ふむ
解説調子にしたくなかったんだけど、なっちゃったねえ
第弐幕
第弐場
「ア、アスカ・・」
それ以上に続ける言葉を見つけ得ないシンジ。
全身を強打したために、包帯を巻いて静かに横たわるアスカ。
シンジの肩に手を置いて、その震えを感じるミサト。
今までに無いほど深い赤の瞳で、じっとアスカを見つめるレイ。
病室のよどんだ空気が、音を運ぶ役目を忘れてしまったかの様な沈黙が続いた。
結局、使徒と見なされたエヴァ9体は全て倒された。
アスカはエントリープラグ内で全身を強打して意識不明の重体であった。
シンジは、全機を殲滅すると、すぐにアスカのエントリープラグのもとに駆け寄った。
そしてアスカが救出される間、一言も言葉を発しなかった。
レイも六号機の中で意識を失っていたが、これはすぐに回復した。
停滞する沈黙を破ったのはシンジだった。
「守るって・・・あれだけ、守るって約束したのに・・・」
ミサトの手に伝わる震えがいちだんと強くなる。
「大丈夫よシンジ君。アスカは生きているんだし、命には別状ないそうだから」
「でも、あの時・・・僕がもうちょっとしっかりしていれば・・・」
「いつまでも、くよくよ考えないの。あなたは今までにアスカの事を何度も
守ってきたでしょう。今回は、アスカがシンジ君を守ったのよ。
互いに守り合うのが仲間ってものでしょ」
ミサトの手が、シンジの肩から頭へと移動する。
アスカは、全身強打による骨折の痛みで意識を失っていた。
検査の結果、幸運にも、内蔵に異常は見つからなかった。
「精神的な緊迫感から来た疲労がぬけるまで。数日の安静で意識は戻る」
という診断であった。
ミサトが更に声をかけようとした時、レイの手がシンジの肩に触れた。
「彼女は碇君を守るために弐号機に乗ったの。
それで怪我をしたからって後悔はしてないはずだわ。
・・・だから碇君もそれ以上は言わないで」
「・・・・・そうね・・・かわりに意識が戻った時に、『ありがとう』って
一言いえばいいのよ。アスカも解ってくれるわ」
シンジは、自分の肩と頭から離れていった二つの手を空中でつかむと、
ゆっくりと握りしめた。
その手から、握り返してくる温もりが伝わる。
「・・・さ、アスカの枕元であんまり話し込んでると、
ゆっくり寝れないでしょうから、また明日来ましょう」
◆
ミサトは、病院から戻ると、後処理に追われた。
まず、戦略自衛隊の戦闘司令部を訪れた。
挨拶と後処理についての話し合いが目的だったが、
作戦司令の如月一佐は胸部の骨折で入院していた。
戦闘の傷跡で焦げ臭いにおいの立ちこめる司令部内で、司令代行と、
資材調達や不発弾処理、重傷の兵士の入院について事務的な話を済ませると、
挨拶から御見舞いと名前を変えて、如月一佐の病室を訪れた。
「これはこれは、君がネルフ噂の美人指揮官だな」
と、挨拶した如月の怪我はそれほど重くは無い様子であった。
病室で如月の愚痴を聞いて、本部に帰ったミサトは、
兵装ビルの損害の確認や、今後の修復計画の作成を行った。
一通り、後処理が終わると、彼女は非常に重要な仕事を思い出した。
自分で入れたコーヒーをすすりながら、理論武装を行う。
「・・・考えていてもしょうがないか」
やがて、ミサトは一人つぶやくと、やや緊張した足どりである部屋を目指した。
「・・・葛城三佐入ります」
ミサトはその視線の先にゲンドウを捕らえていた。
「葛城三佐か、こちらから呼ぼうと思っていたのだが、まあよい」
「・・・今回の戦闘のことについて質問があります」
ミサトは、相手のペースに巻き込まれないようにするため、先制攻撃を放った。
その攻撃に対してもゲンドウはいつもの格好のまま動こうとはしない。
「解っている。だがその事についてはいずれ話すつもりだ」
「今ではだめなのですか」
誤魔化そうとしているのか?
