(社)日本建築家協会近畿支部環境部会活動報告
寺小屋(一心寺)で学ぶーJIA環境委員会連続セミナー
第2回 「続・活かしたい住まい方の知恵」日時:1997年5月20日(火) 6:00ー8:00PM
参考図書:シム・バンダーリン著、林昭男訳「エコロジカル・デザイン」
開会挨拶・主旨説明 環境委員会副委員長 菅家克子
・寺小屋の主旨は、参加者が、相互に、ある問題に対して持っている意見をぶつけ合う、啓発の場を提供することである。
・ 従って外部から講師をつれてきて、一方通行の講演をしてもらうのではなく環境委員会と参加者の方が中心になって、会を作っていくことにした。
今日は皆さんが主役ですのでどうぞよろしく。基調講演 滋賀県立大学 林昭男
・私がシム・バンダーリンを知ったのはビオシテイと言う雑誌の特集であった。
・シム・バンダーリンがそれまで書いた本は2冊あり、1つは、20年前の「インテグラルアーバ ンハウス」で、バークレーの古い住宅を改装した実験ハウスの記録である。
・ソーラーエネルギー、菜園、魚の飼育、コンポスト、排泄物の再利用などによる自給型の庭付き 都市住宅であった。
・もう一冊は、エコロジカルな団地計画をテーマにした本。
・そこで一昨年の暮れサンフランシスコにシム・バンダーリンを訪ねた。
・シム・バンダーリンの話を聞き、最近の設計を見せてもらった。
・エコ商品を扱うリアルグッズ商会の展示場兼、販売の為の施設である。
・その後、シム・バンダーリンが新しい本を出すと聞いて、送ってもらった本を読むと内容が非常 に優れていたので、翻訳を思い立った。
・今日はこの本の解説はしませんが、さわりだけ少しお話します。
・エコロジカルデザインが流行語のようになってきたが、その内容をしっかり解説できる本が無か った。シム・バンダーリンのこの本はこの点で勧められる。
・20年位前にこの種のことを、アメリカ、ヨーロッパで考えられた。また日本では、もともとエ コロジカルな生活が歴史的になされてきた。
・第一世代のエコロジーは20年前、問題解決が単一で単純であった。
・現在は、第二世代であり、問題は生産から廃棄まで、さらに多様な展開となっている。
・またデザインもコンピュータやハイテクを使って、行われ始め、できあがるものがローテクであ ってもそのデザインやソフトはハイテクをベースにするようになってきた。デザインのプロセスも変わりつつあると言える。・「デザインは場所が育む」はとても大切なポイントと思う。
・北海道、沖縄にはそれぞれ固有のデザインがあるはずである。
・関西という長い文化を持つ地域なりの住まいのあり方を考えていってはと思う。
・気象や材料だけでなく、そこに住む、人間の感性、長い間に備わってきたものを次の世代に継承 する事で、文化に厚みがででくると思う。
・サステイナビリテイーとは、こうしたことを意味すると思う。
・エコロジカルデザインとは、表面的なことでなく、非常に奥が深い。(スライドを使って、シム・バンダーリンの自邸と、リアルグッズ商会のプロジェクトを紹介)
ワークショップ 司会:菅家、林
(菅家)暮らし方、住まい方などの意見交換から始めてみたい。
(谷口)前回にでた意見のまとめの紹介する。(前回の議事録を参照)
(菅家)環境委員会としては、将来こうした蓄積が、エコロジー 住宅ガイドブックみたいなものできると良いと思っている。
(橋本)先のスライドで、屋根に菜園を作ることが紹介されましたが、庭も無いような都会の一般マンションなどに住む人たちにとっては、現実味がありまん。もっと地に足のついた具体的な提案をしていかないと空しいですね。
ところで、わが家では、屋上に土をいれて10年、当初は菜園をやったが上手く育たず、その後放っておいたら、鳥が運んできた種の内、屋上の環境に適した植物が育った。20センチ厚の土で、2メートル高の楠が勝手に育っています。屋上の外周手摺に鳥が止まって糞をする、その下に土があると植物が生えて生け垣が育つ、あまり意図的複雑に考えることより、まずはそこに土があれば良いというシンプルな事実によることです。
もう1つ住まい方の工夫ですが、わが家の小さな吹き抜けの話です。夏は、天窓を開けると下の階からの上昇気流で通風が発生し、冬は暖気のたまりで、ここに洗濯物を干すと晴雨にかかわらず乾いて重宝しています。
(菅家)私の例では、屋上に20センチの山土をいれて、「EMぼかし」(EM菌で野菜屑を肥料にしたもので生協で1袋100円で売っている)とじゃこと鰹節のだしがら(近くのうどん屋からもらってきた物)を混ぜて1ヶ月位でできた肥料を土に混ぜ、ねぎやほうれん草を作ったらすぐにできた。橋本さんは努力が足らないのでは?
