(社)日本建築家協会近畿支部法令業務情報   ホームに戻る

JIA環境行動指針 (1999年5月21日)

はじめに

 環境問題がますます深刻化する中にあって、JIAは、1993年に持続可能な社会に向けて建築家の果たすべき社会的責任についての行動指針を定め、同年のJIA大会の大会宣言とした。その後も、環境部会を中心として「持続可能なコミュニティ」に関する国際コンペへの参加、シンポジウムの開催、サスティナブルデザインガイドの刊行を続け、また、UIA(国際建築家連合)のワーキンググループAOF(アーキテクチュアオブザフューチュア)の事務局としてその活動を推進するなど、幅広く着実に環境問題に取り組んできた。

 一昨年(1997年)12月に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)において、我が国は、温室効果ガスの排出量を、1990年レベルを基準に2008年から2012年の期間中に6%削減することを世界に約束した。

 建設資材の生産に始まり、建築の施工および使用に係わる二酸化炭素の排出量は、我が国の全産業から排出される総量の1/3にも達するとの試算がある。

建築分野における温室効果ガス排出削減の努力は、環境問題の緩和に必要不可欠であり、これを建築家の社会的な責務と認識し、行政、市民など広範な人々と、一体となって取組むべきである。

 また、温室効果ガスの削減にとどまらず、自然生態系の保全、都市気候変化の抑制など地球環境に係わる問題から、我々の健康に直接的、あるいは間接的に危害を加えるダイオキシンをはじめとする地域環境問題や、ホルムアルデヒド、VOCなどに起因する室内環境問題に対しても、JIA会員の活発な活動を通じ、社会に貢献する職能団体としての役割を果たさなければならない。

 このために、環境問題に対する、建築家としての行動目標を定めると共に、これを支援するJIAの具体的な行動計画を定める。

現状認識

?「気候変動枠組条約第3回締約国会議(温暖化防止京都会議)」において温室効果ガスの削減目標が定められるなど、地球環境問題は、21世紀を間近にして、私たちの大きな課題となっている。

?我が国の民生分野におけるエネルギー消費の比率は、26パーセント(1995年度)にも上がっており、今後さらに増加の傾向にある。

?建築物の生産から、使用、廃棄に至るライフサイクルに於ける資源やエネルギーの消費は、直接的に温室効果ガスの排出につながる。

?我が国では建築のいわゆる「使い捨て」の傾向が強く、他の国々に比べて際だっている。その結果として、建設廃材の廃棄量は膨大であり、全産業廃棄物の約20パーセントを占めている。それがまた、違法な焼却処理等をひきおこし、ダイオキシン発生など深刻な環境汚染の原因となって、市民生活を脅かしている。

?建築が永く生き続けるためには、全ての人が自由に利用できるものでなければならない。バリアフリー、ノーマライゼーションは、身体に障害のある人々や、高齢者等に限定されたテーマではなく、すべての人々が、その恩恵をこうむるべきものである。

?建築家は都市、そして建築を計画するにあたって、歴史、文化としての環境を考慮すべきである。「景観が永く維持され、建築が使い続けられるべきである」することは、まちづくりを考える上で最も重要な視点の一つである。

?自然環境を含む我々を取巻く環境は、人々の生活を支え、建築を生み出す前提となるものである。国土計画、地域計画等の都市政策に積極的に関与し、サステイナブルコミュニティ、サステイナブルソサエティ(持続可能な社会)の達成に努めることは、我々の共通認識の前提である。

?土地利用に於いては、生態系の保全に配慮し、自然のエコシステムの保全を重視しながら、建築行為と自然の調和を図ることが求められる。

?都市への人口と経済活動の集中は、ヒートアイランドや大気汚染、水質汚濁など、都市地域の環境問題を顕在化させている。都市に於いても、緑化を推進したり、自然のエネルギーを活用するなど、環境負荷を抑制し、環境の再生を図っていくことが求められる。

