う〜短い
それにしても取り留めのない・・・
シゲルとマコトのお話を書きたかったんだけどなあ
マコトの性格が多少ちがうかも
傷
「おうシンジ君、こっちに座りなよ」
カフェテラスを通りかかったシンジは、シゲルの陽気な声に呼び止められた。
別に用事もなかったシンジは、その招きに応えてシゲルの横に座った。
その隣にいたマコトがレモンティーを注文する。
「どうだいシンジ君。もうネルフには慣れたかい?」
マコトが、運ばれてきたレモンティーをシンジの方へ回す。
シゲルの方は、運んできたウエートレスを見上げてにやりと笑った。
ウエートレスはそれを無視して帰っていく。
「こんな雰囲気の所は初めてですから・・・まだ慣れるってわけにはいきませんね」
シンジは、その光景を見ないように努めながらマコトの方を向いて答えた。
シゲルは、やや口をとがらせて何か言ったが、
それは本人の鼓膜以外を刺激しなかった。
「ああ、気にしなくて良いよシンジ君。
彼はこのところ綺麗な女性と知り合う機会が無くてね」
「はあ・・・」
シンジの気のない返事に、マコトは微笑んで彼の珈琲をすすった。
「お、余裕だなマコト。さては俺の知らないところで何かやっているのか?」
「・・・お前と異なる価値観を持っている人の方が多いって事を、認識すべきだな」
「・・・・ところでシンジ君はどうなんだい?」
「え?何がです?」
状況の不利を悟ったシゲルは、話題をシンジの方へ振った。
「だから、シンジ君は好きな子とか、いるのかい?」
「え〜、い、いえ、居ません・・・・今のところ」
「ん、結構もてる方なんじゃない?シンジ君は」
「い、いや。そんなこと無いです」
「・・・・お前さんと違って謙虚だな」
マコトが助け船を出したおかげでシゲルの追求は収まったが、
シンジの方は自分でも解らない理由で赤面していた。
そんなシンジを見て、年長者達は表情を崩したが、
それは単に、『おもしろい玩具を見つけた』と思っているだけかもしれない。
「何か解らないことがあったら俺達に聞いてくれよな」
「ああ、こいつは頼りなさそうに見えるけど、
ネルフに勤める女性の名前は全部知ってるからな」
シゲルは視線をマコトの方へ走らせたが、
マコトは気付かぬ振りをして再び珈琲をすすった。
シゲルは話題を変えることにした。
「ところでシンジ君は街の方とかは良く行くのかな?」
「そうですね、服を買いに行ったことはありますけど・・・頻繁には行きませんね」
「じゃあ、今度街の方を案内してあげよう。な、マコト」
「そうだな。どうだいシンジ君。たまには息抜きに」
珍しく、シゲルの提案にマコトが賛同した。
「どうしようかな・・・日向さんも行かれるんですか?」
「お望みとあらば」
「じゃあ、行きます」
「お、シンジ君はマコトの方を信頼するのかい」
◆
日曜日
街に出た三人は、とりあえずシゲル推奨の店を回ることにした。
自称ギタリストということで、楽器店もその中には含まれていて、
それはシンジにとっても有意義であった。
「チェロを弾くのかい。俺と趣味が合いそうだね」
「ふ〜ん、今度聞かせてくれるかな」
「ええ、練習してからお聞かせしますよ」
「へぇ〜、チェロか。渋くて良いねえ」
「確かに。ギターなんてありふれているからな」
次に行ったのは書店だった。
楽譜を扱っている書店というのはありそうで余り無い。
特にチェロで弾ける曲となると限られる。
シゲルの頼りない記憶に従って、何軒かの店を回った。
「ここが一番多いみたいだな」
「そうみたいですね」
「需要が少ないからなのかなあ。音楽の心が解らない奴が多くて困るよ」
「・・・お前さんの音楽は誰にも理解できないよ」
後ろで漫才を始めた二人を無視して、
シンジはとりあえず自分に出来そうな曲を探して買うことにした。
