65号(H25.4) 電友下越へ戻る
○随筆コーナー
【雑感(死ぬまで元気に・・?)】 新潟市秋葉区 古室嘉明
退職後、年を重ねたせいもあろうが、月日の流れが早く感じます。楽しい時が駆け足なのは当然としても、
暇な時間でさえ過ぎるのが早い気がします。
私も含めた65歳以上が人口のほぼ四分の一を占める時代です。高齢者が皆同じようなことを感じている
せいか、ここ1・2年、千葉大学の一川(いちかわ)先生(実験心理学)が新聞や雑誌等によく登場してき
ます。「大人になると何故時間が短く感じられるのか?」の分析が主な内容です。
先生によると、子供のように未知の出来事が次々に現れると「心の時計」が細かく刻まれ、実際の時間が
ゆっくり進行ように感じるそうです。それが大人になると、胸の踊るような出来事や感動が減り、かつ加齢
とともに新陳代謝が鈍って「実際の時計」よりも「心の時計」の進み方が緩慢になるそうです。そのために
実際の時の流れを早く感じるのだそうです。時が経つのを早く感じるのは錯覚の一つだそうです。
退職後は心身を健やかに維持するため、趣味と実益も兼ねて、魚沼産コシヒカリに負けない美味しい米や
無農薬野菜の栽培を考えていました。しかし最近の米栽培は消費者の強い健康志向があり、稲わらを土壌
に敷き込むなど、極力農薬を使わない方法に変わってきました。わざわざ、農機具を買って安心安全な米を
作る必要もありません。稲作りを老後のメニューにしようにも、農機具の価格が高過ぎます。トラクターと
コンバインそれに田植え機でEクラスのベンツが一台買える価格です。しかも一年のうち稼働はそれぞれ数
日であり、それ以外は納屋で眠って過ごしているのですから。
畑は、放置しておくと、あっという間に荒れ果てるし、元に戻すには何年も要してしまいます。近隣の畑
にも雑草の種を撒き散らし迷惑を掛けます。このため(しかたなく)、雑草や野菜の収穫後の葉類を有機肥
料にしながら無農薬野菜を作っています。農家のベテランは、「とにかく土作りが全てだ]と指導してくれ
ます。そこで、有機肥料をたっぷり土壌に敷きこみ、深く耕運して、美味しい野菜の収穫を目指しています
が、結構重労働です。自家製の野菜は原価計算をすれば、恐らくスーパーで買う3倍以上になるでしょう。
趣味と「安全安心」を両立させることはコストが掛かるものです。
約10アールの畑は、我が家で消費する野菜作りには広過ぎるので、半分近くを女房の友達夫婦に貸して
います。退職をしたので野菜作りをしてみたいと言います。やる気満々ではあるのですが、未経験でしたの
で、1~2年でギブアップすると思っていました。ところが、年々腕をあげ、今では逆に我が家が不作の時
は野菜を貰ったりしています。我々は感勣が希薄なのか、「疲れた」「疲れた」を連発しながら作業をしてい
ますが、ベテランが言うには、どうもコツがあるようです。鍬で畑を耕すには、腰から引くようにすると力
も入るし疲れないとのことです。どうやらゴルフの下半身リードと共通のようです。
一方、友人たちは、疲労よりも喜びの方が大きいらしく、毎朝、野菜の様子を見ないと落ち着かない程、
ずっしり野菜作りに嵌まっています。彼らの野菜作りは既に10年を超えています。「手を入れると野菜は
確実に答えてくれる」と言っています。既にベテランの領域です。野菜の日々の成長に感動し、そして、
収穫の喜びを味わっているようです。毎年(カネを掛けて)相違工夫を施レ、スキルアップを図っています。
まさに、未知の出来事が次々に現れ、子供のように「心の時計」が細かく刻まれている状態なのでしょう。
コラムニストの天野祐吉氏は、「ヒマのないところからは文化は生まれないし、育つこともない。『文化
人』というのはヒマ人のことだ。そのヒマを積極的に潰すことを遊びという。遊びの文化を想像することが
大切であり、遊び心が無いのは、おカネはあっても貧しい。」 ということを言っています。皮肉を込めた言
論が得意な人だから素直に受け取る必要もないが、しかし言いえて妙てす。
加齢とは無関係で、元気はつらつとした先輩方をみると、趣味や仕事に生き甲斐を感じている人が多いよ
うです。良い意味で『文化人』が積極的にヒマを潰している状態なのてしょう。
一川先生は、「慣れた事だけでなく、少しずつ新しい事に取り組めば、経験する出来事や刺激が増え、充
実した時間が長く感じられる可能性はある。」そして「人が思っている程、実際の時間は長くはなく、予定
を詰め込み過ぎず、やりたい事に優先順位を付けた方が良い。」と言っています。これが、積極的にヒマを
潰すための心得であり、老後を楽しく生きていく極意のように思います。人生は、健康で楽しいことをいっ
ぱい経験し、そして、予供たちに迷惑を掛けず「ぴんぴんころり」と逝きたいものです。
(次回は新潟市東区の 小林 憲司 さんにお願いします)