(社)日本建築家協会近畿支部環境部会活動報告

第3回寺子屋 
日時:1997年11月19日(水) 18:00〜20:30
場所:一心寺
司会:菅家(前半)、林(後半)

菅家:・今日は第3回寺小屋です。司会の菅家です。
・JIA環境委員会では、過去2回、「暮らしの中の知恵」をやってきましたが、今回は、少し技術的な話ということで、ボンドの小西さんをお招きしました。

コニシ株式会社ボンド事業本部の里井氏講演「のりの話」
里井:・今日は「のり」の話をしてくれと言われました。
・「接着剤」なら分かるが、「のり」と言われて困りました。
・レジメを用意したのでそれに従って話をします。
・少し「のり」ということを考えてみました。
・「のり」とは何か。
・ある人の話によると、「のり」とは青のり、血のり、このように「ねばる」ものを「のり」と言うようです。
・「ねばり」が「のり」の語源になったようです。
・接着の概念は、平安時代に入ってきました。
・「にかわ」で付けることを「こうちゃく」といいます。
・日本では米を原料にするので「こうちゃく」が「糊着」となったのではないでしょうか。
(以後は資料1に従って説明)
・「のり」ということで雑学をご紹介しました。

・次に接着剤の起源の話をします。
(以後は資料2に従って説明)
・接着剤が発展したのは戦後です。
・フェノール膨脂(ベークライト)が発見されて以降(1914年)序々に普及しました。
・戦争中に日本軍が開発した風船爆弾は「こんにゃくのり」が使われたそうです。

・接着剤の原理は何か話します。
・原理に決め手はなく、色々な事の相乗効果と言われています。
・その中でも投錨効果が分かりやすいですね。
・つまり摩擦力です。
・次に化学的接着が2番目に挙げられます。
・3番目が分子間引力の接着で、これが一番有力と言われています。
・A−接着剤−Bで分子同士の距離が近づくと分子間力が強まります。
・(実験)ここで実験をします。2枚のガラスの間に水をはさむとくっつきます。これは水の分子とガラスが近づいて分子間力でくっついたのです。
・近い将来、物質の表面がとても平滑になると、接着剤なしでくっつけられるようになると思います。
・A−Bを溶かしてくっつけることもあります。
・鉄の溶接などはこれです。
・しかし大体、2つのものがくっつくには複数の力が働いていることが多いのです。
・理論的には色々あって本当のことはまだあまり分かっていないようです。

・接着剤の利点と欠点の話をします。(資料3)
(利点)・接着に面積できくので、接合部の応力分散ができる。
・くぎなどでは応力が局部に集中する。
・気密性,水密性が得られる。
・接着剤はだいたいプラスチック高分子で出来ているから、電気,熱的に絶縁効果がある。
・外観がきれいである。
・いろんな機材をつけられる。
・被着材を変質させない。
(欠点)・耐用期限がはっきりしない。
・伝統工芸の人と話をするとよく言われるが、接着剤はできて間もないので、耐用年数が実証されていない。
・ばらつきが出やすい。
・今から数十年前、造船業界と接着剤を研究したことがある。その時、良い物の中に接着の悪いものが必ず出てきた。それで造船では使えなかった。
・耐熱性に限界がある。
・接着に時間がかかる。
・くっつけると後でとれない。
・非破壊試験が出来ない。

・次に接着剤にどういう種類があるか説明します。(資料4)
・そもそも接着剤には有機系と無機系があります。
・有機系は天然系と合成系に分かれます。
・一般には合成系を接着剤と呼びます。
・更に合成系に熱可塑,熱硬化,エラストマーがあります。
・エラストマーが建築シーラント剤です。

・最後に固化による分類を紹介します。
・皆さんに配ったサンプルを出して下さい。4種類の接着剤があります。
1)蒸発固化型木工ボンドはエマルジョン型です。
・エマルジョンとは水の中に分子が分散している状態です。
・白く見えるのは、光が乱反射しているためです。
・G17とコンクリボンドは溶剤タイプです、いずれも蒸発して固まります。
2)化学反応型
・2液の混合で固まります。
・アロンアルファは接着面の水分と反応して固まります。
・従ってたくさん塗りすぎると固まりません。
・うまく使うには少な目に使うことがコツです。
・嫌気性の接着剤は空気がなくなると固まります。ネジにつけてねじこみ固定に使います。
・接触硬化型はAとBにそれぞれ別のものを塗ってくっつけてしまいます。
・シリコンシーラントも水分と反応して固まります。
・化学反応型は体積収縮しにくい特徴があります。
3)熱溶融型
・180℃位に熱すると溶けて冷えると固まります。
・マンガ本,電話帳の背貼りの接着剤はこれです。
4)感圧型
・いつまでもねちゃねちゃしている接着剤です。
・ゴキブリホイホイ,粘着テープなどですね。
・べたべたでものにつけます。
・とろうと思えばとれます。

・健康住宅問題におけるホルマリンについて説明しておきます。(資料5)
・ユリア系,メラミン系,フェノール系がホルマリンを含む接着剤の代表です。
・縮合系接着剤はホルムアルデヒドを原料としています。
・合板によく使われています。
・集成材(階段の手摺り,体育館のアーチ)にも多く使われます。
・耐水性,強度に優れています。
・今は悪役ですが、木材用としては非常に優れている接着剤です。
・家具,建具も当然使われています。
・壁クロス,壁紙では木工ボンドにでん粉のりをわざわざ入れます。
・その理由は木工ボンドだけだと乾きが早すぎるためです。
・しかしでん粉は腐るので防腐剤としてホルマリンを入れることになったのです。
・最近は別の防腐剤を入れるようになってきました。
・ホルマリン問題では農水,厚生,通産の各省が集まって「健康住宅問題研究会」で検討しています。
・年内に評価するものさしができると思います。
・安全性で言えば実はホルマリンだけでなく、いろいろな他の問題もあると思います。

