よくある話だからなあ。感想来ないかも
しかし、慣れないことはするもんじゃないね。理系頭した私にはどうも・・・
誤字脱字の指摘もおまちしてます
第壱幕
第弐場
朝、珍しいことに、シンジが起こす前にミサトは起きてきた。
「おはよう」
「お、おはようございます。今日は早いんですね」
朝食を作っているシンジが、まだ目の覚めていないミサトに声をかける。
「う〜ん、慣れないことは辛いわね。今日は仕事でね〜」
と言いながら、冷蔵庫を探ってビールを取り出すミサトに、シンジはため息をつくと
また朝食作りを再開した。
「大変ですね。何かあったんですか」
「う〜ん、私も良くわからないんだけど、今日は帰れそうもないわ。
明日の夕方は帰れると思うけど」
「ふ〜ん」
そう言いながらも、朝食を並べるシンジ。だが、頭の隅で引っかかることがあった。
「・・・実はね明日あたり、シンジくんにまた来てもらうかもしれないから」
「え、・・・」
突然の言葉によって凍ったシンジに、すまなそうにミサトが続ける。
「・・・マヤも詳しい話は聞かせてくれなかったんだけど・・・」
「・・・来てもらうって、ネルフにはもう・・・」
「私もよく解らないんだけど、とりあえずその時に連絡するから」
シンジの頭に、昨日見た巨大なトラック群の姿が浮かぶ。
まだ、戦いは続く・・・
「・・・シンちゃん。ちょっと!」
「・・・あ、すいませんミサトさん」
朝食の間も、シンジの集中力は通常の38%だった。ミサトはそんな様子を見ながら、
自分の知らないところで進むネルフの動きに憤りを感じていた。
調べなくては、それがこの子達に対する償い・・・
ミサトは深い決意をすると。空気を変えようとビールを空けた。
「そうそう、今日はがんばってね」
「え、あ・・はい」
「レイちゃんって話しにくいけど、シンちゃんの魅力に振り向かない女の子はいないわよ」
「ちょ、・・・そ、そんなんじゃ・・・」
顔を赤くしながらシンジは否定するが、その顔は緩んでいた。
「そうそう、その笑顔でないとね。シンちゃんの一番の魅力はその笑顔なんだから」
「ミ、ミサトさん・・」
朝からビールを飲む酔っぱらいには、かなわないと見たのか、
シンジは急いで朝食を終えると、片づけをはじめた。
それを見たミサトも微笑んだ後、朝食を再開した。
シンジは、昨日、レイに会った場所に来ていた。今度は期待を持って辺りを見回す。
やはり、そこにレイは居た。
「あ、綾波・・おはよう」
「・・・おはよう。碇くん」
しかし、いざ声をかけてみたものの、何を話せばよいのか全く考えていなかった事に気づいた。
昨日と同じ状況が続く・・・
結局、学校までの道のりでは満足な会話は出来なかった。
学校に来たシンジは、教室の様子に違和感を覚えた。
「え、・・・人が少ない」
確かに元々少ないし、その人数も日に日に減ってはいたのだが、
この日は急に少なくなっていた。
周りを見回したが、親しい友人も居ないので事情を聞くわけにもいかなかった。
「学校の掲示板に何か書いてあるかな?」
しばらく考えた末に、端末を操作したが、関係するようなことは書いてなかった。
しかし、生徒同士のフリートーク用の掲示板に、書き込みを見つけた。
『俺の所も避難警告区域に入るらしいよ。
今日は荷造りで学校に行けそうにないよ・・・』
「避難警告区域?また広がったのか?」
シンジは再び端末を操作して、今度はニュース情報を検索した。
しばらくして、シンジは目的の情報を見つけた。
それによると、市の避難警告区域が拡大しており、すでに出されていた区域の
警告レベルも上がっていた。
そればかりか、市の外側のこの地方一帯に避難勧告が出ている。
まだ、戦いは続く・・・
シンジは背骨の中を通る冷気の存在を認識した。
はっとして、窓の方を見ると、朝の風に揺られた水色の髪と、
いつもと同じく本を読む少女がそこにいた。
シンジはレイの前の席に座った。ゆっくりと、レイの瞳は本の上から、前に座った少年に移った。
「あ、綾波・・・明日さ、僕はネルフに行くことになってるんだけど綾波も行くの?」
「・・ええ、そうよ」
「・・じゃ、何をしに行くのか聞いてないかな」
「・・・」
