Y Combinatorに応募するには

原文: Paul Graham「How to Apply to Y Combinator
翻訳: Fujimoto(fujimoto.report @ gmail.com)


Y Combinatorは申込みの選考を年2回行っている。応募者の参考になると思うので、ここで私たちが申込書を読むときに何を求めているのかを説明しよう。

たぶん、このプロセスについて最も理解されてないことは、応募者が自分たちのことをはっきりと伝えることの重要性だろう。毎年受け取る申込みのいくつかは見るからに優れたもので、またいくつかは明らかにだめなものなのだが、どうともとれないものがその中間に山ほどある。アイデアは良さそうなんだけど、説明が足りないせいで十分に理解できないとか、優秀な人たちに思えるのだが、はっきりとは分からないので断言することができないといったものだ。面接に招かれたグループ1組につき、同じぐらい良いグループだったのに、どれほど自分たちが優れているのかを伝えきれなかったせいで落ちたグループが1組かそれ以上いるのではないかと思う。

もしこれが事実なら、これを次のように言い換えることもできる: 面接に招かれるに値するグループの半分以上が申込みでしくじっている。

仮に1000通の申込みがあって、それを読むのに10日割くとしたら、1日あたりだいたい100通読まなくてはならないことになる。つまり、YCの共同経営者の一人があなたの申込みを読むころには、平均して既にその日に50通を読んでいて、さらにあと50通読まなくてはならない状態にあるということだ。だから、あなたは申込書を飛び抜けたものにしなくてはならない。そのためには、とりわけ明瞭で簡潔にする必要がある。語るべきことが何であれ、その最初の文でそれを述べてほしいのだ。それも可能な限り簡単な言葉で。

* * *

YCでは4人の共同経営者全員が申込書を読む。この時、私たちはいわゆる「集団浅慮」を避けるために、各々が別々に読むことにしている。だから、他の3人がどう選別しているのかはよく知らないのだが、たぶん私のやり方と似ているのではないかと思う。

申込みを見た時に最初に目がいくのは、その申込みを応募した人のユーザー名だ。もし、「このユーザーは確かHacker Newsで興味深いコメントを残してたな」と思い当たったら、その申込みには余計に注意を払う。ただし、別に何か系統だった方法でこれをやっているわけではない。例えば、申込みをカルマとかの類で順位付けするようなソフトウェアなんてものは無い。知っている名前を見たら、ついそれに気がついてしまうという程度のことだ。

他のYCの共同経営者はHNを私ほど読まないので、これにはあまり影響されないようだ。しかし、境界線上にあるような場合に、私は「このグループは面接した方が良いと思う。Hacker Newsでコメントしているのを見たことがあるんだけど、見るからに賢そうだった」と言うことがよくあるのだ(このヒューリスティックな方法が上手くいくことを裏付けるような事例はいくつもある。どれくらい正しいかを厳密に計測してみたことはないが)。

質問の中で最初に読むのは7番目の「あなたの会社は何を作る予定ですか?」という項目だ。この質問が最も重要だと考えているわけではないが、申込みを頭の中に引っ掛けておくものが必要なのだ。

最も良い回答は、事実をできる限り淡々と書いているものだ。自分のアイデアをより興味深いものに見せるために、マーケティングのような言葉を使うのは間違いだ。私たちはそういう言葉使いに慣れきっていて、単なるノイズにしか聞こえない。[1] だからこんな風に書き始めないこと:

私たちは個人と情報との関係に変化をもたらそうと考えています。

印象的な文章に見えるが、しかしこれは何の情報ももたらさない。この文章はどんな技術系の企業の説明にも使える。彼らはサーチエンジンを作るのだろうか? データベース・ソフトウェアを作るのだろうか? それともルーターだろうか? どうとも判断しようがない。

効率的にアイデアを説明できているかをテストする方法の一つは、読者がそのアイデアを再現できるようになる段階までどれほど近づいたか問うことだ。この文章を読んでも読者の理解は一歩も進まない。だから、この文は実質的に無内容なのだ。

