hokyointo P001
2025年5月19日 はじめに
・解析に用いた手法について
統計手法としては、MTシステムは別にして、ごく普通の手法を採用しましたが、それでも従来から宝篋印塔などの石塔などの解析に使用されて例は、これまでのところ調べた範囲ではなさそうです。
・紀州経済史文化史研究所の紀要43号 2022年12月23日発行
・紀州経済史文化史研究所の紀要41号 2020年12年25日発行
・紀州経済史文化史研究所の紀要40号 2019年12月27日発行
・紀州経済史文化史研究所の紀要39号 2018年12月28日発行
TRIZについて
「心理的惰性」とは
宝篋印塔について
データサイエンス的な視点で見えてくる石造り宝篋印塔の系譜
・石造物の中でも、特に「宝篋印塔」と称される石塔の時代推定法、系譜を調査する手法の提案です。
石塔の各パーツの計測値を基に統計的な処理を行い、時代が自明な石塔群との比較によるクラスター分析や、回帰分析等の手法で系譜を調べたり、造立年の推定を行うことを研究テーマとしています。
その成果は、紀州経済史文化史研究所紀要39号、40号、41号に発表をしてきました。
43号と45号では和歌山県を代表する中世では最大規模の宝篋印塔の3基を取り上げました。
43号では、無銘の藤白峠塔と国吉熊野神社塔の2基を対象に分析を行いました。
分析の結果は、藤白峠塔は初期の宝篋印塔の奈良・額安寺塔に類似していることから鎌倉時代はもちろんのこと、従来の説よりも古い可能性を示唆するものでした。一方国吉熊野神社塔は、逆に南北朝初期の可能性が強く示唆される結果となりました。
45号では、那智勝浦の青岸渡寺塔を取り上げました。こちらは紀年銘があり造立時期は明らかなのですが、設計的な類似塔は知られていませんでした。今回、統計的な分析から、しまなみ海道大三島・大山祇神社塔の3塔との関連性が見えてきました。
統計手法(重回帰分析、クラスタリング分析、MTシステム解析法)
発想支援手法(TRIZ)
それは、宝篋印塔などの石造物特有の問題も関係しているように思います。例えば、相輪などは地震などによって倒壊しやすく、笠、塔身、基礎の3点と比べて残っている例が少ないという問題があります。統計的に処理するには、データが揃いにくいという問題です。
私の場合は、TRIZを研究していましたので、こうした事例に対する扱いが容易であったかも知れません。
TRIZは「発明的問題解決理論」と訳されていますが、アルトシュラーが多数の特許の事例から、発明の為の必要な思考法を提案したものです。
私はミノルタ勤務の時代に、上司の故上田宏さん(有名な自撮り棒の発明者)から、社内でのTRIZの推進役を任された経験があります。現在も日本TRIZ協会に所属しています。
TRIZの40の発明原理から「1分割」「2分離」「16アバウト原理」等を使って、相輪を除いて、笠、塔身、基礎の3点だけで評価することを考えました。
簡単なことのように見えて、実はこれが難しいのです。相輪を含めて石塔なのに、要素である相輪を除いて解析をして、果たして意味があるのか?
TRIZでは、こうした「心理的惰性」からの脱却を強く勧めます。
問題解決法においては、自分の経験にない、とか、この分野では誰もしたことがないから、といった常識に囚われていると、なかなか解決策にたどり着けないこともあります。
解決策は、他の分野に、手法に見つかるかも知れないのです。まずはトライしてみましょう。
相輪を外して統計手法にかける。これは、考古学は専門外の、工学部の機械エンジニアの私だから、抵抗なく出来た事かも知れません。
その結果が以下の論文集になります。
和歌山大学学術リポジトリで公開中の論文 (いずれも査読有)
紀州経済史文化史研究所の紀要45号 2024年12月24日発行
・那智山青岸渡寺宝篋印塔の造立の設計思想に迫る
−しまなみ海道大三島・大山祇神社塔との比較から−
https://wakayama-u.repo.nii.ac.jp/records/2006818
和歌山県の推定鎌倉期の 大型宝篋印塔の系譜について : 藤白峠塔、国吉熊野神社塔の類似塔を統計手法から探る
https://wakayama-u.repo.nii.ac.jp/records/2001053
鎌倉期の和歌山県の宝篋印塔の系譜について : クラスター分析法から見た御所芝塔、長楽寺塔、東光寺塔の位置付け
https://wakayama-u.repo.nii.ac.jp/records/2001039
和歌山県の宝篋印塔の系譜を近畿・中国地域に探る : パーツ寸法差を距離としたクラスター分析法・MT法の導入検討
https://wakayama-u.repo.nii.ac.jp/records/2001035
和歌山県の宝篋印塔の地域特性及び年代推定について : 南北朝時代〜室町時代初期の宝篋印塔を対象として
https://wakayama-u.repo.nii.ac.jp/records/2001028