【アンカレッジ】 (アメリカ)


概要:私の初めての外国の地はアメリカ合衆国でした。と、それだけのことです。アラスカのアンカレッジ空港に給油で降り立った際に空港内を少しうろついただけ。空港の外には出なかったから正確にはアメリカに入国すらしていません。でも初めての外国で、気持ちがうきうきしていたし、見るもの触れるものすべてが新鮮でした。
(画像はアラスカ上空を飛ぶ日航機からの写真 1973.07)


やったー、外国だー

 羽田国際空港を離陸してから約9時間、聴診器のようなイヤホンから流れる音楽にも飽きてしまった頃に、日本航空421便のジャンボジェット機はアンカレッジ空港に着陸した。
 当時は東西の冷戦時代で、西側諸国の飛行機はソ連上空を飛ぶことが出来ず、北回りと言って北極の上空を飛んでヨーロッパに行っていた。
 しかし当時の飛行機ではヨーロッパの各都市までノンストップで行くことが出来ないため、アラスカのアンカレッジ空港で給油のためのトランジットを余儀なくされていたのだった。
 私にとって初めての海外旅行であり、アンカレッジは初めて踏む外国の土地である。空港のビルの中だとはいえ感無量だ。
 トランジットは約一時間、さほど広くもないトランジットエリアを精力的に見て回った。
 私にはまずやりたいことがあった。
 実は私は出発前からアンカレッジ空港でコカコーラを飲むのを楽しみにしていたのである。
 私には初めてコカコーラを飲んだ時の記憶がある。
 子供の頃、父親に連れられて行った「国際見本市」の会場でだったと思う。
 そのときに生まれて初めて飲んだコカコーラは薬くさくて、私は一本のコーラを飲みきることが出来なかった。
 その後コーラの味がおとなしくなったのか、それとも私の舌が馴れてしまったのか、あの時の薬くささはどこへ行ってしまったのかと懐かしくさえ思うほどだった。
 そんな思い出があるから、きっとアメリカで飲むと昔の味がするだろうと大いに期待していた。
 そこで空港内のコーヒースタンドに直行してコーラを注文したのである。
 ところが出てきたコーラは日本のものよりもさらに薄い味だった。
 なんだか拍子抜けしてしまった。
 出だしがこれである。
 残る時間で免税店を覗いたが、まだ旅は始まったばかりで、余計な荷物は増やしたくないし、だいいち空港内にいただけなのでアラスカ土産もないものだ。
 結局、そのあとトイレに行ってアメリカサイズの便器を確認して(いたって普通の大きさだったけど)、初めての外国の地は終了した。
 なんでもないことだけど、半世紀たった今でも覚えている「初めての外国」の思い出である。

(2025.01記)