きのこのにおい問題




毎食なにがしかきのこを食べている話は以前に書いた。最近では「一週間汁」が流行中である。これはきのこのおつゆを一週間分大量に作ったものの名称である。食事は基本的に材料から調理を心がけているので,毎日作るのだが,時間がないときなどは大変である。とくにみそ汁を作る時間がばかにならない。市販のダシを使えば早いのだろうけれど。

そんなわけできのこ汁を一週間分作ると重宝するのである(実際にはそれほど持たないんだけど)。

一週間分ともなると,きのこを3パックは必要とする。主な材料はエノキタケやブナシメジなのだけれども,これが最近困ったことに,においがついているのである。じつにわざとらしい香りで,悪ガキ時代に種々の香料を合成した私には,人工香料の香りだとすぐにわかってしまうのである。みそ汁に入れると不自然な香りで困るし,吸い物の具になどできたものではない。

状況は年々ひどくなる一方で,エノキタケ・ブナシメジ・マイタケ・ヒラタケ・ナメコにまで香りが着いている場合がある。困っているのは私だけではないようで,調理師の知人に聞いてみても,エノキタケはひどい,とのことである。

これまでもいろいろな銘柄を選んで試してみたのだが,エノキタケはほとんど壊滅的に近い状況である。ブナシメジも次いでひどい。良いきのこを見つけてもスーパーの入荷状況によって銘柄がころころ変わるので,安定して入手することができない。困ったものである。

仕方なく,においを抜く方法を考えた。いくつかあるのだが,次の方法が簡単である。きのこを適当な大きさに切ったら,大きな皿にきのこを並べ,電子レンジでチンするのである。あまりきのこが重ならないようにして,900Wで2〜3分程度で完了である。パックを開けたときのにおいと,チンが終わったときのにおいを比べてみて欲しい。全然違うことに気がつくだろう。もちろん,後者がほんとうのきのこの香りである。香料が抜けたら,あとはお好みで調理だ。炒め物でも汁物でも,チンしてから使うと風味がじつに自然になる。一つ困るのは焼き物で,チンしたら煮えてしまうから焼き物にはならない。エノキタケをベーコンで巻いて串で刺し,網焼きにするとおいしいんだけど。

業界としては「さわやかな香りのきのこ」として売り出したいのであろうが,勘弁して欲しい。自然の風味が大事にされる現在,香料の香りが漂わないきのこは,料亭や本物志向の人などには必ず受け入れられると思うのだが。どうしても香料を使うのなら,ケイ皮酸エステルやマツタケオールのようなものでなく,種々のアルデヒドやテルペンを含んだホンモノのきのこの香りにして欲しいものだ。



さて,困った問題がもう一つある。それはホルマリンシイタケである。といっても中国産の話ではない。国産の椎茸である。

あるとき八百屋で安売りのシイタケを見つけた。それは形が不揃いの主に幼菌で,確かに見た目には今ひとつだったけど鮮度も良さそうだったし,価格は驚くほど安い。形は明らかに国産の椎茸だ。よし,これを昆布とつくだ煮にするかな,とたくさん買って帰り,パックを開けると何となく変だ。柄に包丁を入れると手応えが微妙におかしい。肉が締まりすぎている感じなのである。においをかぐと明らかなホルマリン臭がする。別のパックを鼻先で開封すると強烈な刺激が鼻からのど,目を襲った。

この野郎 殺す気か

クソ。食品にこれほどのホルマリンを入れるとは信じがたい。心ある人間のすることではない。私はプランクトンの固定にホルマリンを常用していたことがあるので,ホルマリンであることは100%間違いない。チンすれば抜けるかと思ったが,しつこくチンしても僅かな臭気が残り,煮出して臭気が消えても歯ごたえの奇妙なシイタケになった。ホルマリンで組織が固定されているから,こりこりした変なテクスチャになるのである。手をかけたシイタケはみんなゴミ箱行きになった。怒りは極大に達した。

このホルマリンシイタケは2003年から2004年にかけて,G県産とT県産の表記のものに見られた。私が調べただけでも3回も確認した。一回はふつうの八百屋。もう一回は西友ストア,最後の一回はコープとうきょうである。いずれもJA系の袋に入っていたが住所の表記はなく連絡先も書いていない。書いてあったところで,単にJA系の袋を入手して詰めただけかもしれないから中身のほんとうの出所はわからない。真相は闇の中である。

ホルマリン(ホルムアルデヒド)は自然界に広く分布し,シイタケからも微量に検出されることがある。だからこれを読んだ"業界人"の中には,それは自然由来のホルマリンだよと,したり顔で説明する輩もいることだろう。断言しておく。それこそ知ったかぶりで脳みそ休止状態である。ほとんど卒倒しそうになるほどのホルマリンの臭いなど絶対にするものではない。

食品に対する毒物添加は業界全体の死活問題である。ただでさえ,「安いから」という理由で味のまずい安全性の不明な中国産シイタケを買う,無知な日本人が増えているのである。そこにきて国産シイタケに毒物添加など,自分の業界の首を絞めているようなものである。この一件が,ごく一部の不心得な業者の仕業と信じたい。二度と繰り返されることのないように。


(Feb 24, 2005)