クサウラベニタケのおはなし




いかにも「しめじだー」という姿・形でしろうとさんを騙しやすいのはクサウラベニタケではないでしょうか。私は自分で分類できないきのこは食べませんし、分類できてもやばそうなものには手を出しません。だからクサウラベニタケはもちろんのこと、ウラベニホテイシメジも「ちょっと・・」としり込みをしてしまいます。でもいるんですよね、経験豊富でも食べてしまう人が。

Yさんは私のきのこへの興味を倍増させてくれた師匠で、私よりも30歳以上年上の大先輩だ。Yさんは富士山のきのこに詳しく、ホテイシメジ、ササコ(未同定)、アカハツ、ハツタケ、ハナイグチ、チャナメツムタケ、ウラベニホテイシメジなどをどっさり採ってきては食べている。きのこのおつゆ(けんちん汁)のおいしさを教えてくれたのはYさんの奥さんだ。そのYさんが「なっ、これしめじだよなっ」と私を説得しにかかっている。一目見てクサウラベニタケだとわかった私は困惑した。私は、山と渓谷社「日本のきのこ」のクサウラベニタケの項を示し、「間違いなくこれだから食べないように」、と念を押した。

ところが、奥さんが出てきて、「私もう食べちゃったよ、30分たってもなんともないし、おつゆおいしかったから食べない?」と逆に私に食べるように言ってきた。「大丈夫だって、食べてなんともないんだから」、と奥さんはなんともない様子。それでも食べるわけにはいかないので、もう一度クサウラベニタケの特徴を説明し、ビールだけ頂いてやれやれとおいとました。Yさんは「確かに(クサウラに)似てるけどでも食べれるんだよな」、と納得していないようだった。

後で聞いたところによると、Yさんの奥さんは夜中に三度、下痢したとのこと。奥さんは悔しがり、きのこが原因ではないことを確かめるためにもう一度食べようとしたそうだ。でもYさんが「絶対に食べるな」、と鍋を押さえんばかりにして説得したという。この一件は、永年の経験も確実な知識の前には無力であることを、私に深く認識させた出来事であった。

クサウラベニタケ





(Nov 10, 1999)