ショージ君のよたよた海外旅行 |
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ベトナム・ホーチミン |
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October 1995/ Ho chi minh・Vietnam
ホーチミン・ホテルニューワールド前の路上で
朝を迎えた三人の少年
石鹸のにおい
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ベトナム・ホーチミン市には、まだまだ路上での生活を強いられてい
る子供たちが大勢いる。彼らがその日の糧を求めて街をさまよう姿をみ
るのはつらい。いたいけない幼児を小脇に抱え道行く人に哀れみを乞い、
片方の空いた手が袖(そで)を引く。汚れた手足のまま、うつろに手を
出す幼い顔。時には、するどい目線で不法行為もやってのけてしまうと
いうしたたかな姿もある。
彼らの多くは、旅びとにとって、うとましいものではある。ホームレ
スのなかにも、抗(あらが)うことのむつかしい不条理な路上にいなが
ら、しばしば、爽(さわ)やかで、しかも、不思議な笑顔をみせてくれ
ることがよくある。
この日、夜が白むのを待ちかねるようにカメラをさげて街に出た。帰
路、ホテル近くの歩道に、ひと目でホームレスだとわかる三人の少年と
おばあさんがいた。彼らは、寝起きの気だるさの残ったままの顔で、昨
夜の住居だったと思える濡れたダンボールを乾かしたり、なにやら忙し
そうにしていた。
私はふと、ひとりの少年のおだやかな笑顔に誘われて、彼らの輪のな
かにはいった。路肩に腰をおろすと、一緒に並んで座ってくれた。通り
はすでに騒がしい。
三人は、私の吸うショートホープを指差しては短い煙草だと言って笑
い、バイクで通学する白いアオザイ姿の女子高校生にカメラを向けると
「このオヤジ!」とばかりに笑いころげる。段ボールで連夜を過ごして
いるという屈辱のかけらも見せないのである。むしろ拍子抜けするくら
いだ。おまけに、私になにがしをねだるということもない。
たったいま出合ったばかりなのに、このひと時は、何度もこうやって
一緒にホーチミンの朝を眺めているような、不思議な雰囲気を覚えたも
のだ。
おばあちゃんが、少年のひとりを呼んだ。
「ほら、そんなの脱いでこれに着替えなよ」
「うん、ばあちゃん」
どうやら、シャツの着替えのようだ。言葉はわからないが、そんなや
りとりなのが手に取るようにわかる。少年は、シャツに腕を通し、絵柄
でも確かめたかったのか胸のあたりをつまむと、笑顔でこちらに親指を
立ててみせた。
そばに戻ってきた彼のシャツからは、ほんのりと石鹸のにおいがする
ではないか、そういえば、あとの二人も、こざっぱりとしている。おお
かたのホームレスたちが、汗とほこりにまみれているなかで、この三人
のあかるさといい、小ぎれいな格好といい、私はふと、彼らの暮らしの
なかにある<おばあちゃん>の存在を推し量ってみた。かたわらを振り
返ると、そこには、この子らを見守る母親像としてのやわらかい顔があ
った。<そうだ、これだな>と思った。
そう思った瞬間、たまらずジーンときてしまった。こういうのに滅法
弱い。貧困の路上で、この老婆にかなうことなどたかが知れているだろ
うが、精一杯の愛情だけでもどんなにか彼らを勇気づけているか・・・
などと思うと、つい、こみあげてしまったのだ。
彼らにカメラを向けると、突然、目をうるませた私の様子をうかがう
三人のやさしい顔が並んでいた。
わたしはこの時、この旅一番ともいえるいい写真が撮れたと思った。
(ずいひつ「遍路宿」第155号)
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copyright @1993-2001 by shoji doi
last updated : october 5. 2001
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