やあ、長かった。
これが書きたいために壱幕があったみたいなもんだ
やっぱりドンパチするとスカっとするねえ(笑)
第弐幕

第壱場
「アスカ・・・」
シンジは、アスカと二人でネルフ本部内の一室にいた。
相変わらずアスカは無口であったが、
怪訝な表情と、不安な表情を同居させてシンジを見つめている。
ミサトの車の中で、状況を聞いたシンジは、
その答えよりも、ミサトの表情によって、事態の深刻さを知った。
「アスカ・・・行ってくるよ・・・」
その部屋の空気が僅かに踊ったが、シンジはそれに気付かなかった。
アスカは戦闘には参加しない。
そのミサトの判断を、シンジも是としたのだ。
「・・・僕の大切なものを守りに」
シンジはそう言うとアスカを見つめた。
今のアスカの表情には不安という支配者が訪れている。
シンジは、不意に笑顔を浮かべた。
「じゃ」
そう言うと、シンジは駆けていった。
「・・シンジ」
その言葉は、閉められた扉に阻まれた。
「未確認飛行物体、6機接近中!距離360。高度4500。かなり低空です」
「北東からも飛行物体、3機確認!距離320。高度3500」
「UFO-1の映像出ます」
スクリーンの一角に巨大な物体を抱え込んだ巨大な全翼機が映し出された。
ミサトは背中を上下に走る悪寒の存在を感じた。
「エヴァ・・・」
「パターンオレンジから赤に変化して安定しません。MAGIは判断を保留しています」
「対空ミサイルと接触します」
スクリーンに閃光が走ったが、それが効果のないことは明らかだった。
「・・・ついに来たな」
「ああ、予定より遅かったがな」
「赤・・・土の色・・・人が作り上げたものか・・・皮肉だな」
「所詮、人類最大の敵は人類だ」
そう言うと、ゲンドウはスクリーンを見上げていた視線を、下へ戻した。
「目標を使徒と断定。これを殲滅せよ!!」
二瞬の沈黙の後、再びオペレータ達が動き出す。
ミサトはゆっくりと後ろを振り返って、ゲンドウの顔を見上げたが、
その視線はゲンドウの表皮を捕らえたのみで、その中を見透かすことは出来なかった。
●
「行くよ綾波」
「うん」
静かな宣言の後に、エレベーターのドアが開くと、二人は並んで歩いていく。
・・・自分の大切なものか・・・
シンジは不思議な連帯感を感じていた。
現実から解離したかのようなこの時間を守るのだ。
ふと、横に視線を走らせると、レイの赤い瞳が放つ視線と交差する。
シンジは微笑みを返すと、レイの手を取る。
二人は手のひらを介して交換される温もりが、心を落ち着かせるのを感じた。
「行くよ」
シンジは再び宣言した。
「エントリープラグ挿入」
リツコはつり上げられるプラグを見ながら、その気配に気づいて後ろを振り返った。
「ア、アスカ・・・」
アスカはプラグスーツを着て、今までにない存在感を従えてそこに立っていた。
「私が乗ります。弐号機に乗ります」
その言葉よりも、その存在感と、瞳の光によってリツコは半歩後ずさった。
マヤの方は首を回したっきり、彫刻と化している。
目まぐるしくその表情を入れ替わらせたリツコが、
マヤの肩に触れることでその呪縛は解放された。
「弐号機のデータを書き換え。急いで」
リツコは、かつてない強さの光を湛えた瞳を見返した。
「・・・行ってきなさい」
「はい」
射出された初号機が、後ろに控える六号機を振り返った。
零号機と似たようなカラーリングを施されたその姿だが、
まだ見慣れぬといった感じである。
「とりあえず、一番近い敵はあと5分で来るわ。確認しておいて。
それから、相手は重火器を持っていないようだから、遠距離から攻撃して」
ミサトの指示が飛ぶ。
シンジはパレットライフルを、レイはポジトロンライフルを構えた。
「南から来る分に集中して。東の方は気にしなくて良いから」
