お話です。まあ、気楽に読んでください。てきと〜に作ったので...
内容が薄いのは練りがたらんからですな。 気に入ったら、メールでご意見ください。続きを公開するでしょう、たぶん。



第壱幕

第壱場
「アスカ・・・」 重い扉の向こう側にそう呼ばれる少女が居る。 少年の家族であり仲間である少女が居る。 少年と共に生死をかけて戦い抜いてきた少女が居る。 少年には眩しいほど元気で明るかった少女が居る。 「入るよアスカ」 殺風景な病室の窓際に置かれたベッドの上に少女が居る。 生気というものを全く感じさせない少女が居る。 少年が毎日声をかけ続ける少女が居る。 声をかけても時を止めたままの少女が居る。 「アスカ・・・」 少年は心が痛くなるのを感じる。毎日感じる心の痛みだった。 入院してからもう3週間が過ぎていた。今日もその痛みに救いは与えられないのか。 少年は返事を待った・・・だが今日も返事はない。 やっぱり僕は必要ないのか・・・ 少年はその考えを振り払うように、ベッドのそばに近寄りアスカを見つめた。 大丈夫だ・・・アスカは息をしている・・・まだここに居るんだ。 少年は荷物を置くと、病室の窓を開けた。 セミの音が病室に響く。よどんだ空気を風が見回す。 少年は少しだけ心が晴れるのを感じると、ベッドの傍らにある椅子に腰掛けた。 少年は少女の手を握り、その手から伝わるわずかな温もりに話しかける。 今日あった他愛もない事を話しかける・・・ ふと顔を上げると、アスカの瞳が自分を見つめていることに気づく。 少年はその瞳が見られた事で、少しだけ救いが与えられたことを感じた。 ここ数日までは、そんなことはなかった。振り返ってくれることなど無かった。 だがある日、アスカは自分を見つめていた。 自分を見てくれている・・・ 驚きと喜びのあまり、自分が涙を流していることさえ気づかなかった。 その日以来、少年は学校に行くようになった。 この市の人々はほとんど疎開してしまっていた。 ただ、後始末をするためやって来た人がかなり居て、危険とはいえ、 その家族も少数入ってきた。 それでも、街中で視線を人影が遮ることは少ない。 学校から多くの友人が去って行った。 今は、疎開者のために建てられた住宅地に住んでいる。 話では、涼しくてすごしやすい所であるという。 市にあった学校は一時的に閉鎖され、その後、残っている子供のために、 山の麓に近い比較的安全な場所に統合されている。 「みんな居なくなってしまったよ・・・でも、疎開してみんな元気に暮らしているよ。 だから、元気になってみんなに会いに行こう。 みんな心配しているよ・・・アスカ」 そう言って、シンジは持ってきたリンゴをむき、小皿に入れて差し出す。 「ね、リンゴ持ってきたよ、食べて元気になってね。アスカ」 シンジの顔から、差し出された小皿へゆっくりと視線を落とすアスカ。 その瞳は、虚ろな光以外の成分を僅かにこめて、リンゴの作り出した香りを見つめる。 「あ、食べさせてあげるね」 シンジは、小さなフォークにリンゴをさして、アスカの口に運ぶ。 アスカもそれを少しずつだが食べた。 やがて、リンゴが無くなり、少年は時計に目をやると、 窓を閉めて帰り支度をはじめた。 「もう時間だね。ミサトさんが心配するからそろそろ帰るよ・・・ また明日来るから・・・アスカ」 少年の背中を視線が追いかける。少年は扉のところで振り返ると、その視線に対して微笑みかけた。 「じゃ、また明日」 少女は閉じられた扉をしばらく見つめていたが、やがて視線を天井に戻した。
朝、学校に向かったシンジは、視線の先にもう一人の仲間を見つけた。 「あ・・綾波・・」 その声に振り返った少女は、表情を変えることはなかった。 「・・・おはよう。・・・碇くん」 「お・・お、おはよう」 再び歩き出した少女に遅れること2.4秒、我に返ったシンジも歩き出した。 今の綾波は自分の知っている綾波じゃない3人目の綾波。 そう思うと途端に足が重くなる。 リツコさんは記憶のバックアップはやっていたと言う。 しかし、使徒がやって来るようになってから、綾波が怪我をしていることが多く、 相当な負担のかかるこの作業は頻繁には行われていないのだという。 いったい、今の綾波はいつの綾波なのだろう。 また、それ以上にあの秘密を知ってから、綾波が恐ろしくなった。 そこに、その後ろに、暗い影が見える。 その影には、いろいろな人々の思惑と過去が投影されている。 その影の一部に、自分の父親の過去がある。 それは、シンジにとって恐怖の対象であった。 「また、僕は逃げるのか」 シンジにとって、その認識は辛い物だった。 自分は逃げるのを止めたのではなかったのか。 「あ・・綾波」 「・・・何?」 「あ、いや・・そ、その」 「・・・」 「・・・なんでもない」 「そう・・・」 沈黙が続く・・・ その沈黙は学校に着くまで、そして着いてからも破れることはなかった。
