競作小説企画第三回「夏祭り」       by sagitta氏
 

メイド戦隊ナスカ・アカシア町内会祭り

お題:金魚、夜店、すいか 

志麻ケイイチ/2009/08/14

 

 五人はメイドさんである。彼女たちのご主人様はナスカ。

 とある街の大きな屋敷で、メイド戦隊は雇用とお屋敷とご町内の平和を守るために戦うのだ。

 それが彼女達「メイド戦隊ナスカ」だ!

 詳しくは「メイド戦隊」でググッてくれ!

 

 と、言うことで。

 今日はナスカの屋敷があるアカシア町内会の町内会祭りだった。

「そもそも私たちはメイドであるからには、料理のエキスパートであらねばならない。そして地域に根ざし町内会の皆様と暖かい交流をくりひろげるのもまた、ナスカ様にお仕えする身として当然の責務と言えよう」

「いいからレッド。お釣り渡して。200円」

 ねじり鉢巻きのイエローがレッドに言った。

 レッドの髪は赤黒でボブっぽい。ワックスを効かせて軽くはねさせつつ、見た目は柔らかそうに固めていた。160センチちょっとくらい。シャキッとのびた手足は、若さと力強さがみなぎっていた。腹筋が割れない程度に鍛え上げられた身体は、みごとなプロポーションだ。

 飾って鑑賞したり、やさしく抱きしめている分にはいいが、怒らせてパンチをくらった暁には、痛いではすまないに違いない。

「あっ、はいはい。200円のお返しです。ありがとうございましたあ」

 彼女たちメイド戦隊ナスカは、町内会祭に参加していた。

 レッドとイエローはカレーやさん。

 ピンクとグリーンはショーステージ。ブルーは屋敷でナスカのお世話係だ。

 イエローがブチブチと文句を言った。

「だいたいね。お祭りにカレーやさんだすなんてなに考えてるのよ。しかもこの人混みの中でスープカレー? 浴衣着てる子たちに大ひんしゅくじゃない」

「だってこの前札幌で食べたスープカレーがおいしかったからって、ナスカ様が……」

 レッドは、メイド戦隊のリーダーとして、ナスカの指示には逆らえない。他の四人はいい気なもんだ。好き勝手なことを言いながらレッドを責める。

 しかし文句をつけながらもイエローは、はた目にも燃えていた。

「いらっしゃいませー。本場札幌のスープカレー。スパイシーでホットなお二人をもっと元気にしちゃう秘薬入りですよーー」

 小柄でくるりんとした見た目のイエローは、かなりかわいい。祭りのハッビを着て、金髪の長い髪を後ろで縛ったイなせな格好だ。つるんとした額に浮かぶ汗が、健康的に色っぽい。

 オヤジな野郎どもが、酒で上機嫌な顔を、さらに赤くして不当に高いスープカレーを買っていった。

 可愛い外観はともかくとして、イエローは金に汚い。とにかく金儲けが好きだ。

 原価150円のレトルトスープカレーを単価800円で売り、スーパーで買ってきたプレーンなベーグルつけて1300円セット。

 しかも盛ってる器が100均の紙コップだ。

「ふっ。ボロいぜ」

 シャイロックみたいなイエローの微笑みを見たら、百年の恋も冷めるってもんだ。

 レッドは、戦隊一番のモラリストは自分だったんだと最近気づいた。こんなあこぎな商売は良心が痛む……

「い、いらっしゃいませーー」

 呼び込みも遠慮がちだ

「レッド。声が小さい! しっかり営業してよ。きゃーーっ! そこの悪そうなおじさーん。カレー買ってーー! 三杯買ってくれたら、この赤い髪のおねえさんがキスしてくれるよ!」