ミサトは、次々に指示を飛ばす。久々の戦闘指揮である。
シゲルがミサトを見上げて報告した。
彼の声は、やや似つかわしくない緊張感に包まれていた。
「戦自からの通信です。『攻撃態勢完了、これより攻撃を開始する』との事です」
●
「目標各機、切り離されました。距離12000」
「来たな」
如月一佐は口元にやや引きつった笑みを浮かべていた。
「総員砲戦体勢!今まで散々馬鹿にしてくれたネルフの奴らに、
我々の力を見せてやれ!!」
彼はそう言い放ちながら頭をかいた。
・・・司令部の連中はどうせ安全なところで高見の見物だ。
彼はここのところ忙しくて風呂にも入る余裕がなかった事に愚痴をこぼしていた。
・・・だがその分、余計なことを言ってくる奴らはここには居ないわけだが
「目標イエローゾーン突破、レッドゾーンに侵入!」
スクリーンに映るエヴァは足元に土埃を上げてゆっくりと迫ってくる。
時折、地面が閃光を放つのは、地雷に接触しているためであろう。
「レールキャノン稼働率100%。弾道制御接続開始」
「陽子砲、最終安全装置解除!」
「3体のうち一番右にいる奴に絞る、他は牽制程度だ」
「了解!」
「Gシステム稼働準備完了」
山陰から出現したエヴァがその全容を表していた。
「レールキャノンエネルギー充填!!」
「陽子砲、エネルギー充填!」
「狙点固定!!弾道修正自動モード!」
「目標レッドゾーン突破!!」
如月は自分の息を飲み込む音がやけに大きく聞こえたのを認識した。
「よし、Gシステム作動!!」
その瞬間3体のエヴァの足下が揺らいだかと思うと、一瞬で泥のようになった。
液状化した地面に脚を取られたエヴァはその歩みが止まる。
「撃て!!」
その瞬間、轟音と閃光が戦場を満たした。
最初の砲撃の全てをエヴァはATフィールドで受け止めた。
レールキャノン8基、32門の127cm砲弾の一点集中射撃と、陽子砲の斉射、
そして、周りに配置された170門の砲がATフィールドと正面からの抗争を開始する。
その閃光を遙かに凌駕する光が辺りを満たした。
N2地雷が足下で炸裂したのだ。
●
「はじまった・・・」
地響きが体に伝わり、閃光がシンジの顔を照らした。
不思議と鼓動は落ち着いていた。
安心できる場所。
エントリープラグの中でシンジは考える。
かつてミサトが言った、一番安全な場所、であるかは解らないが、
少なくとも落ち着ける場所であるのは確かなようであった。
「・・・安全な場所か・・・」
シンジは自分の右手を見つめた。
・・・自分が死にたくないからエヴァに乗っているのではない。
・・・みんなが傷つくのが、消えてしまうのが辛いからエヴァに乗っているのだ。
彼は、自分が人類の為にを戦っている、などとは考えなかった。
「自分のためだ。失ってから後悔したくないんだ。僕を信頼してくれた。
僕に託してくれた。僕を愛してくれた人たちに応えなかったら、
僕は一生後悔し続ける・・・・」
ミサトの緊張感を含んだ声がかかる。
「シンジ君。来るわ。6機いるから気を付けて」
水中から上がって来たばかりのエヴァは水滴を滴らせていた。
その水に太陽の光が眩しく反射する。
「え、エヴァ・・・ですか?」
「いいえ、使徒よ」
ミサトはその言葉が矛盾していることは知っていたが、敵である事に違いはない。
「それにダミープラグで動いている」
冬月が回線に割り込んで口を挟んだ。
「・・・解りました。いきます」
発令所では、冬月の言葉に、微妙に表情を変えたミサトとゲンドウが居た。
「私なりの判断だよ。私に出来ることは数少ない」
「・・・すまないな」
ゲンドウは一瞬で元の表情に戻ると、視線をスクリーンへ戻した。
「ふむ、ところで聞けるうちに聞いておくが、どうやって政府を丸めこんだんだ?