「あ、別に知らなかったらいいんだけど・・・」
「・・たぶん、碇くんはシンクロテスト。初号機の」
「え、でも使徒は来ないはずじゃ・・・」
「・・・」
「・・・え〜と、じゃあ綾波は?」
「私はこの前やったわ。だから明日は弐号機のテスト」
「・・・」
シンジには、僅かだが、断片が見えた気がした。
まだ、戦いがあること。これは間違いないように思われた。
いつ起こるのか、これは遠くない未来であろう。
避難態勢の強化、アスカの回復を待たずに綾波を弐号機に乗せようとしている事。
もっとも、後者に関してはアスカの回復に期待していないのかもしれない。
「結局、詳しいことは解らないな」
明日、ネルフで聞いてみようか。しかし誰に聞いても、
満足な回答を得られるとは思えなかった。
ふと、横を見ると、考えに沈んでしまった自分から、本の上に瞳を戻した綾波が居た。
シンジは自分の心の中で、綾波を恐怖していた部分が薄らいでいるのを感じた。
相変わらず、話題は見つからなかったが、
少しでも会話が成立したことに充足感を感じていた。
綺麗だな・・・
レイを見ながらシンジが思ったとき。授業開始のベルが鳴った
●
学校から帰ってきたシンジは、着替えると荷物を持って病院へ向かった。
「アスカ・・入るよ」
その病室の扉を開けると、そこには見つめ返してくるアスカの瞳があった。
「ア、アスカ・・」
いつもなら話をするまで虚ろな瞳が、自分を見ていた
シンジにはその瞳が歓迎しているように感じられた。
いつものように窓を開けて、ベッドの傍らの椅子に腰掛ける。
そして、アスカの手を握ると、僅かに握り返してくる感触があった。
アスカが確実に元気になってきている。シンジには、はっきり解った。
今日は、話すのも忘れて、じっと見つめ合ったまま時が流れた。
「・・・」
シンジは、アスカの頬が僅かに赤くなっているような気がした。
それに気がつくと、急に恥ずかしくなってきた。あわてて荷物をたぐり寄せて、
中からリンゴを取り出す。
「ほ、ほらアスカまたリンゴ持ってきたよ。あと、ミカンも持ってきたよ」
そう言って手を離そうとしたシンジだが、アスカの方は離さなかった。
その力は強くなかったが、力以外の何かで引き留められてしまった。
「こ、困ったなあ、皮をむいてあげようと思ったんだけど・・・」
そう言うと、アスカは手をゆっくり離していった。
シンジは、アスカが言葉に反応して行動したことに驚いていた。
まだ口を開いてはくれないけど、少なくとも僕の言ったことは聞いて理解してくれている。
「・・・あ、ええ〜と、ちょっとまってね。すぐできるから」
荷物から果物ナイフを取り出して、洗面台のところで皮を剥いている間、
シンジは視線を感じていた。
「・・はい、お待ちどうさま」
シンジは、アスカがリンゴを食べている様子を眺めながら、
今度、車椅子を借りてきて表を散歩しようか。と、考えていた。
面会時間が終わり、病室を出て帰ろうとしたシンジを、看護婦が呼び止めた。
「碇シンジくんですよね」
「あ、はい」
「ちょっと、アスカちゃんのことで先生の方から話があるそうだから」
そう言われたシンジは、アスカの主治医にあたる医者の所へ案内された。
「アスカちゃんの事なんだがね」
「はい」
「当初に比べたら、だいぶ良くなってきているよ。ちゃんとした反応が見られる。
あと、体力面で回復したら、日常的な生活ぐらいはできるようになるだろう」
「そ、そうですか」
シンジは、今日のアスカの様子を思い出しながら話を聞いていた。
確かに、良くなってきている。
「ただ、失語症としてしばらく尾を引くかもしれないね」
「え?」
「ああ、つまり、反応はするけども、声を出して反応することが出来ないかもしれない」
「・・・」
「まあ、失語症と言ってしまうと厳めしいからな。
そうだな、無口になるとでも思ってくれ。生活への影響はあるが、そう大きな物でもない」
「・・・」
「そう、厳しい顔をせんでもいいよ。こういう精神面での傷を負った患者さんには
よく現れることでね。まあ、程度の違いはあるが、日常生活の中で突然治る事が多いよ」
「・・・はい」
「そこでだ、シンジ君。我々としては、体力面でリハビリを行う。彼女は若いから、