〜 休 憩 〜

林 :・それでは後半を始めます。
・環境委員会の委員の中から3人の方にプレゼンテーションを準備してもらっています。
橋本:・ものとものとをくっつける場合、「接着」か「接合」か、その境界デザインの意識化が大切だと思います。
・「接着」では境界が曖昧に見てわかりにくいけれど、イージーに造形できます。
・「接合」は、明快な分離性がありますが、その実現には技能の高さが不可欠です。
・「接着」「接合」いずれにしろ、耐久・保全・修復性というような「持続性」が今後重要な視点と思います。
・「のり」に求めたい性能ポイントとして、「剥離性」「透湿性」「粘着性」の良い製品を開発してほしいです。
・この大震災による被害例として、仕上層にクラックが入り、表面塗膜が剥離しましたが、この修復にはクラックにエポキシ樹脂を注入し、表面を総パテで平滑化し、再塗装となりますが、すべて接着性が関わってきます。
・「しっくい」表面に塗装をしたため、塗膜の収縮によってしっくい表面仕上までも剥離させてしまいます。
・「塗装」も「絵の具」も、顔料と接着材との混合物なのですから、「絵の具」をもっと塗装の分野に現代デザインとして応用したいものです。
・平面的な接着に対して、貫通や象嵌のようなはめ込みという手法で、物理的に固定する例を紹介します。ひとつは、RC外壁のセパ・Pコンを利用した貫通穴にアクリル棒を挿入して内外に光を導いています。ひとつは、食卓にカラーアクリル片や真鋳バーをはめ込んで、家族の星座を表現しています。いずれも接着材を使用していません。
・「パーティクルボード」は、木の粉と接着材との混合物ですが、これを土壁に見立てて和室の壁に素地で使ってみました。ホルムアルデイドの放出には問題でしたが、年月が経って黒っぽく変化し味が出ています。
・「構造用合板」は、針葉樹の薄板が接着材によって3〜5層に重ね合わされた合理的な工業製品材です。これをサイディング材のモジュールにあわせて切断し、さね加工して、サイディング材との交互張りで内壁に素地で使ってみました。実体感のあるものとものとを思いがけない組み合わせで出会わさせる設計の面白さです。
・構造用合板の小口はしっかりしているので、仕上面にみせるディテールも試みています。接着材によって積層された素材を、さらに積層組み合わせて小口面による造作材としても活用しています。
・接着材にまつわる素材のデザイン展開について、いくつかの事例を紹介しました。
直原:・接着剤を使わない例を紹介したい。
・この家は床暖房の家ですが、床に接着剤を使っていません。
・太陽熱利用でソフトなせいか変形もなくうまくいっています。
・次に壁についての例ですが、小さな和紙を張り合わせています。
・構造用合板の上に下地をはって和紙を貼ってみました。
・貼ってくれる人を探すのに苦労しました、12件目にやってくれるところがやっと見つかりました。
・「のり」は昔はでん粉のりですが、この例ではセルロースの粉末を使いました。
・私も貼ってみましたができそうな感じがしました。

吉羽:・人と自然をくっつける話をします。
・昔から、日本人は坪庭などをつくって人と自然がくっつけるように考えてきました。
・「へい」と居室との間の縁側で外と内とをくっつけている例です。
・外と内が一体になるところに濡れ縁を造りました。
・LDKから緑が見えるようにしたり、小さなスペースでもトップライトをとりまし。
・小さなお風呂にもバルコニーをとって緑と触れられるようにしました。

林 :・時間がなくなりましたが、もし質問があればお願いします。

服部:・HCHOに興味があってその辺がもう少し聞きたかったが、厚生省の対応をどうするのか、小西さんにお聞きしたい。

里井:・ホルマリン問題だけでも説明に時間がかかるので、次の機会にやらせて欲しいと思います。

林 :・こういう事態は予想できなかったのでしょうか。

里井:・当然予想してきました。
・家具ではすでに問題が起きていました。
・合板でもF1,F2,F3とあるが、結果としてコストの安いF1が使われやすいのが現状です。

林 :・今後の取り組みは。

里井:・現実的な建築の工法,コストの両面で問題があります。
・重要な問題であるので真剣に取り組みたいと考えています。

  :・ホルマリン以外に心配なものはないでしょうか。

里井:・有機溶剤系では残留分が問題となるので、これがあります。
・毒性だけでなく、火災の問題がありました。
・ノンソルベント,有機溶剤を使わない接着剤も研究しようとしています。
・可塑剤でも問題が出てきそうな気がします。
・防カビ剤にも問題の可能性があります。

菅家:・時間が足りなくて申し訳ありませんでした。
・この「のり」の話は厚生省のガイドラインが出たところでもう一度やりたいと思っています。
・次回の寺子屋は、遠足ということで来年の2月頃に地球環境技術研究所の見学をしたいと思います。
・また連絡をしますので、どうぞよろしくお願いします。