あのいつも及び腰の政府が今回はえらく積極的じゃないか」
「ああ、そのことか・・・実はあの男と、死ぬ前に少し情報交換をしたのだ」
「ほう、政治家の弱みでも握ったのか。それとも神の技術をちらつかせたか」
「まあ、そんなところだ」
スクリーンに映るエヴァがゆっくりと近づいてくる。
ミサトが矢継ぎ早に攻撃の指示を出していく。
効果が無いことは解っている。
戦場を誘導させるためだ。
シンジは6体をなめるように観察する。
無人戦闘車両を攻撃するさまを見ると、肩口に担ぐように搭載している砲は、
破壊力は小さく射程も短いようであった。
三体がプログナイフを大きくしたような物、
二体が黒く大きな鎌のような物を、
そして一体だけだが白いランスを握っている。
ゆっくりと近寄ってくるエヴァンゲリオン。
その瞬間、シンジが叫んだ。
「綾波!」
初号機がパレットガンを連射する。だがATフィールドに阻まれて効果はない。
初号機が横に走る。
それを追いかける様に移動するエヴァ。
その間に、六号機が距離を詰めながらポジトロンライフルを構える。
その3連斉射の閃光が一体を吹き飛ばした。
しかし、多少の損害を受けたようだが、致命傷ではない。
初号機が一瞬だけ注意の逸れたエヴァに猛然と突進していく。
一体に至近距離でパレットライフルを打ち込みながら、
もう一体の懐に飛び込んでプログナイフをひらめかせる。
シンジの手に肉を切り裂く表現しがたい感覚が伝わってくる。
だが、更に深く切り裂く余裕はなかった。
もう2体が我に返ったようにソードとランスを振るってくる。
初号機は、頭上を通過していったランスの腕をたぐり寄せて盾にし、
狂ったようにソードを振るうエヴァの攻撃を受け止めた。
初号機は反撃を避けきると、盾にしたエヴァを強引に蹴り飛ばして距離を取った。
レイの方にも一体が躍りかかってきた。
ライフルが間に合わないことを見て取った六号機は、
プログレッシブ・ナイフを装備する。
サイズの一閃が六号機の影を切り裂く、サイドステップでかわした六号機は、
すぐにナイフを閃かせたがエヴァの体には届かず、
肩のライフルをなぎ払っただけだった。
再び躍りかかるエヴァ。それをサイドステップで再びかわした六号機であったが、
反撃するよりも早く拳が襲いかかってくる。
それを弾くように片手で受け流した六号機はその首筋めがけてナイフを振り下ろす。
それをなぎ払うためにサイズを閃かせるエヴァ。
しかし、片手で扱うにはナイフの方が優れている。
一瞬早く目標を捕らえた六号機が、体を預けるように切り裂く。
のけぞったエヴァがよろめいて後ずさったとき、
その体を初号機のナイフと拳が貫通していった。
ガシッ!!
背中からコアを貫かれたエヴァは少し痙攣した後動かなくなる。
初号機の後ろから怒気を従えた二体のエヴァが躍りかかってくる。
初号機は振り向きざまに、動かなくなったエヴァの亡骸を投げつけて再び距離を取る。
「まずは一体・・」
●
N2の爆燃と閃光が晴れたとき、そこにはまだ3体の影が見えた。
「状況を報告しろ!」
2体のエヴァは完全に無傷であった。
しかし1体は、下半身と僅かに残った腹部のみになっていた。
「砲撃再開!!」
「レールキャノン、エネルギー再充填まで残り20秒!」
「目標活動を再開!!」
活動を再開したエヴァは肩口に背負っていた小型の砲を使って、
手当たり次第に攻撃を開始した。
兵士達の詰める塹壕がエヴァに踏みつぶされていく。
「足元を狙え、奴の足を止めろ!!」
如月一佐の叫びと同時に再びレールキャノンが火を噴く。
赤く輝く砲弾がATフィールドと再び抗争を始める。
一体のエヴァが膝をついて倒れる。だが今度ばかりは敵の対応も素早い。
肩口が光ったかと思うと発射台をねらい打ちにする。
「レールキャノン2基やられました」