ミサトには1mgの変化も見せないゲンドウの表情から、何も読みとることが出来ない。
「いや、時期はいつでも良いが、場所が問題だ」
「場所?」
「そうだ、いずれパイロットと君を呼んで話をする」
「え・・・」
それは予想の範疇を逸脱した回答であった。
「他に用はないのか」
「え・・あ、はい」
「では、帰りたまえ」
ミサトがようやくまともな思考を再開できたのは、
再び自分で入れた珈琲をすすったときであった。
それと共に不安感がわき上がるのを感じた。
・・・あの司令が直接、説明をする。
内容は解らないが、あの司令が過去の事について話すとは思えない。
おそらく、今後更に起こる事に対する説明なのだろう。
パイロットに話を聞かせるという事は、
また子供達を巻き込む事であるのは確かである。
あの、いままで何の説明もしてこなかった司令が、
説明しなければならない様な事なのだ。
相当に重大か、あるいは困難な問題であると予想すべきであった。
「おそらく、その両方ね。重大で困難な問題をまた子供に託すのね・・・」
◆
「なんということだ。9体ものエヴァンゲリオンがやられるとは」
「・・・奴を甘く見すぎていたか」
暗い部屋に怒号にも似た声が響きわたる。
だがその声はかつて無いほどの空虚に響く。
周りを見渡せばその理由に気が付くだろう。
出席者が3人しか居なかったからである。
空席を見渡しながらキールが口を開く。
「・・・裏切り者は放っておけ。今は考えるべき事がある」
「我々が賽子を振る権利を維持しなくてはなるまい」
「・・・最後のカードを使うしかあるまい」
「だが、あれを使ってしまうと取り返しのつかない事にならないだろうな」
「・・・・」
その時、部屋の一角が眩しく光を放った。
やがて、それが一つの形を作り始める。
「おはよう。ゼーレの諸君」
やや高い声と、確固たる存在感が部屋に響く。
その光は、人間の顔に変化していた。
「先日の争い事は見させていただいたよ。君たちにとっては実に残念なことだったな」
声の主はここで口をつぐんだ。
今の言葉に対する反応を楽しんでいるようでもあった。
「・・・間もなく契約の時だ。君たちはその権利を得ている。
私にとっては契約者が誰になろうが知ったところではない。
しかし契約が変わるとなれば無関心ではいられないのだがな」
浮かび上がる人の顔は口を開く意外に変化を見せない。
明らかに作り出された映像であることが解る。
「新しい契約者にも、一度話を聞く必要がありそうだな」
そう言い残すと、光はかき消え。
後には重い空気だけが残された。
「・・・契約者は我々のみだ」
「そうだ、最後のカードを使うしかない」
「・・・」
何度目かの沈黙が訪れた。
その沈黙が破れるまでに、10回ほどの呼吸を必要とした。
「・・・いずれ人類は滅びなければならんのだ。それが多少早まったところで
何の問題もない。・・・最後のカードを使う」
◆
「フランスのクーデターは失敗したそうだ。ゼーレも衰えたな。
イギリスでもゼーレ派を粛正する動きががあったようだぞ」
「・・・そうか」
フランスでは、先手を打ったゼーレがクーデターを起こしていた。
冬月の報告に対するゲンドウの反応は素っ気ないものだった。
それはいつものことなので冬月はあとを続けた。
「欧州統合軍内部でもゼーレは力を失っているようだ。ただ、
ドイツとロシア、それにアメリカではそれほど目立った動きはない」
「・・・珍しく老人達にしては手回しが良いな」
「フランスとドイツ国境に軍が集結しているという話も聞くぞ」
「・・・・戦争か・・・」
その言葉に、冬月はやや眉をしかめた。
ゲンドウの方は、他人事と決めつけるように、その表情を変えない。
「・・・アインシュタインの予言は外れそうだな」
「・・・・・」
「人類は未だに兵器というものを捨て切れていない。第四次世界大戦が始まっても、
人類はやはり、兵器で悲惨な戦争を行うだろう」
「我々が決着を付ければ戦争は回避できる」
「ふむ・・・それから、アメリカの空母が不振な動きをしている・・・