そう時間はかからんだろう。その間、君は出来るだけ彼女と会話をしてもらいたいのだよ。
まあ、言葉の面でのリハビリだな。こういうことは我々よりも君がやる方がいいからね」
彼の言うことは理解できた。そう言えば、今日は見つめ合ったっきり、ほとんど話を
しなかった気がする。シンジは少しだけ後悔した。
「わかりました。アスカのためなら喜んで・・」
「はは、そうか。まあ、そうリキまんでもいいよ。彼女は生きているし、時間がある。
むしろ、彼女に無理な負担をかけて、逆戻りするのだけは避けねばならんからな」
「はい」
「じゃ、よろしく頼むよ」
病院からの帰り道で、シンジは医者の話を思い出していた。
そして、今までのアスカの様子を思い出す。
たしかに、アスカが入院してから、話しかけられたことは無いように思う。
入院当初は、誰に話しかけるのでもなく、ベッドの上でブツブツと何かを言っていた。
しばらくすると、それすらも無くなった。
それ以来アスカの声は聞いていない。
おそらく、病院の看護婦さん達も聞いていないのだろう。
・・・しかし、最近のアスカの回復ぶりを考えると、
そう深刻がらないでも良いように思えた。
楽観するわけではないが、アスカの負担になるようなら、急ぐべきではない。
時間はかかるかもしれないが、必ず元のアスカに戻る。
そのために、自分が出来ることはやるつもりだ。
シンジは自分に、また新たな約束を課していた。
●
「あ、買い物して帰らなきゃ」
そう気がついたのは、バスを降りて42歩ほど歩いたときだった。
時計を見ると、病院で話を聞いたためにいつもより遅い時間だ。
慌てて方向転換した後、通常より38%ほど速い速度で歩いていく。
「あ、よく考えたらミサトさん帰ってこないんだっけ」
しばらく歩いたときにそれに気がつくと、ため息一つついて普通のテンポで歩く。
スーパーに着くと、日課の一つである買い物をする。
決して品揃えが良いとは言えない店内は、静けさが支配していて、
僅かに保温棚や冷蔵棚の機械音だけが鼓膜を刺激する。
「・・・明日連絡するって言ってたけど、
およその時間でいいから教えてくれないとなあ」
一応、お弁当の分も買っておいて・・・
明日、遅くなるかもしれないから・・・
などと、同世代の少年達には無縁の思考に入っていく。
シンジが買い物袋を下げて、しばらく歩いていくと、
同じく買い物を済ませたばかりの少女を発見した。
「あ、・・綾波」
「・・・・碇くん?」
レイは驚く様子もなく、ゆっくりと声の方に振り向いた。
「ああ・・そういえば綾波のうちはこの近くだったっけ」
「・・・」
実のところ近いと言う程、近くはないのだが、
開いている店が少ないので、ここまで買いに出てくるのである。
レイは視線を外すと、そのまま行ってしまおうとする。
シンジは昔見た光景を思い出した。
「あ・・もしかして」
シンジはレイの所に駆け寄ると、レイが持つコンビニの買い物袋の中をのぞき込んだ。
「それって晩御飯?」
「そうよ・・・」
「・・そ、そんな物ばっかりたべてたら駄目だよ。栄養も偏るし」
「いいの。いつもこうだから」
「い、いや、いつもだから駄目なんじゃない」
そう言うと、シンジはレイの手を取る。
「え、え〜っと、今日は僕が作ってあげるからさ!うちへ来ない?」
そう言うと、返事も待たずに引っ張っていくシンジ。
「・・・べつに、いいわ」
「遠慮しなくていいから!」
レイに遠慮という思考があるかは疑問であるのだが、
それでも引っ張っていくシンジ。あまりの強引さにレイも沈黙してしまう。
マンションまで帰ってきたシンジは、レイに座ってもらうと急いで料理にかかった。
シンジは、料理をはじめると幾分落ち着いてきた。
綾波の意見も聞かずに連れて来ちゃったなあ・・・
シンジは自分のした行動に驚いていた。
でも、綾波は黙っていたし・・・
普通の人だったら、怒っちゃうだろうなあ・・・
・・・昔の記憶を思い出したのかな・・・
そう考えると、シンジはレイの方に振り向いた。
シンジは微笑んだが、レイの方は相変わらず、無口、無表情、無反応であった。
「さ、できたから、食べてみて」
