うげえ
予定を大幅オーバー
ちょっと短いので、あとで付け足すかも



第壱幕

第七場
第二東京市の地下にある戦略自衛隊司令本部。 無論、防衛上の理由から機能は各地に拡散されているものの、 それでも、ここの大きさはかなりの物がある。 彼が今いる部屋の明るさは、僅かに人の輪郭が見て取れるという程度である。 ディスプレイから放たれる明かりのみがこの部屋を照らしているのだ。 ・・・省エネで経費を節約とは、実に結構なことですな。 彼は、そう皮肉を込めて思うのだが口には出さない。 彼は、事務的にこの部屋の所有者と敬礼を交わす。 「如月君、君の噂はかねがね伺っておるよ。いい噂もあるが、 中には少々いただけない噂も聞くぞ」 「小官としましては、どのような噂についても関知しておりませんので。 何とも申し上げかねます」 関知していないから噂なのだろう。 その答えに暗闇に浮かぶ男の顔が僅かに苦笑するのが見えた。 部屋を暗くしているのは、そうすることで自分の威厳が高まると、 信じているからなのだろうか。 如月は、自分のようなトラブルメーカーを危ない所に放り込んでおこうという、 何とも見え透いた意図を理解していた。 実際、彼は階級に不釣り合いなほど重い仕事を押しつけられているのだ。 「そうか・・・まあ、今はその事はいい。 それよりも、これが君への作戦指令書だ。 以前話した通り、今回の敵はなかなかに手強いぞ」 如月は敬礼してそれを受け取る。 部屋の暗さでよく見えないが、その一番上に書いてある目標だけは、 なんとか読みとることが出来た。 それを渡した暗闇の中にいる人影は、声を立てずに僅かに嘲笑すると、 紙束を指し示した。 「詳しくは、その資料を見てもらえばよい。戦闘指揮は君に一任する。 期待しているぞ。ネルフの奴らに我々の力を見せ付けてやるのだ」 「はっ!必ずやご期待に応えてみせましょう」 「・・・それから、君の方から要請のあった、陽子砲の件だが、 ・・・許可しよう。使ってみたまえ」 「ありがとうございます。では、これにて」 尊大に許可した暗い部屋の所有者から解放されると、 如月は体に残っている空気を全て吐き出すようにため息をついた。 「どうだった?暗い部屋で視力が養われただろう」 外で壁にもたれて待っていた男が、声をかけた。 彼を視界に捕らえた如月は再びため息をついた。 今度のため息は、先ほどよりも、量で劣ったが、質はより深いものであった。 「・・・お前がここに居るということは、ついにはじまるのか?」 「ああ、ついに完成したそうだよ」 「・・・ふん、今回の花火大会はちょっと大規模になりそうだな」 彼らの足音が、飾り気のない廊下に反射して、よどんだ空気を震わせていた。
「はい・・・碇くん」 「ありがと・・綾波」 シンジはアスカの肩につかまってテーブルの所までやってくると、 レイの差し出したお茶をすすった。 今日退院したばかりのシンジは、まだ辛そうにしていたが、 それでも歩けるぐらいには回復していた。 しかし、アスカは肩を貸すのを止めようとはしない。 シンジも何を言っても無駄と思ったのか、 今では、移動するときには有り難く肩につかまっている。 シンジが病院へ入院してから、意識を回復するまではそれほど時間を要さなかった。 体のだるさと意識の頼りなさはあったものの、 お見舞いに来た彼の家族達に微笑みかけるぐらいのことは出来た。 「シンジ君。大丈夫だった?」 「・・・まあ・・・小丈夫か中丈夫ぐらいですね」 「ふふ、冗談が言えるぐらいならもう心配ないわね。 最初は重体だって聞いたからホント心配したわよ」 シンジは、冗談めかしてミサトの気分を和らげようとしたのだが、 ミサトは心配そうな表情を止めなかった。 「はい、碇くん・・・食べて早く元気になって」 レイの方は、切られたリンゴの乗った小皿をシンジに差し出す。 