■テーマ

分譲マンションの修繕工事 〜「住み良いマンションへの改造事例」

報告者 石井修二氏

報告者の石井会員は、この委員会設立の提案者のお一人であり、建築家としての活動に加えて、
以前から分譲マンションのコンサルタントを積極的に引き受けされています。
庶民派建築家?がもっと増えていくべく、講演をお願いしました。

事務所の取組み
主に分譲マンションの管理組合に対する相談を行い,今までに約70の事例を手がけている。
その内容は,修繕及び改良工事だけでなく,管理組合の運営や新たな管理規約・契約書の作成のアドバイス,
管理会社に関するトラブルの解消などである。これは,長年住まれたマンションで,
住むための不備やトラブルが発生した場合,住めるマンションに改善することを目的としている。

品質の確保について
管理会社に管理を委託する場合が多いが、日常の清掃程度の委託であることが多く、
維持管理を適切に行えるような業務契約内容になっていないのが現状である。
従って、修繕・改修等を行う場合も、管理組合が闇雲に専門業者に見積を依頼し、
内容を見ずに金額の多寡で選定することが多く、
その工事内容では不具合等の根本的な解決に至らず(例えば、クッラク等の補修をせず、塗膜防水のみ)
数年後に不具合が再発する場合がある。今後は専門家である建築家のアドバイスが必要である。

 枚方市にあるマンションで劣化診断から修繕まで2年前始め約2年間かけて行った。
劣化の診断では,外壁等の居住者が主に指摘する目に見える部分だけでなく,普段居住者が気がつかない設備の部分も十分な調査を行った。
今までの修繕では,その内容が居住者に知らされないこと多かったが,報告書等によって建物の状態やその修繕方法を居住者に明確に説明することが大切である。ここでは,屋上の防水部分や屋内消化栓等設備の瑕疵及び劣化が見られ,且つ違法駐車等のトラブルもあったが,
修繕及び規約の改正等によって解消した。また、管理会社への委託内容を改善するよう進言したり、
場合によっては管理会社を変更すようにもアドバイスしている。

共用部分の改良について
 西宮市の武庫川団地(レインボータウン)では,同じ団地の住棟であるが大半は賃貸,その他は分譲として計画された。
その為に,賃貸に住む居住者の方が分譲の居住者より住宅に対する思い入れが少ないなど,住宅に対して異なった意識を持っている。
このような住宅に対する意識が,共用部分などの環境に影響する。ここでは長年住むうちにエントランスや中庭の環境が悪化していた。
ここで行ったのは,住宅の顔としてのエントランスを新しくし,エントランスホールも管理人室や郵便受けを配置し直すことで広々とした空間に改善した。そして,手入れの不届きにより植栽が生い茂りすぎた中庭に新しく駐車場をつくった。
また,虹色に塗られた外壁も塗り替え色を一新している。
これらはこちらからの提案をあらかじめ出しそれを勧めるのではなく,
居住者へのアンケートや多くの議論を行い居住者の納得の上で勧めるのが良策と思う。

■修繕に関する権利の問題について

 大阪の西区にある11階建てのマンション(約50戸)では,修繕時に権利関係について,さまざまな問題があった。
このマンションは,地主(元の土地所有者で分譲事業者)が駐車場を所有しているために一般的に管理組合の大きな収入源となる駐車場による収入がなく,管理組合は経済的によい状態ではなかった。
また,地主も経済的にこのマンションに関してメリットが少なく,駐車場を区分所有にすることや
1階店舗,
管理人室の売却によって収支の改善をすることにした。
しかし,地主から法人化されていない管理組合に登記を移す事が出来ない,登記の書き換えには全ての所有者の合意が必要などの
登記上の問題が発生した。ここでは法務局に相談の上、管理人室(共用)を区分所有者の専用部分にするため
増築したとしての申請などいろいろな手段で解決したが,居住者の多いマンションでは非常に難しい問題である。
 また,今のマンションでは建設時に配管の切り替えが出来ない計画であるものも多く,それらを修繕する場合には取り替えるしか手はない。このような場合には住戸内の大規模な改装を伴い,居住者にとって大きな負担になりかねない。そして,これらはだれが費用を負担するか分かりやすい外壁の修繕等とちがい,負担区分も不明確である,したがって,配管の修繕などを行う場合は,それの負担区分を新たに管理規約に明記し,明確にしておくことが必要である。

■最後に

 販売時は売主の経済性が重視されるため、玄関ホールや集会室が狭いなど、
共用施設が未整備で、買主である居住者が生活しにくいマンションが多数ある。
例えば、外壁の塗装などの修繕工事のみの設計依頼を受けた場合でも、設計者のちょっとした工夫で、
それら共用施設の不備などを改善できる場合も多く、管理組合と討議の上、
生活改善のための設計も含め提案できる部分はしていくようにしており、
それが居住者の生活向上や売却時の資産価値の向上に結びつくのではないか思います。

*報告では以前に行なった工事をスライドで説明すると同時に、上記の提案用の資料も回覧された。