また、ドンパチですよ(笑)
ちょっち、血なまぐさいけど



第弐幕

第参場
発令所ではオペレーター達が情報収集に走り回っていた。 キーを打つ音がやけに大きく響いている。 「状況を報告しろ」 冬月は開口一番にそう叫ぶと、マコトの後ろからディスプレイをのぞき込んだ。 マコトは手を休めずに少しだけ振り返ると、ディスプレイに情報を表示させていく。 「目標を発見したのは4分前です。突然現れたようで、 どのセンサーにも記録はありませんでした」 「ふむ、目標の大きさは」 「直径約4.5Kmの球体です。 質量は不明ですが、周りにATフィールドが観測されています」 「なに、ATフィールド・・・間違いないな」 「映像出ます」 横からシゲルが報告すると同時に、スクリーンに灰色の球体が表示された。 何の特徴もないその球体は周りに比べる物がないため、 その大きさを画面から伺い知ることは出来なかった。 「・・・何の用だ・・・・リリスの奴・・・」 その時、シゲルの端末が、赤い光と耳障りな音と共に警報を発した。 「こ、これは・・・メインコンピューターラインに侵入者!!」 「何?・・・防壁展開!」 冬月の言葉にオペレーター全員の表情が、更に険しいものへと変化した。 次々と起こる出来事に、シンジやミサトは、ただ唖然とするほか無かった。 「神かな・・碇・・・」 「ああ、間違いない・・・MAGIをもってしても無駄だな・・・」 「ああ、本物にかなうはずがない・・・」 彼らの声はオペレーターの叫び声にかき消されて、二人以外の耳には届かなかった。 「第23・・いえ24防壁突破!は、速すぎる」 「侵入者・・・発令コンピューターへ向かってきます」 ゲンドウが座ったまま指示を飛ばした。 「防壁は不要だ。全てをMAGIの防衛に回せ。回線の物理切断の準備をしろ!」 防壁が解かれた瞬間に、メインディスプレイの表示が一斉に赤くなった。 全ての視線が画面に集まった。 突然の静けさが発令所を満たす。 プツン・・・ 画面が真っ暗になった。 そして、しばらくするとぼんやりと白い光の塊が映し出されてきた。 それが、人の顔だと解りはじめた時、その声が響きわたった。 「おはよう、ネルフの諸君」 そのさして大きくない声は、聞いたことがある様で、そうでも無い様な声であった。 おそらく、特徴のない声がそう思わせるのだろう。 「今回は、ある人物に話があって月からやって来たのだ。 手荒な手段であったことは詫びよう」 「・・・神が何の用だ?」 ゲンドウがはじめて口を開いて、吐き捨てるように言い放った。 今、スクリーンに映る光は、誰の目にも顔と解るまでになっていた。 ただ、その顔にもその声と同じように特徴はない。 「そうだ。君に話があってきたのだよ。碇ゲンドウ君」 「神に名前を覚えていただいているとは光栄だな」 「単刀直入に聞こう。君の目的は何だ?」 その問いに、初めて何人かの視線がゲンドウの方へ移った。 それは、皆が知りたいことであったのかもしれない。 「君はゼーレから人類補完計画の実行を任されているはずだが、 それを実行しているのか疑わしい。しかもゼーレと争いまで起こしている」 「・・・・」 「私は君たちの争い事に興味はないが、契約は実行されねばならない」 「・・・・回答を聞きたいか・・・」 「無論だ。その回答いかんによっては私も少々荒っぽい事をやらねばならんからな」 ゲンドウは大きく息を飲みながら、考えをまとめているようだった。 「・・・私は補完計画などどうでも良い。 お前がそれを実行したいのならやればよかろう。 だが、そのかわりお前には消えてもらう。それが私の目的だ」 「・・・なるほど。君の考えは解った・・・ 私は目的が達成されれば別に消えても構わないのだがな」 「だが、その時は私も人類も居ない」 「・・・互いの目的は衝突しているようだな。碇ゲンドウ君」 「・・・・だとしたらどうする」 「答える必要があるかね?・・・では、失礼させていただく」 プツリと消えた画面が再び明るさを取り戻した。 再起動したコンピュータの自己診断装置が診断結果を表示していく。 冬月が重い空気を吐き出した。 