シンジの腕は若干のしびれが残っていたが、リンゴを食べるくらいは支障はなかった。 そのしびれの残る左手をアスカはじっと握りしめたままだった。 その温もりは冷たい左手に、ほとんど唯一の感覚として伝わった。 アスカは、シンジを見つめたっきり何もしようとはしない。 何か思い詰めたようにも思えるその姿に、 かつてアスカを見舞っていた時に自分がしたように、 アスカはしているのだと、シンジは思った。 お茶をすするシンジとビールを飲むミサトは、料理をする二人の少女を眺めていた。 シンジは、自分がやると言ったのだが、二人は即座にそれを却下した。 シンジもミサトも、珍しい物を見る目つきで二人を眺めている。 「そう言えば、リツコさんの様子はどうでした?」 「ええ、もう退院出来るぐらいにはなってたわよ・・・・ ちょっとしか面会しなかったんで良くわかんなかったけど」 「今日は、忙しかったんですか?」 「・・・実はね、面会してる途中で、あの司令がお見舞いにやってきたのよ」 「え・・・父さんがですか?」 「そうそう、驚いてしばらく開いた口が塞がらなかったわよ。 意外なこともあるもんねえ。明日雨降るんじゃないかしら?」 なんともひどい言われようの自分の父親の行動を、しばし唖然と聞いていたシンジは、 あの時、リツコが半狂乱状態の中で言っていた言葉を断片的に思い出していた。 「・・・どうしたの?シンジ君」 「あ、・・・いえ何でもありません。退院できそうで良かったですね」 「そうね、リツコがいないとどうも張り合いが無くていけないわ」 シンジの様子がまだ気になるミサトであったが、シンジが考え込んでいるのは いつものことなので、それ以上は何も言わず、 テレビを見て、明日の天気が雨になることを確認していた。 翌日になると、シンジもおよそ普段通りの動きが出来るまで回復していた。 念のため、精密検査を受けることになり、雨の中、病院まで行った。 そして、病院での検査の後は、本部でもう一度検査することになった。 シンジにとっては、なんだか無駄に思えるような検査漬けであったが、 やや憮然とした表情をするシンジに、 「みんなシンジ君のことを心配しているのよ」 と、ミサトは言って車を運転していた。 シンジも、検査漬けなのは慣れているので、別に文句は言わなかったが、 実際に文句を言っていたのはリツコであった。 「私はこの通り大丈夫よ。検査なんて必要ないわ」 普段、シンジを検査漬けにしていた人物の発言とは思えないが、 シンジは後部座席にいたので反撃の機会をとらえ損なっていた。 リツコはちょうど退院前の検査を終えて、 今は、助手席でミサトと会話を交わしている。 「まあ、まあ、リツコ。みんなそれだけ心配してるって事なんだから」 「・・・どうだか」 普段は、緊急車両や作業車以外の交通がない道であるので、 ミサトに言わせるところの『女のロマン』、シンジに言わせれば『同乗者殺し』 の運転が常なのだが、今日は珍しくミサトは安全運転である。 というのも、今日は道に戦自の車両が多いからである。 軍用車両は幅が広い上に、『隊列』と称して道幅を占領するので、 ミサトの文句は、次第に過激の色彩が濃くなっていくのだった。 「あ〜、何なのかしらこいつら。どうせ税金の無駄遣いでしょうに」 「彼らだって、仕事なの。あなたみたいに行き当たりばったりで、 行動しているわけじゃないもの。色々準備をしているのよ」 「・・・戦闘準備?どうせ無駄でしょ。あ〜もう、イライラするわね」 「あら、行き当たりばったりは否定しないのね」 「う・・・・・あ〜もう、こっちの道行く!」 ミサトは、状況の不利を悟ると、 仕返しとばかりに急激な加速を加えて交差点を曲がる。 だが、最も被害の大きかったのは、後部座席でひっくり返って、 頭を打ち付けたシンジであった。 検査を終えたリツコは、待ちかまえていたマヤに振り回されていた。 