ショージ君のよたよた海外旅行
イタリア・コモ

February 1998 /Lake Como ・Italy

コモ湖畔の別荘群。あのソフィアローレンの別荘もここにあるとか。



コモ湖の三人連れ


左から、ガルシア、エンリコ、セバスチャンの三人


 
コモ湖は美しかった。湖をとり囲むように連なる斜面の家々。それら
が、早春の陽をうけておだやかな湖面に映る。まだ二月。この湖にアル
プス連山からの春の水が届くにはほど遠いと思われる季節なのに、あた
りは、すでにもう春の気配である。湖畔をそぞろ歩く人も多い。どの顔
も厳しい冬が遠ざかるのを楽しむような顔である。それに、人なつっこ
く近寄ってくる鳥たちの羽ばたきにも春のきざしがうかがえる。   
 ガイドに案内されたコモ特産のシルクが買えるという展示場の見物を
ひとりすっぽかして湖畔に遊ぶ地元の人だまりにはいってみた。   
 それにしても陽気なイタリア人のこと、私の構えるカメラを嫌がる人
はひとりもいない。むしろ、大袈襲なジェスチャーで近よってくれる人
さえいるのだ。この写真の、しゃれた年配三人組もどうにもこうにも、
きさくな人達だった。                      

「よう!何処から来なすった。へえ〜そうかい日本かい。よう来なさっ
た。それで? 俺たちを撮そうってのかい。俺たちゃ、このコモじゃぁ
ちったぁ名の知れたトリオだぜ。三人ともよぉ、今じゃぁちょいと年く
ってるが、昔はよぉ、相当なもんよ。この黒メガネのガルシア(仮名)
なんざぁよぉ、髪の毛もフサフサでよぉ、そいでもって一晩に三人の女
をかけもちしたってぇのが自慢なのよ。どうだい、しゃれた柄の靴下な
んざぁ履きやがって。見ろよ、セーターのボタンだってガルシアの場合
は昔から一つ二つ外しておくのが彼のおしゃれのポイントだっていいや
がってよぉ。笑わせやがるぜ、ほんとにもう」           

「何いってやがんでぇセバスチャン(同じく仮名。以下同じ)おめぇに
は負けるぜ。まあ、聞きなよ、日本からのあにさん。セバスチャンの奴
ときたらたまんないぜ。見なよ、あのチェックのシャツをよぉ。最高級
品だぜ。ちょいと無理して買ったんだろうがよぉ。だけんどよぉセバス
チャン、どう考えたって、そいつを買った動機ってのが笑わせるぜ。お
前は黙ってったって俺にはお見通しだぜ。というのもよぉ、ここんとこ
このコモ湖でちょいちょい見かけるトスカーナから来たっていう、あの
赤毛の女によぉ。あの黒い犬を散歩させるあいつのことよ。その赤毛に
よう、このセバスチャンのやつときたら、声かけやがんのよ『いい犬連
れてるねぇ、可愛いねぇ』だってさ。もう、いい年してたまんないぜ。
どうだいセバ、図星だろうが、ええ、そのシャツの魂胆はよぉ」   

「なに言ってやがんだい。おととい来やがれ!そんなんじゃぁないぜ。
俺たちゃぁもう七十を越したんだぜ。そんなしゃれた気はとっくの昔の
話さ。そうだろうが、ええ。このシャツはよう、ミラノに住んでる娘婿
が俺の七十才の時の誕生日にプレゼントしてくれたんだぜ。見なよ、え、
おい。この靴下と一緒にな。こいつはモンゴルのアンゴラだってよ。泣
かせるぜ、あいつも」                      
 「よう、日本からのあにさんよぉ、お前さんも見たところ、そんなに
若くもねぇようだな。どうだいイタリアは。今日は暖ったかいぜ。コモ
も、もう春だな。そこいらじゅう、今日はいい天気だし、いい時に来な
すったなぁ」
                          

 
「いや、ガルシア。コモはやっぱり夏のもんだぜ。これから春。やが
て夏。そうなるってぇと、このあたりいっぱい緑があふれて、女たちも
薄着になってよぉ、そいでもって俺たちゃべンチに座ってな、そんなこ
んなを眺めてりゃぁ、最高だぜ。なぁガルシア」          
「そりゃあ、セバスチャンの言うとおりだな。コモはやっぱり夏のもん
だ。夏のコモは、賑うぜ。そうだ、あの赤毛の・・・あの女。ロザンナ
っていうんだ。あいつ、去年の夏にコモにやって来てよぉ、そうよ夏休
みに避暑によ、そのまま居着いてしまったってやつさ」       
「なんだお前、やけに詳しいじゃあねぇか。あの女を狙ってんのはお前
の方じゃあねぇのか?」                     

「バカこぐでねえよ、このクソたれが。ところでよぉ俺たちが夏に座る
べンチはこのあたりじゃぁねぇんだ。俺たちゃあ、もっと向こうの西の
方のべンチに座っちまうんだ。そうよ、夏は西の方が涼しい。ずーうっ
と向こうの西のべンチはコモ湖の北の風がやってくるのさ。陽がかげり
はじめるとよぉ、北のほうから涼しい風がやってくるって寸法よぉ。夏
になりゃあ俺たちのような年くったのも、若い連中もみんな大勢ここへ
やってくるんだ。みんなおしゃれしてさ。いいもんだぜ、コモの夏は」
「そうだよな、おしゃべりしてるとよぉ、そのうち陽が落ちて、それで
も、おしゃべりしていると、孫が自転車で呼びにくるってぇ〜こうゆう
段取りよ。<じぃちゃ〜〜ん ママがゴハンだってよぉ>ってよぉ。可
愛いじゃぁねぇか、なぁあにさん!そんでよぉ、こんどは、その自転車
のケツに孫を乗せて、家に帰って、晩めしの時間が始まるのさ」   
                                
「ところで(真ん中の)エンリコじいさんよぉ、あんた、今日はちっと
も喋らねぇじゃあねぇか。ええ、どうしたんだい。八十も近くなると俺
たちの話にやぁついてこれないってワケかい。それともよぉ今日は少し
気分でも悪いのかい?」                     
「そうだよ、エンリコじいさん。いつもは蘊蓄のある説教なんか垂れは
じめると止まらねぇのに、どうしたんだい、ええ?、今日は」    


(エンリコさんが、最後に、とどめをさした)


「馬鹿たれ、なんだい二人とも、ええっ!くだらねえことばっかり言い
やがって。見ろよ、お前ぇ達、噂の赤毛がこっちへ歩いて来るのに気が
つかねぇのかい。どうだい、黒のロングコートなんか着てよぉ、いい〜
女だぜあの女は。お前ぇ達ヨモヨモしてたら、この俺がお先にいただい
ちゃうぜ」           
        *     *     *     *     
 まあ、こんな風なのである。こんな風に聞こえてしまう雰囲気なので
ある。それにしても、このコモ湖の周辺。のんびりと、ゆったりと。な
んとまあ、いいところか。 
                     



Copyright ©1993-2001 by Shoji Doi
Last updated: October 5. 2001