「・・・」
「遠慮しないで良いから」
しばらく料理を見つめていたレイだったが、やがて箸をとると、
ゆっくりと料理を食べていく。
それを見つめていたシンジも、安心すると一緒に食べはじめた。
「ごちそうさま」
「・・・・」
時間も無かったのでそれほど量は作れなかったが、レイの食べるペースはゆっくりで、
シンジもそれに合わせていたので、結構時間がかかってしまった。
食べ終わったシンジは手早く片づけを終えると、二人分のお茶を入れる。
「はい、どうぞ」
「・・・」
レイはお茶から立ちのぼる、その湯気を見つめると、少し考え込んだようだったが、
やがて湯飲みを手にとった。
それを見て、シンジもお茶をすする。
その間に、シンジは何か話題はないものかと、思案していた。
しかし、無理に連れてきたという引け目があってか、良い話題は思いつかない。
お茶をすする音だけが響く中で、重苦しい沈黙が襲来する前に何とかしようと、
とりあえず、声をかけた。
「あ、綾波。え、と、なんか無理に連れてきたみたいで・・ごめん」
「・・・・」
「ほ、ほら、綾波の意見も聞かずにこんなことしてさ・・・」
「・・・謝るぐらいなら、何故こんな事したの?」
慌てるシンジと、無表情のレイ。実に対照的である。
「え・・・あ、その、綾波がいつもあんな物ばかり食べてちゃ、体に悪いし」
「・・別に栄養剤は飲んでるわ」
「い、いや・・それじゃ味気ないし。・・・それに綾波のことが心配だし」
「・・心配?」
「そ、そうだよ。綾波は・・・綾波は、僕の数少ない仲間の一人だから」
「・・・・・」
「僕は・・・綾波を失う悲しさを知ってしまったから・・・」
「・・・碇くん・・」
これは言うべきではなかったか・・・
シンジは思わず天井の方を見上げた。瞳の先に、その時の閃光がよみがえる。
しばらく目を閉じて感情の高ぶりを抑えた後、ゆっくりと目線を水平に戻した。
「あ、もう、こんな時間だ。うちまで送っていくよ」
「・・一人で帰れるから」
「いや、無理言ったのはこっちだからね。送っていくよ」
シンジがそう言うと、レイは少しうつむいて、考え込む様子だったが、
それ以上は何も言わなかった。
空は僅かに輝きを残していたが、時間も時間だけにだいぶ暗くなっていた。
二人は並んで歩いている。すれ違う人も居ない。
互いの足音と、どこから聞こえるのか解らないセミの鳴き声だけが、響いていた。
二人とも声を発することはなかった。
だが、気まずいという雰囲気ではない。
心地よい雰囲気。流れてくる風は緩やかで、暖かい。
この街には、人が少なくなって、建物の明かりも減った。
街灯も消えて、修理されないままの物が目立つ。
足下は暗く、やや歩きにくいが、夜空の星はよく見える。
「ほら、綾波。星が綺麗だよ・・」
「・・・」
レイも足を止めて空を見上げる。
空を仰ぎ見ると、星の海の中へ吸い込まれそうな感覚を覚える。
シンジとレイは同じ星を見ていた。夜空で一番明るい星。
ふと、シンジがレイの方へ目を移すと、レイもシンジを見ていた。
月明かりを浴びたレイは、美しかった。
どこかはかなく、透き通るような美しさだった。
レイの赤い瞳がいつもより、いっそう赤いように思われた。
「・・・行こうか」
再び二人は並んで歩き出した。
やがて綾波の住む団地が見えてきた。
「今日は、ごめんね。無理言っちゃって、こんなに遅くなってしまって」
「・・・別に気にしてないから・・」
「え、あ・・そうだ、今度は僕が綾波のうちに行って料理するからさ」
「・・・・」
レイが何も言わなかったのは、
肯定したのか、それともシンジの勢いに圧倒されたのか、
表情からは、判断がつきかねるところだった。
「・・・あ、迷惑かな・・」
「・・・・迷惑じゃ・・ない」
「あ、良かった。じゃあ、約束だね。・・・・また明日。おやすみ綾波」
「・・・おやすみ・・碇くん」
手を振るシンジにつられて、レイも手を振る。
シンジの背中を追っていた赤い瞳は、
その背中が見えなくなると月を捕らえていた。
「・・・ありがとう・・」
つづく
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