「先輩先輩、心配したんですよ」 と言って、いろいろとしゃべり続けるマヤにリツコはただ苦笑するしかなかった。 そこへ、シンジとレイが並んで歩いて来た。 レイは今日、六号機の起動実験であったからだ。 シンジは、リツコとマヤを見つけると、元気を取り戻したマヤの様子に、 微笑んでいた。 レイは、リツコを一瞥しただけですぐに視線をシンジに戻した。 「あ、リツコさんも検査終わりましたか」 「・・・そうよ、もうちょっと前に終わってたんだけど、マヤが離してくれないのよ」 リツコはそう言いながら、レイをじっと見据える。 リツコのその瞳の色は、解析するにはあまりにも深い色であった。 「・・・今日は起動実験?」 「・・はい」 「じゃあ、頑張ってね」 「・・・・・はい」 レイの怪訝な視線がリツコの瞳を追ったが、 リツコは既に視線を離して、やや苦笑していた。 「さて、マヤ。あなたも忙しいんでしょ。こんな所で油売ってていいの?」 「あ、そうだ、先輩も来てください。みんなも安心しますよ」 そう言って、マヤはリツコを引っ張っていき、その背中を複雑な色合いを湛えた レイの視線が追った。 六号機の起動実験を、シンジは心配そうに小さな窓から見つめていたが、 実験は一回で成功した。 実験司令室では、マヤがその高いシンクロ率に驚いていた。 「すごいですね。初回から」 「・・・そうね。レイも進化しているもの」 後ろから見ていた冬月とゲンドウは、 他の誰にも聞こえないような声で、話していた。 「これで、状況は大分良くなったな」 「ああ」 「あとは弐号機だけだが、これは間に合いそうにないな」 「・・・問題ない。我々には切り札がある。奴らの欲しい切り札がな。 それとの自爆をちらつかせれば、奴らとしても手の出しようがない」 「・・・そうすると、ユイ君とシンジ君も失うことになるかもな」 「・・・・」 「だからこそ赤木博士を復帰させたのだろう。最大限の努力をするために」 「・・・・」 「だが、時間がないな」 「・・・・私は後悔していない」 「・・・神のシナリオに切り替わるわけか・・・」 二人は、誰にも悟られることなく、その部屋を後にした。
顔を洗って頭にタオルを巻いたアスカがやってきた。 この日に限って、アスカが早起きだったのは、 シンジを病人扱いして早起きしたせいか、 それとも、霊感という名の便利なアンテナに電源が入っていたのか、 あるいは、ミサトに言わせるところの『シンジ争奪戦』によるものか、 いずれにせよ、シンジにとっては起こす手間が省けたのであった。 「もうすぐできるよアスカ・・・あ、綾波おはよう」 「おはよう、碇くん」 やや、低血圧気味のレイは、眠たそうな顔をしていたが、 それでもシンジに対して笑顔を見せることを忘れなかった。 朝は、三人での朝食となった。ミサトは夜勤であったのだ。 「副司令からの直接指示なの。珍しいこともあるもんね。また明日も雨かしら」 そう言って、リツコと飲みに行った。 ミサトの予言は、49%ほど当たった。 今日は雨が降らないにせよ、天気は良くなかった。 朝食を終えると、片づけはアスカ、レイの共同作業となった。 こういう時には妙に息の合う二人に、持ち場を強引に奪われたシンジは、 仕方なく、ベランダに出てみて、洗濯物が乾くのかどうなのかと、心配していた。 その灰色の空は、所々に雲の切れ目が見え、 その合間から炎にも似た陽の光が差し込んでくる。 風はやや強く、冷たい様に感じられた。 とりあえず、洗濯物を吊そうかと考えて、部屋の中に入ったとき、 玄関のドアが開いた。 「あ、ミサトさん」 「シンジ君、レイ、アスカ。早く来て。今すぐに」 その長い一日がはじまろうとしていた。 第弐幕へつづく


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