もう一つの間違いは、その問題がどれほど重要なのかということについて、抽象的すぎる前置きを置くことだ。

情報は現代の組織の生命線です。ある情報を必要とする人々に対し、その情報を迅速かつ効率的に伝達する能力は、その企業が成功するか否かを決するほどの意義を持ちます。情報を効果的に活用することに長じた企業は、他の条件が同じならば、競合する他社に対して著しく有利な立場に立つことになるでしょう。

同じく、この文章の内容もゼロだ。これを読んでも、読者はあなたのプロジェクトを再現できるようにはならない。

良い回答というのは次のようなものだ。

閲覧権限や編集権限を管理できるグラフィティカルなUIを備えた、wikiライクなデータベース。

別にこの文を読んでも「これは次のGoogleになるに違いない」と納得するわけではない。しかし、少なくともこれが取っ掛かりにはなる。そういうものは一体どんな感じなのだろうと考え始めることができるのだ。

創業者が具体的な事実を率直に書きたがらない理由の一つは、それが可能性を狭めてしまうように見えるからだろう。「けど、単なるwikiのUIのついたデータベースなんかではないんだ!」とね。しかし、説明が可能性を縛らないものであるほど、その内容も薄くなってしまう。だから、過ちを犯すなら、事実に即しすぎる方に間違ったほうが良いのだ。

私たちは、DemoDayの時にも同じようにやるようにスタートアップたちにアドバイスしている。過度に抽象的な説明で聞き手の関心を失うぐらいなら、言葉を絞りすぎた説明で話を始めた方がマシなのだ。もし、自分がやっていることを一文で簡潔に説明できて、しかもそれが潜在する可能性の半分を伝えるだけのものならば、その説明はかなり良いものだろう。これを使えば、最初の一文で説明の半分をやってのけられることになる。

プロジェクトを簡潔に説明するための優れたテクニックの一つは、相手が既に知っているものの変種として説明することだ。「ある組織の中のみで利用できるWikipedia」、「テレホンサービスのemailバージョン」、「eBayみたいな求職サイト」。この種の説明は驚くほど効果的だ。「派生物」みたいに見えるのではないかと気に悩む必要はない。歴史上で最も優れたアイデアの中には、誰も組み合わせられるとは思っていなかった2つの既存のアイデアをくっつけることから始まったものがいくつもある。

20秒かそこらアイデアを理解しようと努めたあと、私は次に創業者のところに目を移す。最初の目標は、扱っているのがどんな種類のグループなのかを見分けることだ。大学卒業間近の友達3人だろうか? 現在働いている大企業から抜け出そうと考えている2人の同僚だろうか? メンバー全員がプログラマなのだろうか? あるいは、プログラマとビジネスマンの混合チームだろうか? おそらく20〜30ぐらいの形態があるのではないかと思うが、そのほとんどは今までに一度は見たことがあるように思う。

グループの種類を把握したら、応募者たちがそのタイプのグループとしてどれぐらい優れているかを判断しようとする。これを決めるのに最も重要な質問は次のものだ:

各々の創業者が作ったり成し遂げたりしたもので、印象的なものを1〜2行で説明してください。

私にとって、これが申込書の中でも最も重要な質問だ。この質問はわざと自由回答にしてある。私たちは別に一種類の回答を探し求めているわけではないのだ。これは学校で成績が非常に良かったということでも、高く評価されているソフトウェアの一部を書いたということでもありうるし、16歳で実家を出て大学に通っている間ずっと自活していたといったことでもいい。ここでは成し遂げたことの種類よりは、それがどれほど目覚ましいのかが問題になっている。スタートアップで成功するには、まさに文字通りの意味において「並外れて」いなくてはならない。だから、私たちは並外れたことを成し遂げる能力のある人を探し求めているのだ。

他のどの質問もそうなのだが、一番良い回答は最も具体的なものだ。驚くほど多くの人が次のような回答を書いてくる:

ジョーダンはことのほか熱心な奴で、一旦引き受けたプロジェクトには全力で取り組んでくれます。

この種の抽象的な物言いには全く意味がない。一つの具体例の方がはるかに説得力があるだろう。

最も優れた業績として、応募しているスタートアップ自体を挙げるのはたぶん止めた方が良い。あなたたちがそれを作ったということはもう知っているからだ。他の業績を見せつけられる機会をどうして捨てたりするんだい?