「神が直接乗り込んでくるとはな・・・これもお前のシナリオか?」 「・・・・・」 「来るな」 「ああ」 「できれば月でやって欲しかったがな。これでは死人がでる」 「仕方あるまい・・・」 ゲンドウの声はいささか空虚にひびいた。 冬月はゲンドウの横から一歩前にでると、 再び活動を再開したオペレーター達に向きなおった。 「総員第一種戦闘配置!」 その声に発令所がいっそう騒がしくなる。 「あとは頼みます。冬月先生」 「ふむ」 ゲンドウはそう言い残すと立ち上がって、 後ろで惚けたように立ちつくしていたシンジを振り返った。 「何をしているシンジ!さっさと初号機に乗るんだ」 「え・・乗るって・・・何と戦うんだよ」 その語尾にオペレータの叫び声が重なった。 「上空の目標に高エネルギー反応!!」 その報告に皆がスクリーンを見上げた瞬間、強烈な地響きが発令所を襲った。
「体調はどうです」 「ふん、ここのまずい病院食がなければ、だいぶ今よりましだったろうさ」 如月は病室を見舞った副官に愚痴をこぼしていた。 副官が持ってきた書類にサインしながら、軍事的、事務的とはほど遠い会話を交わす。 彼も、如月の性格は心得ているので、軽く受け流している。 如月は、書類のサインが終わると、久々に疲労感を内在させた腕をほぐしながら、 窓の外を見上げた。 「・・・今日は日食か?」 「え、どうしたんです?」 「ほれ、太陽が欠けてる」 「・・・ホントですね。そんな話は聞いてないですけど・・・」 如月は首を傾げた。 暇を持て余している彼は、テレビばかり見ていたので、 こんなニュースを見逃すとは思えなかったからだ。 その時、太陽が光った。 強烈な光線が太陽から一直線に地面に向けて叩き付けられた。 「なんだ?」 「さあ何でしょう・・・」 その時、巨大な十字の火柱が炸裂した地面から吹き出すようにして立ちのぼった。 それと共に、強烈な地響きと爆発音が病室内にも侵入した。 『ドーン』 「うわ」 病室の機材と、液体の入った瓶が床にばらまかれ、 副官は平衡感覚を奪われて転倒した。 かろうじて転倒を免れた如月は、火柱が立ちのぼった場所を睨み付けた後、 太陽の方へ視線を戻した。 「・・・」 「・・・大丈夫ですか。司令」 副官は、彼の上官の顔をのぞき込むようにして、ようやく立ち上がった。 如月は器用にも、驚愕の表情の上に不敵な笑みを浮かべていた。 「・・・ネルフの奴らめ・・・俺が居ないところでお祭りをやるとは・・・」 「お怪我はありませんか?」 「・・・ああ、大丈夫だ。それより車をまわせ。司令部までだ。 それと、連絡の付く奴らを片っ端から呼び出せ」 「・・・は、はい!」 「ほら、さっさとしろ。お祭りが終わってしまうぞ」 副官は、彼のあまりの勢いに、諫めることすら忘れてしまったようだった。 病室を出る如月の表情は、不敵と言うより、悪童の表情に近かった。
「だ、大丈夫か?」 「・・・ええ何とか」 揺れが収まった発令所では、 ようやく平衡感覚を取り戻した冬月とミサトが立ち上がった。 シンジは打ち付けた頭を何度か振りながらも、立ち上がって、レイに手をさしのべた。 「装甲板全て貫通!ジオフロント内で火災発生!!」 「総員防空体勢!消火は後回しだ!」 オペレーターの叫びに唯一転ばなかったゲンドウが矢継ぎ早に指示を出す。 「目標。降下を開始しました!」 「レーダーに未確認飛行物体!南東の方角距離220!」 「戦闘態勢急げ!」 冬月が、精神的な再建を果たして、半ば独り言のようにつぶやいた。 「・・・ふむ、これがソドムとゴモラを滅ぼした硫黄の火か・・・ ・・・戦闘指揮を頼む。葛城君」 「はい、わかりました」 ゲンドウは、再びシンジを振り返った。 「何をしている。早く行け!でなければ全員死んでしまうぞ!!」 「・・・・行ってくる!」 目まぐるしく、顔と瞳の色を入れ替わらせたシンジが、 その色を赤に落ち着かせて、駆け出していった。 「まったく・・・世話のやける奴だ」 ゲンドウの嘆きは誰の耳にも届かなかったが、 レイは彼のその見慣れない表情を見つめていた。 「行くぞレイ。お前はこの為にいたのだ」 「・・・」 初号機に乗り込んだシンジは、すぐさま表に出ると、上空を見上げた。 