(社)日本建築家協会近畿支部環境部会活動報告 ホームに戻る
【Andrew M. Shapiro氏との交歓会】
(報告者:吉房 睦美氏)
晴れとも雨とも、はたまた曇りともいええない、日本的な天候の中、3月18日に交歓会は行われた。
会場は、服部緑地公園内の民家集落博物館、「大和十津川の民家」。奈良県の民家を移築したものだ。
炉に火を入れていただき、日当たりもよく、委員会の名にふさわしい環境であった。昼食会の後、建築家の方々を中心に約三〇名の参加を得て、アメリカ北東部における「環境建築」の試みをスライドを交えながらの話しは始まった。
講師のAndrew M. Sahpiro氏夫妻は、東部アメリカ最北のバーモント州を中心に活動する。Andrew氏は小中規模の建築設備技師である。
夫人と共に、西日本各地を訪問する機会に、日本の建築家の方々に、アメリカ北東部における建築の実状を知っていただき、
また日本の現状をお教えいただけるような場を設定して欲しい、との依頼を受け、環境委員会のみなさまのご厚意により、実現の運びとなった。
バーモント州は面積三,六二五〇?二人口約六一万人という緑豊かで人口密度が低い。
年間の平均気温は七℃、11,12月の日照は三五%、冬季は-6℃が設計気温だが、-27℃まで下がる。
従って、冬の設計条件、環境は西日本とは随分異なる。湿度は西海岸に比べ夏季にはかなりあるものの、
日本より遙かに過ごしやすい。このような環境下での「環境建築デザイナー」としての役割は、
一.室内環境を整える。
二.操作の簡素化を図り、メンテナンス費用を押さえる。
三.建物の耐久性を高める
四.建物の環境負荷を押さえる
である。
スライドと共に紹介されたプロジェクトのうち、いくつかをあげておきたい。
一.Shapiro氏自邸
1998年に建築。新エネルギーは利用していない。
超断熱材(現在は古紙が中心だが、当時はグラスファイバー。二重壁内部の断熱材の厚さは、約23cm)による施工、
パッシブ・ソーラー熱利用、蓄熱層利用、太陽熱と暖炉余熱による温水利用により、160?で年間175kWH/?、
同サイズの通常の住宅の40%のエネルギー利用率となった。熱利用の比率は、太陽熱40%、木炭40%、バックアップ用のプロパン20%。
二.地元中高等学校建築追加工事
10,000?の改装、3,500?を増築。約150,000/?高断熱、自然光利用(すべての教室に天窓配置、教室の多くに窓を設ける)、
室内温度・エネルギー回収型湿度調整(熱・湿度70%を回収)、木炭ボイラー使用。
三.バーモント大学研究施設
鉄骨支柱からメーソンリーへ変更超高気密窓、高エネルギー回収換気装置。研究室内には、高性能ヒューム・フード、超高気密窓。
四.Efficiency Vermont
米国初のエネルギー効率化事業。バーモント州NPO法人により運営。プログラムは、「より早く、危険がなく、安価」であることが求められる。
結果、2001年には、557,938,000kwh、750,000tの炭酸ガス、約11億円〇〇が減
少。(日建設計・大高氏が、日本でも、資源エネルギー庁によるESCO事業があることを紹介。
NPO法人ではないので、積極性、効果が現れにくい。)
五.バーモント州エネルギー教育プログラム
児童に省エネルギーと新エネルギーについて教える。
生徒は、太陽熱コレクター、太陽電池自動車のモデル等々を、実際に作り、どのようにしてエネルギーが作り出され、それは何か、
どうして効率よく利用しなければなかないか、等を学ぶ。教師に対してもワークショップを行い、
彼らの学校に、エネルギー効率化を取り入れる工夫を指導する。
その他、手がけたプロジェクト、教育等についての説明が約二時間に渡り、紹介された。
「湿気を除く工夫」についての質問もあったが、湿気は「除く」というよりは、与えなければならない気候で、
特に暖房期間が長い冬季は乾燥する。そういった環境の違いもあり、技術面でそのまま利用できることばかりではないものの、
あらゆる方面から、お互いに刺激しあえる場になったのではないか、と考える。最後になりましたが、交歓会実現のため、ひとかたならぬご尽力を賜りました、菅家先生をはじめ環境委員の諸先生方、通訳をお引き受け下さいました萬川先生に、紙面を借りまして、御礼申し上げます。
(JIA NEWS 近畿2002/5月号より抜粋)
ESCOの概略は資源エネルギー庁hpをhttp://www.enecho.meti.go.jp/参照下さい。