「充填速度87%に低下!」
「もう一体の動きを止めるぞ。右翼の砲撃は地面の方を狙え!!」
その時、攻撃機による一斉攻撃が始まった。
大量のミサイルと爆弾がばらまかれるがATフィールドに阻まれて効果はない。
しかし、注意を引くことには成功した。
エヴァは狂ったようにソードを振り回すが、当たるはずもない。
「ふん、能なしめ」
その声が聞こえたわけでは無かろうが、
足を破壊され、倒れていた一体が、突然ATフィールドを拡大した。
付近にいた部隊が山肌ごと押しつぶされる。
そしてATフィールドを支えにして起きあがる。
「・・・なるほど、そういう使い方もできるのか」
活動を再開したエヴァはゆっくりと歩きながら、
攻撃はせずに、ATフィールドで周りの物を押しつぶしていく。
「だが、拡大したことで強度は弱るはずだ。動きの少ない奴の腹を狙え!!」
如月一佐の指示が飛び、再びレールキャノンと陽子砲が火を噴く。
轟音が戦場を満たし、閃光が視界を支配した。
砲撃を集中されたエヴァは右腕を失い、腹部にも損傷を受けていた。
よろけるように倒れたエヴァに再び砲火が浴びせられる。
「目標付近に高エネルギー反応!!」
オペレーターはその言葉を言い終えることが出来なかった。
強烈な振動が、彼の声と平衡感覚を奪い去ったのだ。
今まで経験したことのない強烈な揺れで、如月は指揮シートから放り出される。
4重のハッチを吹き飛ばして侵入した火竜が司令部内をのたうちまわった。
瞬間そのエヴァが放ったN2十数発分に相当する、
強力な爆発が全てを吹き飛ばしたのだった。
「状況報告!!」
誰よりも早く立ち上がった如月が叫ぶ。
だが、彼の本能は何が起こったかを理解していた。
「・・自爆しやがった」
●
その閃光と揺れををシンジは背中に感じた。
初号機のATフィールドに衝撃波が打ち付ける。
だが、目の前にいるエヴァが、閃光をまともに受けてひるんだ一瞬を、
逃すわけにはいかなかった。
爆風に後押しされるように、高速で一体の懐に躍り込んだ初号機は、
ATフィールドを瞬く間に中和すると、ソードを持つ肩口にナイフを突き立てた。
そして、その腕をひねり上げると強引に蹴り飛ばして、腕を引きちぎる。
次に動いたのは六号機だった。
蹴り飛ばされてよろけるエヴァの頭部にプログナイフを突き立て。
肩口に残されていたナイフを抜き取ると、首筋めがけて突き刺す。
初号機は、引きちぎった腕からソードを奪い取る。
我に返ったように襲いかかってくるエヴァ二体を牽制するため、
ソードを横に一閃すると、距離を取ろうとする。
その時、シンジは背中を冷気がなでるような感覚をおぼえた。
振り返るよりも早く本能的にサイドステップする。
その残影を後ろから襲いかかってきたランスが貫いていった。
「ぐっ!」
シンジは背中に痛みを感じた。かわし切れなかったに違いない。
だがそれ以上に、バランスを崩したことは大きかった。
二体のエヴァが襲いかかってくる。
シンジの左胸に強烈な痛みが走った。
もう一体がソードを構える。
「だああああああぁぁ!!」
シンジの叫び声と共に、初号機のATフィールドが黄金色の輝きを放った。
圧倒的なATフィールドによって、二体の使徒がはじき飛ばされる。
「初号機のシンクロ率急速上昇中!!120・・160%突破!!」
「初号機のエネルギー反応拡大!」
「どういうこと?まさか暴走?」
「いえ、シンクログラフは正常です」
ミサトの頭は回答を探し求めたが、それが得られない物だということは、
最初から解っていた。
「・・・これはコアかな」
「ああ・・・」
ゲンドウは、やや眉をひそめてはいるが、いつもの格好でスクリーンを凝視している。
冬月はスクリーンに映る初号機が、一瞬で傷口を回復させる様を見つめていた。
