電友下越 56号(H23.1)               電友下越へ戻る

 

 

 

 

○陽だまりのなかで                                  新潟市中央区 田部芳子

 K子さん、先日は思いがけずお会いでき、楽しいひとときを有難うございました。

 あの日は貴女の「思い出語り」を聞かせてもらったので、今日は私の「思い出」を聞いてください。

・昭和49年の春、夫は長野へ転勤しました。

 長女が1歳半でしたので、周囲のすすめもあって育児休職を取得し、私達は長野へ引越しました。

 社宅は浅川団地にあるアパートで、1棟24戸のアパートが4棟もある大きな社宅でした。

 部屋からは須坂方面を望むことができ、美しい夜景を楽しむことができました。

 近所の方々は私達とほぼ同年齢で親しくしていただき、なかでも静岡市のSさん、新井市のTさんとは何をするにもどこ

 へ行くにも一緒で、春は杏の花見、夏は野尻湖周辺へのハイキング、秋は林檎や葡萄狩りと家族ぐるみでお付き合いをさ

 せていただきました。

 私達が長野へ引越した時、お仲人さんも長野におられ、引越荷物の後片付けでお世話になり、漬物の漬け方や日曜市

 場での買い物等と、生活に役立つあれこれをたくさん教えていただき大変助かりました。

 昭和50年11月に長男が誕生しましたが、喜びもつかの間、主治医から「肺炎をこじらせているので部屋を暖かくし、ス

 トーブには常にお湯を沸かしておくこと。最悪の場合も覚悟しておくように。」との説明があり、目の前が真っ暗になりまし

 た。

 長男の安らかな寝顔をみていると可哀相で涙がとまりませんでした。

 診察の日には夫はいつもより早く家を出て、長野日赤病院で受診の順番を取り、病院へは近所の方が車で送迎をしてく

 れたり、長女の世話をしてくれたりと、本当にお世話になりました。

 皆さんのお陰で長男の症状は日に日に快復し、健康を取り戻すことができました。

 長男はこれが1回目の「命拾い」でした。

・昭和52年の春、夫は十日町へ転勤しました。

 社宅がなかなか確保できず、引越しは6月になりました。

 社宅は市街地から離れた集落のはずれ、河岸段丘の崖の上で、とうとうと流れる信濃川、十日町橋や川西町方面が見

 え、静かでのどかな自然溢れる風景が楽しめました。

 私達が転勤で十日町に来たと知って、近所の方々はあれこれと面倒をみてくれました。

 夕方、農作業の帰りにトマトやキュウリ等々の野菜をきまって届けてくれ、留守にしていると玄関に置いていってくれま

 した。

 冬、雪が積もると近所は交替で「雪踏み」をしますが、「カンジキ」を履くのは初めてで、よろよろしながら慣れない雪踏

 みをする私を見かねて「雪踏み当番」から外してくれました。

  十日町の雪は一晩でドラム缶がすっぽりと埋まるほど積もり、まさしく「雪は魔物」と呼ぶにふさわしく、降り続<雪を眺

 めながら恐ろしいと感じました。

  社宅の屋根は雪が自然落下するようになっており、周りの雪はスノーダンプで崖から落とすだけで雪の始末に苦労す

 ることはありませんでした。

  3月のある日、夫が家の周りの除雪をやっていて、子供達はその様子を見ながら遊んでいました。

  しばらくして、長男の姿が見えないことに気づき、あたりを探しましたが見つかりません。

 騒ぎを聞きつけて近所の方々も探してくれましたがやはり見つかりません。

 途方にくれている時、かすかに子供の泣<声が聞こえました。

 泣き声は崖の中腹から聞こえ、足元に注意しながら降リてみると、暖かさで雪がずれ落ちた割れ目に逆立ちの状態で

 見つかりました。

 もし、割れ目の上部もずれ落ち、長男が雪にすっぽりと隠れたら見つけることは出来なかっただろうと思うと、今でも

 ゾーッとします。

 長男はこれが2回目の「命拾い」てした。

 民謡「十日町小唄」に「雪がとければ越路の春は、梅も桜もみな開く……」と唄われているように、春になると梅・桜・水

 仙・レンギョウ等々の花がいっせいに咲きはじめます。

 その様子はまさし<百花締乱、集落の様子も明る<活き活きとなり、雪国の人々の春を待ち望む心が感じられました。

・昭和53年11月、育児休職期間の満了により復職し、以降、新潟電話局内のいくつかの職場に配置替となった後、平

 成4年12月に退職しました。

 今、私は2回も「命拾い」をした息子夫婦・サッカー少年の孫と同居し、静かでささやかな幸福の日々を過ごしていま

 す。

 このことは、NTTに在職し、多くの先輩・同僚そして地域の方々から教え育<まれそしてご支援をいただいた賜物であ

 ると深<感謝しています。

 冬の新潟にはめずらしい小春日和の日だまりが心地よく、ついつい話しが長くなってご免なさい。

 コーヒーの香りのなかで、ラジオからは懐かしいカーペンターズの「イエスタディ・ワンス・モア」が流れています

 春には仲良しのM子さんと3人で、思い出の「会津東山温泉」へ出掛けましょう。

 楽しみにしています。

(次回は新潟市東区北沢和夫さんにお願いします。)