(萬川)私は、大学生の頃、無農薬で野菜を作ったが、特にキャベツにつく小さいでんでん虫をとるのに大変な苦労をした。苺も良く育ったが、なめくじとでんでん虫にやられてしまった。
(菅家)私が週末に帰る名張のエコリゾートでは野菜を作っているが、そこの人の意見では、全く無農薬でなくても、低農薬であったら良いのではないかということである。やはり無農薬では、経済的に見合わないと思う。
(直原)私はドイツで環境共生住宅を見てきた。屋上庭園に関してそれまで断熱効果と微気候の効果位を考えていたが、彼らが言っていたのは、木造に5センチの土を入れて、虫や鳥の住処として、家が建つ前の姿に帰したいということであった。植栽ももと在った雑草が生えれば良いと言っていた。野菜まで考えなくても意義はあると思うが。
(橋本)私の経験では、土に断熱性が在るのか疑問です。屋上に土を入れているところのスラブ裏に、手を当てると結構暑いのですが、土に断熱性はあるのですか大高さん。
(大高)土は熱伝導率から見ると濡れているときと、乾いているときでは随分違う。今のドイツの話から言えば、断熱を目的として土を見た場合は必ずしも優れていないと思う。おそらくドイツでは、断熱と言えば、独立気泡を持った性能の高い材料を20センチも30センチも入れることを意味するから、屋上の土の断熱効果はさほど強調されなかったのではないか。一方土は水を含むとそれが蒸発するときに熱を奪ってくれるので、屋根を冷却する効果がある。ただし、これも蒸発が促進されないと大きな効果になりにくいので、砂漠などではよいが、日本のように大気が湿っていると期待するほどには大きな効果がでない。
(橋本)屋上植栽に水をやることと、屋根を涼しくすることとは繋がってはいるけれど、その効果の程度はおっしゃるとおり。(ただ、殖栽によっては日影が生じる効果あり)
(大高)ところで建築家の方たちへの質問なのですが、ヨーロッパと日本と設備の機械やガラリのつけ方を比べると、ヨーロッパの方が随分簡単なデイテールでやっているような感じがする。同様な意味で、日本の建築家の方は、本当は、湿潤な土を屋根に土を乗せたくないのではないか。そもそも日本人は、雨が漏ったり、雨に濡れたりするのを極端に嫌う傾向があるのは、何故だろうか。
(直原)日本は湿度が高いから、濡れると黴が生えたり、生物が豊かで虫がわいたり、人間が暮らして行くのに不便になるからだと思う。たしかにドイツの方が、降水量は少ないように思う。
(大高)屋根の上に土を乗せるのは本当に日本のエコロジカルデザインだろうか。ヨーロッパでそうだからといって、日本にそのまま当てはまると言って良いのだろうか。
(薮崎)日本の家は、屋根に土を乗せないと言うわけではない。昔の瓦葺きでは、瓦の下に土を入れていて、瓦がずれてくると、土が濡れてジクジクしてくるということはあった。
ところで2つばかりお話したいことがある。一つは、日本人の建築家は屋根の上に土を乗せたくないのではないか、と言う点については、それはそういう方もおられるかも知れないが、むしろ、水を漏らさない、湿気ら無い、処理の方法が分からないだけで、良い方法が在れば、いくらでもやりたいと思っているのではないか。もう一つは、土は断熱性が無いな、という実感の話で、私の奈良の田舎の家に住んでいて田の字型プランといって、家の中心に大黒柱があって、その周りに部屋がある。2階にも部屋があって11LDKくらいある。ところが2階で夏寝ると輻射熱ですごく暑い。屋根は野路板の下に杉柾がはってあり、気温は30度位だが、熱帯夜のようで、1階で寝ると良く寝られる。昼間の熱が屋根に蓄えられて、夜でてくる。瓦の下に土を敷く設計は夏暑い。やはり屋根の断熱と換気が重要であると思う。
(林) 屋根の土の話ですが、阪神大震災の時に、屋根に土が乗っていたから壊れたと言う話を聞いたが、やはり、土を乗せるならしっかりした構造が必要ですね。