学校が終わり、病院でアスカを見舞った後、シンジはマンションへの帰りを急いでいた。 この市の交通機関はほとんどが停止しており、僅かに動く一部の地下鉄と、 国連がチャーターしたバスや、装甲車等が主要な交通手段であった。 ほとんど渋滞という物が無くなったこの街にあって、 この日はどういう訳かバスが遅れていたのである。 「どうなってるんだろ?一体」 シンジはバスの中から目を細めて前方を見る。 前方には巨大なトラックが、巨大な荷物を積んで、長大な列を作っていた。 「なんだありゃ」 「・・・新しい兵器じゃないのか。」 「いや、それにしてもでかいぞ」 後ろから聞こえてくる会話を耳に捕らえながら、シンジの鼓動は早まっていた。 まだ、戦いが続くのか・・・ 荷物にはシートが被せられており、中身は何か解らなかった。 不安感を抱えながら、シンジはバスを降りた。 「ただいま・・・ミサトさん遅くなりました」 「おかえりシンちゃん。早くご飯作ってぇ〜」 「はいはい、ちょっと待ってくださいね」 ミサトは缶ビールを空にしながら、台所に立つシンジを見やっていた。 「だいぶ元気になってきたわねえ」 そう独り言を言うと、どこか遠い目をした。 「シンジ君。アスカの様子はどうだった」 半瞬の間、手を止めたシンジだったが、すぐに料理を再開していた。 「ええ、だいぶ良くなってきましたよ。今日は剥いたリンゴを食べてくれましたし」 「へえ〜、それは凄いわねぇ〜」 ミサトが見たその時のシンジの笑顔は、久々に見る本心からの笑顔に見えた。 「でも、まだ影があるわねえ・・・やっぱりレイか・・・」 またもや独り言を言うと、一気にビールをあおった。 「え、何か言いました?ミサトさん」 「いいえ、何でもないわ。それより早く食べましょ」 風呂から上がったミサトは、リビングで洗濯物を畳んで整理しているシンジを見つけた。 「ねえ、シンちゃん。学校の様子はどう。人が少ないと寂しいでしょ」 「・・・」 手を止めたシンジが何を考えているか、ミサトには解っていた。 長い沈黙がリビングを支配した。 ため息をついたミサトは、やや躊躇した末、再び質問した。 質問と言うよりは確認であったが。 「・・・シンジ君。学校でレイと話した?・・・」 「・・・いえ、してません」 「どうして、一緒に戦ってきた仲間じゃない」 「どうして、って・・・なんだか怖いんです・・・ それに今の綾波は、僕の知っている綾波じゃ無いから・・」 「・・・そういって逃げるの?」 「・・・」 「・・確かに怖いのは解るわ。私もあれを見たんだから」 「・・じゃあ」 「辛いのは綾波レイなの。怖い事は克服できるわ。 でも辛い事には耐えるしかないもの。あなたが逃げてどうするの」 「・・・」 「彼女の仲間はあなた達だけ」 シンジの頭にレイの言葉がよみがえってきた。 ・・・絆だから・・・ 「シンジ君はレイを守れなかった事を悔やんでいて、 自分のことを情けなく思っているのかもしれないけど、 それで、合わせる顔がないなんて考えるのは止めた方がいいわ」 「・・・」 「レイは生きているの、だから今度こそレイを守ってあげなさい。 ・・・あなたにしか出来ないことがあるはずよ」 「ミサトさん・・・」 「確かに、レイは変わってしまったかもしれないけど。 でも、綾波レイであることには変わりないわ」 「・・・」 ミサトは今一度シンジの顔を見た。 その顔には迷いと決心とが同居したような顔に見えた。 再びため息をつくと、考えをめぐらせた。 ま、すぐには無理か・・・ 「・・・・さ、お風呂入っちゃって。明日も早いんでしょ。 私もこの格好のままじゃ風邪ひくしね」 ミサトはシンジを促すと、自分の部屋の戸を開けた。 振り返ると、シンジの顔は先ほどのままだった。 「・・シンジ君。アスカが変わってしまったのは悲しいわよね」 「・・・はい」 「レイが変わってしまったのも悲しいわよね」 「・・はい」 「アスカには元気になって元に戻って欲しい?」 「もちろんです」 「じゃあ、レイも元に戻って欲しいでしょ。レイもあなたを必要としているの。 ならシンジ君に出来ることがあるはずよ」 その時、シンジが顔をあげた。 「ミサトさん・・」 「はいはい、涙はいいから早くお風呂入って」 そう言いながらも、ミサトはシンジの頭をなでるのを止めようとはしなかった。 「ふう、これでせめてもの罪滅ぼしになればいいけど」 シンジがお風呂に向かう背中を見ながら、ミサトは独り言を言う。 その時、視界を白い影が横切ったような気がした。 その影の向こうに、彼女のよく知った笑顔を見たような気がした。 ・・加持くん 「ふふっ」 葛城ミサトの顔に久々の笑顔が戻った。 つづく

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