「おおお。ねーちゃんマジか」

 ブルドックを頭からゴマ油につっこんだようなギトギトの男どもがワラワラと寄ってきた。

「ななな、なにいってるのよイエロー!」

「んーー。キスしてくれないのかいねーちゃん」

「むりむりむりむり」

 バネ仕掛けのようにレッドは首を振った。

「しかたないなあ。じゃあ十セット買ってくれたら私がしちゃう」と、イエロー。

「うおおん!」

 ブルドックおやじたちを突き飛ばして、痩せてメガネで長髪の、青春ちょっと寄り中みたいな若者七人がイエローに殺到した。

 うろたえたレッドが後ずさった。

「な、なんで君たち、浴衣にショルダーバッグしょってるのよ。ああ! 変なTシャツ中に着てるし」

 しかし彼らはイエローしか見ていない。

「ぼ、僕たち七人で十セットでもいいかな?」

 レッドとブルドックおやじは青年たちの顔を、まじまじと覗き込んだ。

 ……せこい……

「いいわよ」

 イエローの意外な返事に、青年たちは我先に財布を開けた。

「まいどーー。で、誰にキスしたらいいの? もちろん一人だよ」

「ああ。そうか!」

 彼らは顔を見合わせた。物わかりのいい青年たちである。核ミサイルのボタンを誰が押すか決めるような深刻さで話しあいが始まった。

「決まったあ? 秒読み始めちゃうわよ。三、二、一」

「うわい。はいはい! 決まりました」

 イエローと同じくらいの少年が、総統万歳みたいな姿勢で飛び上がった。

「やん。かわいいわね。君」

 イエローは自分が一番可愛らしく見えるのを知り尽くした角度で、にっこり微笑んだ。

「恥ずかしいから目をつぶって……」

「は、はい!」

「えい」

 イエローは後ろ手に隠し持っていた生クリームチューブを少年の顔めがけて絞った。

 隣のクレープ屋台からかっぱらったらしい。

 サンタクロースのようになった少年は驚いて目を開けた。

 その瞬間、ピンクの唇を小さく開き、紅い舌をのぞかせたイエローがキスをした。

 正確には彼の唇のクリームを舐めとった。

「うん。おいし」

 みんなポカンと固まった。

「あ、あ、あんたって子はあ」

 我に返ったレッドが口を開きかけたのを無視して、イエローは青年たちに目線を流した。

「クリーム……いっぱい余っちゃった……」

「ハイハイハイ!」

 青年達は十杯ずつカレーをオーダーした。

「まいどありー」

 上機嫌のイエローはさらに極上美少女だった。

 

 

「こらあ。風俗カレー店っておまえらか!」

 祭りの実行委員二人が人の流れをかき分けてやってきた。

「ちっ。潮時ね。レッド。後はまかせたわ」

 シャイロックの顔に戻ったイエローは、売上を鷲掴みにすると、あっと言う間に人ごみに消えていった。

「レッド! 風俗カレーってレッドだったの?」

 悲鳴のような声を上げて長身の女浴衣が駆け寄ってきた。

 どう見ても男だが、おそろしく整った女顔だった。白い木綿地に薄い桃色で花鳥風月をあしらった雅な浴衣がよく似合っていた。腕には実行委員の腕章をつけていた。

「ピ、ピンク。私じゃないない」

 メイド戦隊ナスカの高校生メンバー。男だが隊で一番女らしい。彼はレッドに惚れてメイド戦隊ナスカに参加していた。

 今はご主人様のナスカの名代として、祭り実行委員会に出向いていた。本当は町内会班長のナスカが出なきゃいけないんだが、こんな時のためのメイド戦隊だ。

「大丈夫だよレッド。イエローが持ち逃げしたお金は、僕たちが歌謡ショーで優勝して取り戻してあげる」

「いや。ピンク。そんなことはいいんだけど」

「仲間の罪はみんなの罪。リーダーだからって、レッドだけに迷惑はかけられないよ」

「今、問題なのはお金じゃなくてさ」

「レッド。血まみれでも君は美しい」

「キーー! 血まみれでもシレーヌでもないし!」

 おおお

 アキバなんとやら並みに膨れ上がった青春寄り道隊は、二人の絶妙なやりとりに拍手だった。

「じゃ、レッド。あとはまかせて」

 ピンクは白い歯の輝きを残して、颯爽と去っていった。

「だからーー! どうすんのよ。この人たちーーっ!」

 大きなお友達に囲まれて、レッドは絶体絶命の大ピンチだった。

 

 

