顕微鏡デジタル画像における光学ノイズ除去


−ホコリ・泡・渦状ノイズの除去方法−


コリメート法による顕微撮影で記録された画像には,いろいろの種類の光学的ノイズが入り込んでいる。投影レンズによりフィルムに像を投影する方法と比較すると,デジタルカメラによるコリメート法では,デジタルカメラのズームレンズとCCDのプロテクトグラスが存在する分,光学ノイズが発生しやすくなる。たとえばズームレンズは8〜10群構成で20面程度の空気面が存在するが,接眼レンズの射出瞳が小さな場合,その絞られた光によってズームレンズ面のキズ・ゴミ・ガラスの脈理・泡などがCCDに投影されてしまう。この投影効果は非常に敏感で,ズームレンズを覗いて何も見えなくても,撮影画像でははっきりと見えてしまう。

先に書いたように,この光学ノイズは接眼レンズの射出瞳の大きさに関係しているので,1)撮影倍率が高いほど,2)同一倍率なら開口数が小さいほど,3)コンデンサ絞りを絞るほど,4)対物レンズ絞りを絞るほど,大きくなる傾向にある。1)〜4)の逆を行うことが根本的な対策となるが,例えば100倍の油浸対物レンズ(NA=1.25)を用い,適切なリレーレンズを使い,乾燥系コンデンサ絞り開放(NA=0.9)でもノイズが写り込むのであれば,それ以上の改善は困難である。

このようなことから筆者は画像処理で光学ノイズを消去する方法を模索していたが,最近になり市販の画像処理ソフトウエアを用いてノイズ消去が良好に行えることを確認した。高感度撮像管を用いたビデオエンハンスド顕微鏡法においては光学ノイズ除去法は既に実用化されているが,市販のデジタルカメラ+顕微鏡でこれを試みた例は見あたらない。そこでこのノイズ消去法を紹介してみよう。まだ発展途上でさらに優れた方法が生まれることと思うが,その点はご了解願いたい。

【方法】

  1. 物体を撮影し,物体画像を得る。
  2. 視野に全く物体がないところへ移動し,微動つまみでステージを下げピントを完全にぼかして撮影する。ピント以外の条件は一切変えてはならない。この画像をブランク画像と呼ぼう。ピントのぼかし具合は「どこにもピントが合っていない」ように調整すること。コンデンサレンズのよごれなどにピントが合ってしまうことがあるので注意。また粗動でステージを下げすぎるとコンデンサを絞ったのと同じ効果が出るので注意。完全にピンぼけになる最小送り量だけステージを下げるのが理想的。
  3. 画像処理ソフトPSPで物体画像,ブランク画像を開く。
  4. ブランク画像の明るさを-40〜-60%,コントラストを0%に変える。
  5. 画像演算で減算を選択し,物体画像から「暗くしたブランク画像」を差し引く。
  6. 演算結果の画像の明るさ・コントラストを好みに調整する。
  7. 縮小・引き締め処理を行う。以上で完成。

以上の処理によって画像背景に生じていた渦状の不快なノイズやCCD近くのゴミなどが減算され,すっきりとした画像が得られるはずである。(4),(6)は被写体やモニタ,画像処理ソフトによりかなり変化するので最適な数値を見つけるよう試みるとよい。(4)ではガンマやコントラストは固定し,明るさ情報だけ変化させるのが良好な差分画像を得るためのポイントのようである。

上記の処理では色情報は忠実に減算処理される。したがって減算処理はホワイトバランス修正の役割も担っている。また周辺減光も補正されるため,視野全面にわたってフラットな明るさの画像が得られる。

理論上は減算を忠実に行うためにtifファイルで画像を記録する必要がある。しかし筆者の検討したところではE990のfineモードで特に問題は生じないようである。演算でノイズを増やさないため,また画像処理に伴う画質の劣化を防ぐために,生画像を直ぐにtifに変換してから以後の処理を行うのが理想であるが,上記の1)〜7)の手順を忠実に守るのであれば,jpgのままでもよい。



以下にPSPでの処理例を示す。






物体を撮影する(珪藻 Nitszchia 属,Melosira varians(右下):八王子産)
対物レンズCF Plan 100 NA=1.25,コンデンサはハネノケアクロマートNA=0.9である。接眼レンズはCFWN10倍である。この組み合わせでこれ以上背景ノイズを軽減させることは難しい。













視野内に何もないところでピントを外して撮影する(ブランク画像)
渦状ノイズのほかに種々のゴミなどが移っていることに注意













物体画像,ブランク画像を開く














ブランク画像の明るさレベルを下げる
ほかの処理はしないほうがよい













演算処理を選択する













減算処理を実行する













差分画像(少し暗い)が得られる













好みの明るさ・コントラストに調整する













縮小・引き締め等を行い完成画像を得る
(縮小はバイリニア法を用いるとざらつき感が少ない)








どうであろうか。処理画像は多少のざらつきをもつものの,背景ノイズが消えたので非常にすっきりしたように感じないだろうか。従来から,レンズのゴミが写りやすいことがコリメート法の欠点とされてきた。しかしブランク画像の引き算によって不要なノイズを消せるなら,コリメート法の欠点も消えることになる。電子画像ならではのノイズ減算処理は,コリメート法による顕微鏡デジタル撮影においては,革命的な技術といっても過言ではないであろう。

なお本稿は筆者が試行錯誤の末に生み出したオリジナルである。個人で上記の方法を利用することにはもちろん問題ないが,引用元を明示しない無断転載は個人・会社を問わず遠慮して欲しい。



(Dec 21, 2002)