「この世界は滅びに瀕している」  幾許かの昔、ある賢者が叫んだ言葉。  しかし、日々を穏やかに過ごしている人々に「滅び」はあまりにも遠い言葉であった。  今。  この世界は依然として滅びに瀕している。  だが、やはり人々は穏やかに日々を過ごしている。  「町」の中にさえいれば安全だから。  授かる子の半数以上が死んだまま生まれて  死ぬ人間よりも生まれる人間の方が少なくなって  「町」自体が少しずつ小さくなっても  しかし、平穏な日常を暮らしている人間にとって、「滅び」はやはり遠い言葉のままであった。  それは、「滅び」がもう本当に目の前に迫っているから。  「滅び」を視界に入れたら……もう、それしか見えなくなるから。  この世界は、緩慢に死を迎えつつある。  数少ない恵みを奪い合い、分け合い、そしてまた奪い合い……  自らの死と、全ての終わりのどちらが先に来るかもわからない世界で、しかし、行われることは、いずこにもある生の営み。  それは、愚かしくも見える、いじましい人の営み。  ……あなたは、そこから、ほんの少しだけ飛び出した存在だ。  「町」から出て、死と滅びの蔓延る外界に出た旅人だ。     この物語は、旅人達が紡いでいく物語。  その命が芥のように散っていくのか、はたまた、希望の種になるのか……それは、まだ誰にもわからない。