「お前みたいに、漫画ばっかり読んでるからだぞ」
「いやいや、お前よりは正常な音楽感覚だとは思うがなあ」
「よし、今度みんなに聞いてもらおうじゃないか」
「・・・その時は医者も呼んでおいてくれ」
「行きますよ!青葉さん、日向さん」
街の中心部には休日ということでたくさんの人が出ていた。
シンジは人混みがあまり好きではなかったが、
他の二人はそれを楽しんでいるようだった。
「70点」
「いや、49点」
「信号の前」
「50点」
「73点だろ」
二人は道行く美人を見つけては、即席品評会を開いていた。
彼ら流の人混みの楽しみ方なのだろう。
やや呆れたシンジは、聞こえない振りをしていた。
「ほら、シンジ君。あの子なんかどうだい」
突然話題を振られたシンジは、一瞬何の事だか解らなかった。
シゲルはシンジの頭をつかむと、その方向へ向けた。
「・・・・かわいい・・・・かな?」
「う〜ん、そんな覇気のない事じゃいかんぞ」
「お前の趣味と一緒にされたんじゃ、シンジ君が可哀想だよなあ」
「しかしなあ・・・」
「なにいじめてるんですか!」
「げ!」
「あ、マヤちゃん」
振り返ると、そこには普段着姿のマヤが居た。
どうやらマヤも、休日ということで出掛けてきたらしい。
シゲルは大いに驚き、マコトは苦笑いを浮かべた。
「シンジ君。狼さん達につかまって大変だったでしょう」
「え、いえ・・・そんなこと無いですよ」
「青葉さん。何吹き込んでたんですか?」
吹き込むという表現に、マコトが声を立てずに笑った。
追求を受けたシゲルは半歩退いて反撃体勢を整えた。
「いや、なに、街を案内してたんだよ」
「ホントぉですか〜」
「ホントだって、何ならマヤちゃんも一緒に来るかい?」
マヤはそれには答えずにシンジの顔を覗き込んだ。
マヤに間近で見つめられたシンジは、思わず赤面してしまった。
「シンジ君。狼さんからお姉さんが守ってあげるわね」
「それは酷いなあ。マヤちゃん」
シゲルは笑いながら、降参の構えをした。
建設的な質問をしたのはシンジだった。
「マヤさんは予定は無かったんですか?」
「え、そうねえ・・・どう、一緒に買い物行きましょ。
眺めているだけでも楽しいわよ」
「ん〜、どうしようかな」
誘われたシンジは、振り返ってシゲルを見上げた。
「俺は別に構わないよ」
「日向さんは?」
「別に当てがあった訳じゃないからね。マヤ大先生に付いていきましょ」
マヤが入ったのは、大きなデパートであった。
この街の住人ならば一度は行ったことがあるであろう。
シンジは、話には聞いていたが、実際に入るのは初めてであった。
「へえ、綺麗ですね」
「そりゃあ、街自体が新しいからね」
「はいはい青葉さん、はぐれないようにね」
「へいへい」
まず、決まり切ったパターン通り、服を見て回った。
マヤは当初これが目的であったらしい。
まるで、飛び跳ねるような歩調のマヤは、
シンジの手を取って、服の大海の中へと入っていった。
「これ似合う?」
「え、そ、そうですね」
マヤが選んだ服に意見を求められたシンジは、
経験のないことだけに大いに困っていた。
「シンジ君が思ったことを素直に言ってくれればいいわ」
「でも僕・・・センス無いですよ」
「いいの、シンジ君の意見が重要なの」
その光景を眺めていたシゲルは首を傾げた。
「マヤちゃんって、年下が好みなのかな?」
「・・・お前よりまともなセンスを持っているからじゃないのか?」
マヤは色々な小物が売ってあるフロアまでやってきた。
ここならば退屈しないと思ったからなのだろうが、シンジはともかく、
シゲルやマコトはベンチに腰掛けて早くも即席品評会を開いていた。
「外見だけなら90点あげるんだがなあ」
「ほう、すると内面はまた違う評価があると」
「・・・俺に言わせたいらしいな」
「もちろん」
「・・・・長生きしたいからな。遠慮しておく」
