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いわゆる “混合診療”について

医療法人財団 天心堂 理事長 松本 文六

1 混合診療の定義
 議論をする時、一つの言葉に込められた意味が、その議論の参画者の中で大幅に食い違っていると、議論は混乱し成立しない。その典型がここ3〜4年に亘って喧々囂々になされてきたいわゆる“混合診療”問題についての論議である。
 混合診療は、次のように定義されている

混合診療=保険〔内〕診療+保険〔外〕診療
*〔外〕診療が保険で認められていない自由診療として自己負担を強いられた場合、〔内〕の費用も全額自己負担となる

 この法的根拠は、『療養担当規則』の第18条、19条にある。曰く、《保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生大臣の定めるもののほか行ってはならない》(18条)、《保険医は、厚生大臣の定める医薬品以外の医薬品を患者に施用し又は処方してはならない》(19条1項)と。現在の保険診療では、〔外〕診療は特定療養費という形で認められいるものがあり、高度先進医療や差額室料などがそれである。

2 論点の違い
 混合診療の問題に関しての当初の議論の中で、大方の医療関係者は、このことを確とは知らなかった、むしろ、〔外〕診療のみ自己負担すれば済むと考えていた節がある。それが故に、規制改革・民間開放推進会議(以下、推進会議とする)が、《混合診療を全面解禁すべきである》と主張した折、それを何となく認めても良いのではないのかという暗黙の流れができていた。と、私には思われる。推進会議の主張は、〔外〕診療を特定療養費という形で規制をかけるべきではなく、〔外〕診療の部分を自由診療として全面的に認めよというものであった。これが、推進会議が使っていた“混合診療”の定義であった。他方で上記枠組の定義で混合診療を考えていた者にとってみれば、“全面解禁”という言葉自身が前面に出て、日本語として解釈できないという点で混乱がひき起された。その上、推進会議が《混合診療全面解禁を!》とスローガン化したことが、この議論の混乱に増々拍車をかけた。
 一方、国民皆保険制度解体に反対する多くの者は、特定療養費という規制を取り除けば、保険診療は完全に無政府的状況に陥る危険性が大である、特定療養費の枠を拡げることでこの危険性は回避できる、“混合診療全面解禁”は、自由診療部分を殊更拡大させることに通じ、結果として、国民皆保険制度を解体に至らしめると判断した。
 このように、“混合診療”という言葉の定義そのものをはっきりさせないで、推進会議の主張がそのままマスメディアに流されたため、大混乱に陥った。推進会議では、《癌患者が日本では許可されていないが、外国で認可されている抗癌剤を使った場合には、受けた診療すべてが保険の対象外になっており、全額自己負担しなければならないのは許せない》という例を挙げて、“混合診療”の全面解禁を主張しつづけてきた。これは確かに素人受けする問題提起であり、マスメディアは一斉にこれに跳びつき、推進会議の主張を後押しするような報道を展開して行った。しかし、推進会議は、同時に“株式会社の医療業参入”をセットにしていたため、その主張の本音が表に現われてきた。その本音とは健康保険の対象とならない〔外〕診療部分を民間の保険(オリックス保険やセコム保険など)でみれば良いという目論見があったからである。もし、それが推進されれば、現在の日本の皆保険制度は解体される可能性が大である。しかも、〔外〕診療を拡大してゆけば、その部分で利益をあげることを意図した医師が、都市を中心に跋扈して、受けられる医療そのものが地域によって大きな格差を現出させることとなる。そこまで見越してこの問題を考えないと、このいわゆる“混合診療”問題の本質を見失ってしまう。

3 遅れた気づき
 このような論議の混乱の中で、日本医師会は、問題の本質にやっと気がつき、日本歯科医師会・日本薬剤師会・日本看護協会等の医療関係諸団体と『国民医療推進協議会』を結成し、600万人を越える国民の署名を集め、昨年11月30日、衆参両院議長に“混合診療解禁”反対の要望書を提出した。その要望書の核心は、《混合診療全面解禁反対、国民皆保険制度堅持》であった。
 これに対し、12月15・17日の両日に亘って尾辻秀久厚生労働大臣と村上誠一郎内閣府特命担当大臣(行政改革・構造改革特区・地域再生担当)との間に《いわゆる「混合診療」問題に関わる基本的合意》が取り交わされた。この基本的合意に、植松治雄日本医師会会長は日医ニュース1月5日号で以下のようなコメントを発表した。

 このたびのいわゆる「混合診療」の全面解禁の見送りは、それなりにわれわれにとって意義があります。合意の内容については、一部満足とはいえない部分もありますが、総合的にみてわれわれの主張に沿っていると理解できます。
平成16年12月15日

4 なんと実質的解禁!

 このコメントと《基本的合意》を見比べると、私は、いわゆる“混合診療”が実質的に解禁されたと考える。その理由は3点ある。
第1点は、《これは、「年内に解禁の方向で結論を出す」という総理の方針に沿ったものである。》という文面。ここにおける “総理の方針”とは、医療関係者が一人も参画していない推進会議の主張を指している。
二つ目は、以下の文面である。

 現行制度を抜本的に見直し、「特定療養費制度」を廃止し、「保険導入検討医療(仮称)」(保険導入のための評価を行うもの)と「患者選択同意医療(仮称)」(保険導入を前提としないもの)に新たな枠組みとして再構成する。

 第3点は、基本的合意文書の末尾には、《保険診療と保険外診療との併用を認める》と断言している点である。
 以上3点をよく読めば、これは、明らかにいわゆる“混合診療”の実質的解禁を唱っているとしか読みようのない声明書である。
 推進会議の狙いは、保険外診療部分を民間保険で担うということであったのであるから、まさに彼らの主張は100%通ったこととなる。宮内議長のこの件に関する記者会見での苦虫をかんだような顔は、ほくそ笑むことに歯止めをかけるための巧妙な演技であったとしか考えられないが、…。

5 これからの闘い
 以上の経過をみると、推進会議の本音は、《株式会社の医業参入》を“混合診療解禁”とセットにして持ち込んだことと併せて考えると、アメリカ的な市場原理を日本の医療に導入し、定着させることであると断言しても問題ないと考えられる。その本質は、〔外〕診療を民間保険でみるという富裕者のための医療を日本に持ち込むということで、貧乏人はまともな医療を受けられなくてもいいという思想である。
 私たちは生活者の医療を受ける権利は基本的人権の一つであることを改めて肝に銘じて、今後の医療政策の行方に目を凝らして闘いを挑んでゆかなければならないと思う。
 
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最終更新日 : 2004/08/20