レーダーに捕らえられている表示と照らし合わせ、影のような球体を発見できた。 「あれか・・・」 シンジは背中に意識を通わせるた。 「初号機のシンクロ率急上昇!180%突破」 「翼だ・・・」 ようやく平静さを取り戻しはじめた発令所内に、羽根を広げる初号機が映し出された。 「目標に再び高エネルギー反応!」 シンジが羽根に意識を通わせて飛び上がったとき、 その居た場所を巨大な火柱が襲った。 「うわぁ!」 寸前で直撃を回避した初号機だったが、圧倒的なエネルギーに吹き飛ばされた。 「くっ」 ようやく立ち上がってシンジが上を見上げたときには、 既に巨大な球体が、その圧倒的な姿と質量を雲の間から覗かせていた。 発令所内は再び混乱に陥っていた。 2撃目の光線が装甲板を貫通して、ジオフロント内本部の建物を直撃したからである。 ミサトは消火班と救急班に指示を与えながら、 射程内まで姿を現した目標めがけて攻撃指示を出した。 「ミサイル全弾発射!」 街のいたる所から白い尾を従えたミサイルが、上空の目標めがけて殺到していく。 球体の周りでいくつもの閃光が炸裂したが、効果は無いようであった。 「シンジ君、ライフル出すわ。受け取って」 「はい!」 初号機が兵装ビルからライフルを受け取ったとき、 球体の下部にあったハッチが開いた。 「あれは・・・・」 そこから、無数の羽根を持った人のようなものが姿を現した。 人と言っても、尾が生え、その大きさは人の物では無かった。 「まさか・・・使徒・・・解析急いで!」 「・・・パターン青・・・MAGIは使徒と断定。メタトロンと命名・・・そんな馬鹿な」 マコトの叫びを窘められるほど冷静な人物は、今の発令所には居なかった。 普段は冷静な冬月でさえもその映し出される姿に、唖然としている。 しかし、彼の思考は四半瞬の停滞の後に冷静さを取り戻した。 「・・・確かに、最後の使徒が来てからずいぶんたつからな・・・ しかし、一体作る時間は無かったが・・・ ・・・いや、最後の使徒は・・・人間だったな ・・・だとすると、それぐらいの時間はあったわけだ」 冬月のそのつぶやきに、シゲルの報告が重なる。 「未確認飛行物体の映像出ます」 スクリーンの一角に、数機の全翼機が映し出された。 その光景は、あの9体のエヴァが襲いかかってきた時のことを連想させた。 護衛機とも思われる機影も見える。 「こんな時に老人たちめ。形振りかまわないという事か・・・」 冬月の背中を悪寒が上下していく。 「未確認飛行物体を敵と認識!攻撃対象とせよ!」 それを聞いたミサトが直ちに指示を出していくが、 その時、三度目の衝撃が発令所を襲って、全ては暗転した。
シンジは、悪寒と言うよりも恐怖に近い感覚を味わっていた。 目の前に急降下して着地した使徒は、その腕を組んだまま初号機を見下ろしていた。 その使徒には足が無く、巨大な長い尾で立っていた。 首は前に突き出ており、蛇の顔を連想させた。 しかし、蛇にしては羽根が生えていた。 それも数えられないほどたくさんの羽根である。 「・・・くっ」 その背丈は初号機の二倍近くあった。 全身に目を思わせる模様がある。 実際の目は顔に付いた三つの目なのだろうが。 全ての目に睨み付けられているような感覚を覚えた。 威圧感、それはかつての使徒には感じられなかった要素であった。 「・・・だけど・・・こいつを倒さないと・・・みんなやられてしまう」 その時、上空から放たれた火柱が初号機の近くに炸裂した。 それが合図となった。 「こいつめぇ!!」 爆風に後押しされるように肉薄した初号機がライフルを乱射しながら拳を突き出した。 使徒はライフルは無視して、拳を手で受け止める。 ガガガガッ 使徒の尾が地面を引きずりながらめり込んでいく。 突然、初号機の左から、使徒の長く延びた尾が襲いかかってきた。 「くっ!」 吹き飛んだ初号機だったが、地面に激突する前に空を飛んで、ようやく静止した。 シンジは顔をあげたが、そこには使徒は居なかった。 ハッとなって上を見上げると、使徒は既に眼前に迫っていた。 「うわああ!!」 