ショージ君のよたよた海外旅行
中国蘇州                        


June 1994/ Suzhou China


              はじめての海外旅行
 蘇州には幾筋も水路がまるで葉脈のように流れている。これらの水
路に架かる石の橋が古都蘇州のたたずまいによく似合う。     
 日本人には有名な寒山寺の前にも大きな一枚の石を渡した橋がある。
まるで轍のように人々の歩いた跡が刻まれていた。気の遠くなるよう
な人々の暮らしの痕跡だ。                   

  土産物屋が軒を連ねる路地の裏手には、ひっそりと古い住居の一群
が運河沿いに並んでいる。どれもみな、朽ちかけているものの、ただ
らぬ貫禄も漂わせている。水を汲み上げていた老人が私に怪訝な顔を
向けた。帽子をとって挨拶を送ると、老人も重たそうなつるべをいっ
たん川に戻しながら、手をあげて応えてくれた。         

 虎丘、拙政園、留園などと駆け足の蘇州観光だが、何処でも大げさ
なガイドの説明やら、要所要所に派手なつくりの売店が構え、名刹、
名園もついついテーマパークのそれに見えてしまう。ここ蘇州にも、
市場経済の波は堰を切ったかのように押し寄せ、緑深い木立の間から
古塔を背景にした外国資本の看板が見え隠れする。それよりも、道す
がら、ふと見届けた人々の暮らしの周辺にこそ、悠久の歴史を刻む中
国を見つけてしまう。                     

 拙政園でのこと、ひとり、民家の軒先を借りて腰を降ろした。プラ
タナスだろうか、大きな葉の街路樹が夏日を避けてくれて心地いい。
路面に撒かれたいくらかの残飯にひよこが群がる。奥につながる細長
い路地で遊ぶ少女が二人(写真).近くにある竹の椅子をすすめてくれ


         

た。カメラを指差しながら、私達を写せと屈託のない笑顔でポーズを
とる。ただ、それだけの出会いだったのに、この二人、バスに乗った
私に、いつまでも手を振って見送ってくれた。          

 旅は足の向くまま、それとも自分の気持ちのままに歩けたらいい。
人々のなりわいのそばを邪魔しない程度の会話と一緒に通り抜けられ
たらもっといい。いつかきっと、こんな旅に挑戦したいと、このとき
心ひそかに思ったものである。
(1993.10          

Copyright ©1993-2001 by Shoji Doi
Last updated: October 5. 2001