スズメバチのおかげ




10月1日、東京都民の日。大学にいる私には何の関係もないけれど、こういう口実はきのこ狩りにはまたとない神様なのである。前日に発生した臨界事故が気になって寝れない一夜を過ごしたのだが、せっかく休みにしたのだからまあ、気分転換に行ってくるかといつもの裏山へ。相棒のRも一緒だ。

Rは好物のヤマグリ拾いに余念がない。私はきのこを探して撮影撮影。何しろ雑木林の10月なのだ。この機会を逃すとまた一年待つことになるのだ。

ちっともついてこないRをチラチラと振り返りながら、新しいきのこを求めて前進前進。ミズナラの木のたもとに何かあるぞ、と近づくと、樹液が出ていてタテハチョウが群がっているところだった。すると・・・

ブーン、と重厚な音がする。オオスズメバチだ。刺されたら最後だ。うわーあっ。スズメバチが大嫌いな私は一目散に駆け出し、斜面を下に下る。ものの本には、「スズメバチが追いかけてきてもじっとしていろ」なんて書いてあるけど、そんなことできやしない。それに小学校時代は昆虫博士で過ごした私だ、スズメバチは走って逃げても避けられるのだ、それは体が知っている(私の場合)。

とそこでRと鉢合わせ。スズメバチを避けて別な道を歩いて雑木林を出ることにした。するとまもなく「わーっ、なにこれー」と声がする。反射的に振り向くとそこにはマイタケがそそり立っている。しかも二株。Rはマイタケだとは思ってないらしい。

あまりにもびっくりして、しばらくは鼓動で体が震えて声がうわずっていたと思う。またとないチャンスなのでデジカメ撮影するのだが、いかんせんマクロの撮影距離20cmでは入り切らない。ピンぼけを覚悟で35cmで撮影。あとは画像処理でカバーするとするか。

私が落ち着きを取り戻したのはマイタケをリュックに納めて歩き出してからである。こりゃめでたいとマイタケ踊りをしながら歩き、進路を妨げてくれたスズメバチに感謝するのであった。

この天然マイタケ。ちょっと伸びすぎていて堅かったが、香りは素晴らしかった。ぼけの実にも似たさわやかな香りで、マイタケご飯にすると何とも上品な味わいであった。

マイタケ





(Dec 4, 1999)