ああ、らぶらぶ
外伝と言うより、その後のお話ですな
不幸の方もここまで持ってこれるかな?

その後のお話として、幾つか書く計画があります
学園物にはしない予定ですが



夏の嵐

「諸君、おはよう」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 暗闇の支配する部屋の中で、いささか不気味に響く挨拶に、 参加者達は言葉を返すことが出来なかった。 彼らは、汗が頬を伝わる感触を共有することとなった。 「卿らに集まってもらったのは他でもない。彼に対する制裁についてだ」 議長たる席に着く男の眼鏡が怪しげに光を反射させた。 表現しがたい悪寒を背中に感じつつも、それを振り払うために一人が発言を求めた。 「そやけど、何せいっちゅうねん」 その発言の目的は果たされなかったと言って良いだろう。 議長の眼鏡は更に怪しげな光を放った。 部屋の温度が1.2度ほど低下する。 「それについては良い案を検討してある。諜報部長説明したまえ」 「だ、誰が諜報部長よ!」 「私の指の先には君しか居ないようだが・・・」 「わ、解ったわよ・・・」 指差された諜報部長は抗議を封じ込められると、渋々立ち上がって参加者を見回した。 「え〜と、これから計画について・・・」 「作戦だ!」 「・・・作戦について説明します」 その説明は長きに渡った。 相当詳細に詰められた計画・・・・・・・作戦には、人員配置に至るまで、 事細かく規定されていた。 「実に素晴らしい作戦だわ!」 議長席の反対側にあたる、向かい合う席から、拍手を交えた賞賛の声が上がった。 「そうだろう。この作戦の素晴らしさが解るとは、さすが作戦部長だ」 机の両端でのやり取りに、他の参加者達は一様に冷や汗を拭った。 「なあ惣流。ほんまにやるんか?」 「もちろんよ!これでアイツも改心するわ。ふっふっふっふ」 「・・・・・・」 部屋の温度が更に0.7度ほど低下した。 「作戦部長。戦闘指揮は君に一任する。決行は今週の日曜日だ」 「ふっふっふっふ」 「はっはっはっは」 「・・・・」 机の両端から発せられるステレオの精神攻撃を前に、 他の参加者達は5秒と保たずに沈黙した。 「作戦名は・・・・『夏の嵐』作戦だ!」 部屋の温度は、既に体感で氷点下に達していた。
「・・・・ねえ綾波」 「何?碇くん」 「さっきから鋭い視線を感じるんだけど・・・」 「そう?」 シンジは辺りを見回しながら、隣を歩くレイに尋ねる。 レイは見回す仕草をしたが、すぐにシンジの方に視線を戻した。 明らかに探す気は無いらしい。 今のレイにとって、周りは視界に入らないのだ。 「ま、いいか。それより、次はどれに乗ろうか?」 「碇くんが決めて・・・」 「・・・じゃあ、あれにしよう」 シンジが指し示した方向へ向けて二人は歩き出す。 その二人の組まれた腕を、双眼鏡で見ながら、地団駄踏んでいる作戦部長を前に、 思わずトウジは後ずさりする。 ピシッ! 「うっ!」 いつの間にか、トウジの襟に結びつけていた糸をたぐり寄せながら、 アスカはトランシーバーを取り出す。 ケンスケが持ってきたこのトランシーバーは、 暗号化や対ECM機能を備えた本格的な物である。 「第一段階開始よ!」 その乗り物は、40人ぐらいが座って乗れる、 大きなフリーフォールといった感じの乗り物だった。 「手なんか繋いじゃって、あとでお仕置きね」 「アスカ・・・あんまり大きな声出すと見つかるよ」 「大丈夫よヒカリ。あいつら自分達の世界に入っちゃってるから」 次第に乗り物は高い位置まで上がっていく、 アスカの持っているトランシーバーが震えた。 『こちらアルファ。ソングスター発射準備完了』 「期待してるわ」 そこから少し離れた茂みの中に迷彩服を着た少年が居た。 彼が迷彩服を着ているのはいつもの事なのだが・・・ 「安心したまえ碇君。弾頭はコショウだ」 彼は側にある金属製の筒を、撫でるように手で触った。 