「アカシア町内会祭り勝ち抜き歌謡ショーー!」

 司会者が景気よくマイクに叫んだ。素人仕事のPAはハウリングで音割れまくりだ。

「一番! 堺あけお。金魚飲みます!」

 学生風の男は、夜店で買ってきた金魚の袋を四つ、立て続けに飲み干した。が、四つ目が限界だったのか、金魚と一緒に水をピューと吹き出してひっくり返った。

「二番。プリティーキュア。漫才やりまーす」

 会社帰りのOLっぽい小太りの二人がしゃべくり漫才を始めた。

「金魚さんすごかったですねえ。じゃあ、あたしもスイカの一気飲みを」

「食いじゃなくて飲みかい」

「赤ちゃん産む時って、鼻からスイカ出すみたいだって言うじゃない」

「彼女の前でやったら恥ずかしいわね」

「なんでさ」

「鼻からぎゅうにゅうーーーっ」

「スイカはどうした!」

 台本があるのかノリだけで話しているのかわけがわからない。

「ネタはベタでも愛嬌とコンビネーションで笑いを取る。強敵だね」

 舞台裾から見ていたピンクは、爪をかじりながら言った。一緒に舞台に上がるグリーンは、緊張しまくってガチガチだった。

「続きましてナスカさんちのメイド戦隊よりメイドグリーンとメイドピンクの登場です。歌うはオリゴ海峡冬景色。はりきってどうぞ!」

「行くよ。グリーン。しっかり」

「ひええ。やっぱり私ダメえええ」

 若草色の浴衣を着たグリーンは、ステージに登る階段で二回こけた。

 そのたびに、戦隊一を誇る97センチの胸が浴衣から飛び出しそうになった。グリーンはあわてて胸元をあわせ直した。

 三回目は、つまづきながら胸元を直したものだから、頭からステージにコロリと転がった。

 うおおん、地獄の底から湧き出るような男どもの歓声が響いた。

「あれってわざと?」

 会場に潜り込んでいたイエローは、冷たい視線を向けてつぶやいた。

「天然でしょ」

 背後から死神博士みたいな声がした。

「あ、あらあ。レッドおつかれさまあ」

 そこにはもうちょっとでデビルマンに変身しそうなレッドが立っていた。

「おかげさまでスープカレーは完売したわよ」

「本当? すごい。はい。ちょうだい」

「……なにを?」

「売り上げ金」

「あんたって子は……! この……!」

 怒りに赤い髪を逆立ててレッドはイエローの首を絞めた。

「いやああ! たすけてえ」

 手を振り払って逃げ出したイエローに、レッドのあとをついてきた二十人からの大きなお友達たちは大興奮だった。

「イ・エローー!」

 そこで切るなそこで。

 イエローはステージに登ってピンクにすがりついた。

「いったいどうしたんだピンク」

「レッドに追われてるの。たすけてピンク」

 メイドで鍛えた身のこなしで、レッドはヒラリとステージに飛び乗った。

「イエロー。堪忍袋の緒も切れたわ!」

「待つんだ。レッド。おちついて」

 ピンクはイエローを一応かばいながら手を伸ばしてレッドを止めた。

「どきなさい。ピンク。今日と言う今日は許せない」

 司会者が調子に乗って叫んだ。

「あーーと、大変だあ! 可憐な金髪娘を悪のレッドが襲うう! 勧善と立ち向かう正義のメイド戦隊ピンクとグリーン。金髪娘の運命やいかにいぃ!」

「今わかったよレッド。これが君の望んでいたものなんだね」

 ピンクが涙を浮かべて言った。

「なにが!?」

「このお祭りを盛り上げて、ご町内の皆様に心から楽しんでいただく。ひいてはナスカ様の名を上げることまで考えて……あえて自らを悪の立ち位置に置くとは」

「なにワケわからないこと言ってるのよ。ピンク。イエローを渡しなさい!」

「いやぁん。たすけてぇ。ピンクぅ」

「イ・エロオォーー!」

 大きなお友達に混じってチビっ子たちも声援を送った。

「ピンクーー。がんばってーー!」

 自覚なき腐女子なお母さんたちからピンクに声援が飛んた。会場はえらい盛り上がりようだった。

「あらあらまあまあ」

 わけもわからず舞台を右往左往していたグリーンがまたコケた。

「ぷぎゅう」

 浴衣の胸と裾がはだけて大サービスだ。

「くっ……グリーンまで……さすがだ。さすがは僕の愛したレッド。すばらしいリーダーシップだ。その心意気に僕も応えよう」

「なによ。なんなのよ! 邪魔するならあんただって容赦しないよ」

 ピンクはキッとレッドに視線を据えると、長い髪をパッとはね上げた。

「いくぞレッド。正義の鉄拳を受けてみろ!」

 