(横川)屋根の土の話で考えた。特に屋根について本で読んだことだが、日本の建築は近代・現代になると陸屋根が増えた。もともと日本の建築は傾斜屋根がついていて、雨が降るとすぐに流すことができた。陸屋根は土をいれるのに適しているが、日本は、建築の法規で高さ制限が出来てから、高さ制限いっぱいまで部屋を取って、屋根をつける余裕が無くなってしまったということであった。私は、どうせ陸屋根の建築ばかりになるのなら、いっそ、その上をデッキにして人がでられるようにしたり、土をいれて木を植え有効に利用した方が良いと思う。空からみてもその方がきれいだと思う。
ところで私の家にも陸屋根があって、土をいれて芝生にしている。ところが水をやらないとすぐ枯れて、管理が大変である。毎年どうしようかと悩むが、やはりきれいだし、洗濯ものが落ちても汚れないので、枯れた芝生を取り除きまた植えると言ったことを、20年間繰り返している。
(菅家)土の断熱は問題提起として増やさねばなりませんね。
(好川)私のところは、ガレージの上を屋上庭園にしているが、屋根の端のコンクリートを2センチほど上げて、水が中に溜まるようにしてある。これは西澤さんの助言による方法ですが、そうすると真夏でも草は枯れないし、野菜も育つ、断熱性も良くて、ガレージはいつも涼しい。屋根に降った水は完全に抜いてはいけないと思う。
(林) それは知恵ですね。土の厚さ、構造は?
(好川)土の厚さは30センチ。屋根はRC構造です。
(橋本)根ぐされしませんか。根は、植物自身が倒れないように深く入ったりする一方で、栄養分や酸素は浅いところから吸うのです。私の家では、土の下に木繊板を敷いて保水性・通気性を持たせているが、排水性はよくしているので、夏場はたくさん水を撒かないと植物によっては弱るものもがでます。
(菅家)ところで別の話題にいきたい。今日エコソリュージョンズネットワークの牧村さんがきて おられるので、お話を伺いたい。
(牧村)会社もまだできたばかり。名古屋に5階建ての都市型環境共生ビルを建築中で8月末に完 成予定。この会でも見学していただきたい。東京の神谷さんと言う建築家に依頼した。この方は木の名前から、水のことまでくわしく、市民運動がでもあるそうで、他の建築家と違うと思った。都市も消費するばかりでなく生産すべきと考え、このビルでも実践している。5階は、冷暖房なしで、屋根緑化をしている。土は10ミリで、ロックウールを敷いて、水をやらなくても緑が枯れないというドイツのシステムを採用した。暑い名古屋の夏が乗り切れるか不安だが実験だと思っている。窓は、ペアガラスをつかって、太陽光発電も南の軒にパネルを分けておき、また西日もルーバー上に取り付けて、うまくデザインされていると思った。
私は、エコロジーを始めて2年になるが、文明の衝突、価値観の衝突を感じる。例えば、雑草のはえた屋根のスライドを見せるとほとんど日本の人は汚いといって反発をかう。しかしその一方で、イングリッシュガーデンなどは、雑草が生えていてもきれいだ、とか活力を感じるとか評判がよい。日本でエコロジーを普及させるのは、結構たいへんだろうと思っている。
(菅家)ドイツは虫と住むのがエコロジーと言うことで通っても、日本では、虫と住むのはいやだ と言うことで、断熱とかいった別の理由が必要になる。日本人も変わっていかなければいけないのでしょうか
(橋本)しかし虫と共生するのは、ムカデ、アリ、ミミズ、ヘビ、ヤスデのようなのが家にはいまわってきても平気な覚悟がいるわけで、それは変わっていけることなのかどうか…
(大西)牧村さんの環境共生ビルのお手伝いをした。自然エネルギー利用の設備に限ってお手伝いをしている。屋上の土について言えば、ロックウールは効果的である。芝の場合は砂が大事で、砂の間にパイプをいれておけば、適当に水を補給出来て、簡単に解決できる。虫の話では、結局住む人とのコンセンサス次第だろうと思う。それこそ、一緒に住む虫の種類も設計で決めるくらいの努力が必要である。楽しくやるのがエコロジーであると思う。
(菅家)環境関連企業の方も大いに参加してください。以上で終了とします。