「だが、これ以上我々を裏切るようなら、火薬に変更せざる得ないがな」 茂みの間から漏れてくる不気味な笑い声に、 近くを通りかかった子供達が、足早に遠ざかる。 「おっと、時間だ!」 バシュー 強烈な音と煙を巻き上げながら、筒の中から一発のミサイルが放たれた。 宙を舞ったミサイルが、獲物に噛み付く蛇のように目標目がけて躍りかかる。 「高いね」 「・・・うん」 レイの手に僅かながら力がこもる。 レイが怖いと感じているかは不明だが、 もっと強くシンジの手を握っていたいと感じているのは確かなようであった。 その時、白い尾を従えたミサイルがシンジの頭上目がけて飛んできた。 だが、レイもシンジもそれに気が付かない。 「よし!いけ〜」 「ああ、わいは知らんぞ」 バン!! シンジの頭上でミサイルが炸裂し、多量の粉をばらまく。 それがシンジに降りかかる瞬間、乗り物は落下した。 「ぐぇぇ、げほげほ」 「あのバカシンジめ〜、覚えてなさいよ!」 第一段階の失敗は予定外だったが、その場合の第二段階も作戦の内である。 「ふっ、問題ない」 ケンスケは腕を組んで歩くシンジとレイの二人に、 見つからない距離を保ちながら後をつける。 問題があるのは、コショウ作戦で勢い余って被害を被ったトウジであろう。 「げほげほっ」 多量のコショウはくしゃみよりも咳を誘発するらしい。 ヒカリは彼の顔に付いたコショウをハンカチで拭いながら、そう考えた。 「あそこは池だな・・・第二段階開始だ」 ケンスケの眼鏡が怪しく光を放った。
「ね、綾波。ボート乗ろうか?」 「うん、碇くん」 二人はボート乗り場で乗るボートを選んだ後、ゆっくりと池の中央へ漕ぎ出した。 シンジが漕いでいる様子をレイは眺めるように見つめている。 「綾波はボート乗るの、初めてかな?」 「・・・うん」 「僕も乗った事あるのかもしれないけど、覚えてないんだ」 「・・・そう・・・」 「もしかしたら初めてなのかもしれない」 「・・・・じゃあ一緒ね」 「・・・そうだね」 シンジは太陽の光が反射する池もかくやという程の、眩しい笑顔を浮かべた。 レイも共有する心を持てることを喜んでいる。 喜んでいないのは池の岸の草むらで、地団駄踏んでいるアスカだった。 「くぅ〜、絶対許してやらないんだから」 「ふっ、今度は少しだが火薬入りだよ碇君」 「今度は大丈夫なんでしょうね!」 「もちろんだ」 ピー 「こちらアルファ。チャーリー、デルタは目標の進路を塞いで足を止めろ」 『りょ、了解』 この為にかり出されたクラスメートに指示を出した後、 ケンスケはトランシーバーをしまう。 そして、おもむろにポシェットに手を入れ、 彼は鉛筆ほどの大きさ形の物体を水面に浮かべた。 「なんやそれ?」 「私がこの為に開発した超短魚雷だ」 その言葉が合図に成ったかのように、僅かな水しぶきを上げながら、 その魚雷はボート目がけてゆっくりと進んでいった。 バシャ!! 水面を叩くような音が響いた。 二人が乗るボートが横に揺れる。 「魚かな?」 シンジは音のしたボートの側面を覗き込んだが、上からでは何も解らなかった。 「碇くん!」 「ん、何?」 レイの指差す方向を見ると、ボートの内側に穴が開いて浸水してきているのが解った。 「え?何かにぶつかったのかな」 浸水は見る見るひどくなっていく。 シンジは慌てて岸に向かって漕ぎ出したが、間に合うかどうかは微妙なところだった。 「くっ!駄目かな」 「碇くん。ボートにつかまって」 「・・・解った」 状況を悟ったシンジがボートにつかまる。 レイの瞳がよりいっそう深い赤に変化した。 「え、うそ?」 まるでモーターボートのような速度で岸に乗り上げたボートを見ながら、 アスカは作戦の失敗を悟った。 隣にいるケンスケも状況をつかめていないようだ。 トウジは・・・・・・・ヒカリの用意したサンドウィッチを食べていた。 「・・・・どういう事かは解らないが、作戦は失敗のようだな」 「・・・まだまだ諦めないわよ。