・・・ゼーレ最後のあがきかもしれんな」
「・・・今更、無駄なことだ」
その時、リツコが報告のために部屋に入ってきた。
やや疲労感を従えたリツコは、それを表に出さないように細心の注意を払っていた。
「回収されたS2の定着は順調です。起動の準備は明日の朝にも整います。
それから、新型エントリープラグの最終調整が完了しました」
リツコが、冬月とゲンドウを見回しながら報告した。
「ご苦労、リツコ君。もう少しだ」
ゲンドウがねぎらいの言葉をかけるのは、記憶にないことだった。
あるいは、初めてのことかもしれない。
少なくとも、珍しいことであるのは確かであった。
「もうすぐだな、碇」
「ああ、人類・・・いや、地球は長年の呪縛から解放されるのだ」
「ふむ、もはや、障害となる要素は何もない。月へ行って神を従わせるだけだ」
ゲンドウと、冬月の瞳に深い色の光が宿った。
その色を理解できるほどに、リツコは彼らの過去を知っているわけではなかった。
「赤木博士。起動が成功すれば明日のうちにでも計画を実行に移す。
準備を整えておいてくれ」
「わかりました。では、失礼します」
リツコの背中を見送りながら冬月は15年前の悪夢を思い出していた。
「成功すればか・・・失敗した時点で人類は滅びるかもな」
「・・・大丈夫だ。その時は初号機で抑える」
「・・・パイロットがやってくれるとは思えんがな・・・」
「・・・・」
「・・・危険な賭だな」
「だが、今しかない・・・地球の呪縛を解くためにはな」
「・・・・」
その声は全てを断ち切るだけの強さを持ち合わせてはいなかったが、
冬月はそれ以上何も言わず、無言で部屋を後にした。
「あ、アスカ?起きてる?」
「見れば・・・解るじゃないの・・・バカ・・・」
アスカが意識を取り戻したという報告を聞いて、
シンジ、レイとミサトはすぐさま病院まで飛んで来ていた。
「アスカ・・・ごめん・・・守れなかった・・・」
「・・・いいのよ・・・シンジのせいじゃ無いから」
「いや、僕のせいだよ・・・」
「・・・いいの・・・私を困らせないで・・・・今までの借りを返しただけよ」
「・・・・」
シンジは納得したわけではないが、
アスカの弱々しい声に、続く言葉を封じ込められていた。
アスカは、レイを見つけると、しばらくその赤い瞳を見つめていた。
「ファースト・・・レイ・・・・ちゃんと借りは返しなさいよ」
「・・・わかってるわ。何か欲しい物があったら言って」
「・・・アンタねえ・・・まあいいわ・・・・考えとく」
アスカが疲労感を乗せたため息ついたとき、
レイの携帯がその存在を知らしめるために、いささか耳障りな声を発した。
「はい・・・はい・・・・わかりました。今から行きます」
「・・・どうしたの?」
ミサトがやや不安感を込めてレイを振り返った。
電話を切ったレイは、いささか冷たさを伴う表情をしていた。
「これから本部へ行ってきます。・・・碇くんはいいわ、私だけ・・・」
「・・・じゃあ、私が送ってくわ。シンジ君悪いけど歩いて帰ってもらえる?」
「ええ、構いませんよ」
「じゃ、レイ行きましょ。
それとシンジ君、まだアスカは重傷なんだから変なことしちゃだめよ」
「え?」
「じゃ、ごゆっくり〜」
病室に残された二人はやや顔を赤くしていたが、
窓から差し込む夕日の赤さはそれを遙かに凌駕していた。
沈黙が続いたが、先に口を開いたのはシンジだった。
「・・・ねえ、アスカ・・・やっと話をしてくれたね」
「・・・・」
「ねえ、アスカ?」
「・・・・そうかもね・・・シンジもこれでわかったでしょ。
アタシの声が聞けるって事が・・・どんなに有り難いことかって」
「ふふっ・・・」
「な、なによ」
「いや、はやく体の方も元気になってね・・・アスカ」
「・・・もちろんよ・・・こんな所にいつまでも居たんじゃ、たまらないわ」
「・・・疲れた?アスカ?」
「・・・ちょっとね」
そう言うアスカの顔は、紅い夕日で赤く染まっていて、
表情からは疲れた様子を伺い知ることはできなかった。
「・・・ねえ、アスカ」