?建築家は、建築の設計にあたって、それが安全で健康な性能を備えていることを、最低の条件とする。したがって、ホルムアルデヒト、VOC等、健康被害との関係を疑われる物の使用はあってはならない。さらに、建築の廃棄時に発生する環境問題についても建築家として責任の一端があることを認識すべきである。

建築家としての行動目標

 建築を計画することは様々な社会的難問を解く作業であり、建築という答えが一方に偏ったものであってはならない。その為に建築家は都市、環境と積極的に応答し、多くの市民そして都市、環境に関係する専門家と協調し行動することを基本的スタ ンスとする。

 本来「建築」の計画に係わることは、「建設的」「創造的」な行為であるが、視座を変えると、建築の「生産」は、建材やエネルギーの巨大な消費行為でもある。また、建築生産に関わっている我々建築家は、クライアントの意向を専門家として代行する、いわば「おおきな消費者」であることを、自覚する必要がある。

 我々は、建築の生産・使用・廃棄の各段階でのエネルギー消費を大幅に減ずること健康な生活やバリヤフリーを確保することを実現するよう設計のなかで積極的に努力をしなければならない。そのためにも、いつまでも永く使え、愛着の湧く、使い続けようとユーザーに思ってもらえる建築を作って行かなければならない。そして、その実現のために、建築を生産、使用、廃棄のライフサイクルでとらえ、各段階で以下のことを建築設計の重要なポイントとする。

?建築生産の段階
・ リサイクル建材の使用を優先する。
・ 生産段階で廃棄物の発生の極力少ない計画とする。
・ モジュールなどの建築生産の合理化を促進する可能性のある規範を積極的に考慮した、無駄のないデザインをする。
・ 自然の生態系の保全に配慮した計画とする。
・ 都市気候の変化の抑制を考慮した計画とする。

?維持使用の段階
・ ランニングコストの低い、省エネルギー、省資源の計画を心掛ける。
・ ハウスシックにつながるホルムアルデヒト、VOCなどの発生の恐れのある建築材料の不使用を徹底し、健全で健康を維持できる計画とする。
・ 維持管理に考慮した設計をするとともに、竣工後のメンテナンスに対しロングライフの視点から積極的に参加する。
・ バリアフリーは、長く使い続けるための大切な条件である。高齢者が住み慣れた環境に住み続けることの出来る建築・街を作るよう努める。

?廃棄の段階
・ 使い捨てではなく、使い続けることを前提とする。
・ 資源として廃棄物」の理解を徹底し、資源の再利用を図る。
・ 「廃棄処理のできない建材の不使用」を徹底する。
・ 「改築改修」が省エネルギー、省資源上新築にまして意味のあることを認識する。
・ 建築廃材の焼却に伴うダイオキシンや環境ホルモンなど因果関係の科学的特定が出来ていない問題についても、たとえそれが予備的な警告の段階のものでも無関心であってはならない。 ?

JIAの行動計画

 建築の職能を担う専門家の団体であるJIAは、社会、市民の要求に設計を通して積極的に応える任務と、そのための情報、知識の収集、開示の責任を負っている。
 
 また建築の計画の遂行は、多くの専門家の知恵の集積によって達成されるものであり、建築が今日直面する諸テーマは、それらの専門家達を含むチームにより、必ず解決されなくてはならない。JIAは会員の相互の交流と情報の共有を支え、また国際社会、行政、学界、産業、市民などの団体や、組織との交流と情報の共有をも支える任務を負う。

 「建築家としての行動目標」の実現のためにJIAは以下の行動をとる。

?「環境図書館」を開設し、インターネット等の活用により、広く世界レベルの環境問題に関する情報の収集交換・提供を図る。

?JIA環境建築賞を設け、建築家の環境問題に対する関心を高める。

?エコマテリアル(環境配慮型建築材料)の認定、推奨を行い、会員に向けその普及を図る。

?環境と親和的な建築・都市の実現のための具体的な設計集をつくり、会員に向けその知識の普及を図る。

 以上の行動計画を推進するとともに、関係する委員会、部会、支部等との情報交流をより密にし、実効ある物とするため本部に(仮称)環境行動委員会を設ける。