(社)日本建築家協会近畿支部環境委員会活動報告

21世紀の新しい価値観が見えた―「記憶のデザイン展」トム・ジョンソン氏の主張 ―環境委員会からの報告

□展示会に延べ881名の入場者
 アメリカ合衆国からやってきた百数十点のリサイクルコンペ当選作品は、7月27日から13日にわたるATCの展示会を終え、8月11日にプロデューサー・トム・ジョンソン氏と共に、シアトルに帰っていった。この「記憶のデザイン展」と名付けられた展示会は、昨年、新潟を皮切りに、札幌、東京、そして今回の大阪、と巡回し、各地で大好評を博した。大阪の展示会には延べ881名の入場者が詰めかけた。
 私たち環境委員会は、この国際的なリサイクルデザインコンペを主催している、トム・ジョンソン氏の講演を是非ともお聞きしたいと考え、最終日の8月8日にセミナーを主催し、ジョンソン氏を招聘した。講演会の前日、シアトルからこのセミナーのために来日したジョンソン氏は、100名近いセミナー出席者に、スライドを使って、ゆっくりと「優れたリサイクルデザインとは何か」を説明された。

□ なぜ「記憶のデザイン」なのか?
 環境委員会が、リサイクル作品とはいえ建築と関わりの薄い、日用雑貨や事務用品の展示会に注目したのには、大きな理由がある。それはジョンソン氏のコンセプトである「優れたリサイクルデザインとは、再生前の製品の記憶を留めていることが重要だ」という着眼点にある。つまり「中古が分かることが良い」と言っているのである。氏の主張とは「再生素材はバージン素材にない深い味わいをもっており」それをうまく使ったデザインは、「バージン素材より優れた価値を持ち得る」という点にある。これは、私たちにとって非常に示唆に富むコンセプトである。

□リサイクル品は新品に追いつけないのか?
 リサイクル関連法案が次々に国会で成立し、建築の世界にもリサイクル材の波が押し寄せている。大手ハウスメーカーは、リサイクル建材をふんだんに使ったプレハブ住宅をエコハウスとして売り出し、設計事務所の棚にも数多くのリサイクルカタログが並ぶようになった。しかし、私たちは、依然としてリサイクル品を、単に機能面で劣るというだけでなく、偏見をもって眺めていないだろうか。「リサイクル品」と言われただけで、製品を疑ってかかり、ある種のいかがわしさや不信感をもって見ていないだろうか。この結果、建材メーカーは、競ってその材料がリサイクル品であることが分からないよう、迷彩に腐心した製造をする。この話はなにも建材に限らない。エコマーク商品があらゆる家庭雑貨から事務用品に至るまで増えつつあるが、エコマーク商品は「エコマーク」を取ってしまうとリサイクル品であることが分からなくなる。なぜなら、メーカーがリサイクル品であることがわからないように作っているからである。この流れにある限り、リサイクル品は決してヴァージン素材の製品に勝つことはできない。常に、ヴァージン素材からできた「新品」の「代用品」でしかない。
 
□リサイクル・リユースデザインは建築家の発想から
 しかし、ジョンソン氏は、「元の素材を活かす発想があれば、ヴァージン素材の新品より、リサイクル製品の方が高い価値をもっている」と考えている。この考えを建築に当てはめるならば、「発想の優れたリサイクル・リユース建築は、新築より高い価値を持つ」ということになる。これは、私たちがリサイクル設計に向かい合うときに、極めて大切な考え方であると思われる。建材メーカーが、どこかで分からないようにリサイクルをしてくれて、設計者はそのことに関わらず、まるで新品のように設計すればよい、という考え方の対極にある発想である。建築家こそ、こうしたリサイクル・リユースデザインを実践するのにふさわしい能力を持ち、その職能を最も発揮できる立場にいるように、私たちには思えるのである。

□ 自然エネルギーと人工エネルギーも同じ
 ジョンソン氏の主張は、マテリアルに限らず、エネルギーにも敷衍することができる。たとえば、同じ「涼しさ」という快適性を得る時に、「自然の風」と「空調」とどちらを好むかという話がある。私たちは省エネルギーを考えるときに、常に「空調」の代替手段として「自然換気」を考える。しかし、ジョンソン氏の考え方に沿えばそれは反対で、「自然換気」には「空調」にない価値があって、それは、自然エネルギーを活かすデザインの発想があれば、人工エネルギーによる快適性よりも「優れたもの」「味わい深いもの」に成り得るということになるのである。これは「自然採光」と「照明」を考えても同じような関係にありそうである。

□建築のリサイクルデザインとは何か
 今回のセミナーでジョンソン氏は、リサイクルデザインコンペに入選するための四つの評価基準を教えてくれた。それは、もし建築の世界でも、同じようなリサイクル・リユースデザインの表彰を行えば、そのまま参考になりそうな基準である。そのような時代がすぐそこに来ているかもしれない。とかく負のイメージで見がちな「リサイクル・リユースデザイン」が、実は宝の山であることを私たちに気づかせてくれた、貴重な展示会であり講演会であったことを記して、今回の報告とします。

 今回のJIAセミナーの開催にあたっては、展示会を主催された大阪デザインセンター様に大変お世話になりました。また、協力・後援団体の皆様、そして協賛企業の各位様に御礼申し上げます。特に、ジョンソン氏のセミナーと滞在中の通訳を全てボランティアでしていただいた建築家・萬川さんに環境委員会より心から感謝します。
(執筆:大高一博環境委員長、JIA NEWS近畿 2000年9月号より転載)

「記憶のデザイン展」:2000.7.27〜8.8 ATC 10F大阪デザイン振興プラザ・デザインギャラリー
          主催:大阪市・財団法人大阪デザインセンター
「記念セミナー」  :2000.8.8 18:30〜20:30「リサイクルデザインの未来を考える」
          講師:トム・ジョンソン/建築家 通訳:萬川幹夫/建築家
          主催:社団法人日本建築家協会 近畿支部 環境委員会


記憶のデザイン展は、アメリカ合衆国ワシントン州シアトル市のデザイン・リソース・インスティテュートによってプロデュースされました。展示作品は、同インスティテュートのコレクションの中から選ばれたものです。
作品の多くは再生可能な天然素材やリサイクルされた素材、あるいは既存の部品をそのまま再利用しながら、優れたデザインによって生まれ変わったもので、それらは再生される以前の製品の記憶の断片を留めており、バージン製品にはない深い味わいを持っていることから記憶のデザイン”Design with Memory”と名づけられました。
講師のトム・ジョンソン氏は、建築家であり、ジョンソン・デザイン・スタジオを主宰し設計活動を精力的に行う一方で、同インスティテュートのディレクター、また「環境にやさしい」優れたデザイン提案に対して懸賞するため、1994年に創設された国際デザイン・リソース・アワードのプロデュースを行い、サスティナブル・デザインに関する講演等も多数行っています。

当日のレジメ(英文)