「・・・・何?シンジ」
「・・・これからも、ずっと・・・アスカの声を聞かせてね」
アスカはそんなシンジの言葉に、ゆっくりと振り返って、
夕日を浴びたシンジの顔を見つめた。
「・・・バカシンジにしては・・・・・上出来の口説き文句ね」
「そ、そんなんじゃないよ」
「・・・ふふっ・・・冗談よ・・・
ま、いいわ・・・シンジには特別にタダで聞かせてあげる」
「・・・ありがとう・・・アスカ」
窓の外を見つめる二人。
そこから流れ込む夕日の赤さが、あらゆる物に染み込んでいった。
◆
「起動準備完了しました。いつでも開始できます」
朝の光とそれによって生じる、長く延びた影を従えたリツコの声が響く。
その疲労感と脱力感を含んだ声に、ゲンドウはやや気遣わしげな視線を漂わせた。
「ご苦労であった。開始までしばらく休みたまえ」
「ありがとうございます。では」
リツコが部屋を出ていくのを見届けた冬月が口を開いた。
「世の中、不器用な人間ばかりだな・・・まあ、人のことは言えんが」
「・・・・」
「さて、どこからはじめるかな」
「・・・レイには少しだけ昨日話したが、シンジにも説明が必要だろう」
「ふむ・・・・・お前も変わったな・・・」
「・・・・レイと、シンジ、それに葛城三佐を呼んでくれ。第一作戦会議室だ」
「昔話か・・・お前は、あまり得意ではないだろうな」
「・・・ああ、私はこれからのことについて話す。昔話は頼んだ」
「ふむ、おまえはいつもそうやって俺に押しつける・・・
まあ老人がすべき事と言えばそうなのだがな」
彼は撫でるように自分の頭をかいた。
その頭に混じる白い物が増える度に彼は、
自分が15年前に死んでいるべきだったのだと思う。
「だが、生きてみるものだな。少しだけだが楽しいことにも巡り会える。
少なくともお前のそんな表情が見られただけでも、その価値があったというものだ」
部屋の空気がやや張りつめている。
最も、切迫した表情を浮かべているのはミサトのようだった。
そんな空気に動じることもなく、冬月が口を開いた。
「そうだな、まず何から話すべきかな・・・まずは先の戦闘について話すか」
「ああ、頼む・・・葛城三佐が知りたがっていたしな」
「そうです・・・まず、あの9体のエヴァがなぜここを襲ってくる事になったのかを、
教えてください」
「・・・その前に、まず我々の上位組織に当たる補完委員会、
さらにそれを操るゼーレについて語らねばならんだろうな。
今回、エヴァを差し向けてきたのは彼らだ」
「・・・・」
「・・・ゼーレの歴史は古いよ。
だが、組織として形をなしたのは1990年代になってからだ。
逆に言えば、その前からあったわけだが・・・」
元々の源流は、1930年代にナチスドイツが南極で神を発見したことにはじまる。
ドイツは南極に秘密潜水艦基地を建設して。この神と幾つかの接触を持った。
神は、当時の・・・いや、現在の科学水準に照らしても圧倒的に進んだ存在だった。
ナチスは接触で得られた技術を自国の兵器開発に投入した。
もっとも、その難解で高度すぎた技術は、ほとんどが現場を混乱させただけだったが。
やがて、ドイツは戦争で敗れたが、南極の基地は残った。
そして、少数のナチスの残党も生き残った。これが、ゼーレの源流だ。
そしてゼーレが組織を成したのは、1990年代末に南極で再び神が発見された時だった。
その時、神との交渉団体としてゼーレが組織され、
その交渉術を知っているナチスの残党が組織に組み込まれたわけだ。
そこまで聞いたシンジの脳細胞は、あふれる情報量で、飽和寸前であった。
どこかで聞いたことのあるような。昔の歴史の時間に習ったことのあるような単語が、
シンジの耳から入ってくる。
そんなシンジの様子を気にもとめずに、冬月が続けた。
「そのゼーレがここを襲ってきた理由は、単純に言えば・・・
ここの地下に眠る神の体を取り返しに来たというところか・・・」
そこまで黙って聞いていた、ミサトが机に拳を叩き付けた。
机が、控えめな抗議の声を上げる。
「いい加減にしてください!!