レイは、初号機の圧倒的なエネルギーを感じながらも、振り返る余裕など無かった。
六号機に首筋を突き刺されたエヴァは、残った腕で引き離そうともがいたが、
コアに向かってもう一本のナイフを突き立てられると、活動を停止した。
するとため息をつく暇もなく、もう一体が六号機に襲いかかってくる。
慌ててナイフを抜こうとする六号機だが、
活動を停止する前に腕を捕まれたままだったので、なかなか振り払えない。
そこにソードが振り下ろされる。
レイはエヴァの亡骸を盾にそれを防ぐ。
立て続けに振り下ろされるソードに血しぶきが飛ぶ。
六号機はナイフを抜くことを諦めて後ずさろうとするが、まだ捕まれたままである。
二体分なので動きも鈍い。
そこへ容赦なくエヴァが襲いかかる。
「ぐっ」
既に原型を留めない亡骸を貫通して、ソードが六号機の右胸を捕らえた。
飛び退こうとする六号機に横からの回し蹴りが炸裂する。
その衝撃でようやく残骸は腕から離れたものの、
吹き飛んだ衝撃で背中を打ち付け、レイの息が一瞬止まる。
「綾波!!」
シンジの叫びがレイの意識に達し、再び目を開けたときには、
今まさにソードが振り下ろされようとしているときだった。
ガシッ!!
ソードが地面に突き刺さり、六号機がいた地面を掘り起こす。
間一髪で転がるように逃れた六号機だったが、状況は変わらない。
六号機を睨み付けたエヴァが再び蹴り飛ばす。
「くっ」
腹部に痛みと衝撃を感じたレイの意識が遠のく。
急に狭くなった視界には、再びソードを振り下ろそうとするエヴァの姿があった。
『避けられない』
そう考えることさえ、甚だ労力を要した。
と、突然視界に赤い影が躍り込んできた。
高速で突き出された拳を食らって、エヴァが吹き飛ぶ。
「ほらファースト!さっさと起きなさい!
そんなところで寝てると風邪ひくわよ!」
「ア、アスカ?」
「ほら、シンジも余所見しない!」
その声が聞こえたからかは不明だが、
頃合いを伺っていたエヴァが初号機に襲いかかる。
シンジはそれを振り返りもせずにかわすと、
躍りかかってきた二体の間を突破して再び距離を取る。
「アスカ・・来てくれたんだね」
「・・・ごめん」
その一言だけを交わすと、二人は目の前の敵に集中する。
六号機も弐号機に支えられて起きあがった。
「何故アスカが・・・」
発令所ではミサトが当然の疑問を口にしていた。
唖然としていたミサトは、後ろから聞こえた足音に振り返った。
「・・・どういう事、リツコ?」
「どういう事って見た通りよ。ダミーを使って暴走させるより安全でしょう」
「でもアスカは・・」
「あの目を見なさい」
そう言って、
リツコはスクリーンの一角に映し出される弐号機のパイロットを指さした。
「・・・確かに」
ミサトはそれだけ言うとスクリーンに向き直った。
「戦自の打ちもらした一体がこちらへ来ます!」
「到達時間は」
「あと4分ほどです。映像出ます」
スクリーンに片腕を無くし、かなりの傷を負ったエヴァが映し出された。
その様子を見て、ミサトが僅かに表情を緩めた。
「通常兵器で二体も倒すなんて・・・あとで御馳走してあげる必要があるわね」
●
「状況報告!早くしろ!」
爆発の衝撃からようやく立ち直った司令部に声が響いた。
「レールキャノン稼働数2基、充填速度48%!」
「陽子砲作動しません。兵装稼働率8%!」
「攻撃機隊連絡取れません」
「映像出ます」
映し出された映像は一体のエヴァが消えて無くなり、
もう一体が固まったように動かない映像であった。
二つの山が球形にえぐれ、周りの山の木々は殆どが吹き飛んでいた。
爆心方向の斜面にあった木々が山頂を境として無くなっている光景は、
如月一佐を苦笑させた。
「・・・自然保護団体から苦情が来そうだな」
「目標活動を再開します!!」