特に目立ったものが何もない場合、何を書いたら良いだろうか? あなたが成し遂げたことの中で最も難しかったこと——それもできれば(必ずではないが)知的に最も難しかったもの——なら私はなんでも良いと思う。履歴書に載せるような事柄でなくとも構わない。私たちは人事部が探しているものと同じものを求めているわけではないのだ。

もし創業者たちが有望そうなら、今度は彼らのアイデアを理解するのに更に時間を費やす。私はそのアイデア自体よりも創業者に注目する。どのみち私たちが資金を提供するスタートアップの大多数はアイデアを大きく変更することになるからだ。もし創業者たちが十分に優れているように思えたら、私たちは仮にアイデアがなくても資金を出すだろう。とはいえ、本当に良いアイデアが書かれていれば、私たちもそれだけ注意を向けるだろうが——アイデアが優れているからではなく、それが創業者たちの頭が切れることの証拠となっているからだ。

創業者に求めているのが、成し遂げたことの種類ではなくその目覚ましさであるように、アイデアについても、その種類ではなくどれだけ鋭い洞察を持っているかを見ている。オークションサイトを始めるって? これは良いアイデアにも悪いアイデアにもなりうる。問題となるのは、どうやってeBayに対抗するのかだ。あなたの解決策はどこが他のとは違うんだい?

よくある過ちは「私たちの解決策の特色は洗練された設計と使いやすさです」と言うことだ。これは洞察ではない。ただ単に、上手に作成しますと言っているだけにすぎない。今あるソフトウェアを書いた人も、おそらく同じように上手く作ろうとしていただろう。だから、もっと具体的になる必要がある。ソフトウェアを使いやすくするためにあなたは一体何をするつもりなのか? そして、それで十分なのか? 多くの大企業のソフトウェアが腐ってるのは、彼らが一種の「自然独占」の地位にあるからだ。この独占を打ち破るプランがなければ、 たとえあなたのソフトウェアの方が出来が良くても、何の変化も及ぼすことはできないだろう。

あなたが将来大きな障害にぶちあたることになりそうなものに取り組んでいても、私たちは気にしない。実のところ、私たちはその種のことが好きなのだ。最も良いスタートアップのアイデアはたいてい異常なもので、ほとんどの人には最初は馬鹿げたものに見えるものだ。しかし、あなたがその障害に気がついているか、またそれを乗り越えるために少なくとも理論ぐらいは用意しているかは確認したい。私たちは「あなたたちは何を作りますか?」という問いに対してしてこのように答えてくれる申込みが好きだ:

Googleと競合する新しいサーチエンジン。

ただし、次のような文句が続いていればの話だが:

不可能に聞こえるかもしれませんが、まず以下のようにすれば最初の足がかりを築けると考えます……

これには好奇心をそそられないだろうか? たとえ上手く行く可能性がほんの1%であっても、こいつは支援してみる価値がある。[2]

一方で、あなたがまだ考慮していないように思える障害を見てとることができてしまったら、それは悪いサインだ。これはあなたのアイデアだ。あなたにはこのアイデアについて、少なくとも頭を巡らすぐらいの時間なら何日もあったはずなのだ。反対に私たちは数分間考えただけなのだから、あなたが考えついていないような障害を、私たちが見つけられてはならないのだ。

だから、逆説的に聞こえるかもしれないが、アイデアの欠点をかくすよりは全てさらけ出した方がよいのだ。あなたが触れていない問題を見つけたら、あなたはまだこの問題を考えついていないのだと私たちは思うだろう。私たちはアイデアよりあなた自身に注意を向けているのだから、アイデアを良く見せるために自分自身を犠牲にするリスクを冒すのは間違った戦略だ。

創業者たちが優秀そうで、アイデアも面白かったら、またさらに多くの時間をその申込みに費やす。もしビデオが提出されていれば、それを見る(統計的に見ると、ビデオを送ってくる人の方が面接の段階まで進みやすいようだ)。さらに、デモをチェックして、「株式の割り当てはどうするつもりですか?」というような面白味の薄い質問への回答を見る。

