■テーマ「ヨーロッパにもある路地空間 ─ドイツの建築家が見た日本のすまい─」
報告者 ベッティーナ・ラングナー・寺本氏(東アジア建築研究所)
講師のベッティーナ・ラングナー・寺本さんは、ドイツのケルン生まれ、1995年アーヘン工科大学院修了。在学中に京都大学大学院やデュセルドルフ芸術大学に留学。日本の一級建築士にあたるDiolomaEngineer Architect。現在は京都にある同研究所の副所長。98年国際コンペ「21世紀の京都の未来」優秀賞受賞。建築家としての活動に加え、建築ジャーナリストとして「ARCH+」(ベルリン)、「ビルダーズマガジン」等で活躍されています。
■ドイツと日本の住宅地
ドイツと日本の住宅地を比較すると敷地は奥行きが深く似ています。しかし,高さに関していえば,異なる点がみられます。それは,日本は昔と比べて高層で様々な高さの建物が建つようになりましたが,ドイツでは昔から高さ,つまりスケール感が変化していません。
現在のドイツではディテールが良く,階高が現在のライフスタイルに合うということで100年位前の住宅に人気があります。古いものをどの様に生かして住むか,どの様に守っていくかという考えが人々の中に浸透しています。それが現在の街並みをつくっているといえます、が一方で1つのルールで統一しようとする傾向があり,街並みをつまらなくしている面もあります。
■住宅地のルール
ドイツの建築の法律は,日本の建築基準法とあまり差はありませんが,住宅地にはさらに「B PLAN」というルールが設定されます。これは市が責任を持って運営を行う条例や建築協定に近いものです。ルールの作成は,市や建築家の主導による場合,住民参加による場合と様々です。このルールは,階数から屋根の勾配,ファサードのラインに至るまで細かく具体的です。したがって,設計の自由度という面からいえばプランぐらいしか残されていません。このルールは,住宅地の美的なもの,伝統的なものを生かして,地域の個性を出すことを目的としています。
■住宅地への行為と習慣
ドイツの人々は,日本より住宅に多くのエネルギーをかける傾向があります。たとえば,一戸建て住宅であっても,集合住宅であっても古い住宅の内装を自分の手で,金曜の午後から日曜日まで,一年以上もかけてつくることは珍しいことではありません。それによって、家賃やローンが安くなるメリットがあり、町には日曜大工の店も数多く存在し、そういう環境が日本より整っているといえます。新築を建てる時は,打ち合わせはもちろん現場にも出てきます。
また,ゴミに対する考え方も違います。日本の住宅地の道沿いにあるゴミ収集場所には,毎日のように多くのゴミが見られます。しかし,ドイツではゴミ置き場のスペースが各住宅に設けられ,公共の場所にゴミが溢れることはありません。10年位前から行われるようになったことですが,ドイツでは,ゴミを少なくとも5種類に分別しなければいけません。回収も2週間に1回と少なく,ゴミに対する個人負担を多くしゴミの軽減とリサイクルを促しています。
■住宅地のデザイン要素
ドイツでは、一戸建て住宅や集合住宅の都市に対する空間を積極的にデザインします。例えば、アウトドアスペースがある車が通らない通りに面した部分をカフェとしてデザインし使っています。
一戸建て住宅を設計する場合でも、外構のデザインが中心となります。これは、先に述べた「B PLAN」で建物の外観がディテールに及ぶまで規制されていることもありますが、その規制の中で、いかに自分なりの住まいを設計していくを一生懸命検討します。例えば、駐車場は、車を使用する昼間は空きスペースとなることが多いのですが、車が止まっていない時にどのような利用をするかまで、細かく検討します。
また、集合住宅のデザインにおいても,1,2階を店舗などのパブリックな空間とし,バルコニーや廊下,階段室のデザインを工夫することで,都市を活性化しようとしています。さらに,ランドリースペースなどを持つコミュニティハウスがある住宅地やコモンスペースがベジタブルガーデンとして使われている集合住宅も計画されました。
■路地空間を持つ集合住宅
ドイツにも日本の長屋のある路地と似た空間を持った住宅地のプロジェクトがあります。
シュナイダー・ベスリン設計事務所によるオスナブルックのニコライセンターがその例です。この計画は, 初め1974年にオスナブルックの街の中心にパーキングビルを計画するコンペでしたが,シュウナイダー・ベスリンによる集合住宅としての提案が受け入れられ実現したものです。
この計画の基本的な構成は,駐車場を全て地下に計画し,建物の両端を商業用途に当てています。そして,その間を個人住宅として計画し,2階の中央通路よりアクセスします。
この中央通路は,路地空間として適度なバランスがとられているため,住民同士のコミュニケーションが取りやすい空間となっています。また,この集合住宅で解決しなければならなかったプライバシーの問題も中央通路に設けられた屋根と通路沿いに植えられた豊かに茂った植裁によって解決しています。この様にこの集合住宅は,プライベートを守りながら,パブリックに対してうまくデザインされたものだといえます。
この他にもドイツには,2枚の壁で区切られた住戸で密に構成されたタウンハウス形式の集合住宅も計画されました。
この集合住宅は,価格的には1ユニット1000万円程度で非常にローコストです。そして,価格の割合も日本とは異なり,土地が20%,家が60%,コモンが20%となっており,土地に対して家とコモンの割合が高いといえます。
また,スキップフロアやトップライトなどが使われ,プライバシーを守り,住戸内を豊かにする工夫がなされています。
■ドイツのエコロジー建築
ドイツでは,エコロジーについて関心が高く,建築においてもそれを取り入れていこうとする動きがあります。その一つは,100年前に建てられた古い住宅に対する計画で,現在の標準的なレベルに達していない部分を,バルコニーや設備部分の改修,ソーラーパネルの設置によって改善します。これを行うことによって,エネルギーの消費が60%,水の使用量を50%,コストを18%も減らすことができます。また,市からの援助も受けることができます。しかし,これらの計画は数多くあるわけではなく,まだ実験的な段階です。
また,ドイツには,エコロジーをテーマとした実験的な住宅地があります。そこでは可動式ルーバーやソーラーパネルなどの自然エネルギーを効率的に利用するための研究が行われています。
■住宅地のクオリティー
この様にドイツの住宅地の計画は,都市に対するデザインとエコロジーの考えを積極的に取り入れようとしているといえます。集合住宅の計画の点からみると,集合住宅単体を建築家がデザインしたとしても都市に対してあまり効果はなく,話題にものぼることもありません。むしろ,集合住宅を計画する場合は,都市から集合住宅を考えてデザインする方が大切です。つまり,住宅地のクオリティーは,建築計画と都市計画の間の考え方が決定するといえるでしょう。
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記録:田村慎一)