kikizakaan P1
レトロフューチャーとしてのコンピュータ

パラメトロン計算機と私の出会い

2010年5月11日

1. HIPACとの最初の出会い。

 私が本格的なコンピュータと初めて対面したのは、1966年中学3年の東京への修学旅行の時であった。 途中見学に立ち寄った竹橋の国立科学技術館は理科好きの少年たちの夢を育む展示で、それは溢れていた。
 その中でも特に私の気を引いたのはコンピュータの稼働展示であった。
 女性オペレータが誇らしげに操作を行い、コンソール上に多数並べられた白いランプが計算中に明滅する様は、複雑な計算を自動で、しかも途方もなく高速で実行されていることの証(あかし)のようでもあり、当時手動のタイガー式計算機程度しかお目にかかれなかった地方の私にとっては、これは小学生の頃から憧れていた、手塚治虫が描く未来(レトロフューチャー)へ誘(いざな)うものであった。  このコンピュータの型番を当時の私がメモをしているわけがなく不明であるが、その時のコンソールに並んだランプの印象から日本独自のパラメトロン素子を使用したHIPAC103だと推定している。
 パラメトロン素子を使ったコンピュータは後藤英一が1954年に開発したもので、その当時主流の真空管式に比べて故障が少なく、将来を待望されたようだ。日立製作所はこのパラメトロン素子を採用したコンピュータを開発してHIPACの商標を与える。(トランジスターを採用した方はHITAC)
 この1961年に開発されたHIPAC103はベストセラーとなり30台程が大学等へ納入されたようだ。 (私が後に大学で見つけたものも、この内の1台であったのかも知れない。)

しかし、当の日立はこの機種を最後にHITACへ移行していく。
 
 さて、私が虜になった、コンソール上でせわしく明滅する多数のランプ群であるがどのような意味・必要性があったのかは今もってよくわからないが、非常に神秘的で科学好きの少年にはあまりにも怪しく魅力ある光の明滅であった。
SF映画でその後よく使われる高性能コンピュータを示す手法の原型がここにあった。翌年1967年からNHKで放映が始まったTVドラマ「タイムトンネル」では、制御ルームの壁一面に張り巡らされたパネル型のランプが明滅する様は圧巻であった。

これは余談であるが、過去に開発されたタイムトンネルとタイムトンネル同士が競合するシーンが登場したことがあった。ここで、過去のタイムトンネルのコンピュータでは、壁一面に電球を並べて時代の差を表現していたのには、正直苦笑してしまった。

2. HIPACとの2回目の出会い。 

次にパラメトロンコンピュータと出会ったのは、1973年、私が大学3回生の時であった。静岡大学工学部の浜松キャンパスの中庭に小さなコンピュータルームがあり、その中に鎮座していた。しかし、このときにはすでに時代遅れの産物となっており、稼働状態にはあったようだが、実際に私が使うことはなかった。私が所属していた工学的解析講座では、熱応力解析を行うのにコンピュータが必須であったので、最新型のコンピュータが納入されるまでの1年ほどの間は、研究生はパンチカードでプログラムを作成したものを、郵便で名古屋大学の大型計算機センターまで送り、計算を依頼していた。

3. HIPACとの3回目の出会い。 


1980年、東京出張の折に、立ち寄った上野の国立科学博物館本館(当時は本館しかなかったように思う)で、懐かしいHIPACの展示を見つける。
 かつての栄光だったコンソールのランプが明滅することもなく、静かな眠りについていた。

4. そして今

2005年、すっかり装いも新たになった国立科学博物館を25年ぶりに訪れる。
計算機の歴史コーナーがあったが、かつて見たHIPACは見あたらない。
係員に問い合わせすると、展示以外の保存資料もありますからと丁寧に端末で調べて下さったが、見つからなかった。

技術革新の激しい時代に、誕生から消滅までライフサイクルの短いものは他にはいくらでも見つかり、私もあまり関心はないのだが、多感な少年時代に未来の片鱗を感じさせてくれた、このHIPACには特別な思い入れがある。

 残念ながら、現在HIPAC103の実物を確認する術はないが、真空管とトランジスターの狭間に登場した日本独自の技術のパラメトロン素子を活用した計算機。
 レトロフューチャーを飾るのに相応しいコンピュータだったと思う。

参考資料   朝日新聞 2005年6月17日朝刊 「パラメトロン計算機の父 後藤英一さんを悼む」 

         コンピュータ博物館  社団法人 情報処理学会
                 http://museum.ipsj.or.jp/computer/dawn/0041.html
         HIPAC103 拡大画像
                  http://museum.ipsj.or.jp/computer/dawn/0041_win01.html
         波多 利朗さんのHPより
                 http://www.funkygoods.com/schwarzschild/2006_01/2006_01_20.html