創業者は優秀そうなのだが、アイデアの方がそうでもない場合、私は最後の方にある「他にどのようなアイデアがありますか?」という項目を見る。そこに載せられていた別のアイデアに取り組むための資金を提供することもよくあるのだ。

申込書には(少なくとも私にとって)ワイルドカードのように働く質問がひとつある:

コンピューター以外のシステムで、自分の利益のために最も上手くハックできたものについて述べてください。

どういう意味なのかわからなかったら、私たちは大企業が雇いたがるような従順でおとなしい人を求めているのではないということを思い出して欲しい。私たちはシステムを打ち負かしたがるような人を探しているのだ。もしこの質問に対する答えが十分良いものなら、私は目を戻して申込みをもう一度見直すだろう。実際に、この質問の回答が強力なものだったということで、面接に招いたグループもあったように思う。

* * *

一般論としては、応募者たちには次のようにアドバイスしたい: 「私たちの手助けをしてくれ」 投資家は楽天家だ。私たちはあなたが素晴らしい人なのだと信じたいのだ。あなたが日々出会う人々の大多数はそうは思わない。もし、あなたが次のGoogleを作るなんて言い回ったら、ほとんどの人はまず疑いの目でみるだろう。その理由の一つは成功する確率が低いからで、疑ってかかることが安全な賭けとなるからなのだが、他方でたいていの人は野心に脅威を覚えるのだ。彼らには、あなたが自分たちの上にのしあがろうとしているように見えてしまう。たとえ、あなたにそんな気がなかったとしてもね。

投資家はそうではない。その理由は、投資家が他の人々より寛容だからというわけではなく、彼らが株式を持つからだ。投資家達に「次のGoogleを作るつもりだ」と言ってみるがいい。彼らはすぐに耳をそばだてるだろう。彼らは最初から疑ってかからない。なぜなら、彼らはリスクの大きな賭けが好きだからだ。あなたが自分より上に行こうとしていると思うこともない。なぜならあなたと一緒に引き上げられたいと思ってるからだ。

他の投資家と同じように、私たちも信じたいのだ。だから私たちが信じられるようにしてほしい。ずばぬけたことや、あるいは取り組もうと考えている問題に対して独自の洞察を持っているなら、確実に私たちの目につくようにしてほしいのだ。

これを成し遂げる最も良い方法は、ただ簡潔に書くことだ。あなたを売り込もうとする必要はない。私たちがあなたを理解できさえすれば、私たちから売り込むだろう。しかし、申込みにある余計な単語はどれも、必要な単語の効力を減じてしまう。だから申込みを提出する前に、ひとまず印刷して、必要の無い単語全てに赤ペンで線を引いていってほしい。そして残った言葉の中で、できる限り具体的に、事実のみを記すようにしてほしい。

成功した申込みの例として: Dropboxの申込書(2007年夏)

Notes

[1] これは投資家一般にあてはまる。経験をつんだ投資家には曖昧な言葉や大げさな文句を使ってはならない。そういう言葉はあまりにも聞きなれているので、困惑させたり、イライラさせたりする以外の効果はない。

[2] 「次のマイクロソフト」がデスクトップ・ソフトウェアの会社ではなかったみたいに、「次のGoogle」はサーチエンジンではなさそうだけどね。私は最も難しい問題の例としてGoogleと正面から対抗することを挙げたのであって、別にこれが最も儲かるものだとは言ってない。最も儲かるのは、Googleに取って代わるのではなく、Googleを無意味にするようなものだろう。ではどうやって? 私には曖昧なアイデア以上のものは思いつかない。それに、1990年に何がマイクロソフトを無意味にするかを誰かが発見するとは期待していなかったのと同じように、この正しい答えを見つけられるようになろうとは思っていない。

草稿に目を通してくれたトレバー・ブラックウェル、ジェシカ・リビングストン、ロバート・モリス、またDropboxの申込書を掲載してくれたドリュー・ヒューストンに感謝する。


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