そんな神様がどうのこうのとかいう話を信じろと言うのですか!」
「信じないのは自由だが、事実なのだよ・・・
まあ、誤解されるような言い方だったかもしれんな。
つまり、神とは機械だ。生体コンピューターという」
「機械・・・ですか?」
黙り込んだミサトに代わってシンジが疑問を引き継いだ。
「そうだ、方舟と呼ばれる船に搭載されているコンピューターだ。
とは言え、我々が一般に思っているようなコンピューターとは違う・・・
ほとんど生物と言っても良い。われわれは、それをリリスの意志と呼んでいる」
「・・・・・・」
「そして、その神が自らの意志を移植するはずであった体がこの地下にある。
それが欲しかったのだ」
「体?」
「・・・そんな体を何故ほしがるのです?」
「・・・月へ行けるからな・・・今、神は月にいるのだ、セカンドインパクトの災禍を
逃れるために移動して以来」
「・・・そうだ・・・シンジ、レイ、月へ行って神と会うのだ」
ゲンドウが突然口を開いて、シンジとミサトを驚かせた。
特に、シンジはその言葉の意味を理解するにつれて、悪くなっていた顔色を
更に悪化させた。
「なに行ってるんだよ父さん。月へ、ってどうやって行くんだよ」
「・・・これだ」
そう言うと、ゲンドウは目の前にあるキーボードのキーを叩いた。
部屋に備えられてある全てのスクリーンが、一枚の静止画を映し出した。
「初号機・・・」
「そうだ、今の初号機はあの羽根で空を、宇宙を飛べる」
「・・・神に会ってどうするの・・・」
「神を従わせて、呪われた地球の歴史に終止符を打つのだ」
「・・・従わせるって・・・どうやって」
「神は、お前とレイの言う命令に従う。そうプログラムされている。
なぜならお前達は第七人類の遺伝子を持っている、完全な人間だからだ」
「・・・な・・・何言ってるんだよ父さん!」
「忘れたわけではあるまい。お前は初号機に取り込まれた。
そして初号機によって再び生まれ変わった」
「・・・じゃあ・・・」
「お前は人間だ・・・互いに欠けている遺伝子を補完しあって生まれた人間だ」
「・・・でも、僕はそんなんじゃない!」
「いや、お前は初号機を暴走させることなく支配して、覚醒させた。
それが出来るのは、上位に属する第七人類のみが出来ることなのだ」
「・・・・そんな・・・」
シンジは逃げ場所を求めるように、視線を横に振った。
その方向にはレイがいた。
・・・じゃあ、綾波はどうなのだろう。
そんな疑問が浮かんだが、それがレイを傷つけるかもしれないと思って、自制した。
レイもこの席に呼ばれたのだから、全てを知っていたわけでは無いようだが、
それでも、驚く様子を見せない。
少なくとも表情は、かつての、感情が読みとれない表情であった。
「ゼーレは第七人類の遺伝子が欲しいがために、人類補完計画を実行しようとした。
そしてその遺伝子で神を支配するために月へ行きたがっているわけだ・・・」
「・・・奴らにとっては人類を救うというのは二次的な建前にしかすぎん。
・・・いや、むしろ補完計画は今の人類を滅亡させることによって成立する。
・・・奴らの本当の目的は、神を従わせることだ」
ゲンドウは吐き捨てるように言い放ったが、最後に自嘲とも呼べる表情を浮かべた。
それに気付いたのは冬月だけであったが。
・・・・神を利用しようとしているのは我々も一緒だな
その時、ディスプレイの一つが緊急割り込みによって切り替わった。
そこに現れたマコトは事務的な平静さを装おうとして失敗していた。
「し、司令。正体不明の巨大飛行物体が衛星軌道上に出現しました」
その言葉に、冬月とゲンドウの表情がはっきりと読みとれる程に変化した。
それは、シンジにもミサトにとっても、かつて見たことのない光景であった。
つづく
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