その声に司令部が再び慌ただしくなる。
「別れの花束をプレゼントしてやれ!砲戦用意!!」
間近で爆発を受けたエヴァも無傷では無かったようだ。
再び動き出したエヴァの右腕は吹き飛んでいた。
「撃て!!」
再び轟音が戦場に響きわたる。
だが、密度が大幅に低下した砲撃は全てATフィールドに阻まれ、
僅かにぐらつかせる程度の効果しかない。
間近にいた部隊をATフィールドを広げて押しつぶすと、
砲撃を無視して第三新東京市の方へ歩いていく。
「・・・ふん、終わりだな。あとはあいつらに任せるか」
如月一佐は地面を狙って出来るだけ足止めするように命じると、
視界が急速に暗くなるのを感じた。
●
「ファースト。さっきのは貸しにしとくから覚えておきなさいよ」
そう言うと、弐号機は一気に距離を詰めながらパレットライフルを乱射する。
至近距離からの攻撃ではあったが、エヴァはそれをATフィールドで防ぎ切る。
だが足を止めることには成功した。
弐号機が強引なタックルで吹き飛ばして更にライフルを乱射する。
六号機もプログナイフを両手に拾うと、もう一体の懐へ躍り込んだ、
しかし敵の方も、距離を詰めようとする六号機に対し、
下がりながらサイズの距離を保とうとする。
このままではまずいと考えたレイは、故意に追いかける速度を緩め、
相手の動きがゆっくりになったところで、プログナイフを投げつけた。
動きの少ない腹を狙ったその一撃はサイズによって叩き落とされたが、
六号機が懐に潜り込むには十分な隙が生まれた。
ガッ!
サイズを持つ右腕にナイフを突き立てた六号機は、
回り込むようにして相手の背中めがけて殴りかかる。
叩き飛ばされたエヴァは振り向きざまに、持っていたサイズを投げつける。
腕にナイフが刺さっていたためかその狙いは不正確であった。
六号機は、投げつけられたサイズをかわすと、
先ほど叩き落とされたプログナイフを拾い上げて躍りかかる。
相手も突き立てられたナイフを引き抜いて距離を詰める。
再び激突が生じた。
レイは肩に走った痛みで、相手のナイフをかわし切れなかったことを知ったが、
六号機のナイフも相手の右胸を捕らえていた。
レイは肩の傷は浅いと判断して、相手に向かって強引にタックルする。
力比べは、六号機に軍配が上がった。
倒れ込むようにして六号機が上になる。
六号機は相手のナイフを持つ手を押さえると、もう一方の手で相手の首を絞める。
再び力比べがはじまった。
相手の首に指を食い込ませる六号機。
体勢の不利を悟ったエヴァが強引に体を入れ替えようとする。
「くっ」
もみ合いの中で、再び敵のナイフが六号機の肩に突き刺さった。
今度の傷は深い。
レイは、首を掴んでいた手を離すと、
相手の胸に刺さったままになっていたナイフを押し込んだ。
互いのナイフが、互いの体に突き刺さっていく。
レイは気を失いそうになる痛みと戦いながらナイフを押し込んだ。
その時、ふっと力が弱まった。
相手が耐えられなくなって六号機から離れようとしたのだ。
六号機は離れようとする相手に足を絡ませて、転ばせると、
血だらけのナイフを閃かせて躍りかかった。
ガシッ!
再び上になった六号機が今度はコアめがけてナイフを突き刺した。
相手も六号機の首を締め付ける。
首に指が食い込む感覚を味わいながら、レイは更に力を入れる。
やがて、六号機の首にかかっていた腕が力無く落ちた。
「はあ、はあ・・・」
レイが、思い出したように襲ってくる疲れを感じたとき、
シンジの叫ぶ、悲鳴にも似た声を聞いた。
●
にらみ合いを続けていた初号機と正面の二体のうち、
初号機の右の一体が弐号機の方へ向かう。
「させるか!!」
その瞬間、初号機は飛ぶような早さで、突進する。
それを遮るように、もう一体が初号機の左側へ回り込んで距離を詰めた。
キンッ!