初号機がライフルを乱射するが、使徒の拳でライフルがなぎ払われた。 しかし、ライフルの爆発で何とか距離を取った初号機はすぐに反撃する。 あらゆる格闘術を駆使しながら初号機が使徒に迫る。 そして、初号機の蹴りが使徒の胴体を捕らえた。 その質量差を感じさせない強烈な蹴りで、使徒は吹き飛んだが、 吹き飛ばされながら開いた口から、赤い光線が発射され、初号機の足を貫いた。 「がっ!!」 強烈な痛みでシンジの顔が苦悶に歪む。 しかし、体勢を崩した使徒を執拗に追いかけた。 「うおおぉぉ!!」 高速で使徒が吹き飛んだ方向へ回り込んだ初号機が、 両腕を組んで使徒に叩き込む。 強烈な衝撃と砂埃とを巻き上げながら使徒が山肌に激突した。 初号機が天雷を思わせる速度と勢いを持って使徒めがけて突っ込んだ。 しかし、使徒はそれを上回る速度で初号機の突き出した拳をかわす。 削り取られた山肌に更に初号機の拳がめり込む。 その横から使徒が放った拳が襲いかかってきた。 体勢を崩してはいたが、その威力は初号機を吹き飛ばすに十分であった。 吹き飛んだ初号機が空中で一回転して使徒の方に向き直る。 ・・・と思われたが、シンジの視界には使徒の姿は映し出されなかった。 「どこだ!」 その時頭上から巨大な質量が膨大なエネルギーを従えて襲ってきた。 「うわああぁぁ」 気付いて何とか防ぐことは出来たものの初号機は地面に向けて叩き付けられた。 シンジの背中に衝撃が伝わり、一瞬息が止まる。 その初号機に使徒が組みかかった。 初号機の首が使徒によって絞められる。 「あ・・が・・・」 シンジの息が今度は本当に止められた。 シンジも手を伸ばしてそれから逃れようとするが、体格差があるために、 使徒の体まで手が届かない。 シンジは、薄れていく意識の中で周りを見回して打開策を探し求めた。 その時、初号機のすぐ近くに上空から放たれた光線による巨大な穴が見えた。 シンジは、感覚のぼやけはじめた手を必死に動かして穴の所まで引きずり動かすと、 残りの力の全てを動員してその穴めがけて転がり込んだ。
『ピー。こちらレッド・ハンター。チャンネルファイブで交信』 「ラジャ」 薄暗い雲を突き破って自衛隊のF-15とF-22、そしてSu-35の混成部隊が姿を現した。 「こちらグリーン・ワン。ジュディ」 『目標はF-18とSu-33の混成部隊だ。FOX ONEを使用せよ』 「ラジャ」 まだ、目標が視認できる距離では無いのだが、レーダーはその姿を捕らえていた。 HUDに目標が表示される。 「まもなく、第三新東京市上空」 『攻撃を許可する』 「アタック!」 「フォックス・ワン!」 その時、自衛隊各機から白い尾を持った空対空ミサイルが目標めがけて飛び立った。 白い尾が、獲物を探し求める蛇のような軌跡を、青い空に描き出す。 これに気付いた目標からもミサイルが応射される。 どれぐらいの時がたっただろうか、 爆発と悲鳴が、空と通信回線を駆け抜けていった。 それと同時に、第三新東京市上空は戦闘機が入り乱れての、空中戦が展開された。 「お前は右をやれ、俺は左だ!」 『Tally Ho!』 排気口の赤外線を捕らえる音が彼の耳に響いた。 「フォックス・ツー!くたばれ!!」 二発のミサイルがウィングチップから放たれる。 ミサイルに追い立てられたSu-33は、太陽目がけて急上昇をかけた。 一発のミサイルが太陽の赤外線に惑わされて外れる。 しかし、もう一発は命中して垂直尾翼を粉砕した。 「スプラッシュ!」 その戦闘の合間を縫うように、大型の全翼機が空挺部隊を街めがけてばらまいていた。 15年前に嫌という程見た光景が、 再びこの街の上空で繰り広げられているのだった。 炎の塊となった戦闘機がゆっくりと落ちてくる。 火の鳥が第三新東京市の空を舞っていた。 双眼鏡をのぞき込んだ如月に副官が報告した。 「戦闘機隊到着したもようです。現在交戦中」 「あれは・・・パラシュートだな。空挺部隊か」 「そのようです。僅かに間に合わなかったようですね」 「ふん・・・久々に人間相手の戦争か・・・」 如月は、いつもより不機嫌に見えたが、その理由は不明だった。 