 

「おつかれさま」

 ナスカ邸の居間に戻ったみんなに、留守番だったブルーがお茶を煎れた。

「大変だったみたいね」

 ハスキーな大人の声でブルーはねぎらった。

「はあ……」

 さすがに全員疲れ果てていた。

 ナスカが言った。

「まったくもって大変だ。町内会長は怒り心頭で怒鳴り込んできたぞ」

 紫のアロハに、とっておきのパナマ帽をかぶって、祭りに行く気満々だったナスカは、町内会長にガッツリ叱られて不機嫌だった。

「夜店で風俗営業はするは、歌謡ショーを三組目で終了にしてしまうわ」

「いいじゃん。盛り上がったんだから」と、イエロー。

 ナスカは彼女を睨みつけた。

「トリは町内会長の奥様のフラダンスだったそうだ」

「うわああ。勘弁してよ」

 と一同

「それを言うなら、感謝してよ。ってところね」

 ブルーがクスクスと笑いながら言った。

「どういうこと?」レッドが聞いた。

「会長様は奥様に参加を見合わせるように再三お願いしていたみたいなの。でも聞いてもらえなかったらしいのね」

「あっ。知ってます。会長の奥様」と、グリーン。

「ピグモンみたいなドラえもんみたいな方」

「……へ、へえ。そうなんだ」

 リアクションに困るイメージだ。ブルーがキャスタートレイを押してきた。

「お礼にって、こんなにたくさんのケーキをいただいたわ」

「わあ!」

 歓声が上がった。色とりどりのケーキが二十個も並んでいた。

「あたしこれ!」

「イエロー。はしたないわよ」

 レッドに手を叩かれてイエローは唇を尖らせながら椅子に戻った。

「ナスカ様。はっきりさせておきたいと思います」

「なんだ。レッド」

「今日のことはそもそもイエローが……」

「まってレッド。僕から言うよ」

「ピンク?」

「ナスカ様。今日の様々な事件は全てレッドの立てた計画なんです」

「ちょっと、ピンク……」

「わかってるよ。レッド」

 ピンクは愛に満ちた眼差しでレッドをみつめた。

「はあ!?」

「レッドは夜店で大量のお客様を集客することに成功して商品を完売させました。しかもそのお客様たちをステージまでご案内しただけでなく、自ら悪役を名乗りショーを大成功に導きました。これも一重にナスカ様の名を成し、ひいてはご町内の平和と幸せを盛り立てるという忠誠心のあらわれ」

「うむ。そうなのかレッド?」

「えっ……」

「そうだよね! レッド」

 ピンクの男の体格で覆い被さってこられたら、レッドもかよわい女性の気分になってしまった。

「は……はい」

「ならばやむなし。ケーキをいただこう」

 さっぱりくっきりなナスカである。切り替えは早い。

「わあい」

「その前にイエロー。スープカレーは完売だそうだな」

「……ちっ」

 舌打ちしてイエローはポケットからお金を取り出してテーブルに置いた。

「ほお。これだけか」

「あとはレッドが持ってますう」

「またこの子は!」

 ガギグゲゴな顔で怒るレッドをナスカは押しとどめた。

「ブルー。ピンク。イエローを逆さ吊りにしろ」

「きゃあああ」

 片足ずつを掴まれて、小柄なイエローは軽々と持ち上げられた。

 驚くほどの札と小銭が床に散らばった。

「あたしのお金ーーーっ!」

 それを窓の外から見ていた、ちょっとストーカー入った大きなお友達が元気に吠えた。

 

 イ・エロオオオォ

 

 今日も平和なお屋敷である。
 

Tokinashi-Zohshi