ソード同士が激突して火花を散らす。
更にソードを振るおうとするエヴァに、
初号機は足払いを放って相手のバランスを崩す。
勢いの弱まったソードを強引に力で押し返して、
初号機が振り向きざまにタックルする。
敵がその衝撃で、倒れなかったのは称賛に値するだろうが、
体勢を立て直す前に、初号機のソードは相手の右腕を切断した。
「アスカ!」
振り返ったシンジの目に飛び込んだのは、
ランスを構えたエヴァが弐号機の左肩を突き刺している光景だった。
弐号機は、タックルで吹き飛んだ相手をなおも追う。
至近距離でパレットライフルを連射すると、
よろける相手の頭部に手刀をたたき込む。
再び吹き飛んだエヴァに向かって、
弐号機がプログナイフを装備して相手に詰め寄ろうとした時、
アスカは背筋に殺気を感じた。
振り返るより早く身をかわす弐号機。
昔のアスカならば素早くかわし切れたかもしれないが、
しばらくぶりに弐号機に乗るアスカの反応速度は、本人の期待を裏切っていた。
「かっ!!」
左肩に走る痛みに、アスカの意識が吹き飛ばされそうになる。
アスカは歯を食いしばってこれに耐えると、背後から襲いかかる二撃目をかわす。
「アンタなんかキライ!!」
強引に突進する弐号機、突き出されるランスをかわして懐に飛び込む。
だが、弐号機がナイフを突き出すよりも早く、
相手は足払いで弐号機を転ばせる。
受け身を取って起きあがる弐号機。
片手での受け身はややスピードに欠けた。
起きあがったところにランスが襲いかかってくる。
もともと振り回すのには適した武器とは言えないので、
その一撃を当たるにまかせて、強引に距離を詰めた。
弐号機のナイフが敵の首筋に一筋の傷を作る。
身を引いてかわす相手を、追いかける弐号機。
・・・もう少しで捕らえられる
アスカが確信を持ってナイフを振るったとき
視界の端に光が入った。
その光の正体をアスカが確かめる前に、
弐号機の左腕はソードによって切断されていた。
「っ!!」
アスカの声にならない悲鳴が発令所に響いた。
「いけない!弐号機の援護に全力を挙げて!」
ミサトの叫びが発令所を満たす。
「すでにやっています」
「じゃあシンジ君は」
「依然使徒と交戦中!」
その時、弐号機の首が、ランスを持ったエヴァによって締め上げられる。
前後から挟まれた弐号機は逃げられない。
「このおぉぉ」
アスカは掴む腕に向かってナイフを振り下ろしたが、離す様子はない。
「アスカ!」
シンジが見た光景は弐号機が締め上げられ、
その後ろからソードを構えたエヴァが近づいている光景であった。
「そこをどけぇ!」
目の前にいる片腕のエヴァに突っ込む初号機。
キン!