お昼を挟んでリターンマッチよ」 「もちろんだ。次なる作戦を発動する」 「イインチョ。うまいなぁこれ」 「そう?・・・ありがと」 「・・・・」 「・・・・」 「助かったよ綾波」 「いいの」 岸にたどり着いたシンジとレイは、とりあえず係員を呼んで状況を説明した。 平謝りする係員に、シンジはかえって弱ったような表情をしながらも、 お昼が近いので早々に切り上げることにした。 久々に力を使ったせいか、レイは少し疲労しているように見える。 しかし、シンジの腕につかまって、もたれ掛かるレイの顔色は悪くない。 「じゃあ、ちょっと早いけどお昼にしようか?」 「うん」
とりあえず、園内のレストランで食事を済ませたシンジとレイは、 遊園地の中央付近にある、芝生が張られた公園で休むことにした。 木製のベンチに座りながら、シンジは隣で寝てしまったレイを見つめていた。 肩にもたれ掛かってくるレイは、いつになく幸せそうだ。 緑の木の葉の影が、レイの頬に映り込んでいる。 シンジは手に持っていたジュースを一口飲むと、眠そうに目をこすった。 「ほら、早く行きなさいよ!」 「君は名誉ある特攻隊員だ。頑張ってくれたまえ」 「な、何でわいやねん」 「先ほどの罰だ」 「そうよさっさと行きなさい」 シンジとレイが座るベンチの後ろにある木の陰で、押し問答がはじまった。 二人が起きていればとうに気付かれていただろうが、 穏やかな陽の光を浴びて二人は眠っている。 渋々と言った表情で、トウジが後ろからソロソロと近寄る。 何とか気付かれずに近寄ったトウジは、シンジが持っているジュースの缶に手を伸ばした。 「そ〜っと、そ〜っと」 シンジの手を離れたその缶に代わって、トウジが持ってきた缶が傍らに置かれる。 「やった!」 アスカが思わず叫ぶ。 それが聞こえたのだろうか、シンジが少し寝言を交えて身をよじった。 「うわ、やば」 トウジが足早に退却する。 アスカとケンスケも足早に逃げ・・・・・撤退する。 「どうだった?」 ベンチで待っていたヒカリが走ってきた三人に声を掛ける。 「今度こそ成功よ。ヒカリ」 「ふっ、全てはシナリオ通りだ」 「やばかった〜」 罪悪感があるのだろうか。 汗びっしょりのトウジにタオルとジュースを差し出しながら、 ヒカリはそれを聞いて少し表情を曇らせた。 「を、サンキュ。イインチョ」 「今度こそ大丈夫なんでしょうね」 「もちろんだ。私がこの日のために開発した、超強力下剤入りだからな」 ケンスケは答えながら双眼鏡を覗き込んで目標の様子を確認する。 シンジは起きてしまったようだが、気付かれた様子はない。 「起きたぞ!」 「どれどれ」 アスカも双眼鏡を取り出して覗き込む。 シンジは隣にいるレイを確認すると、観察者の期待通りにジュースを一口飲んだ。 「やった!」 「ふっふっふ。私に刃向かうと、どういう事になるか思い知るがいいわ!」 双眼鏡を覗き込みながら既にこの世の物ではないオーラを放つ二人を、 トウジとヒカリは呆れの要素を99%、残りの1%に軽蔑の要素を込めて見やった。 「ところで、その薬はどれくらいで効くんや?」 「たっぷり入れておいたからな。一分と保たないはずだ!」 期待感を持って双眼鏡を覗き込む二人。 しかし、一分がたとうというのに一向に期待通りの変化が訪れない。 「あれ?」 「おかしいわね」 二人は首をひねった。 「なんか腹が痛くなってきたな」 そのトウジの声に他の三人の視線が集まる。 やがて、四人の視線はトウジが飲んでいるジュースの缶へと集まった。 その缶には赤いシールが貼ってあった。 間違えないようにと貼っておいたシールが。 「「「「ゲッ!」」」」 四人の驚きの声は見事な四重奏となった。 美しく響いたかどうかは別にして・・・・
