないから。ちょっとぶつけちゃって」
いつのまにか現れたイエローが、ブルーの手を引いて言った。
「たいへん。ちゃんと手当てしなきゃ。来て、ブルー」
「イ、イエロー」
部屋の端まで来た時。イエローは、みんなから見えない角度で、ニヤリと微笑を浮かべた。
金髪碧眼小柄でポニーテールの美少女がしちゃダメなシャイロックな魔性の笑いだ。
「ブルー。キスマークでしょ。それ」
「な、なに、バカなこと言ってるのよ」
「ふふん。やるなあ。ブルー」
「ちょっと。イエロー……!」
「隠さなくてもいいのに」
「隠してなんかないわよ。言いたければどうぞ」
「あっ、そう。みんな……」
「ま、ま、まっ」
ブルーは真っ赤になって、イエローの胸の谷間に千円札を数枚ねじ込んだ。
「なにやってるの。あんたたち」と、レッドがいぶかしげに近づいてきた。
イエローが手を上げて、レッドを止めて言った。
「平気よ。医務室に行ってくるわね」
「唇にキスマークなんて、初めて見たよ。情熱的ね。ブルー」
「かんべんしてよ……イエロー」
「おめでとう。ブルー」
イエローは、ブルーの唇の内出血に人差し指を当てた。
「目立つかしら?」と、ブルー。
「ちょっと妬けるな」
「えっ?」
鼻の頭がくっつくほど、二人の顔が近付いた。
「私もブルーにキスマークをつけたい」
イエローの唇がブルーのキスマークをくわえた。
「…………!」と、ブルー。
「キス大好き」
なんだか今日はモラルも理性もブッ飛んで、受け身でいいやの気分なブルーだった。
今年のお盆も平和なナスカ屋敷でした。
完
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