再びソード同士が衝突したが、今度は力比べをしている時間はない。
初号機が相手のソードを巻き込むようにして受け流すと、横に一閃する。
次の瞬間に、相手のエヴァは頭部から血しぶきを上げて倒れた。
それを確認もせずに駆け出す初号機に、
今度は横から片腕のエヴァがタックルを浴びせた。
ガツッ
初号機が相手ごと倒れる。
初号機が相手を振り払うようにして起きあがると、
その前に立ちはだかるように相手も起きあがる。
片腕のエヴァは戦自との戦いで受けた傷もそのままであった。
「どけぇ!」
だが、初号機が殴りかかるよりも早く、六号機が横から躍り込んだ。
蹴り飛ばすと言うよりも、一緒に倒れ込むと言った方がよかったが、
傷だらけの六号機が片腕のエヴァを吹き飛ばした。
「早く!」
シンジはそのレイの言葉に心の中で応えると、
再び初号機を走らせる。
だが、それは僅かに間に合わなかった。
シンジが顔を上げる。その視界には弐号機の体を串刺しにする敵の姿があった。
「アスカ!!」
「大丈夫よシンジ君!アスカは脱出したわ」
ミサトの声にハッとなってシンジは辺りを見回した。
エントリープラグがパラシュートを開いて舞い降りてくる。
だがシンジがホッとするよりも早く、
弐号機を串刺しにしたエヴァがそれを見つけた。
「やめろ!!」
初号機が飛ぶように相手に躍りかかる。
初号機の拳が敵の腹部を捕らえたのと、
相手の拳がエントリープラグを捕らえたのはほぼ同時だった。
もつれるように相手と倒れ込んだ初号機は、
その腕をつかんで片手で投げ捨てる。
「・・・アスカは大丈夫?」
「エントリープラグの破損でモニターできません」
「じゃあ、早く回収班急いで!」
「残りの使徒はあと3体です」
「初号機のシンクロ率200%突破!なおも上昇中」
「くっ、今度は何なの」
「やはり、暴走ではありません」
「まずいわ、シンジ君が取り込まれてしまう。20%ほどシンクロをカットして」
「その必要はない」
ミサトは、その声の主を苛烈な視線で見上げた。
ゲンドウはその視線を受けても、微動だにしなかった。
代わりにリツコがミサトに応えた。
「大丈夫、シンジ君は取り込まれないわ。暴走ではないもの」
「・・・どういうこと?」
「つまり、シンジ君が初号機を取り込んで支配しているのよ」
「・・・・」
「・・・今は信じるだけよ」
そう言うリツコの表情は、かつて無いほどの冷たさを持っていた。
「・・・今度はS2も従えたのか」
「・・・我々の勝ちだ」
ゲンドウはこの日はじめてその口元を微妙にゆがめて、
ややひきつった笑みを浮かべた。
「だあああああ!!」
ランスを持った使徒に躍りかかる初号機。
その速度は、驚くべきものがあった。
突き出されるランスをなぎ払った初号機は、その速度を落とすどころか、
更に加速させて強烈な拳を放つ。
圧倒的な力によって吹き飛ぶエヴァ。
だがその足が、空中で初号機によって捕まれた。
吹き飛ぶよりも更に速い速度で初号機が追いかけたのだった。
今度は振り回されるようにして空中を舞ったエヴァが山肌に激突する。
「と、飛んでる・・・」
ミサトは、圧倒的なATフィールドによって姿が歪んで見える初号機を、
惚けたように見つめながらつぶやいた。
雷が大地に向かって落ちるような速度で動き回る初号機。
走ったところでそんな速度が出るはずはない。
その背中から、光り輝く12本の翼が広がり、空を飛んでいるのだ。
発令所にいるあらゆる視線が、スクリーンに映る初号機に魅入っていた。
二人とて例外ではなかった・・・
「・・・目覚めたぞ」
「ああ、あの翼が我々の道を開いてくれる」
ゲンドウはゆっくりとした動作で眼鏡を外して指揮卓の上に置いた。
冬月にとって、彼のこの表情を見るのは久しぶりであった。
空に飛び上がった初号機が雷光のように山に向かって落ちかかった。
ガン!!
山肌が圧倒的な力によって押しつぶされていく。
その間に挟まれたエヴァは腕を伸ばして逃れようともがいた。
初号機の後ろから二体のエヴァが飛びかかってくる。
その頭部を狙った拳を、首だけひねってかわした初号機は、
その腕をつかんでもう一体の方へ投げつける。
更に、押しつぶしていたエヴァの頭をつかんで立ち上がった。
グシャ
一撃で破壊された頭部からおびただしい量の返り血が飛んだ。
初号機の後ろから2体のエヴァが襲いかかって来る。
一体が初号機の背中を狙ってランスを突き出す。
だが、そのランスが貫いたのは初号機の残影であった。
あらゆるセンサーにも捕らえられないような動きで相手の後ろに回り込んだ初号機が、
その腕を横に一閃した。
切断面から大量の血を吹き出しながら、エヴァの上半身がぐらりと揺らいだ。
残った一体にゆっくり近づく初号機。
相手を見下ろす初号機は、その目を苛烈に光らせていた。
つづく
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