シゲルはそう言うと、シンジの方へ視線を移した。
シンジは棚に並べられた小さな小物に興味を示しているようだった。
小物といっても、アクセサリー等ではなく、珍しい道具や、
実用になるのか疑わしいアイデア商品等を手にとって見ていた。
マコトもその視線を追って、シンジの様子をうかがう。
しばらくの沈黙の後にシゲルが口を開いた。
「・・・皆長生きしたいのさ・・・だから子供を犠牲にする・・・・」
「・・・多数を守るという言い訳と共にな・・・・子供にも生きる権利はあるだろうに」
「だとすると、この戦争はまだ救いがあるのかもな。
・・・子供が死ぬ時は、皆が死ぬ時だからな」
「死ななくても、傷を負うのは子供だ」
「・・・俺達にはそれを癒やす義務があるということか」
見ると、マヤがシンジのもとに近寄って一緒に小物を手に取っていた。
どうやらアイデア商品などの小物は、彼女の科学者としての心をくすぐるらしい。
無邪気に微笑む二人を見てシゲルも表情を崩した。
「案外、精神年齢が近いのかもな」
「お、問題発言だな。録音して聞かせてやりたいね」
「いやいや、子供のように純粋だと言ったんだよ」
「ふ〜ん、なるほどねえ。・・・・子供のように傷つきやすいということか」
「そういうこと。彼女の傷も癒やして差し上げましょう」
「健闘を祈るよ」
シゲルが立ち上がって二人の所へ向かった。
それを眺めていたマコトもゆっくりと立ち上がって、三人が来るのを待った。
そろそろ時計が昼時を告げようとしていた。
◆
最上階の眺めの良いレストランで昼食をとった四人は、
その後、街中を散歩するように歩いた。
時折珍しい物があるのを見つけては、マヤが店の中に入っていく。
それを三人が追いかけるという構図だった。
シンジにとって、こんなに店を回るのは初めてである。
マヤがいつもシンジの視線で話しかけてくれたので、
シンジは自分も楽しめる物を発見することが出来た。
一方のシゲルとマコトは、やや疲れ気味であった。
「俺ももう歳かな。子供には付いていけないよ」
「・・・そのまま、くたばった方が楽になれるぜ」
途中、この老人二人のために、喫茶店に入って休憩を挟む必要があった。
「じゃシンジ君、またな」
「今日はありがとうございました。日向さん」
夕刻と言うにはまだ早い気がしたが、
シンジは早く帰って、
30歳まで残りわずかという欠食児の為に、夕食を作らねばならない。
マコトと別れた後、シンジとマヤとシゲルは、
やや赤みを帯びはじめた空を見上げながら、駅への道を歩いた。
「じゃあ、ここでお別れだな。シンジ君」
「はい、今日はありがとうございました」
「またね、シンジ君」
「はい・・・で、これ・・・お礼って事で」
シンジはマヤに綺麗な紙で包まれた、小さな箱を差し出した。
デパートでこっそり買った可愛いキーホルダーだった。
「え、あ、ありがと。シンジ君」
「お、シンジ君もやるねえ。俺の後継者の資格ありだよ」
シゲルが茶化したが、真っ赤になったシンジには反論できなかった。
「じゃ、また」
「おう、気を付けてな。葛城さんによろしくな」
やや顔を赤くしたマヤはまだ正常な反応が出来ていなかったが、
遠ざかるシンジに向かって手を振っていた。
「さて、俺もプレゼント」
「え、青葉さん?」
「師匠が忘れるわけにはいかないからな」
シゲルも紙に包まれた箱を差し出す。
中身は髪留めだった。
「いつから師匠になったんです?」
「今日からだよ。じゃ、気を付けて帰ってよ」
「ええ」
シゲルは、少し苦笑いを残しながら手を振って帰っていった。
「ありがと」
その声と共に、マヤの視線は赤く染まり始めた空を舞った。
おわり
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