「陽子砲の整備は、あと20分ほどかかります」 「15分でやれ。司令部の方から何か来たか?」 「公式に反応は出して来ていませんが、 デルタチャンネル経由で戦闘許可が出ています」 「デルタチャンネル?・・・ああ記録に残らないやつか・・・ 逃げ道を用意しておいて、あとで俺に責任をなすりつけるつもりだな」 「・・・いかがします」 「しょうがないな・・・ま、その時になって考えよう・・・」 「・・・では、行きますか?戦闘部隊は第一種装備で待機完了しています」 「ネルフの奴らに俺達の射撃の腕前を披露してやろうじゃないか。 俺も行くぞ。陽子砲の方は準備が出来たら、あの空中要塞にでもぶちかましとけ」 そう言い放って、地面を蹴って立ち上がった如月は双眼鏡を副官に投げ渡すと、 駆け込むように戦闘指揮車両に乗り込んだ。
「みんな・・・大丈夫?」 一番最初に声を発したのはミサトであった。 発令所の明かりは消え去り、 メインスクリーンは不規則なひび割れを作り出して、沈黙していた。 それは、そのほかのディスプレイについても同様で、わずかに正常に残った物も、 コンピューターの停止によって、その役割を行使することは不可能であった。 「くっ・・・」 次に起きあがったのはシゲルだった。 彼は、周りを見渡すだけの余裕を回復すると、 手を貸して起きあがるのを手伝いはじめる。 それによってマコトも起きあがったが、 彼の顔には落下してきた照明の破片が作り上げた切り傷が幾つかあった。 ミサトが、後ろを振り返ると、ちょうど冬月も起きあがったところだった。 「・・・まったく・・・体が痛む」 「大丈夫ですか。副司令?」 「ああ、大丈夫だ。それよりも、指揮システムの方はどうなっている」 「あ、はい」 ミサトは、シゲルに声をかけて、端末を見て回ったが、 動いていたのは数台だけで、それも正常に動いているのか疑わしい物であった。 「・・・ここはだめですね」 「MAGIの方はどうだ」 「この状況では確認することも出来ませんから、 とりあえず、別の端末のある部屋まで移動しましょう」 「ふむ、それが良いだろう。負傷者は手当を受けて、それ以外は付いてきてくれ」 冬月とミサト達は、よろけながらも、 照明が幾つか壊れて薄暗くなった廊下を歩いていった。 結局、まともに動いている端末を見つけるために、 かなりの距離を移動せねばならなかった。 一部のエレベーターが止まっていたり、通路が崩壊して塞がっていたために、 迂回しなければならなかったためだ。 「MAGIは・・・よかった。まだいけます」 「22%ほど能力が低下してますが大丈夫です」 シゲルと、頭に包帯を巻いたマコトがようやく明るい顔を浮かべて報告したが、 警告音ですぐに厳しい顔つきに戻された。 「これは、侵入者ですね・・・」 「MAGIが自立防衛モードで封鎖指令を出しています」 冬月は、嘆きともとれるようなため息を吐き出すと、画面をのぞき込んだ。 「本部内に武器がある場所は?」 「え〜と・・・ここが一番近いですね」 「よし、みんなに伝えてくれ・・・侵入者を防ぐんだ」 「銃撃戦ですか・・・」 「残念だが、そうなるな」 それを聞いて、ミサトの表情が青ざめたものへと変化したが、それは皆同じであった。 それでも、ミサトは手の空いている者に指示を出して、 自らも武器を取りに行くために走った。 ミサトが武器を両手に抱え、背中に背負って部屋を出てくると、銃声が聞こえてきた。 見ると、通路の角で、バリケードを作ったネルフの職員達が、 慣れない手つきで銃を構えている。 「もう、こんな所まで来ているの!」 彼女がそう叫んだとき、バリケードが人を巻き込みながら爆発で吹き飛んだ。 「くっ!」 彼女の横を銃弾がかすめていった。 ミサトはマシンガンを乱射する。 当てるつもりはなかった。 彼女の予想通り、侵入者達は床に身を投げるように伏せた。 そこへ、ミサトの投げ込んだ手榴弾が転がり込む。 爆発は、新たなる死体と血だまりと怒号を生み出し、 その上を侵入者達の足音が荒々しく駆け抜けていった。 つづく

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