「くう〜、くやしい!!」 「おのれ、碇め。そこまで我々を愚弄するか」 「鈴原・・・大丈夫かな・・・」 その後も何度となく繰り返された作戦は、全てが失敗に終わっていた。 ついにはスパイラル対戦車ミサイルによる直接攻撃までもが実行されが、 関係ない他の乗り物を吹き飛ばして失敗に終わった。 その吹き飛ばされた乗り物にはトウジが乗り込んでいたのだが・・・・ そして今、彼らの隣の観覧車にはシンジとレイが乗り込んでいた。 「ねえ、綾波。今日は楽しかったね」 「ええ、とっても」 夕日が優しく二人を照らしている。 観覧車から湖の方角を見ると、 水面にきらめく夕日の光が幻想的な情景を作り出している。 観覧車が頂点付近に達すると、街の方も望むことが出来た。 「良かった・・・・平和な街に戻って・・・」 「・・・・平和・・・・碇くんと一緒に居られる」 レイはそう言って立ち上がると、シンジの隣に移ってきた。 少し驚いたシンジも、穏やかな表情でレイに微笑みかける。 その握り合った手のひらから交わされる温もりが、 二人の感覚を麻痺させるように支配していく。 「ありがとう・・・碇くん」 「・・・お礼を言わなければならないのは僕の方だよ」 「いいの、私が私でいられるのは碇くんのおかげ・・・」 シンジは微笑んだ後再び街の方へ視線を走らせた。 「街も直ってきたし、今度の休みに二人でどっか行こうか?」 「・・・私はどこへでも付いていくから」 「じゃ、考えておこう」 アスカが聞けばビンタの5ダースは覚悟しなくてはいけないような内容である。 もっとも、すぐ後ろの観覧車に乗っているアスカは、 既に10ダースほど用意しているようだが。 「だぁぁ!!それ以上近寄るんじゃない!!」 「アスカ。危ないよ」 見つめ合うシンジとレイを引き離すため、必死に観覧車から出ようとするアスカ。 ヒカリはそれを止めようとアスカを押さえつけている。 ケンスケは、アスカに踏み台にされ既に意識不明の重体であった。 「ちょっと!ヒカリ離しなさいよ!」 「危ないって」 「そんなこ・・・うわぁぁ!」 ゴツン!! やがて、観覧車が下に着いたとき、その中では三人が気絶していた。 その惨状を見て係員は唖然として言葉を失い、 「見なかったことにしよう」 という、ようやく吐き出された係員の言葉と共に、三人は再びもう一周する事となった。
レイとシンジは家まで帰ってきた。 既に遅い時間だったので、二人で手早く料理を作る。 「あれ?アスカ帰ってないや。まあいっか、そのうち帰ってくるだろうし」 シンジが首を傾げながら、キッチンに戻ってきた。 二人でやって、すぐに出来たので、呼びに行ったのだ。 「今日はありがとう。碇くん」 「お礼はいいよ。僕もすごく楽しかったし」 「・・・・じゃあ、少しだけ」 レイはそう言ってシンジに近寄ると、そっとキスする。 「・・・・」 「・・・・お礼ね」 「・・・・うん・・・ありがとう」 しばし唖然としていたシンジは、レイの言葉でようやく我に返った。 同時に顔が赤くなっていく。 レイも少し頬を赤く染めているようだった。 「さ、食べようか。アスカ帰ってないけど、冷めちゃうし」 「うん」 「ただいまぁ〜」 「あ、お帰りアスカ。先に食べてたから」 シンジが現れたアスカに声をかける。 アスカは少しやつれたような表情をしながら、しきりに首を傾げていた。 「どうしたのアスカ?」 「おかしいのよねぇ。今日何があったか覚えてないのよ」 「え、どういう事?」 「それが気が付いたらどっかの医務室だったのよ。あぁ、頭いた〜」 「大丈夫?晩御飯どうする?」 「少し食べるわ・・・」 ふらつきながら自室に消えたアスカを見て、 シンジとレイは互いに顔を見合わせて首を傾げた。 この日のシンジとレイは、街で一番の幸せを共有することが出来た。 次の日、学校で一悶着起こる事になるのだが・・・・ 平和な第三新東京市の一日が、また過ぎていった。 平穏では無かったが・・・・ おわり

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